お待たせした分今回の話はおそらく今まで最長となっております。
[にじライブ公式@(NijiLive)
手を伸ばしてくれた人達がいた。だから私は――]
卒業から一か月半。
林檎のシルエットが映し出された画像と共に投稿されたにじライブのツウィッター公式アカウントの呟きに、小人達は大いに沸いた。
今までVtuber界での卒業や引退といった活動終了後の復活という前例は一度もなかった。
そんな常識を覆したことで、リマインダーの設定された林檎のU-tubeチャンネルの配信には既に二万人以上が待機するという異常事態が発生していた。
林檎がレオ達から差し伸べられた手を取ったときは、卒業から僅か二週間。
さすがに二週間での出戻りは早すぎると上層部が判断したこともあり、林檎と亀戸は配信内容の打ち合わせをしながら、その時を待った。
結果、林檎のライバー復帰は、亀戸達がもぎ取ってきた様々なゲーム会社とのコンテンツ投稿の包括的許諾の発表後にすることになったのだ。
そして、改めてにじライブの事務所を訪れた林檎は散々迷惑をかけた諸星へと謝罪をしていた。
「ご迷惑をお掛けしてしまい、申し訳ございませんでした!」
誠心誠意頭を下げる林檎に対して、諸星が声をかける。
「白雪さん、頭を上げてください」
感情の読めない諸星の言葉に、恐る恐る林檎が顔を上げると、諸星は満面の笑みを浮かべて言った。
「おかえりなさい」
「諸星さん……!」
諸星が笑うところは何度か見たことがある林檎だったが、諸星の満面の笑みなど一度も見たことがなかった。
諸星が心から自分の復帰を喜んでいるという事実を認識した途端、林檎の目から涙が零れ落ちた。
「あらあら、見ない間に白雪さんは随分と泣き虫さんになったみたいね」
そんな様子を陰から見守っていた内海が、書類を抱えて林檎の元へとやってくる。
「内海さん」
「おかえりなさい。白雪さん。自分のことは好きになれた?」
かつて林檎の心は壊れていないと声をかけてくれた内海。その問いかけに、林檎は困ったように笑った。
「……正直、まだ自分を好きとは思えません。でも――」
林檎は背筋を伸ばして顔を上げると、憑き物が落ちたような清々しい表情を浮かべて言った。
「今の私は嫌いじゃないです」
「ふふっ、そこまで言えるなら大丈夫そうね」
林檎のことを心配していた内海は安心したように笑うと、抱えていた書類を林檎へと渡した。
「それじゃあ、再契約といきましょうか」
「よろしくお願いします!」
林檎が契約書に再び目を通している間、内海は念を押すように諸星へと告げた。
「諸星さん、白雪さんの復帰は特例中の特例ですよ」
「……ええ、わかっています」
内海の言葉に、諸星はどこか寂しそうな表情で頷いた。
にじライブとの再契約を終えた林檎は晴れ晴れとした表情で、今夜放送を行うスタジオへと向かう。
「仕上がりはどうですか? 緊張して急に弾けなくなったとか勘弁してくださいよ?」
「愚問だねー」
煽りながら激励の言葉をかけてきた亀戸に強気な表情を浮かべると、林檎はスタジオに駆け付けた三人に向き合った。
「レオ、バラギ、まひるちゃん――私のこと見ててね」
私のこと見ててね。その一言には様々な意味が込められていた。
昔は素直に口にすることができなかった言葉。今では躊躇いなく言える。
「「「もちろん!」」」
心を許せる仲間ができたから。
「亀ちゃん、良かったね」
「一時はどうなることかと思ったけど、これで一段落だね」
「あはは……まだ気は抜けませんよ。何せこの業界でも前例のない復帰ですから」
レオや夢美についてきた飯田と四谷の言葉に亀戸は苦笑する。
