言葉を知らないTS幼女、エルフで過保護なお姉さんに拾われる   作:こびとのまち

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六日目へと突入する前に、ちょっとしたサイドストーリーをおひとつ。



賑やかな食卓なのですが、何か?

「ほれ、これが今日の晩飯じゃ。とは言うても、ほとんど昨晩の残り物なんじゃがの。お主の分も準備したから、遠慮せんと好きなだけ食うて良いぞ」

「……感謝っ! 美味しそう、とても!」

「うむ。まあ、人間の口に合うかは分からぬが……」

「大丈夫、良い匂い! ……いただき、ます!」

 

 この里にしばらく滞在することとなったクウ。彼女の眼前に料理をずらりと並べてやると、目をきらきらと輝かせて嬉しそうに感謝を伝えてきた。腹が大層減っておるとは聞いておったものの、これは予想以上の喜びようじゃな。悪い気はせぬ。

 

 さてさて、儂は今、クウと共に屋敷で食卓を囲んでおる。そう、二人きりで。

 何せ、こやつを屋敷まで連れてきたフウラたちが、娘っ子を連れて足早に帰ってしもうたからの。今頃あやつらは何をしておるのじゃろうな……。

 

 クウに里への滞在を認めた以上、里の誰かが最低限の面倒くらいは見てやらねばならぬじゃろ?

 となれば、もはや儂自らがどうにかするしかあるまいて。事情を知らぬ他のエルフにいきなり預けると、それはそれで面倒なことになりそうじゃし。

 そんなわけで、ひとまずは儂の屋敷の空き部屋に泊まらせてやると決めたのじゃ。

 

「……って、そんなに慌てて口に詰め込むと危ないのじゃ。心配せんでも、料理は勝手に逃げ出したりせんのじゃぞ? ほれ、少しは落ち着いて食わんか」

「もごっ、ふがふがふが」

「返事は口の中のものを飲み込んでしもうてからで構わぬのじゃ……」

 

 ほっぺをぱんぱんに膨らませて美味しそうに食っておる姿を見て、やれやれと苦笑しつつ緩く戒める。

 

 しかしまあ、何だかんだ言うてもその姿は年相応の小娘そのものという具合じゃの。

 恐らくじゃが、ようやくの食事と休息で一息つけたことと、こやつに対し警戒心むき出しじゃった守り人姉妹がいなくなったことが大きいのじゃろう。昼間の緊張感は何処へやら、幼さすらも感じさせる振る舞いを垣間見せておる。

 

 ふと、何年か昔にこの屋敷で、守り人であるフウラとナナシを預かっていた時期があったことを思い出した。正確には、守り人になる前の二人を、じゃな。

 

 最初に儂が預かったのは、()()()()()により、幼くして天涯孤独の身となったフウラじゃった。今ここで多くは語らぬが……そのような境遇であったが故に心を閉ざしかけておったあやつの姿には、儂も心を痛めたものじゃわい。まあ、今ではそんな過去など幻だったかのように生意気な娘へと成長したがの。あのとき、少し甘やかしすぎたのかもしれん……。

 

 当時のフウラにとっての希望の光となったのが、儂が偶然拾いそのまま預かることとなったダークエルフの野生児、ナナシじゃった。フウラとナナシ、ともに天涯孤独の身であったが故に、何かしら通じ合うところがあったのじゃろう。引き合わせてからほんの数日で実の姉妹のように打ち解けあっておる様子を目にして、ホッと胸を撫で下ろしたことを覚えておる。

 

 うむ。あやつらが、フウラの生家に戻り二人暮らしをすると言い出すまでの僅かな期間、面倒を見ながら成長を見守る日々はそれほど悪くなかった。

 ……で、つまるところ今のこの状況は、その頃の食事の光景をそこはかとなく想起させるのじゃ。

 

「里長殿。もしかして……良いこと、あった?」

「ああ、いや、少し古い記憶を思い出しておっただけじゃ。お主は何も気にせんで良い」

 

 おっと。昔の記憶を懐かしむだなんて、年寄りくさいことをしてしまったのぉ。実際、儂って正真正銘の年寄りじゃから、至極自然ではあるのじゃが。

 クウに声を掛けられて、儂は何となくはぐらかすような返事をした。

 

 何はともあれ、たまにはこうやって若者と食卓を囲むのも悪くない。悪くないのじゃが……。

 何も気にしなくて良い。儂がそう言ったにも関わらず、クウはわざわざ食事の手を止めた状態でこちらを見つめ続けておる。

 

「ふふっ」

「な、なんじゃその目は……!?」

 

 クウのその目は、幼子に注ぐような()()()()というやつで……って、いやいやいや、何故そんな目を儂に向けるのじゃ? おかしいじゃろ!

