もしもハジメ君の性格がキツく口調が悪かったら(仮) 作:fruit侍
さて今回は、皆さんが知りたいであろう(?)クラスメイトsideです。ハジメ君の豹変はまた今度になりそうです。というか先にこれ投稿すりゃよかったな……。
それと地震、大丈夫でしたでしょうか。私自身も熊本地震を経験した身ですので、地震の怖さはよく分かります。被災地の皆様が、少しでも早く元の日常を送れることを祈っております。
響き渡り消えゆくベヒモスの断末魔。ガラガラと騒音を立てながら崩れ落ちてゆく石橋。
そして……
瓦礫と共に奈落へと吸い込まれるように消えてゆくハジメ。
しかしハジメは置き土産を残していった。その置き土産は、三発の弾丸だ。その弾丸の行きついた先は、檜山だった。
弾丸は檜山の両足と腹を撃ち抜いた。
「う、うわああああああああ!!」
弾丸を撃ち込まれたことによる激痛と、自分の足と腹から流れる温かい液体を見て、檜山は悲鳴をあげる。
檜山にクラスメイト達が近づく。
「大丈夫か檜山! くっ、南雲の奴、何てことを……! 香織! 檜山の傷を治してくれ!」
この場にいないハジメに対して怒りを露にする光輝。そして治癒師である香織に治療を頼むが、香織は反応しない。
なぜなら香織は、雫に羽交い締めにされており、細い体のどこにそんな力があるのかと疑問に思うほど尋常ではない力で引き剥がそうとしていたからだ。
「離して! 南雲くんの所に行かないと! 離してぇ!」
「香織っ、ダメよ! 香織!」
雫は香織の気持ちが分かっているからこそ、かけるべき言葉が見つからない。ただ必死に名前を呼ぶことしかできない。
「香織! 南雲はもう無理だ! それより檜山の傷を!」
光輝は香織に言葉をかける。しかし、今この場で錯乱する香織には言うべきでない言葉だった。
「無理って何!? それよりって何!? 南雲くんが落ちたことより優先しなきゃいけないことがあるの!? 助けに行かなきゃ!」
誰がどう考えても南雲ハジメは助からない。奈落の底と思しき崖に落ちていったのだから。
しかし、その現実を受け止められる心の余裕は、今の香織にはない。言ってしまえば反発して、更に無理を重ねるだけだ。龍太郎や周りの生徒もどうすればいいか分からず、オロオロとするばかり。
その時、メルド団長がツカツカと歩み寄り、問答無用で香織の首筋に手刀を落とした。ビクッと一瞬痙攣し、そのまま意識を落とす香織。
ぐったりする香織を抱きかかえ、光輝がキッとメルド団長を睨む。文句を言おうとした矢先、雫が遮るように機先を制し、団長に頭を下げた。
「すいません。ありがとうございます」
「礼など……止めてくれ。もう一人も死なせるわけにはいかない。全力で迷宮を離脱する。……彼女を頼む」
「言われるまでもなく」
離れていく団長を見つめながら、口を挟めず憮然とした表情の光輝から香織を受け取った雫は、光輝に告げる。
「私達が止められないから団長が止めてくれたのよ。わかるでしょ? 今は時間がないの。香織の叫びが皆の心にもダメージを与えてしまう前に、何より香織が壊れる前に止める必要があった。……ほら、あんたが道を切り開くのよ。全員が脱出するまで。……南雲君も言っていたでしょう?」
雫の言葉に、光輝は頷いた。
「そうだな、早く出よう」
目の前でクラスメイトが一人死んだのだ。普通なら、クラスメイト達の精神にも多大なダメージが刻まれているはずだ。しかしクラスメイトはどこか安心したような表情をしていた。
理由は言わなくとも分かるだろうが、落ちたのがハジメだったからだ。
((このクソ共が……))
清水と恵里はそんなクラスメイトの様子を見て、内心毒づいた。
光輝がクラスメイト達に向けて声を張り上げる。
「皆! 今は、生き残ることだけ考えるんだ! 撤退するぞ!」
その言葉に、クラスメイト達は動き出す。トラウムソルジャーの魔法陣は未だ健在だ。続々とその数を増やしている。今の精神状態で戦うことは無謀であるし、戦う必要もない。
光輝は必死に声を張り上げ、クラスメイト達に脱出を促した。メルド団長や騎士団員達も生徒達を鼓舞する。実際はそんなもの必要なかったが。
檜山は傷をクラスの中のもう一人の治癒師、辻綾子の手によって完治とまではいかないが歩ける程度にまで治してもらい、撤退した。
そして全員が階段への脱出を果たした。
上階への階段は長かった。
先が暗闇で見えない程ずっと上方へ続いており、感覚では既に三十階以上、上っているはずだ。魔法による身体強化をしていても、そろそろ疲労を感じる頃である。先の戦いでのダメージもある。薄暗く長い階段はそれだけで気が滅入るものだ。
そろそろ小休止を挟むべきかとメルド団長が考え始めたとき、ついに上方に魔法陣が描かれた大きな壁が現れた。
メルド団長は扉に駆け寄り詳しく調べ始めた。フェアスコープを使うのも忘れない。
その結果、どうやらトラップの可能性はなさそうであることがわかった。魔法陣に刻まれた式は、目の前の壁を動かすためのもののようだ。
メルド団長は魔法陣に刻まれた式通りに一言の詠唱をして魔力を流し込む。すると、まるで忍者屋敷の隠し扉のように扉がクルリと回転し奥の部屋へと道を開いた。
扉を潜ると、そこは元の二十階層の部屋だった。
「帰ってきたの?」
「疲れたぁ……」
