Vの者!~挨拶はこんばん山月!~   作:サニキ リオ

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ライブ〇ムの精密採点では小数点以下も出るので、点数表示を精密採点形式にしました。


【3Dカラオケ】Vtuber大集合!バーチャルカラオケ大会! その3

『78.253点』

 

『81.827点』

 

『86.193点』

 

『91.655点』

 

『95.986点』

 

『72.265点』

 

『97.977点』

 

『96.867点』

 

 突如始まった地獄のような企画。

 共演者達は出る気配のない100点に辟易し始めていた。

 

「げほっ、げほっ……」

「サタンさん、大丈夫ですか? しばらく休んでいてください」

「だ、大丈夫……だ!」

 

 ただでさえロールプレイで無理に低い声を出しているサタンの喉へのダメージは深刻だ。

 

「うへー……83点」

 

 元気が取柄の友世でさえ、テンションが下がりつつある。

 良くない傾向だ。

 このままずっとこの調子なら企画がグダって盛り下がってしまう。

 イルカもそれは理解しているのか、タイミングよく雑談を挟んだり、コメント欄が盛り上がりやすい曲を歌ったりしてフォローをしている。さすがは、Vtuberの最前線に立っていただけのことはあるといったところだろうか。

 今のところ100点を取る可能性があるのはレオか和音だ。

 和音も状況の悪化を感じ取っており、既に緊張など吹き飛ばして全力で歌っていた。

 それでも100点は出ない。

 今はイルカのフォローやレオや和音が90点台後半を取るたびにコメント欄が盛り上がるため、まだギリギリなんとかなっている状態だ。

 

「私、頑張ります!」

 

 そんな状況の中、鼻息荒く和音が曲を入れる。

 

「君と夏の終わり♪ 将来の夢♪ 大きな希望をわ~すれない♪」

 

[懐かしい曲キタ!]

[キッズウォー派かあの花派で別れそう]

[てか、レオ君があれだったから目立たないけど、和音ちゃんも大概バケモンよな]

[綺麗な声だなー]

 

 和音が満を持して歌ったのは昔、昼に放送していたドラマの主題歌〝secret base~君がくれたもの~〟だ。その後、人気アニメの主題歌としてカバーされたこともあり、二十代から三十代の間では名曲として有名だ。

 昔、和音はカラオケでこの曲を歌ったときに100点を取ったことがあった。

 そのため、この曲はここぞという時にとっておいた、とっておきの一曲だったのだ。

 

「最高の~♪ 思い出を~♪」

 

『99.958点』

 

「「「「「あぁぁぁ! 惜しい!」」」」」

 

 和音を含めた全員がもう少しで100点という点数に悔し気に声を上げた。精密採点はどこまでも厳しかった。

 

[グダるかと思ったらいい感じにみんな盛り上げてくれるから楽しい]

[むしろ和音ちゃん歌うごとにパワーアップしてないか?]

[こいつ戦いの中で成長してやがる!]

 

 まだまだ盛り上がっているコメント欄に安堵のため息を吐くと、不敵な笑みを浮かべたイルカが曲を入れた。

 

「ふっ……さぁて、そろそろ本気を出すとしましょうか」

 

 イルカは自信満々に曲を入れて高音で歌い始めた。

 

「はりつめた~弓の~♪ ふるえる弦よ~♪」

 

[草]

[まさかのもののけ姫wwwww]

[何でこれ選んだwwwww]

[本当に100点取る気あんのかwww]

[生きろ、そなたはVtuber]

 

 あまりにも予想外のチョイスに視聴者達も笑いつつも困惑していた。

 

「ものの~け達だけ~♪ ものの~け達だけ~♪」

 

『99.999点』

 

「「「「嘘ぉ!?」」」」

 

[ファッ!?]

[マジか!]

[このイルカ、この曲だけピンポイントで練習してたな!]

 

「これ、いけんじゃない!?」

「ふっ、試してみる価値はあるだろうな」

「や、やってみましょう」

「ええ、やりましょう!」

 

 こうして後に視聴者達から〝もののけ地獄〟と呼ばれる時間が始まった。

 

「ものの~け達だけ~♪ ものの~け達だけ~♪」

 

『97.847点』

 

「ものの~け達だけ~♪ ものの~け達だけ~♪」

 

『93. 155点』

 

「ものの~け達だけ~♪ ものの~け達だけ~♪」

 

『98. 938点』

 

「ものの~け達だけ~♪ ものの~け達だけ~♪」

 

『99. 748点』

 

 一人三回は歌っただろうか。

 

 かなり惜しいところまでは行くもののやはり100点の壁は厚かった。

 

[俺達は一体何を見せられているんだ?]