 儂は思わず抗議の声を上げた。

 

 どちらかといえば、その目は儂がお主に対して向けるべきものであろうに。何度でも言うが、儂はこの里の年長者じゃぞ? しかも、お主は儂に世話を焼かれておる立場なのじゃからな?

 

「なんでも、ない。なんでも……ふふっ」

 

 そう言いながらも、こやつの腕は食卓を跨いで儂の頭上へと伸びてくる。

 

 うーむ、ものすごく嫌な予感がするのじゃ。長年の経験から、儂の脳内に警笛が鳴り響く。

 里長としての誇りを守るためにも、一旦この場から逃げ出すべきかもしれぬ……などと考えかけた儂の頭に、こやつの小さな手のひらが乗っかった。

 あぁ残念、もう手遅れのようじゃ。

 

「よーしよし、よーしよし」

「ほれ、やっぱりこうなるじゃろ!? ……こらっ、馬鹿たれ。やめんかっ!」

 

 抗議の声も何のその。なんとも絶妙な手つきで儂の頭を撫で続ける。

 なるほど、要するにこやつはフウラと同類というわけじゃな。間違いない。

 それだけ理解して、儂は早々に抵抗を諦めた。

 

 

 

 

「ふぅ……満腹、大満足。深く感謝!」

「そうかいそうかい。それは良かったのぉ」

 

 儂の頭を撫で回した後、卓上の料理もぺろりと平らげたクウは、まさしく言葉通りにほくほくと満足し切った表情を浮かべておる。

 ただし、その眼は半開き気味で、襲い来る眠気を誤魔化せていない。腹が膨れたこともあり、旅の疲労が一気に眠気へと変わったのかもしれぬ。

 

「そういえば、明日またフウラたちと会うのじゃろ? ならば、今日はさっさと部屋で休んで、しっかりと明日に備えるがよい」

「…………」

 

 気遣って部屋に戻るよう声を掛けてみたのじゃが、クウは何故か心配そうな表情を儂へ向けておる。こやつは一体何を気にしておるのじゃろうか。

 部屋の場所については先ほど案内してやったばかりじゃし、水浴びも夕食前に済ませたはずじゃが。

 うーむ……案内中、クウを泊める部屋はフウラたちを預かっていたときにも使っていたのだと説明したが、まさかそのことが引っかかっているとか? さすがにそれは違うか。

 

「どうしたのじゃ? 何か気になることがあれば、遠慮せんと話してみい」

「えっと……その……」

 

 そんな具合に催促してみれば、クウは瞳を揺らしながらも恐る恐ると口を開いた。

 

「里長殿。ひとり、就寝、寂しくない?」

「……おいこら、なんじゃその質問は!? 儂はそんな心配をされるような年齢ではないと、何度も言っておろうがっ!」

 

 こやつ、どれほど儂を子ども扱いすれば気が済むのじゃろうか。しかも、割と本気で心配している顔つきじゃぞ……!?

 

「本当に? 大丈夫?」

「余計なお世話じゃ、このたわけっ!」

 

 儂が声を上げた途端、クウは神妙だった表情を崩して急にクスクスと笑い始めた。そこでようやく、儂はこやつに揶揄われていたのだと理解した。

 

 無暗に年寄りを揶揄うでないわ! などと叱りながらも、儂の口元は緩んでしまう。

 この儂としたことが、人間の小娘に一本取られてしもうたわい。これでは確かに年長者の威厳などあったものではないの。

 

「ほれ、そろそろ戯れは十分じゃろ? お主はさっさと部屋に戻るのじゃ。休息は大事じゃぞ?」

「うん、了解……今日のこと、改めて感謝!」

 

 クウは再び儂を見つめる。

 

「それじゃ……おやすみ、なさい!」

「うむ、おやすみ。また明日なのじゃ」

 

 良い夢を――。




三姉妹が戯れている裏側で、ロリババアと人間の少女もしっかり交流を深めておりましたとさ。

感想や評価などいただけると、う○ぴょいを踊りながら喜びます。
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