林檎の復帰と同時に、亀戸も営業部からメディア本部へ戻ってくることができていた。営業部の者達は、亀戸の本気を見たことで彼女が営業部からいなくなることを惜しんだが、亀戸は「白雪林檎のマネージャーは私以外に任せたくないですから」と言って譲らなかった。
「それにしても……」
「ああ、これでまた……」
「「これで三期生のてぇてぇがまた見られる……!」」
「二人も人のこと言えないと思いますけどね……」
担当ライバー同様、息ぴったりのマネージャー陣を見て、亀戸はため息をついた。
「そういえば、ご両親の件は大丈夫だったの?」
「白雪さんも詳しくは聞かされていないみたいなのですが、武蔵さん曰く『まだVtuberという文化を受け入れるのは難しいみたいだが、少なくとも優菜の歩む道の邪魔にはならない』と言っていたそうですよ。白雪さんも武蔵さんなら、ほんの少しだけは信用してやってもいいと言っていたので大丈夫だと思います」
「どうやって、抑え込んだんだろう……まあ、またあの三人が笑い合えるならそれでいっか」
四谷は武蔵がどうやって郁恵を抑え込んだか気になっていたが、今は再び三期生全員が揃ったことを素直に喜ぶことにした。
「しかし、獅子島さんといい、白雪さんといい、芸能関係者多くない? 本人たちの能力も常人を遥かに上回ってるし」
「一番やばいのは、あのスペックの二人よりも登録者数の多い夢美ちゃんだと思うけどね……」
マネージャー陣が語り合っている間、林檎は最終調整のため、スタジオに用意された電子ピアノを弾いて調子を確かめていた。
そして、とうとう配信のときがやってきた。
配信ボタンを押すと、配信が始まる。
[きちゃ!]
[会いたかったぞ白雪ィィィ!]
[まさか本当に復活するなんて……]
[もう泣いた]
「お久しぶりです。白雪林檎です」
[おかえり! ¥10,000円]
[おかえり! ¥50,000円]
[あのとき投げたスパチャを返せよ! ¥50,000円]
[返せと言いつつ限度額投げてて草]
[待ってたぞ!]
多くの小人達が、画面の前に再び現れた林檎の姿に狂喜乱舞する。
そんな小人達の様子に口元を緩ませたが、すぐに表情を引き締めた。
「この度、私はライバー活動へ復帰することとなりました」
[希望を捨てずに生きてて良かった]
[まさかV界隈でも前例のない卒業後の復帰とは……]
[三期生は伝説しか作れないのか]
[あの焼き林檎が動いてしゃべってる……!]
[当たり前のようで当たり前じゃないんだよなぁ]
林檎本人による復帰宣言。
それは小人達が何よりも求めていたものだった。
「私が卒業するとき、やるべきことができたからと言ってやめましたが、その詳細としては配信上でプレイするゲームに権利上、実況が厳しいものが多数存在し、自分のスタイルでライブ配信をできないからという理由でした。しかし、最近多くのゲーム会社とのコンテンツ投稿の包括的許諾が取れたとマネージャーさんから連絡があり、ライバーに戻らないか、との打診があり、こうして復帰させていただく次第となりました」
[あれで自分のスタイルじゃなかったのか……]
[マネちゃんグッジョブ! ¥4,000円]
[前から思ってたが、白雪のマネさんってかなり優秀なんじゃ……]
家庭の事情や学生時代のことなどを話すわけにはいかなかったため、林檎は表向きの理由を小人達へと説明した。
「今更ではありますが、私の自分勝手な気持ちで関係者各位、また小人の皆様にはご迷惑、ご心配をおかけしてしまい大変申し訳ございませんでした」
[やりたいことができないんじゃしょうがない]
[帰ってきてくれただけで十分]
[俺達は信じてたぞ]
誠意を込めた謝罪をすると、林檎はそこでいつものように口調を崩した。
「ま、堅っ苦しい挨拶はこの辺にして……みんな、ただいまー!」
[おかえり!]
[おかえり!]
[おかえり!]
[おかえり!]
[おかえり!]
