もしもハジメ君の性格がキツく口調が悪かったら(仮) 作:fruit侍
前回の発砲シーンはなかなか人気でしたね。やっぱ皆さんバカ之河が嫌いなんだなぁ……。
オリジナル設定
・ベヒモスにかすり傷くらいならほんの十数秒で治るくらいの再生能力が付与されている
橋の両サイドに現れた赤黒い光を放つ魔法陣。だが特徴は正反対だ。通路側の魔法陣は十メートル近くあり、階段側の魔法陣は一メートル位の大きさだが、その数がおびただしい。
小さな無数の魔法陣からは、骨格だけの体に剣を携えた魔物が溢れるように出現した。俺の記憶が正しければ、奴等はトラウムソルジャーという魔物だ。空洞の眼窩からは魔法陣と同じ赤黒い光が煌々と輝き目玉の様にギョロギョロと辺りを見回している。図鑑で見たものと全く同じだ。その数は、既に百体近くに上っており、尚、増え続けている。
だが、数百体のガイコツ戦士より、反対の通路側の方がヤバいと俺は感じていた。
十メートル級の魔法陣からは体長十メートル級の四足で頭部に兜のような物を取り付けた魔物が出現したからだ。もっとも近い既存の生物に例えるならトリケラトプスだろうか。ただし、瞳は赤黒い光を放ち、鋭い爪と牙を打ち鳴らしながら、頭部の兜から生えた角から炎を放っているという付加要素が付くが……
こいつは見たことがない。だが、メルドは先ほどこいつのことをベヒモスと呼んでいた。そして俺が読んだ魔物図鑑の最後のページだけは、一番上に"ベヒモス 65階層に出現する魔物"とだけ書かれたほとんど真っ白なページだった。
つまりこの魔物『ベヒモス』は、討伐記録が残っていないということ。それは何故か。まだ人間がこいつに一度も勝てていないからだ。
ベヒモスは、大きく息を吸うと凄まじい咆哮を上げた。
「グルァァァァァアアアアア!!」
「ッ!?」
その咆哮で正気に戻ったのか、メルドが矢継ぎ早に指示を飛ばす。
「アラン! 生徒達を率いてトラウムソルジャーを突破しろ! カイル、イヴァン、ベイル! 全力で障壁を張れ! ヤツを食い止めるぞ! 光輝、お前達は早く階段へ向かえ!」
「待って下さい、メルドさん! 俺達もやります! あの恐竜みたいなヤツが一番ヤバイでしょう! 俺達も……」
「馬鹿野郎! あれが本当にベヒモスなら、今のお前達では無理だ! ヤツは六十五階層の魔物。かつて、“最強”と言わしめた冒険者をして歯が立たなかった化け物だ! さっさと行け! 私はお前達を死なせるわけにはいかないんだ!」
メルドの鬼気迫る表情に一瞬怯むも、「見捨ててなど行けない!」と踏み止まるバカ之河。こいつ、ここでも足を引っ張る気か。絶対勇者のやることじゃねえだろ。
どうにか撤退させようと、再度メルドがバカ之河に話そうとした瞬間、ベヒモスが咆哮を上げながら突進してきた。このままでは、撤退中のカス共を全員轢殺してしまうだろう。俺は橋にぶら下がって何とかなるかもしれないが。
そうはさせるかと、ハイリヒ王国最高戦力が全力の多重障壁を張る。
「「「全ての敵意と悪意を拒絶する、神の子らに絶対の守りを、ここは聖域なりて、神敵を通さず――〝聖絶〟!!」」」
二メートル四方の最高級の紙に描かれた魔法陣と四節からなる詠唱、さらに三人同時発動。一回こっきり一分だけの防御であるが、何物にも破らせない絶対の守りが顕現する。純白に輝く半球状の障壁がベヒモスの突進を防ぐ。
衝突の瞬間、凄まじい衝撃波が発生し、ベヒモスの足元が粉砕される。橋全体が石造りにもかかわらず大きく揺れた。撤退中のカス共から汚え悲鳴が上がり、転ぶバカ共が相次ぐ。
