月一にじライブ。にじライブ公式チャンネルで配信している月初に配信される番組で、パーソナリティはJKコンビと呼ばれている竹取かぐやと白鳥まひるだ。
「なぁ、まひる。あの動画見た?」
「あれでしょー? バラちゃんの『あー、ゴミカシュー! ちねぇ!』って切り抜き」
「いやいや、そんな可愛いもんちゃうで。もっと、こう……この世の全てを呪って死んでいくかのように『あ゛あ゛ゴミカスゥゥゥゥゥ! 死ねぇぇぇ!』って、感じやな」
「キャッキャッ」
冒頭から軽快なやり取りをするかぐやとまひる。話題は林檎が上げた夢美の配信の切り抜き動画についてだった。
「まさか、白雪が切り抜き上げるとは思わなかったわ」
「ねー! 林檎ちゃんの動画編集技術すっごいよね! お姉ちゃんとしても鼻が高いよ」
「お姉ちゃん?」
「あー、ママが一緒なんだよ」
「そういえば、そうやったな――えっ、本番始まってる?」
かぐやはとぼけたように言っているが、これも台本の内である。
「じゃあ、まひる。タイトルコールいくで?」
「オッケー!」
「「月一にじライブ!」」
かぐやとまひるが揃ってタイトルコールをする。
それと同時に軽快な音楽が流れて番組が始まった。
「はいはーい、みなさんこんバンチョー! 竹取かぐやです!」
「こんまひ、こんまひ! こんまひー! どうも、白鳥まひるです!」
「さあ、今月も始まったで月一にじライブ! 今回も素敵なゲストが来とるでー!」
「まあ、みんなもさっきの話題で分かっていると思うけど――ゲストはこの方!」
月一にじライブでは、基本的にThiscodeというアプリを使用して通話を繋げ、にじライブのライバー専用アプリを連携して撮影を行っている。
そのため、現実で会っていなくてもライバー達はまるでその場にいるようにコミュニケーションを取ることができるのだ。
今回のゲストである林檎も、例に漏れず自宅からアプリを連携して番組に繋いで出演していた。
「おはっぽー、どうもにじライブの焼き林檎こと白雪林檎でーす」
「ちょっ」
「ぶっこんできたねー」
台本にない自己紹介をしたことでかぐやは動揺し、まひるは楽しそうに笑った。
炎上ネタは周囲が触れないようにすることが多いが、林檎は何一つ気にしていないようにケラケラと笑っている。
「いやー、今日はこんな素敵な番組に呼んでくれてありがとうございます!」
「ウチは早速あんたを呼んだことを後悔しとるで……」
かぐやはゲンナリしたようにため息をつく。
「まあええわ。それより、デビューして一ヶ月やけどライバー生活はどうや? 楽しんどるか?」
「めっちゃ楽しいっすよー。何よりも面白い同期二人がいるのはラッキーでしたねー」
かぐやの質問に林檎は声のトーンを上げて答える。
かぐやとしても、林檎がレオと夢美の話題に埋もれがちなことは心配していたのだ。
「まあ、レオとバラギはバケモンやしな」
「にじライブ一のバケモノが何言ってるんすか」
「あぁ?」
林檎はわざとかぐやに対して生意気な口をきく。
内心ではかぐやに委縮しているのだが、自分のキャラとしてはこういう絡み方の方がウケることを理解していたのだ。
かぐやの威圧的な声を聞いた林檎はすぐにまひるに泣きついた。
「きゃー、助けてお姉ちゃん。バンチョーがいじめるー!」
「よしよし、怖かったねぇ」
「これウチが悪いんか?」
それからも林檎は台本にある内容を悉く無視した。
林檎は台本を読み込んだうえで、自分がつまらないと思った箇所を全てチェックしてアドリブを挟んでいく。
かぐやとまひるも高頻度で飛び出してくる林檎の爆弾発言は完璧に捌き切る。
ある意味、このメンバーだからこそ成り立つトークだった。
こうして月一にじライブは、いつもよりアドリブ多めで進んでいった。
「お次はこのコーナー!」
「「にじライブ風紀委員会!」」
番組の半ば、月一にじライブの名物コーナー〝にじライブ風紀委員会〟が始まった。
「このコーナーではゲストの問題行動を断罪していくでー。ということで、ね。もうわかってるやろ?」
「こっわ、私何されるんですか?」
疑問形で問いかけてくるだけで圧のあるかぐやに、林檎はへらへらと笑って答える。
「痛くはしないから大丈夫だよ?」
「痛くされたら問題だと思うんすけど……」
「最初のタレコミはこちら!」
「ぶふっ!」
かぐやのかけ声と共に二人のライバーの立ち絵が表示される。目線こそ入っているが、誰かは一目瞭然だったため、林檎は吹き出してしまう。
『いやぁ、三期生の初顔合わせのときに不参加だったのはビックリしましたねぇ。一応体調不良とは聞いていましたけど、純粋に夢美以上にヤバイやつきたなって思いましたよ』
『どういう意味だコラ』
『いや、説明の必要ある?』
『それより、初めてオフで会ったときの方がヤバかったでしょ』
『どもどもー、三日目に炎上した白雪林檎でーす、って自己紹介な』