復帰した林檎を小人達は暖かく迎えた。もちろん、全員が全員歓迎しているわけでないことは林檎もよくわかっていた。
何せ、一ヶ月半での復帰である。
コメント上には現れていないが、後々掲示板が多少荒れることは目に見えていた。それをどうにかできるかは、今後の活動次第だ。
「本当は何度も戻らないかって言われてたんだけど、今更戻れないと思ってたんだー……。でも、こんなクズな私を引っ張り出してくれた大切な人達がいた。もちろん、私を信じて待っていてくれた君達のこともちゃんと見てたよ。本当にみんなありがとう……だから、レオと夢美に限度額払った人はサブ垢でスパチャ投げてねー」
[了解! ¥50,000円]
[最後で台無しwww]
[やっぱりあの動画見てたのか]
[三期生てぇてぇ ¥50,000円]
[おい、サブ垢っぽいやつ限度額投げてたぞw]
[マジで投げてて草]
[ありがとう……バラレオ本当にありがとう……!]
レオと夢美によって投稿された動画を林檎も見ていたことを示唆すると、小人達は改めてレオと夢美に感謝していた。
「あと、念のために言っておくけど、他の卒業したライバーさんに『白雪が戻ってきたから戻ってこい』みたいなことは言わないでね。私は特例らしいから」
[了解!]
[了解!]
[了解!]
[何だかんだで白雪のこういうしっかりしたところすこ]
[正体表したね]
林檎が注意を促すと、小人達は素直に肯定の意を表した。
一通り言うべきことを話した林檎は、今回の配信の本題に入ることにした。
「前置きはこのくらいにして、今日の配信内容説明するよー。今日は前にやる予定だった10万人記念配信も一緒にやってくよー」
[もう13万人超えてるんだよなぁ]
[勢いおかしいだろwww]
[復帰と同時に記念配信は草]
林檎の復帰というニュースを聞いた小人達の中には、諦めてチャンネル登録を解除していた者もいた。そういった者達が再びチャンネル登録をしたことや、にじライブのライバーは好きだが、林檎を知らない者が興味を持ってチャンネル登録をしたことによって、〝復帰ブースト〟がかかっている状態となり、林檎のチャンネル登録数は爆発的に増加していた。
「今日はみんなへの感謝の気持ちを込めて……ピアノ配信をやります」
[ファッ!?]
[ピアノだと!?]
[白雪ピアノ弾けたんか!]
「こう見えても物心ついたときから弾いてたから腕には自信があるんだよねー」
[そんなに弾いてたんか]
[雑談配信でも、所々金持ちっぽいエピソードあったから納得]
[まだ隠し玉があったとは]
「復帰が決まった時点でガッツリ練習してたから楽しみにしててねー」
[これは期待]
[何が始まるんです?]
[今北産業]
[焼き林檎の帰還
謝罪と感謝の言葉
ピアノ演奏]
今まで一度も配信上でピアノを弾いたことはなかった林檎だったが、小人達はいつも以上に自信溢れる林檎の言葉を聞いて期待に胸を膨らませていた。
「それじゃ一曲目は……〝ハートの主張〟」
林檎は曲名を告げると、鍵盤に指を置いて丁寧に弾き語りを始めた。
「こ~われてた~♪ 優しさが涙を流してる~♪ どうして~♪ 言えなかったのかな~♪」
[ハニワだ!]
[三期生の全員本当にハニワ好きだなwww]
[てか、マジでピアノ弾いてるんか]
[普段あまり頭揺らさない白雪がここまで揺らしてるんだから、弾いてるでしょ]
画面上に表示されるのは、林檎の表情を読みとって動く林檎の立ち絵のみ。たとえ、ピアノを弾く指が表示されなくとも、小人達はピアノを弾いている林檎の姿など容易に想像できた。
「隠した~♪ ハートの高鳴りが~♪ 伝えたかった言葉~♪ 弱くて怖くて逃げる♪」
[歌もピアノも滅茶苦茶うまいやんけ!]
[もっとゆっくり弾くかと思ったら、普通のスピードで弾いててビックリ]
[これだけの才能を何で眠らせてたんだ]
[もしかして:李徴]
[まーたレオ君に流れ弾が飛んでる……]
「助走始める準備はOK? 振り向かないで信じる方へ♪ 新しい~♪ 出会いがあ~る♪」
[最高だった!]