しょうがねえ、俺もやってやるか。
俺はシュトーレンをホルスターから抜いてリロードを確認し、トラウムソルジャーの群れへ突っ込んでいく。
確かトラウムソルジャーは三十八階層に現れる魔物だ。個々の力は雑魚だが、集団となるとかなり強くなる。こいつらはそれを理解しており、隙があれば固まろうとする。しかも連携までしてくるため、ソロ好きの奴にとっては嫌な奴になること間違いなしだろう。
対処法としては、こいつらが固まってしまう前に一体ずつ片付ける、固まる性質を利用して、広範囲攻撃で一気に仕留めてしまうなどがある。後者はできなくもないが後にとっときたいので、最初は前者の方を採用した。
「うらアッ!」
俺はとにかく連射しまくる。トラウムソルジャーは骨だけで防具とかなんも着けてないため、耐久はない。シュトーレンの反射弾で死ぬくらいだ。適当に撃つだけで、何体も勝手に死ぬ。
しかし俺は撃つのをやめた。こいつらはおそらくボスを殺さねえと、永遠に湧いてくるタイプのやつだ。だが弾は無限じゃない。弾はまだ余裕があるが、なるべく節約しておきたい。そこで俺は格闘メインの時々銃戦法をとることにした。
ガシャン! ドグシャ! バキン!
骨が折れ、潰れる音がする。殴れば壊れるし、蹴れば吹っ飛ぶ。本当に骨だけだ。脆すぎて、本当に三十八階層に出る魔物なのか? とも思ってしまう。
「ハハッ! 面白えくらいに壊れるじゃねえか!」
鬱憤が溜まりに溜まりまくってた俺にとっては最高のサンドバッグだ。このままぶっ壊してたい。
と目の前に意味の分からない方向に剣を振り上げてるバカなトラウムソルジャーを発見する。そんな隙だらけだとよ、
「思わずぶっ壊したくなるだろうがよぉ!」
俺はトラウムソルジャーに思いっきり飛び蹴りをかまし、倒れたところを踏み潰し、頭を蹴り飛ばす。これだけでも楽しくて仕方ねえ。
「あ……南雲……」
「あ?」
俺が声がした方向に目を向けてみると、そこにはクラスメイトの園部が倒れていた。園部は複雑な表情をしている。全然話したことねえ奴だが、この表情を見る限り、結局こいつも俺にいい感情は持っていないんだろう。そう思うと腹が立ってきた。
「俺はお前を助けたつもりはない。たまたまそこに骨がいたから潰しただけだ。てかよお、不測の事態が起こった途端これか? 冷静さを失った奴が先に死ぬってのはお前らでも分かるだろ? 相手は俺でも倒せるような雑魚だぞ? お前らは俺以下の雑魚なのか? お前らが今すべきことは、この骨共を効率よくぶっ壊して、さっさと退路を確保することだろうが。違うか?」
しかしその言葉ではっとしたのか、次には真剣な表情で立ち上がり、
「ごめん南雲! 助かった!」
と駆け出して行った。ハッ、まだまだ元気有り余ってるじゃねえか。そんなんで今死なれたら面倒だっつうの。
「さあて大分ぶっ潰したと思うが、減ってる気がしねえな」
俺は近付いてくるトラウムソルジャーをぶっ壊しながら周囲を見渡す。もう数えるのを止めるくらいぶっ壊したはずだが、全く減ってる気がしない。それどころか増えている。間違いなく、あいつらのせいだ。
そもそもこいつら、俺がぶん殴るだけで倒せる雑魚中の雑魚なのだ。あいつらが倒せない敵なわけがない。だがあいつらは倒せていない。理由はあいつらを見れば、一目瞭然だ。
誰も彼もがパニックになりながら滅茶苦茶に武器や魔法を振り回している。騎士の奴が必死に纏めようとしているが、上手くいっていない。そうしている間にも魔法陣から続々と増援が送られてくる。このままでは俺でも処理が追い付かなくなり、ジリ貧になること間違いなしだ。
