もしもハジメ君の性格がキツく口調が悪かったら(仮) 作:fruit侍
俺はあの紅い瞳の女の前まで来た。近くに来てみて分かったが、こいつは魔力を持っている。それも膨大な量の。こいつは食うのが楽しみだな。
「だれ……なの……」
紅い瞳の女が尋ねてくる。
「これから死ぬやつに名乗る名はない」
俺は答えるつもりはない。どうせ俺に殺されて俺の腹に行くんだ。答える意味なんかない。
さっきの言葉に驚いたような表情をする紅い瞳の女。続いて聞いてくる。
「どういうこと……?」
「分からねえか? テメエを今ここで殺すって言ってんだよ。俺が強くなるためにな」
俺はホルスターからトイフェルを取り出し、奴に突きつける。
「待って! 私は殺せない……!」
「そんなハッタリに騙されると思うか? ここに封印されてるってことは、それほど強え力を持ってるんだろ? どれだけステータスが上がるか楽しみだ」
「嘘じゃない……! それに、私は悪くない……!」
「罪人はどいつもそう言うんだよ。自分が何よりも可愛いからな。てかこうやって話してる時間も無駄だな。じゃ、あばよ」
俺はトイフェルの引き金に指をかけた。
その時、奴が今までで一番デカイ声で言ってきた。
「私、裏切られただけ!!」
引き金に触れていた指が動きを止めた。
何故だ? 指が動かない。こいつの力か? いや、こいつは封印されてるし、こんなことが出来るとしたら最初からやっているはず。
認めたくはないが、俺の意志が止めてるっていうのか?
ふざけるな。ここに来る前に幾度となくやってきたあの決意は何だったんだ? こんな一言で揺らぐほど半端な決意だったのか?
(引き金を引け! 引け! 引け!!)
何度も脳に命令させるが、それでも俺の指は凍ったかのように動かなかった。
「大丈夫……?」
「ああ!? 何がだよ!」
訳の分からない心配をしてくる奴に、俺は威嚇するように大声で返した。
「だって凄く……悲しそうな顔してる」
「ッ!?」
奴に言われて気がついた。奴の埋まっている立方体に俺の顔が反射して写っている。そこの俺は、なんとも哀れな表情を浮かべていた。
「そんな……認めねえ……俺は……」
自然と息が荒くなってくる。
奴等は仲間でもなんでもない。むしろ敵だ。そんな奴等に裏切られたって、何にも、悲しく、ないはず……。
なら、何故動揺してる? それが本当なら、動揺などあり得ない。
そして何より、俺は何故あの時あんな行動をとった?
遡るは俺が落ちる前のこと。
俺は牛野郎と戦う前は、無数の骨共の相手をしていた。しかしこのままではジリ貧になるだろうということで、
何故あの時バカ勇者を呼びに行った? いつもの俺なら、とっくに奴等のことなんか見捨てて自分だけ逃げるなりなんなりしていたはずだ。しかし俺がとった行動は、間接的にだが奴等を救うことになる。
恵里と幸利を置いていけなかったからか? なら二人だけ連れて逃げればいい話だ。奴等を連れていく必要もない。
何故だ、何故だ、何故俺はあんな行動をとった!