[もののけ達だけどころか、もののけだらけで草]

[切り抜き確定でワロタ]

 

「ダメだ、いったんやめましょうこの流れ」

 

 レオはこのままでは一生分のもののけ姫を歌うことになると感じ、いったんもののけ姫を歌うことをやめることを提案した。

 

「ええ、このままだと本当にもののけになってしまいますわ」

 

[もう、もののけなんだよなぁ]

[もののけ二人が何か言ってる]

[イルカとライオンはもののけだった……?]

 

 周りを見れば、既にサタンはグロッキー、友世は喉こそ平気そうだが疲労は顔に出ている。イルカと和音はまだまだいけそうだが、できるだけ彼女達の喉は休めるべきだとレオは判断した。

 

「みなさんは休憩しててください。俺が歌って繋いでおくので」

 

[お前も休憩しろ]

[これだけ歌っても疲れた様子がないのやばいな]

[やっぱりもののけなんだよなぁ]

 

「す、すまないレオ……」

 

[魔王様声ガラガラやん]

[歌は慣れてないからなぁ]

[大丈夫?]

 

 サタンの声は既に限界に来ていた。

 レオはデンモクの3Dモデルをいじるふりをして台本の裏にペンで文字を書いていく。

 

『亀戸さん、のどスプレーを持ってきていただけますか?』

 

 レオの意図を察した亀戸はすぐにレオの元へ駆け寄ってのどスプレーを渡した。

 受け取ったのどスプレーをレオはサタンの前に置いた。

 

「えっ」

 

 困惑するサタンにレオは笑顔を浮かべて一人で曲を歌いだした。

 のどスプレーは直接触れはしないが口内に入れるものだ。自分のものを貸すことには抵抗があったのだ。

 亀戸が余分に購入していたことはレオにとって渡りに船だった。

 それからレオは四曲連続で歌い続けた。

 

『98.727』

 

『97.883』

 

『99.053』

 

『98.398』

 

 しかし、さすがのレオでも精密採点で100点を取るのはさすがに厳しかった。

 

「いやぁ、なかなか出ないですねぇ」

 

[点数が毎回化け物で草]

[当たり前のように惜しい点数を取るな]

[レオ君で取れないなら厳しいんじゃ……]

 

 さすがにコメント欄でも、この企画の厳しさに心配の声が上がり始めた。

 そんなとき、和音がふと立ち上がってレオに尋ねた。

 

「獅子島さん、ライオンいけますか?」

「えっ、俺もうライオンですけど」

「ぶふっ……そ、そう、ではなくて……!」

 

[草]

[歌う前に和音ちゃんを笑かすなwww]

[違う、そうじゃない]

 

 コメント欄を見たレオは和音の言いたいことを理解した。

 

「でも、女性の曲なんですよね……そうだ、女声で歌えばいいのか?」

「女、声?」

 

[お前は何を言っているんだ]

[その発想はなかった]

[和音ちゃん大困惑www]

 

 レオの女声配信を知らない和音は混乱していた。

 ふと、レオがスタッフの方を見ればスタッフが『メスライオンいけます!』というカンペを出していた。

 

「えっ、3Dモデルあるんですか!?」

 

[何だ何だ?]

[どうした]

[まさか……!]

 

 スタッフの横で親指を立てている飯田を見るに、サンプルの3Dライオンは雌雄セットだったようだ。

 

「それじゃスタッフさんお願いします!」

 

 コメント欄を盛り上げるため、レオはスタッフに合図を出してその場で華麗なターンを決めた。レオが回転しているタイミングでスタッフはレオの3Dモデルをオスライオンからメスライオンへと切り替えた。

 

「よし! みんなー! こんばん山月! 獅子島レナだよ!」

 

「「「えぇぇぇ!?」」」

 

「うふふっ……出ましたわね! メスライオン!」

 

[!?]

[!?]

[!?]

[メスライオンまで用意してたのかwww]

[やりたい放題で草]

[ネタに全力過ぎるだろwww]

[ガチライオンがメスライオンになってライオン歌うってマ?]

 

 華麗なターンを決めた好青年から放たれる萌え声。レオの女声を知らない者達は大いに困惑した。カメラに映し出されるその姿は――どこからどう見てもただのメスライオンだった。

 

「さあ、歌いましょう!」

「えっ、ええ……歌いましょう、一緒に!」

 

 レオの変わり身に困惑していた和音だったが、その瞳が本気だということを悟ると、表情を引き締めてマイクを取った。

 

「ほ~しをまわ~せ♪ 世界のまんなかで~♪ くしゃみすればど~こかの♪ 森で蝶がら~んぶ♪」

 

[凛々しいお姉さんが歌っているようにしか聞こえないんやが]

[声どうなってるの!?]

