言葉を知らないTS幼女、エルフで過保護なお姉さんに拾われる   作:こびとのまち

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買い出しに出掛けますが、何か?

「ララ、ボクの側から離れちゃダメだよ? はぐれたら迷子になっちゃうからね」

「……ー、ーーーーーー!?」

 

 謎の幼女ことララと仲良く手を繋ぎ、ボクはお姉さんの用事に付き添って外を歩いている。

 

 ララという呼び方についてなんだけど……あの後、結局ボクは彼女に教えられた通りの名前で呼ぶことを諦めた。だって、どう足掻いても舌が上手く回らないんだもん。こればっかりは、どうしようもないよ。

 とは言え、もう少し短い呼び方であればなんとかなるはず。そんな風に考えた末、せめてララと呼ぶことに決めたわけだ。

 

「ほら、ちゃんとお姉さんについて行こ!」

 

 ボクの目の前を歩いているお姉さんは、頻りに振り向いてボクたちがはぐれずについて来ているか確認している。えっと……心配してくれるのは嬉しいんだけど、ボクは大人だから大丈夫だよ?

 

 

 

 さてさて、時間は少しだけ遡る。

 

 目元に涙を溜めていたララが泣き止んだのが、ざっくり1時間ほど前のこと。以降、また暫くお姉さんたちの会話が続いたものだから、言葉が分からず蚊帳の外状態なボクは静かに見守っていた。

 

 で、どういった話の流れになったのかまでは知る由もないけど……手提げ袋のようなものを手にしたお姉さんに誘われて、ボクとお姉さんは外へ出かけることになったんだよね。散歩のつもりなのか、買い物のつもりなのか、はたまた別の用事なのかは分からない。まあ、何にせよ今のボクって暇人だから、誘いを断る理由なんてないんだけど。

 

 そんでもって、ここからが大事。

 ボクはそのとき、不意に閃いてしまったのさ。今のボクだからこそ役に立てることがあるってね。そう、それはズバリ……子守という名のお手伝いだ。

 何せ、ボクの外見はララと大差ない子どもそのものだからね。きっと彼女は、年が近そうなボクに親近感を抱いているはずだ。でもって、これはお世話係に就く上で最高のアドバンテージだと思うんだよ。しかも中身は頼り甲斐のある大人という。まさしく適材適所ここに極まれり。

 

 さっそく行動に移したいけど、子守をするならボクはララと一緒にいる必要がある。

 そんなわけで、ボクは子守を引き受けるために、ララも連れてお出掛けできないかお姉さんに訊いてみることにした。いや、訊くというか、玄関でボクに手招きしているお姉さんの側までララの手を掴んで連れて行っただけなんだけど。言葉が通じないから、少しばかり強引な手段になるのは仕方がない。

 

「ーーー、ーーーーー、ーーーーーーーーーーーーーー。ーーー、ーーーーーーーーー」

「ーーーーー、ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー……」

 

 お姉さんがララに何やら声を掛け、ララもそれに答えている。きっと「貴女もわたしたちと一緒にお出掛けしたいの?」「うん!」みたいなやり取りなんだろう。それにしては、ララのテンションが低いようにも思うけど。お姉さんも口もとを押さえて笑いを堪えている様子だし。

 

「まあいっか……それじゃ、れっつご~!」

 

 こうしてボクたち三人は意気揚々と家から出発したのである。

 

 

 

 

 わたしたちが里長の名前を憶えていなかったためにひと悶着があったものの、それもようやく落ち着いた頃。ナナシちゃんがクウと話をしたいと言い出しました。なんでも、明日以降ナーニャちゃんに言葉を教えていくことになるので、事前に勉強会の計画を立てておきたいのだとか。それにしてもナナシちゃん、いつになく張り切っていますね。

 

「そりゃそうだよ。フー姐だって、ナーニャとたくさんお喋りしたいだろ?」

 

 なるほど、たしかに。言われてみれば、ナナシちゃんが張り切るのも至極当然ですね。

 小さなお口で一生懸命に話しかけてくるナーニャちゃん、想像しただけで頬が緩んでしまいます。まさに尊みの化身……。それじゃ、この件はナナシちゃんとクウに任せるとしましょう。

 

 さて、そうするとわたしやナーニャちゃんは暫く手持ち無沙汰になってしまいます。

 う〜ん、ナナシちゃんたちの話し合いはそこそこ時間が掛かりそうですから、その間に夕食に必要な食材でも調達しに行きましょうかね。

 

「里長。予定などなければ今晩はうちで食べていきませんか? もちろんクウも一緒で構いませんから」

「……うむ、そうじゃな。久しぶりにお主の手料理をご馳走になろうかのぉ」

 

 せっかくだからと声を掛けてみたところ、心なしか嬉しそうな表情を見せた里長が首を縦に振りました。ということで、今日の夕食はちょっとした宴会のようになりそうです。

 

「ナーニャちゃん、一緒に買い物行こっか」

「ーーーーーーー? ……んっ!」

 