……いや、もう分かっている。
俺が、本当はどこかで、奴等のことを仲間だと思っていたということを。
そして裏切られたことを、未だに引きずっているということを。
認めてしまうと、何だか今まで悪魔だとか散々粋がっていた自分が馬鹿馬鹿しくなる。
何だよ……結局俺は……全部捨てた気になって、結局何も捨てきれてなかったのかよ……。
「……詳しく、聞かせろ」
「え?」
「お前が何者なのか、お前がここにいる訳、全てを話せ」
俺は何故か、それを聞かなければならない気がした。
奴は一呼吸置くと、話し始めた。
「私、先祖返りの吸血鬼……すごい力持ってる……だから国の皆のために頑張った。でも……ある日……家臣の皆……お前はもう必要ないって……おじ様……これからは自分が王だって……私……それでもよかった……でも、私、すごい力あるから危険だって……殺せないから……封印するって……それで、ここに……」
俺は気になったワードがいくつかあったのと、疑問もあったので、奴に尋ねた。
「お前、どっかの国の王族だったのか?」
「……(コクコク)」
「殺せないってなんだ?」
「……勝手に治る。怪我しても直ぐ治る。首落とされてもその内に治る」
「……さっきのはハッタリでも何でもなかったってことか」
ハッタリかどうかすらも見抜けなくなるとは、俺も馬鹿になったもんだ。
「それだけじゃない……魔力、直接操れる……陣もいらない」
それはまるで俺だ。俺の場合魔物を食って、魔力操作という技能を手に入れたことにより魔力の直接操作が可能になった。今じゃ使える技能のほとんどに詠唱は必要ない。
ただ俺の場合、魔法適性がゼロなので魔力を直接操れても巨大な魔法陣は当然必要となり、碌に魔法が使えないことに変わりはない。試しに火球やらなんやら撃ってみようと思ったが、何も出なかった。使えるのは魔物から奪った力と、錬成だけだ。
「……たすけて……」
ポツリと奴が言う。俺が反応しないのが怖くなったのか。
「最後に聞く。お前はどれくらいここにいた?」
奴は少し考えて言った。
「300年……くらい……?」
俺の脳に衝撃が走った。
俺は、小学校から中学校までの約9年間、友達という友達が殆どいなかった。だからか、一人で過ごす時間が殆どだった。その頃の俺は、正に孤独という言葉が似合っているだろう。少なくとも、もう経験したくないとは思う。味方がいないというのは、想像よりかなり辛いのだ。
だがこいつは、俺の30倍以上の孤独を経験している。
それだけあれば人なんかすぐに信じれなくなる。俺も実際そうだった。だがこいつは、まだ出会って30分も経っていないような余所者の俺を信じて、解放してくれるその時を今か今かと待っている。
「……強い奴だよ。お前は」
「え……?」
急に喋りだした俺の言葉に困惑したんだろう。何を言ってるのか分からないという顔をしている。
こいつが俺を騙そうとしている可能性もなくはない。というか、普通だったらそれを疑われる。だが、それにしては、こいつの目は真っ直ぐすぎるんだ。例えそれが偽りだとしても、
俺は、信じたい。俺を信じてくれているこいつを、酷い裏切りにあってもなお俺を信じようとしてくれるこいつを、
もう一生抜け出すことができないとされた孤独から、解放してやりたい。
俺は立方体に手を置いた。
「あっ」
その意味に気づいた奴が大きく目を見開く。俺はそれを無視して錬成を始めた。
俺の赤黒い、いや濃い紅色の魔力が放電するように迸る。
しかし、イメージ通り変形するはずの立方体は、まるで俺の魔力に抵抗するように錬成を弾いた。迷宮の上下の岩盤のようだ。だが、全く通じないわけではないらしい。
「邪魔してんじゃ……ねえよッ……!!」
俺は更に魔力をつぎ込む。既に、周りは俺の魔力光により濃い紅色に煌々と輝き、部屋全体が染められているようだった。
俺は更に魔力を上乗せする。奴を封じる周りの石が徐々に震え出す。
「これでも無理なら、全部注ぎ込むまでだ!」
俺は気合を入れながら魔力を今ある分全て注ぎ込む。奴は目を見開き、この光景を一瞬も見逃さないとでも言うようにジッと見つめ続けた。
直後、奴の周りの立方体がドロッと融解したように流れ落ちていき、少しずつ枷を解いていく。
それなりに膨らんだ胸部が露わになり、次いで腰、両腕、太ももと奴を包んでいた立方体が流れ出す。そのまま、体の全てが解き放たれ、奴は地面にペタリと女の子座りで座り込んだ。どうやら立ち上がる力がないらしい。
俺も座り込んだ。久々の魔力切れでぶっ倒れはしなかったが、激しい倦怠感に襲われる。