「しゃあねぇ。こいつを使うか」
俺はポケットからあるものを取り出す。
それは、簡易手榴弾だ。仕組みは面倒なので省略する。
「そらよっ!」
俺はトラウムソルジャーの群れが一番濃いところに向かって投げる。手榴弾は地面に着弾する前に炸裂した。辺りに爆音が響く。
「「「「「「「ッ!?」」」」」」」
流石にこの爆音じゃこいつらも正気を取り戻すか。さて、こいつらは騎士の奴に任せて、俺はどうするか……
おっと、忘れちゃいけねえ奴を忘れていた。あのバカ勇者を引っ張ってこねえと。俺は走り出した。バカ之河達のいるベヒモスの方へ向かって。
俺が前線に到着しても、ベヒモスは依然と障壁に向かって突進を繰り返している。
障壁に衝突する度に壮絶な衝撃波が周囲に撒き散らされ、石造りの橋が悲鳴を上げる。障壁も既に全体に亀裂が入っており砕けるのは時間の問題だ。既にメルドも障壁の展開に加わっているようだが、焼け石に水だった。
「ええい、くそ! もうもたんぞ! 光輝、早く撤退しろ! お前達も早く行け!」
「嫌です! メルドさん達を置いていくわけには行きません! 絶対、皆で生き残るんです!」
「くっ、こんな時にわがままを……」
あいつらはそんなくだらねえ会話で時間使ってたのか? ……マジでいい加減にしろよ、おい。
この限定された空間ではベヒモスの突進を回避するのは難しい。それ故、逃げ切るためには障壁を張り、押し出されるように撤退するのがベストだ。俺でも分かることだが、このバカ勇者には理解ができないらしい。
メルドはその辺の事情を掻い摘んで説明し撤退を促しているようだが、それはあのバカに一番やってはいけない。そして案の定バカ之河はそれを〝置いていく〟と勝手に解釈してさっきからメルドの指示に従おうとしない。また、自分ならベヒモスをどうにかできると思っているのか目の輝きが明らかに攻撃色を放っている。思い上がるのもいい加減にしろよ。
「光輝! 団長さんの言う通りにして撤退しましょう!」
八重樫は状況がわかっているようでバカ之河を諌めようと腕を掴む。
「へっ、光輝の無茶は今に始まったことじゃねぇだろ? 付き合うぜ、光輝!」
「龍太郎……ありがとな」
しかし、脳筋太郎の言葉に更にいらないやる気を見せるバカ之河。このバカ野郎共は……もう我慢ならねえ。
「状況に「状況に酔ってんじゃねえぞこのバカ野郎共!」南雲君!?」
俺は八重樫の言葉を遮って怒鳴り散らす。
「とっとと撤退しやがれ! テメエがいねえと、あいつらが動かねえんだよ!」
「いきなりなんだ? それより、なんでこんな所にいるんだ! ここは君がいていい場所じゃない! ここは俺達に任せて南雲は……ぐっ!?」
俺はこの期に及んで戯れ言を吐くバカ之河の胸ぐらを掴む。
「テメエ、まだ状況が分からねえのか!!」
まだ状況が分からないバカ之河に対して、俺は腹から怒声を絞り出した。
「おい、こんなとこで何やってんだ!」
「うるせえ脳筋! テメエみたいなプロテイン口に飲ませることも分からなくなった脳筋が話に入ってくるとややこしくなんだよ! 黙ってろ!」
「お前、黙ってりゃ好き放題言いやがって!」
俺の言葉に感化された脳筋太郎が掴みかかってくる。しかし八重樫がそれを止めた。
「もう、こんなことしてる場合じゃないでしょ! それにわざわざここまで……南雲君は何しに来たの?」
すまねえな、八重樫。と俺は無理やり話題を戻した八重樫に心の中で謝罪する。こいつには今度甘いもんおごってやるか。
