お盆休みも終わり、3D化配信を数日後に控えた夢美は友人であるVtuberの七色和音と会っていた。
カフェでお茶をしながら夢美はお盆休みに起きた出来事の顛末を包み隠さず話した。
「……大変だったんですね」
「うぅ……バン――諸星さんにめっちゃ怒られた」
「でしょうね……」
疲れた表情を浮かべる夢美に、同情するように和音は呟いた。
そんな和音もどこか疲れた表情を浮かべていた。
「あ、これお土産です。司馬さんと一緒に食べてください」
和音は鞄から包みを取り出すと、疲れ切った表情の夢美へと〝柚餅子〟と書かれたお土産を手渡した。
「ゆずもち?」
「これで〝ゆべし〟って読むんですよ。金沢土産です!」
「そっか、奈美ちゃんって石川県出身だったもんね。やっぱりお盆は実家に帰ってたんだ」
和音はお盆休みの間、夢美と同様に実家へと帰省していた。
そこで夢美などの友人や事務所へのお土産を買って帰ってきていたのだ。
「ええ、まあ……その、こっちも由美子さんと同じでいろいろトラブルはありましたけどね」
「実家は確か旅館だったっけ。お盆でお客さんいっぱいで強制的に駆り出されたとか?」
「それだけだったらどれだけ楽だったことか……」
魂の抜けた様子の和音を見て、夢美は自分には想像もつかないような大変な出来事があったのだろうと思い、そっとしておくことにした。
「まあ、でも良いこともたくさんありましたし、とんとんって感じですかね」
「そっか、あたしとお揃いだね」
「はい、お揃いです」
そう言うと、夢美と和音は楽しそうに笑い合った。
そこで和音は思い出したように言った。
「そういえば、今日ですよね」
「ああ、歌ってみた動画のプレミア公開ね。楽しみにしてて、奈美ちゃんとの特訓の成果を見せたげる」
「楽しみにしてますね」
こうして夢美は和音との時間を堪能して、夜の放送に備えるのであった。
今日はすっかり遅れてしまった二十万人記念配信を行う予定だった。もはや夢美のチャンネルの登録者数は二十四万人となっていたため正確には24万人記念配信だが。
特に企画を考えていなかった夢美は以前から作成していた歌動画をアップロードして、その後に雑談配信を行っていく予定だった。
まだ始まっていないというのにプレミア公開された夢美の歌ってみた動画〝乙女のルートはひとつじゃない!〟には早速多くのコメントが書き込まれていた。
プレミア公開を心待ちにしていた妖精達は、画面が待機画面から切り替わったことで一斉に盛り上がり始めた。
『曖昧なI my meだって~♪ ぐるぐる混ぜたら~♪ 憧れの急展開に~♪ 見えるかもね♪』
[きちゃ!]
[バラギがこれを歌うとはな]
[あんまりアニメ見てないイメージだったから意外]
[おもしれー女]
[おもしれー女]
[おもしれー女]
[夢美ちゃん復帰おめでとう!]
[イラストで母親の代わりにバンチョーが怒鳴ってて草]
初配信のときのような可愛らしい声で夢美が歌い出したことで、コメントは笑い半分、感心半分となった。
『ま~わる麗しき~恋模様~♪』
[声の切り替えすご!]
[天才か~?]
[突然の茨木さんで草]
この曲はサビ直前から突然曲調が可愛らしいものから荘厳なものへと変わる。
声を切り替えた夢美が高らかに歌い上げたことで、コメント欄はさらに盛り上がった。
『ちょっと想像斜め上、まっすぐ進め~♪ 乙女のルートはひとつじゃない~♪』
[一つしかないんだよなぁ]
[レオ君ルートしか勝たん]
[イラストの切り替え手が込んでるな]
[ジオルド、キース、アラン全部レオ君でワロタ]
[何で和音ちゃんが?]
[そういえば、普段の配信でも仲良いって言ってたな]
[白雪がメアリで、和音ちゃんがソフィアか]
[まひるちゃんがニコルなのなんか笑う]
[会う度に限界化してるから間違いではない]
サビに入り、レオ、林檎、まひる、和音など、夢美と仲の良いライバーやVtuber達が登場して、アニメのオープニング映像と同じように切り替わっていく。
この動画は夢美が細かく作成依頼をしたため、かなり手が込んでいた。
その分費用も掛かったが、自分の得意分野である〝声の幅の広さ〟を存分に活かせる曲であるため、動画のクオリティは高くしたかったのだ。
『相も変わらずに東奔西走好感度を上げて♪ 清く正しく美しくあれとはよく言ったもんだな♪』
[清 く 正 し く 美 し く あ れ と は よ く 言 っ た も ん だ な]
[本当にな]
[地声ひっくwww]
[好感度は東奔西走しなくても既に限界突破してるんだよなぁ]
[改めてバラギの声の幅の広さを思い知らされた]
間で入る長い台詞のような箇所は完全に地声で歌ったため、妖精達は感動と笑いが綯交ぜになり、より夢美のことを好きになっていた。
こうして歌ってみた動画のプレミア公開が終わると、流れるように夢美は二十四万人配信を始めた。
「はーい、こんゆみー。茨木夢美でーす」
[こんゆみー]
[こんゆみー]
[こんゆみー]
「みんな歌ってみた動画どうだった?」
[最高だった!]