『炎上したばっかの私にあれを言う勇気よ』
『たぶん、本人は何も気にしてないんだろうなぁ』
『この前なんて一緒に買い物行こうってなったのに、遅刻どころか[ごめん、諦めるわ]ってメッセージ来たんだよ。諦めるわって何? ヤバないあの子? 私も諦めて、レオ呼び出して買い物したわ』
『だから突然俺が呼び出されたのか。何事かと思ったぞ』
笑いながらも林檎のクズエピソードを披露する二人のライバー。その正体が誰なのかは言うまでもないことだろう。
「いや、もう誰がしゃべってるか丸わかりじゃないすか!」
「あははっ、普通に名前呼んでたもんね」
タレコミというよりも、事前に音声を収録するためにスタッフが林檎のクズエピソードについてレオと夢美にインタビューしていたものだった。
レオと夢美もギリギリ笑えるレベルで済むエピソードを笑いながら話しているため、多少マイルドに聞こえるが、実態はもっと酷かったりする。
「さて、何か言い訳はあるか?」
「そうっすねー……」
うーん、と少しだけ悩んだあと、林檎は堂々とした口調で答えた。
「みんなね、ゴミに期待しちゃいけないんですよ。ゴミは自ら動けないんすよ。ゴミは拾わないといけないでしょ? だから拾ってください」
「こいつ、開き直りおった……!」
「ここまで来ると清々しいねぇ」
まったく悪いと思っていない林檎の言葉にかぐやは戦慄し、まひるは朗らかに笑っていた。
「それにこの番組を見ている妖精や袁傪のみなさん。私がバラギと買い物行くことを諦めたから、レオとバラギの買い物デートというてぇてぇ空間が発生したわけですよ。感謝の気持ちを込めて私のチャンネル登録すべきだとは思わん?」
「予想の斜め上の宣伝すな」
「林檎ちゃんって、こういうところはちゃっかりしてるんだよね。まひるも見習わなくちゃ」
「見習ったらあかんで!」
レオと夢美の配信には基本的に二人の仲の良さに尊さを感じる者が多い。それを逆手に取った林檎はちゃっかり自分のチャンネルの宣伝を挟んだ。
「それで、判決はどうなるすか?」
「せやな……脱獄」
基本的のこのコーナーでは、無罪か有罪という判決が下るのだが、林檎は番組史上初となる〝脱獄〟を言い渡された。
まさかの判決を言い渡された林檎は手を叩きながら爆笑した。
「あっはっはっは! 脱獄っすか……!」
「林檎を取り締まるのはウチには無理や……! こいつ自由過ぎるわ!」
「初回の雑談枠を、洗濯機の上にタブレットPCを乗せて中腰でやった人に言われたくないですわー」
「バンチョーも自由奔放に配信してたからねぇ。遅刻は一度もしたことないけど」
こうして、月一にじライブは今までにないほどに盛り上がっていった。
一通り、グッズなどの宣伝も終わり、番組も終わりに近づいてきた。
「さて、月一にじライブも終わりの時間が近づいて参りました」
「いやー、今日は本当に呼んでくださりありがとうございましたー」
「林檎ちゃん呼ぶとこんなに面白くなるなんて思わなかったよ」
「……ウチはいつも以上に疲れたけどな」
基本的にかぐやは自分の配信などではボケ倒していることが多いが、コラボのときになるとトークを回したり、フォローに回ることが多かった。まひるも天然ボケが多いがコラボ企画では意外としっかり者な面が見られる。
今日の月一にじライブでは、そんな二人のしっかりとした一面がより強く出ていた。
「今度はレオやバラギも呼んであげてくださいよー。あの二人、あなた達のこと大好きなんすからー」
「そうだねぇ、この前バラちゃんとコラボの約束したしなぁ」
「レオを呼ぶだけでウチの心労はだいぶ減りそうやな」
しっかりと同期二人が出たがっていることを伝えると、かぐやもまひるも好意的な反応をした。
「というわけで、本日はご覧いただきありがとうございます!」
「最後は林檎ちゃんも一緒にコールしてね?」
「了解でーす」
「せーの……」
「「「月一にじライブ!」」」
こうして林檎をゲストに迎えて行われた月一にじライブは神回と言われるほどに盛り上がった。
動画のコメント欄では、[白雪ガチクズでワロタ][本当にクズなんだなぁ]というコメントや、[改めてバンチョーの偉大さが分かった][まひるちゃんのお姉さん感がとても良かった]など、自由奔放な林檎に対応したかぐややまひるに好意的なコメントや、[どんなときでもてぇてぇを供給するバラレオ][バラレオてぇてぇ][よくやった白雪][ちょっと白雪のチャンネル登録してくるわ]など、レオと夢美の仲の良さに言及するものもあった。
こうして林檎のチャンネル登録者数はまた一段と増え、月一にじライブの動画が投稿された三日後には既に登録者数が七万人まで増えていた。
ちなみに、V界隈に詳しくない人のために説明すると、「ママが同じ」というのは担当イラストレーターが同じという意味です。
思ったよりも、この小説V界隈に詳しくない人も読んでいるらしいので、補足させていただきました。