「今すぐ撤退しろ! あのカス共、ろくな連携も取れずにあんなクソみたいな戦い方してるんじゃ俺達全員死ぬぞ!」
バカ之河は俺の指差す方向を見て、唖然とした。こいつのことだから、あいつらならどうにかなるとでも考えていたんだろう。全くこいつの頭は破壊したくなるレベルで腹が立つぜ。
そんなバカ之河に、俺は追撃する。
「テメエはここに来てから、『皆を守る』とか抜かしてやがったな! その結果があれか? ハッ! 有言実行できてねえにも程があるだろうが! それともテメエは口だけ達者で、行動は何一つできねえクソみてえな役立たずなのか!?」
俺の言葉に反論したくてもできないバカ之河。それもそうだろう。向こうで混乱に陥り怒号と悲鳴を上げるカス共を見りゃ、嫌でも俺の言葉に反論はできねえ。
少ししてバカ之河は、ぶんぶんと頭を振ると俺に頷いた。
「ああ、わかった。直ぐに行く! メルド団長! すいませ――」
「下がれぇーー!」
奴が〝すいません、先に撤退します〟――そう言おうとしてメルドの方へ振り返った瞬間、メルドの悲鳴と同時に、遂に障壁が砕け散った。
暴風のように荒れ狂う衝撃波が俺達を襲う。咄嗟に、俺が前に出て錬成により石壁を作り出すがあっさり砕かれ吹き飛ばされる。多少は威力を殺せたようだが……。
舞い上がる埃がベヒモスの咆哮で吹き払われた。
そこには、倒れ伏し呻き声を上げるメルドと騎士が三人。衝撃波の影響で身動きが取れないようだ。バカ之河達も倒れていたがすぐに起き上がる。メルド達の背後にいたことと、俺の石壁が功を奏したようだ。別にこいつらを守る気はなかったんだがな。
「ぐっ……龍太郎、雫、時間を稼げるか?」
バカ之河が八重樫と脳筋太郎に問う。それに苦しそうではあるが確かな足取りで前へ出る二人。メルドたちが倒れている以上自分達がなんとかする他ないと判断したのだろう。
「やるしかねぇだろ!」
「……なんとかしてみるわ!」
二人がベヒモスに突貫する。
「香織はメルドさん達の治癒を!」
「うん!」
バカ之河の指示で白崎が走り出す。俺は既にメルド達のもとだ。戦いの余波が届かないよう石壁を作り出している。気休めだが無いよりマシだろう。
バカ之河は、今の自分が出せる最大の技を放つための詠唱を開始した。
「神意よ! 全ての邪悪を滅ぼし光をもたらしたまえ! 神の息吹よ! 全ての暗雲を吹き払い、この世を聖浄で満たしたまえ! 神の慈悲よ! この一撃を以て全ての罪科を許したまえ!――〝神威〟!」
詠唱と共にまっすぐ突き出した聖剣から極光が迸る。
先の天翔閃と同系統だが威力が段違いだ。あの時これが放たれていたら、足がなくなる程度じゃ済まなかっただろう。橋を震動させ石畳を抉り飛ばしながらベヒモスへと直進する。
脳筋太郎と八重樫は、詠唱の終わりと同時に既に離脱している。ギリギリだったようで二人共ボロボロだ。この短い時間だけで相当ダメージを受けたようだ。いかにベヒモスがヤバい魔物かってのが嫌でもわかる。
放たれた光属性の砲撃は、轟音と共にベヒモスに直撃した。光が辺りを満たし白く塗りつぶす。激震する橋に大きく亀裂が入っていく。
「これなら……はぁはぁ」
「はぁはぁ、流石にやったよな?」
「だといいけど……」
そういう時は大体やってねえんだよ。と俺は思いながらベヒモスの方を見る。とはいえ、バカ之河の最大火力だ。致命傷には至らずとも、多少効いてくれてなきゃ困る。
徐々に光が収まり、舞う埃が吹き払われる。
その先には……無傷のベヒモスがいた。はい、フラグ回収乙。