 はい、とっても良いお返事です。そんでもって今日も可愛い。流石わたしの天使ちゃんです。

 

 すっかり気分を良くしたわたしは、そのままナーニャちゃんを連れて外へ出ようとしたのですが……ハッと何かを思いついた様子のナーニャちゃんが、なんとわたしの手を振りほどいてしまいました。そして再び部屋の中へと戻っていきます。

 

「……えっ? あ、あれれぇ? もしかして、今わたし振られちゃった感じなの?」

 

 って、いやいや、まさかそんなわけないですよね。きっと忘れものを思い出して取りに戻ったとか、そんな感じの理由でしょう。えぇ、そうに違いありません。流れ出る冷汗を誤魔化しつつ、離れていったナーニャちゃんを目で追います。

 

「らぁら! ん~~!」

「ぬわっ……!? わ、儂に何の用じゃ?」

 

 あらら、忘れ物の正体はどうやら里長だったみたいですね。とりあえず、振られたわけではなかったと分かり胸を撫で下ろします。も、もちろん最初から確信していましたけどね……? 

 

 ナーニャちゃんに腕を引かれ、困惑気味な里長がわたしの待っている玄関までやってきました。

 

「ふふっ、里長ったら、すっかり懐かれちゃいましたね。わたし、少し妬いちゃいます」

「なんとなく、懐くとかそういった類のものではない気がするのじゃがの……」

 

 里長の言いたいことも分からないではないのですが、ここは敢えてスルーすることにしましょう。ちなみに、本気で妬いたりはしていませんよ? 今のは、ほんのちょっとした軽い冗談ですから。

 

「お主、目がちょいと怖いのじゃ……」

 

 ふふふ、わたしのキュートな目が怖いわけないじゃないですか。冗談に冗談で返すとは、里長もなかなか成長しましたね。

 

 

 

 

「らぁら、ーーーーーーーーーー? ーーーーーーーーーーーーーーー」

「……お、なんじゃなんじゃ!?」

 

 わたしの背後でナーニャちゃんと里長が仲睦まじく歩いています。わたしもナーニャちゃんの隣に並んで手を繋ぎたい気持ちはあるのですが……せっかくお姉さん気分に浸っているナーニャちゃんの邪魔をするのも忍びなく、今は少しだけ距離を取って二人を先導しつつ静かに見守っています。長女たるもの、ときにはサポートに徹することも大切ですから。

 

「ーー、ーーーーーーーーーーー!」

 

 それはそうと、ナーニャちゃんはすっかりお姉さんとしての自覚が芽生えたみたいですね。そんなナーニャちゃんも、一生懸命背伸びしている感じが伝わってきて可愛いですっ!

 

「さすが里長、老若男女を問わずエルフの心を掴むのが上手ですね」

「いや……儂は今、極めて不本意な扱いを受けておるのじゃが」

 

 そんな風に不満を漏らしつつもナーニャちゃんのやりたいようにさせている里長は、やはり心が広いですね。もしかすると、本心では満更でもないのかもしれませんが。

 

「……また何か失礼なことを考えておるじゃろ」

「いえいえ、里長は偉大だなぁと、改めて尊敬の念を深めていただけです」

「絶対に嘘じゃ!」

 

 ナーニャちゃんの隣には里長がついているので迷子になる心配はしていませんが、お姉さんぶっているナーニャちゃんを観察したくて、わたしは何度も振り返ります。その度、ほんの少し胸を張って誇らしげな態度を見せるナーニャちゃん。あまりにも可愛らしいので、駆け寄ってギュッと抱きしめたい衝動に襲われますが……今は我慢です。耐えた分は、後ほどたっぷりと可愛がってあげるとしましょう。

 

 そんなことを考えていたわたしに対し、里長がジト目で非難めいた視線を送っています。

 

「そういえば、わたしたち遂に仲良し四姉妹になってしまいましたね」

「露骨に話題をすり替えたのぉ……って、いや、四姉妹にはなっとらんからの!?」

「安心してください、もちろん末っ子は里長です」

「そんな心配は一切しておらんわ!」

 

 毎度の如く鋭いツッコミを連発している里長でしたが、道端に何か見つけたらしいナーニャちゃんが彼女の腕を引っ張ったので、やれやれと呟きながらそのまま大人しく引っ張られていきました。

 

「らぁら! らぁら!」

「わかった、わかったから少し落ち着くのじゃ。まったく……」

 

 ふふっ、里長ってば正直じゃないですね。

 嫌々付き合っているかのような言葉に反して、里長の表情は穏やかそのものです。

 

「や、やっぱりお姉ちゃんも混ぜてほしいな~」

 

 辛抱し切れず声を上げて、二人の背中を追いかけるように早足で歩き始めたわたしなのでした。




ナーニャ本人は、保護者として相応しい振る舞いで子守をしているつもりなのですが……実際のところ、無自覚のうちにテンションが上がって割と浮かれていたりします。お散歩するのは楽しいですから、仕方がありませんよね。

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