[声の幅広くてビビった]
[おもしれー女 ¥50,000円]
夢美の歌ってみた動画は夢美の想像以上に好評だった。
にじライブの視聴者達は基本的にライバー同士の人間関係を好む。
レオと夢美の仲の良い男女関係はその代表例だが、それだけではなかった。
夢美と林檎の確かな信頼関係を感じさせる親友関係。
夢美とかぐやの怖いけど優しい先輩と問題児の不器用な先輩後輩関係。
夢美とまひるの憧れの先輩とそれを追いかける先輩後輩関係。
夢美と和音の事務所外でも仲の良さを感じさせる友人関係。
そのどれもが高い濃度の〝てぇてぇ〟を感じさせる関係性だったのだ。
「赤スパセンキュー! 遅くなっちゃったけど、今日は二十四万人記念配信をやってくよー」
[勢い凄くて記念配信が追いついてないの草]
[旦那と実家に帰るだけで伸びる女]
[結婚式はいつですか?]
レオとの関係に言及するコメントが多数見受けられたことで、夢美は迷いながらもそのコメントを拾うことにした。
「結婚ねぇ……ぶっちゃけレオって結婚相手としてはこれ以上ないくらいの好条件なんだけど、やっぱいろいろと問題あると思うんだよね。ほら、君達そういうのうるさいでしょ?」
[推しが幸せならオッケーです]
[むしろ、早く結婚してほしい]
[待って、俺達が騒がなかったら結婚するってこと?]
「そうは言ってないでしょ。あくまで〝仮に結婚するなら〟って話。そもそもあたし達付き合ってすらいないからね」
[それでもてぇてぇ!]
[まあ、箱内の同期だし、Vの結婚はいろいろ騒ぎになりそう]
[俺達だけの問題じゃないもんな]
夢美の珍しく真面目な言葉に、妖精達はどこか納得した様子でコメントを書き込む。
普段はふざけていたり、すぐに〝てぇてぇ〟という妖精達だが、他のライバーの視聴者達よりはマナーが良かった。マナーの悪い視聴者が炎上の際にふるい落とされたことは、思いのほか夢美にとっていい影響を及ぼしていた。
[仮にレオ君と普通に再会してたら結婚してた?]
「いや、どうだろ。ライバーとして再会してなかったらたぶんこんなに仲良くなってないと思う。疎遠になる前にいろいろあったしね」
[喧嘩別れでもしたの?]
「ま、そんなとこ」
[詳しく!]
[当時の話とか聞きたい]
レオと夢美は普段から頻繁にコラボ時などで喧嘩しているが、それはじゃれ合いのようなものだと視聴者達は理解していた。
そのため、本気で喧嘩して仲違いした二人の様子が想像できなかった。
そんな妖精達に、夢美は当時のことを語った。
「簡単に言うと、飼育委員の当番が一緒になったことがきっかけでレオと仲良くなって、女子のグループに目をつけられちゃったんだよね」
[あっ(察し)]
[これはアカンやつや]
[レオ君モテそうだもんなー]
夢美はレオとの過去をそれとなくぼかしながら話した。
それによって妖精達は夢美に同情的な様子だった。
一通り妖精達との会話を楽しんだ夢美は、突発的ではあるが凸待ち配信を行うことにした。
「さて、せっかくだから凸待ちやってくか!」
[急に企画初めて草]
[登録者数急に増えたせいで企画追いついてなかったんだろうな]
妖精達は思いつかなかったからと思っているが、凸待ち配信を突発的に始めたのは、意図的なものだった。
突発的に凸待ち配信を開始してもレオは絶対に来る。レオの予定を確認する限り問題はないので、これに関しては確定だ。
この突発的な状態で大勢のライバーが来たら話題になる。来なかったらレオと話をすればいいだけの話だ。
「ヴェッ!? もう来たんだけど!?」
[早すぎて草]
[企画発表したの数秒前なのにwww]
[まーた伝説作ってる]
早速凸待ち配信を行った夢美だったが、いきなり電話がかかってきたため素っ頓狂な声を上げた。
「ちょ、この人って……!」
『……はじめまして、諸事情で名前は名乗れませんが、お祝いしたくてかけちゃいました。登録者数24万人おめでとうございます』
Thiscodeに表示された名前、そこには〝竜宮乙姫〟と表示されていた。
夢美の3D化は多分、三話くらい先になるかと思います!
余談ですが、妖精達は真面目な空気のときは茶化さず真剣に話を聞いてくれます。
和音ちゃんに何があったか、鋭い読者の方は気づいてくれているはず……!