低い唸り声を上げ、バカ之河を射殺さんばかりに睨んでいる。と、思ったら、直後、スッと頭を掲げた。頭の角がキィーーーという甲高い音を立てながら赤熱化していく。そして、遂に頭部の兜全体がマグマのように燃えたぎった。チッ、まだピンピンしてやがる。
「ボケッとするな! 逃げろ!」
メルドの叫びに、ようやく無傷というショックから正気に戻ったバカ之河達が身構えた瞬間、ベヒモスが突進を始める。そして、バカ之河達のかなり手前で跳躍し、赤熱化した頭部を下に向けて隕石のように落下した。
「チッ! 錬成!」
地面にいるのは危険だと判断した俺は、錬成で跳びあがる。
そんな俺を見たバカ之河達は、咄嗟に横っ飛びで回避するも、着弾時の衝撃波をモロに浴びて吹き飛ぶ。ゴロゴロと地面を転がりようやく止まった頃には、満身創痍の状態だった。
冗談抜きで危なかったな……。あれはバカ之河を狙っていたとはいえ、衝撃波の威力は相当のものだ。俺がもろに食らってたら、最悪内臓がスクランブルエッグになっていたかもしれない。
どうにか動けるようになったメルドが駆け寄ってくる。他の騎士団員は、まだ白崎による治療の最中だ。ベヒモスはめり込んだ頭を抜き出そうと踏ん張っている。
「お前等、動けるか!」
メルドが叫ぶように尋ねるも返事は呻き声だ。先ほどの団長達と同じく衝撃波で体が麻痺しているのだろう。内臓へのダメージも相当のようだ。
メルドが白崎を呼ぼうと振り返る。ついでに俺が降りてきたところ、丁度よかったと言わんばかりの表情をした。
「坊主! 香織を連れて、光輝を担いで下がれ!」
俺にそう指示するメルド。
バカ之河を、つまりバカ之河だけを担いで下がれ。その指示は、すなわち、もう一人くらいしか逃げることも敵わないということなのだろう。
メルドは唇を噛み切るほど食いしばり盾を構えた。ここを死地と定め、命を賭けて食い止めると覚悟している。だが、
「ハッ、やだね」
そんなんぞ知らんと言わんばかりの返答を俺はしてやった。この返答には流石のメルドも予想外だったのか、間の抜けた表情で俺を見てくる。
「……何を言ってるんだ坊主!? 光輝も敵わなかったんだぞ! お前がいくらその武器を持ってるとはいえ無理だ!」
メルドは必死に俺を説得するが、ベヒモスが既に戦闘態勢を整えている。再び頭部の兜が赤熱化を開始する。時間がない。
「奴は準備完了。今ここで撤退したら、何人死ぬと思う? バカ之河の最高火力でも怯まなかったんだ。アンタが行ったところで気休めにもならない。俺はあいつらが死ぬのは構わんが、少しでもよくしてくれたアンタらを戦争前に戦死させるわけにはいかねえんでな」
「……やれるんだな?」
「そう言われてやらねえバカがどこにいる?」
いつもとは違う決然とした眼差しを向けてくる俺に、メルドは「くっ」と笑みを浮かべる。
「まさか、お前さんに命を預けることになるとはな。……必ず助けてやる。だから……頼んだぞ!」
「おうよ!」
メルドはそう言うとベヒモスの前に出た。そして、簡易の魔法を放ち挑発する。ベヒモスは、先ほどバカ之河を狙ったように、自分に歯向かう者を標的にする習性があるようだ。しっかりとその視線がメルドに向いている。
そして、赤熱化を果たした兜を掲げ、突撃、跳躍する。メルドは、ギリギリまで引き付けるつもりなのか目を見開いて構えている。そして、小さく詠唱をした。
「吹き散らせ――〝風壁〟」
詠唱と共にバックステップで離脱する。
その直後、ベヒモスの頭部が一瞬前までメルドがいた場所に着弾した。発生した衝撃波や石礫は〝風壁〟でどうにか逸らす。大雑把な攻撃なので避けるだけならなんとかなる。倒れたままのバカ之河達を守りながらでは全滅していただろうが。