荒い息を吐き震える手であの水を出そうとして、その手を奴がギュッと握った。弱々しい、力のない手だ。小さくて、ふるふると震えている。
横目に様子を見ると奴が真っ直ぐに俺を見つめている。顔は無表情だが、その奥にある紅眼には奴の気持ちが溢れんばかりに宿っていた。
そして、震える声で小さく、しかしはっきりと奴は告げる。
「……ありがとう」
その言葉を贈られた時の心情をどう表現すればいいのか、俺には分からなかった。ただ、心に何とも言えない感じが渦巻く。面と向かって礼なんてされたことなかったからな。
「……名前、なに?」
奴が囁くような声で俺に尋ねる。そういえばお互い名乗っていなかったな。
「ハジメだ。南雲ハジメ。お前は?」
奴は「ハジメ、ハジメ」と、さも大事なものを内に刻み込むように繰り返し呟いた。そして、問われた名前を答えようとして、思い直したように俺にお願いをしてきた。
「……名前、付けて」
「は? 付けるってなんだ。まさか忘れたとかか?」
300年もここに幽閉されていたのならあり得る。だが奴はふるふると首を振る。
「もう、前の名前はいらない。……ハジメの付けた名前がいい」
「……はぁ、そうは言ってもなぁ」
奴は期待するような目で俺を見ている。俺に期待されるほどのネーミングセンスなんか無いのにな。俺は奴を改めて見てみる。
……紅い眼か。紅い月を思い出す。……そうだ月だ。レッドムーン……は長いな。ルナ……はありきたりすぎる。それなら……
「〝ユエ〟なんてどうだ? ネーミングセンスないから気に入らないなら別のを考えるが……」
「ユエ? ……ユエ……ユエ……」
「ああ、ユエって言うのはな、俺の故郷で〝月〟を表すんだよ。最初、この部屋に入ったとき、お前のその紅い眼が夜に浮かぶ深紅の月みたいに見えたんでな……どうだ?」
思いのほかきちんとした理由があることに驚いたのか、奴がパチパチと瞬きする。そして、相変わらず無表情ではあるが、どことなく嬉しそうに瞳を輝かせた。
「……んっ。今日からユエ。ありがとう」
「おう、取り敢えずだ……」
「?」
俺は奴改めユエに、熊から剥いだ毛皮のマントを被せる。
「これ着とけ。いつまでも素っ裸じゃ寒いだろ」
「……」
そう言われて差し出されたマントを反射的に受け取りながら自分を見下ろすユエ。ユエは一瞬で真っ赤になると俺のマントをギュッと抱き寄せ上目遣いでポツリと呟いた。
「ハジメのエッチ」
「おい人が親切にしてやったってのにそりゃねえだろ」
ユエはいそいそとマントを纏う。ユエの身長は百四十センチ位しかないのでほぼ全身が隠れてしまう。
俺は、その間に水を飲んで回復する。活力が戻り、脳が回転を始める。そして〝気配感知〟を使い……凍りついた。とんでもない魔物の気配が直ぐ傍に存在することに気がついたのだ。
(場所は……真上か!)
俺がその存在に気がついたのと、ソレが天井より降ってきたのはほぼ同時だった。
咄嗟に、俺はユエを片腕で抱き上げると全力で〝縮地〟をする。俺が振り返ると、直前までいた場所にズドンッと地響きを立てながらソレが姿を現した。
その魔物は体長五メートル程、四本の長い腕に巨大なハサミを持ち、八本の足をわしゃわしゃと動かしている。そして二本の尻尾の先端には鋭い針がついていた。
一番分かりやすいたとえをするならサソリだろう。二本の尻尾は毒持ちと考えた方が賢明だ。明らかに今までの魔物とは一線を画した強者の気配を感じる。自然と俺の額に汗が流れた。
だが反対に、俺の心は昂っていた。
久々の強者との戦いだ。ゲームでも弱い雑魚を蹂躙するのは勿論楽しいが、強敵と戦うのはもっと楽しい。
「上等だ。俺の前に立ちはだかるとどうなるか教えてやるよ……ゲャーヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!!!」
何とか食われるのを回避したユエさん。感想でもすっごい心配されてましたね。彼女がどれ程愛されてるのかが分かります。流石正ヒロイン。
この作品のハジメ君は、自分を心から信じてくれる人物を信じてやりたいという思いでユエさんを助けました。既に裏切られてるのに馬鹿か? と思うかもしれませんが、裏切られた人こそ、心のどこかで自分を信じてくれる人を探してるんじゃないかなと私は思います。境遇が似てたら尚更ですね。
兵器の新名はまだまだ募集中です。
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