クラスメイト達が次々と安堵の吐息を漏らす。光輝達ですら壁にもたれかかり今にも座り込んでしまいそうだ。
ハジメを殺した張本人である檜山は、邪魔者を殺せたことに頬が吊り上がっていた。
その様子に、清水と恵里は耐え切れなくなった。
「ハジメを殺した気分はどうだ? 人殺しさんよ」
その言葉に一瞬で静まり返るクラスメイト達。
「は……? な、何言ってんだよ!」
「見られてないとでも思った? 残念。ちゃんと見たよ。君がハジメ君の方を見て、魔法を撃つとこ。ハジメ君はそれに気づいて君に銃を撃ったんだろうね」
目撃者がいたことに分かりやすく動揺する檜山。
「い、いい加減にしろよ! お前らあいつと仲が良かったからって、言いがかり言いやがって! 大体、俺は火球なんか撃ってねえよ!」
「俺はお前が何の魔法を使ったか、までは聞いてないぞ。語るに落ちたなこのバカが」
檜山は慌てて訂正しようとする。しかしそこに待ったがかかる。
「待ってくれ清水、恵里。檜山がそんなことをするわけないじゃないか。何かの誤解じゃないのか?」
光輝だ。
「君は聞いてなかったの? こいつ、清水君が何でハジメを殺したんだって聞いたら、ご丁寧に何の魔法で殺したのかまで喋ってくれたんだよ。っていうことは、こいつで間違いないでしょ?」
「檜山は仲間だ。そんなことするわけがない。南雲が死んだのも、事故だったんだ。そうだろう? 皆。仲が良かった人間が死んだことに動揺するのは分かるが、落ち着いてくれ」
光輝の言葉に大半のクラスメイトが頷く。それに清水がついにキレた。
「事故だと? じゃあハジメは故意に殺されたわけじゃなきゃ、事故なら死んでもいいっていうのかよ! お前あれだけ仲間は守るとかほざいてたよな! ハジメは仲間じゃねえのか! ああ!?」
「ち、違う! 南雲も立派な仲間だ! だけど、あれは誰がどうやっても助けられなかった! とにかく落ち着くんだ!」
「助けられなかったあ? 助けようともしなかった人間が言うんじゃねえ!」
清水と光輝の口論は激化していく。クラスメイトは、そんな無能のことで口論してる暇があったら、とっとと撤退しようと言わんばかりの空気を醸し出していた。
檜山は清水が光輝と口論をしているのをいいことに、その場から離れようとする。しかし、それを許さない者がいた。
「どこ行くの?」
恵里だ。傷が完治していない檜山は、思わず転んでしまう。
「ハジメ君の痛み、お前にも思い知らせてやる」
恵里はそう言うと持っている杖を構え、詠唱を開始した。
「ここに焼撃を望む、火球」
檜山がハジメに撃ったものよりも大きい火球が檜山に飛んでいく。恵里の適性が、火魔法であるが故だ。
「う、うわああああああああああ!」
檜山は蹲り、これから来るであろう熱と痛みに備える。
しかし、檜山に火球が命中することはなかった。
メルド団長が、火球を持っている剣で切り裂いたのだ。
「……何のつもりですか」
「気持ちは分かる。だが、今は抑えてくれ。ここは迷宮の中だ。こんなことをしている場合じゃない。判断を誤って必要ない追撃を命じて、坊主を窮地に追いやった張本人である俺の言葉なんか信じられないと思うが……頼む!」
団長が頭を下げる。ここはまだ迷宮の中。低レベルとは言え、いつどこから魔物が現れるかわからない。完全に緊張の糸が切れてしまう前に、迷宮からの脱出を果たさなければならない。仲間割れなどしている場合ではないのだ。
騎士団長としてのプライドを捨て頭を下げるメルド団長の姿を見て、恵里は杖を下ろす。
「あなたが嘘偽りもなく、王国と教会にそのゴミがやったことを伝えてくれることを信じます」
「感謝する」
団長は剣を納める。しかしここで終わらせないのが光輝である。
「恵里、どうして檜山に魔法を撃ったんだ? 仲間として見過ごせないな」
メルド団長のあの姿を見て、冷めてしまった恵里は、
「話しかけないでよ、偽善者が」
と短く返した。その言葉に眉を顰め、問い詰めようとした光輝だったが、雫に止められ、渋々引き下がった。
そして立ち上がる生徒達。光輝が疲れを隠して率先して先をゆく。道中の敵を、騎士団員達が中心となって最小限だけ倒しながら一気に地上へ向けて突き進んだ。
そして遂に、一階の正面門となんだか懐かしい気さえする受付が見えた。迷宮に入って一日も立っていないはずなのに、ここを通ったのがもう随分昔のような気がしているのは、きっと少数ではないだろう。
今度こそ本当に安堵の表情で外に出て行く生徒達。正面門の広場で大の字になって倒れ込む生徒もいる。一様に生き残ったことを喜び合っているようだ。
だが、一部の生徒――未だ目を覚まさない香織を背負った雫、恵里、清水など一部の人間は暗い表情だ。
そんな生徒達を横目に気にしつつ、受付に報告に行くメルド団長。
二十階層で発見した新たなトラップは危険すぎる。石橋が崩れてしまったので罠として未だ機能するかはわからないが報告は必要だ。
そして、ハジメの死亡報告もしなければならない。
あの時、自分が判断を間違えなければ。
迷宮から地上へ戻るまでに、何度この言葉を思い浮かべたのか分からない。
憂鬱な気持ちを顔に出さないように苦労しながら、それでも溜息を吐かずにはいられないメルド団長だった。
次の話もクラスメイトsideになりそうです。