ベヒモスはすぐに頭を抜いた。やはり、橋が少し脆くなってきてるようだ。あまり時間はかけられねえ。
「よお、デカブツ。突然だが、鉛は好きか?」
俺はそう言いながらベヒモスの目玉に向かって発砲する。弾は見事命中し、ベヒモスの両目を潰した。
「グアアアアアアア!?」
目玉を潰された痛みにベヒモスが苦痛の声をあげ、大きく仰け反る。俺はその隙を逃さず、ベヒモスの足元に潜り込んだ。そして橋を錬成し、ベヒモスの足を落とし穴に沈めて蓋をする。
「こっからはずっと俺のターンだ!」
俺は動けなくなったベヒモスの腹に向かって乱射する。さっき分かったが、こいつの弱点は腹だ。錬成してる最中に少し足と腹を触ったが、足は石かってほどに固く、腹は弾力の強いゴムみたいな感じだった。
「グオアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
腹にいくつも穴を空けられる痛みにベヒモスが苦しみ、暴れだす。油断すると直ぐ周囲の石畳に亀裂が入り抜け出そうとするが、その度に俺が錬成をし直して抜け出すことを許さない。
「どうだ? 何もできずにただただ弱点を攻撃される気分は?」
返ってくるのは苦痛に悶え苦しむようなベヒモスの叫び声。このままいけば倒せるんじゃねえか?
「俺のハメ殺し戦法はこんなもんじゃねえぞ! 錬成ッ!」
俺は残りの魔力を全て使い切る勢いでベヒモスの足元を錬成した。するとベヒモスは足元でだけでなく、胴体まで沈み始めた。
「グオオオオオオッ!」
「抵抗すんじゃねえッ!」
俺はベヒモスの足の関節部を何度も撃つ。関節部は鎧でも守ることができない部位のため、意外と柔らかかったりするのだが、読みが当たった。ベヒモスの関節部は破壊され、立てなくなったベヒモスは跪く体勢になる。
「うらアアアアアアッ!」
そして錬成し続け、ベヒモスは下半分が完全に埋まった状態となった。これなら流石にこいつでも容易に抜け出すことはできないだろう。関節も機能しないため、こいつはもう無力化したも同然だ。
さて、あいつらはどうしてるか。俺はベヒモスの背中に飛び乗り、メルドの方を向いた。
既にメルドは回復した騎士共とバカ之河達を呼び集め、離脱している。
トラウムソルジャーの方は、どうやら幾人かの奴等が冷静さを取り戻したようで、周囲に声を掛け連携を取って対応し始めているようだ。俺は立ち直りの原因が、園部であることを察した。ハッ、ちっとは役に立つじゃねえか。
だがトラウムソルジャーは依然増加を続けていた。既にその数は二百体はいるだろう。階段側へと続く橋を埋め尽くしている。ある意味それでよかったのかもしれない。もし、もっと隙間だらけだったなら、突貫したバカな奴が包囲され惨殺されていただろう。実際、最初の百体くらいの時に、それで窮地に陥っていたカス共は結構な数いたのだ。
それでも、未だ死人が出ていないのは、ひとえに騎士共のおかげだろう。奴等の必死のカバーがカス共を生かしていたといっても過言ではない。代償に、既に奴等は満身創痍だったが。
騎士共のサポートがなくなり、続々と増え続ける魔物にパニックを起こし、魔法を使いもせずに剣やら槍やら武器を振り回すカス共がほとんどである以上、もう数分もすれば完全に瓦解するだろう。
その時だった。
「――〝天翔閃〟!」
純白の斬撃がトラウムソルジャー達のド真ん中を切り裂き吹き飛ばしながら炸裂した。
「皆! 諦めるな! 道は俺が切り開く!」
