ちなみにてぇてぇ回じゃないです。
今日はクリスマスイブ。
恋人達にとっては特別な意味を持つ日である。
そんな日でも司馬拓哉は通常通りバイト先である居酒屋に出勤していた。
「なぁにがクリスマスじゃ! どいつもこいつもイチャつきやがって……!」
「嫉妬してもしょうがないだろ……まあ、わざわざ居酒屋来んなとは思うけど」
呪詛の言葉を吐き出している同僚の園山に苦笑しながらも、拓哉は居酒屋で楽しそうにしているカップルに冷たい視線を向けていた。
「けっ、もっといい店連れてってやれって話だよな」
「それな。まったく聖なる夜に居酒屋じゃ締まらないだろうに」
「どうせ奴らにとって今日は〝性なる日〟なんだ。こいつら、このあと滅茶苦茶セックスするんだぜ」
「健全イラストでよく見るやつじゃん」
居酒屋のキッチンで談笑しながらも、二人は手を止めずに料理を準備したり、皿を洗ったりしている。
ふと、拓哉を見てある疑問を抱いた園山は、拓哉に話題を振った。
「実際、司馬は彼女とか欲しいのか? ほら、お前イケメンじゃん」
「いや、その二つに因果関係ないだろ。別にいらないよ」
「えー、お前の見た目ならいくらでも作れるだろ」
園山の言葉に対して、拓哉は芸能界にいたときのことを思い出しゲンナリとした表情を浮かべて言った。
「見た目が全てじゃないだろ。というか、見た目で寄ってくるような女は信用できない」
「あー、そういうことか。確かにそれはあるな」
「だろ? ちなみに園山は彼女とか欲しいのか?」
「欲しい」
「即答かよ……」
欲望駄々洩れの園山に拓哉は呆れてため息をついた。
「いや、彼女いるだけでどこに行くにしても楽しいだろ」
「そう思うなら作ればいいだろ」
「作るまでが面倒」
「おい」
彼女が欲しいと言いながらも面倒臭いなどと宣う園山に、拓哉は呆れたようにツッコミを入れる。
そんな拓哉に対して、園山は心底ウンザリした様子で語った。
「どうせ俺みたいな陰キャクソ眼鏡フリーターに惚れる女なんかいねぇよ。となるとだ。俺は女を振り向かせるために、街コンに行ったり、出会い系アプリを使っても見向きもされないんだ。髪型やファッションを勉強してある程度見た目を整えたところで、女を喜ばせる会話術を身に着けなきゃいけない。そこまで考えた時点で諦めるわ」
園山は自己評価がとにかく低かった。
それ故に望みがあったとしても、自分には分不相応だと諦める癖がすっかり身についてしまっていた。
「ま、俺みたいなクソな人間には、このクソみたいな生活がお似合いってわけだ。高望みなんてしねぇよ」
「でも、彼女は欲しいんだろ?」
「欲゛し゛い゛!」
「欲だけはあるのな……」
拓哉の言葉に、園山は血涙を流しそうなほど悔し気な表情を浮かべて答えるのであった。
せっかくなので、クリスマスらしく拓哉は好きな女性のタイプについての話を振ることにした。
「ちなみに、もし彼女がクリスマスプレゼントでもらえるとしたら園山はどんな子がいい?」
「司馬ってリア充っぽいのに、発想が割とオタク寄りだよな」
「オタク寄りっていうかオタクなんだよ。それで、どうなんだ?」
拓哉の質問に、少しばかり考え込むと園山は自分の好きな女性のタイプを口にした。
「そうだな……内気であまり人と話すのは得意じゃないタイプの子だけど、芯はしっかりしてて気を許した相手にはぐいぐい来るタイプとかだな」
「おっ、いいねぇ」
「わかってくれるか! ちなみに司馬はどうだ?」
拓哉が同意したことで園山は嬉しそうに笑うと、今度は拓哉に好きな女性のタイプを聞いた。
「俺は普段は気を使わなくていいサバサバしてる女友達みたいな距離感で接しやすい女の子がいいな。そんでもって女の子っぽいところ見せられてドキッとする、みたいな感じ?」
「あ゛ー、いい! それいいな!」
「だろ! わかってくれるか!」
「「ギャップ萌え最高! ウェーイ!」」
完全に意気投合した拓哉と園山は楽しそうにハイタッチをした。
「そこのバカ二人―、ダベってないで手を動かせー!」
「「すいません!」」
そんなことを厨房でしていれば当然怒られるわけで、二人は声をかけたチーフに頭を下げると自分達の仕事に没頭していった。
それから拓哉も園山も退勤時間となり、帰り支度をしていた。
「どうする? この後ここで飲むか?」
「いや、俺は大事な用があるから帰る」
せっかくのクリスマス。どうせなら気の合う友人と過ごそうと拓哉を飲みに誘ったが園山は断られてしまった。
「お前まさか……!」
園山は拓哉の〝大事な用がある〟という言葉を聞いて目を見開いて険しい表情で拓哉へと詰め寄る。
「今日はバンチョーの3Dライブあるからな」
「心の友よ……!」
拓哉の〝推しの配信を見る〟というオタクらしいクリスマスイブの予定に、園山は安心したように笑顔を浮かべた。先ほどまで嫉妬に狂いそうな表情だったというのに酷い掌返しである。
「そんじゃ少し早いけど、メリークリスマス」
「おうメリクリ!」
この後、拓哉は準備万端でクリスマスちょうどに始まる〝竹取かぐやのクリスマス3Dライブ〟を見ることになる。
そして、そこから全てが始まるのであった。