[李徴が乱舞?(難聴)]

 

「き~みがまも~る♪ ドアの鍵デタラメ~♪」

 

[和音ちゃんも負けてないぞ!]

[歌姫の貫禄を見せつけていけ]

[もうあがり症治ってね?]

 

 和音は目標を定めたレオと共に歌うことで実力以上の力を発揮し始めていた。

 

「「生き残りたい!♪ 生き残りたい!♪ まだ生きてたく~なる~♪」」

 

[すげぇ!]

[この企画伝説になること確定したな]

[生きろ、そなたはこんばん山月]

 

「「本気のココロ見せ~つけるまで~♪ 私眠らない~♪」」

 

『99.953点』

 

[惜しい!]

[デュエットでこの点数かよ]

 

「ふぅ、ありがとうございました! それではレナはこの辺で失礼するね! おつ山月!」

 

[おつ山月!]

[性別自由自在で草]

 

 曲も終わったことで、レオは再びターンをして元のオスライオンへと戻った。

 

「……しっかし、なかなか出ないな」

 

 どうしたものかと迷っていると、カメラの向こう側から飯田がカンペを出していた。

 

『富士サファリパークCMソング キー-1』

 

 飯田のカンペを見たレオは「カラオケにあるんだ……」と心の中で驚きながら、笑顔で頷いた。飯田がこの曲を選んだ理由は単純だ。曲の長さが短いからである。

 レオに合ったキーまで指示をしてくれた飯田に感謝すると、レオは高らかに宣言する。

 

「次こそ100点取って見せます!」

 

[お?]

[何歌う気だ?]

[100点宣言期待]

 

 水を飲み、軽く喉を鳴らす。

 調子を整えたレオは有名なCMソングを歌い始めた。

 

「ホントにホントにホントにホントにラ~イオンだ~♪」

 

[草]

[ネタ選曲じゃねぇか!]

 

「近すぎちゃってど~しよ~♪」

 

[カメラ寄るなwww]

[本当に近すぎて草]

[発想が天才のソレ]

[これは案件来るな]

 

「富士~♪ サファリパーク♪」

 

『100.000点』

 

「しゃぁぁぁぁぁ!」

 

 100点を取ったことで、レオはガッツポーズをとりながら勝利の雄たけびを上げた。

 長きに渡る地獄の時間を終わらせたことで、共演者達も一斉に立ち上がり喜びの声を上げる。

 

「やっったぁぁぁぁ!」

「やりましたね獅子島さん!」

「ぶっ、くくっ……本当に凄い人ですわね」

「認めよう貴様こそ王だ」

 

[うおおおおおお!]

[感動した。笑い涙で前が見えない]

[ガチライオンがガチだった件]

[ホントにホントにライオンだったな……]

 

 それからレオにとって予想外の知らせが入った。

 満面の笑みでカンペを掲げる飯田。そのカンペにはこう書かれていた――登録者数10万人突破、と。

 

「えっ、登録者数10万人突破!?」

 

[マジか]

[おめでとう! ¥50,000円]

[これはVの歴史に残る]

 

 しかし、カンペにはまだ続きがあった。

 

「はえ……? 夢美も登録者数10万人突破?」

 

[茨木夢美:何でだよ!]

 

[バラギいて草]

[旦那を見守る嫁の鑑]

[バラギおめでとう! ¥50,000円]

[まあ、元々10万目前だったからな]

[旦那効果で伸びたんだろ]

 

 最初の宣伝が効いたのか、夢美の登録者数も10万人を越えていた。途中、100点企画に飽きた者達が興味を持って、夢美のチャンネルを見に行っていたということもあるのだが。

 偉業を成し遂げたレオにイルカは朗らかな笑みを浮かべて言った。

 

「これはもう文句なしの優勝ですわね。獅子島さん、おめでとうございます。あなたがNo.1です」

 

[おめでとう! ¥10,000円]

[おめでとう! ¥20,000円]

[おめでとう! ¥30,000円]

[おめでとう! ¥10,000円]

 

「あら、赤スパありがとうございます。さて、無事レオさんが100点を取ったことですし、最後にもう一回〝富士サファリパークCMソング〟を歌って終わりにしましょう!」

 

[草]

[最後まで笑いを忘れないVtuberの鑑]

[ホントにそれで締めるのかよwww]

 

「さあ、コメント欄のみなさんもご一緒に!」

 

「「「「「ホントにホントにホントにホントにラ~イオンだ~♪」」」」」

 

 こうして〝Vtuber大集合!バーチャルカラオケ大会!〟は大盛況のまま幕を閉じた。

 イルカのチャンネルで行われたこの放送は同時接続10万人を越え、Vtuber界の伝説に残るのであった。

 

 




てぇてぇ成分が足りない……!次回こそは……!

使用楽曲コード:04275632,08984131,10341790,15201392


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