そんなセリフと共に、再び〝天翔閃〟が敵を切り裂いていく。バカ之河が発するカリスマにカス共が活気づく。
「お前達! 今まで何をやってきた! 訓練を思い出せ! さっさと連携をとらんか! 馬鹿者共が!」
メルドが〝天翔閃〟に勝るとも劣らない一撃を放ち、敵を次々と打ち倒す。
いつも通りの頼もしい声に、カス共が連携を取り始めた。治癒魔法に適性のある奴がこぞって負傷した奴を癒し、魔法適性の高い奴が後衛に下がって強力な魔法の詠唱を開始する。前衛職はしっかり隊列を組み、倒すことより後衛の守りを重視し堅実な動きを心がける。
治癒が終わり復活した騎士共も加わり、反撃の狼煙が上がった。チートどもの強力な魔法と武技の波状攻撃が、怒涛の如く敵目掛けて襲いかかる。凄まじい速度で殲滅していき、その速度は、遂に魔法陣による魔物の召喚速度を超えた。
「グググ……!」
おっと、まだ動ける元気があるのか。しょうがねえ、高みの見物は終わりにするか。
「俺がお前を埋めるだけで終わると思うか?」
俺はベヒモスの背中を何度も撃つ。腹ほどではないが、ここもまあまあ柔らかい。
「グオオオオ……!!」
口が半分埋まっているため、叫び声もろくにあげられない。無様な姿だ。
「坊主! 撤退の準備が整った! 戻ってこい!」
メルドの声で俺は撃つのを止める。既に奴等は階段前に集まっている。あいつらは、自分達じゃ相手取ることもできない相手を俺が完封していることに複雑な表情を浮かべている。
この期に及んで感謝もできないのか? 俺がいなかったら、全員ここでこいつか骨共の餌になってたってのによ。お前らいっそのことここで誰か死んで、『死』っていう概念を経験した方が良かったんじゃないのか?
「あばよ、マヌケ牛」
俺は置き土産としてベヒモスの両目に再び発砲する。ベヒモスが苦しむ声をあげる中、俺は撤退を開始した。
「総員、撃てーッ!!」
メルドの声が響いた瞬間、あらゆる属性の攻撃魔法が殺到した。
「なっ!?」
俺は思わず驚きの声をあげた。ベヒモスは完全に動けなくし、無力化した。あとはそのまま俺がトラウムソルジャーを突破して、階段前に行けばそれで終わりだった。
しかしメルドは判断を誤った。ベヒモスの恐ろしさを知っているからこそのミスと言えるだろう。人類最強と言われていた冒険者が勝てなかったベヒモスは、例え俺がガッチガチに拘束してもほんの数秒で抜け出すと考えたのだろう。
だが俺は石で拘束するだけでなく、足の関節を破壊し、両目を二度も潰した。これはベヒモスが拘束から抜け出す可能性を完璧に叩き潰したと言える。このまま行けば、ベヒモスは石の中に埋められながら撤退する俺達の背中を見ていることしかできなかった。
そこに大量の魔法が撃ち込まれたらどうなるだろうか? バカ之河の最大火力でも怯みすらしなかったあいつに魔法を撃ち込んだところで、効果はない。だが周りの石はどうだ? レベルが低いとは言え奴等はチート持ち。石など魔法で簡単に破壊できる。
つまり考えたくなかったが、こういうことだ。
「グオオオオ……!」
奴等の魔法により周りの石が破壊され、ベヒモスが完全な拘束から抜け出し始める。足の関節は完全に治ってないが、立てる程度には回復している。魔物の再生能力は侮れない。
「おいバカ! 止めろ! 魔法を撃つな!」
俺が叫んでも、魔法の発射音にかき消され奴等は聞こえていないようだ。
ベヒモスは既に完全に抜け出しつつある。両目も回復し始め、このままいけば俺の方に突進してくるだろう。
(クソ! この距離であのちっこい目に当てられるか?)
俺はベヒモスの両目を狙って何度も発砲する。しかしというかやはりというか、弾は全て外れた。精度が圧倒的に足りない。1日練習しただけで30メートル以上先の直径1cmくらいの的に当てるなんて不可能だ。
すぐに予備弾を取り出し、俺がリロードをしていた時だった。
腹に魔法が命中した。
「がッ……!?」
いきなり腹を殴られたような衝撃に、俺は弾とシュトーレンを落としてしまう。しかも最悪なことに、ベヒモスとの距離が縮まった。
魔耐がない俺は、フラフラしながらシュトーレンを拾おうと立ち上がった。その時、何を思ったかゴミ山の方に目を向けた。そこで俺は、信じられないものを見た。
奴は、『してやった』というような気持ち悪い笑みを浮かべていた。それで俺は全てを悟った。
あの魔法は、間違いなくゴミ山が故意的に俺に向かって撃ってきたものだ。
理由は分からないが、奴のことだしろくでもないことだろう。しかし、俺は何故? という疑問よりも、俺を『殺そうとした』ことに対して怒りがこみあげて来た。
背後で咆哮が鳴り響く。思わず振り返ると、あの拘束から完全に脱出し三度目の赤熱化をしたベヒモスの眼光がしっかり俺を捉えていた。
そして、赤熱化した頭部を盾のようにかざしながら俺に向かって突進してきた。
何とかふらつきを振り払い、俺はシュトーレンを拾ってその場から緊急離脱した。直後、怒りの全てを集束したような激烈な衝撃が橋全体を襲った。ベヒモスの攻撃で橋全体が震動する。着弾点を中心に物凄い勢いで亀裂が走る。メキメキと橋が悲鳴を上げる。
そして遂に……橋が崩壊を始めた。度重なる強大な攻撃にさらされ続けた石造りの橋は、遂に耐久限度を超えたのだ。
「グウァアアア!?」
悲鳴を上げながら崩壊し傾く石畳を爪で必死に引っ掻くベヒモス。しかし、引っ掛けた場所すら崩壊し、抵抗も虚しく奈落へと消えていった。ベヒモスの断末魔が木霊する。
俺は今にも崩れそうな橋の一部に掴まっている。崩れるのは時間の問題。上に乗ればその瞬間崩れるだろう。どちらにせよ詰んでいる。
どうせ死ぬのなら、置き土産を残してやろうじゃねえか。
俺は殺意の籠った目でゴミ山を捉え、シュトーレンを向けた。俺の行動にカス共とメルドは驚愕の表情を浮かべている。そして次に俺は狂気の笑みを浮かべながら、
(死ね、ゴミカス野郎が)
ゴミ山に向けて短い時間に三発発砲した。途端、俺の体重に耐え切れなくなった橋の一部が崩れていく。俺は最後のあがきで奴等に向けて中指を立て、
「全員、地獄に落ちろ」
と思いっきり嫌な笑みを浮かべながら吐き捨て、奈落に落ちていった。
おそらく今年最後の投稿になりますね。皆様良いお年を!
ミレディとか言う奴……どうする?
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お持ち帰り
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ゴーレム魔改造しちまえ(着いては来ない)
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原作通りぶっ壊すだけぶっ壊せ