[歌詞がまたいい感じに刺さる……]
[チケット代! ¥5,000円]
[後払いで草]
ハートの主張を弾き終えた林檎はコメント欄を確認して小人達へ礼を述べた。
「いやー、みんな聞いてくれてありがとねー。チケット代は払いたい人が払えばいいから、無理しないでねー。ま、意地でも払いたくなるようにしてあげるけど」
[いつも以上にイキるやんww]
[これぞ焼き林檎]
[復帰しておとなしくなるかと思ったら、そんなことはなかった]
復帰をしても今までと変わらない林檎の様子に、小人達は満足げな様子だった。
「次は小人達への感謝の気持ちを込めて――リクエスト曲を耳コピで弾いていくよー」
[耳コピ!?]
[さらっと、とんでもないこと言ってて草]
[これは伝説の予感]
林檎が耳コピでピアノを弾くと聞いた小人達は、画面の前で驚いた表情を浮かべていた。
ピアノ系ユーチューバーで耳コピで曲を弾いている者はいるが、まさか林檎がそれをするとは思わなかったのだ。
「じゃ、リクエストちょーだい」
[千本桜]
[夜に駆ける]
[命に嫌われている]
[低血ボルト ¥50,000円]
[脳裏上のクラッカー]
林檎がリクエストを出したことで、小人達はそれぞれ思い思いの曲名を書き込んでいく。
その中でも、スーパーチャットをつけて送られた曲名が林檎の目に留まった。
「この〝低血ボルト〟って曲、前にレオが神曲って言ってたやつかー……赤スパもらっちゃったし、やるしかないよねー」
[レオ君、夜好性だもんな]
[待て早まるな]
[低血ボルトは無理でしょ]
無理、そのコメントを見た瞬間、林檎の胸の中で火がついた。
「へぇ……私にはできないってか、ふーん……ちょっと本気出す」
[今までにないガチな空気]
[おっ、林檎に火がついたか]
[これはいい焼き林檎]
「まずは耳で覚えていくよー」
[えっ、白雪絶対音感あるの!?]
「絶対音感も相対音感もあるよー。それじゃ、再生するねー」
林檎はU-tubeで検索して出てきた、アーティストの公式チャンネルから動画を見つけると、曲を再生した。
「ほ?」
イントロから激しめなピアノのメロディーが流れ出し、そのまま曲を聴いていた林檎はその曲の激しさに呆けた声を出した。
「……えっ、これやばくない?」
[そりゃそんな反応になるwww]
[本来二人で弾いてる曲だからな]
[これはミスりましたねーwww]
「いやー、予想以上の難易度だから時間かかるだろうけど、やると言った以上やるよー」
そう言うと、林檎は曲を聴きながらピアノを弾いて音を確かめていった。
「うわっ、何これ、指が超忙しいんだけど!?」
[忙しいってレベルじゃないだろwww]
[よく弾けるなwww]
[3Dじゃないのが惜しまれる]
[これは3D化待ったなし]
それからサビの箇所をアウトプットして弾いた林檎は楽しそうな笑い声を零した。
「あははっ、この曲超好きー!」
[ニッコニコで草]
[過去最高に楽しそう]
[ここまで楽しそうな白雪初めて見た!]
[マジで指どうなってるんだ……]
[そりゃゲームもうまいわけだよ……]
二人分の曲を一人で弾いているため、指を尋常じゃない速さで動かさなければいけないというのに、林檎は心から楽しそうにピアノを弾いていた。
「よし! じゃあ本番いってみよー」
時間をかけて曲を耳コピでインプットした林檎は、華麗な指さばきでイントロを弾き始めた。
「弱気になる最寄の雨~♪」
[イントロから耳コピ完璧じゃん]
[これも弾き語りでいくのかよwww]
短時間で何度も曲を再生したため、林檎はそのまま歌も歌うことにした。
「怖がることはもういーかい♪ 惑わされてくな~ら♪」
[ピアノの影に隠れガチだけど、普通に白雪も歌がうまいという]
[ピアノの弾いてる時とFPSで相手を煽ってる時のギャップで風邪ひきそう]
[この子がデビュー五日でモンハンで姫プして炎上したなんて誰も信じないだろうな……]
普段の林檎を知っている小人達は、ピアノを弾いているときと、そうでないときの林檎のギャップに改めて驚いていた。
「無敵になれた♪」
曲を歌い終えると、林檎は全力で激しいアウトロを弾いていく。二人分の指の動きをするという常人離れした技を見せた林檎に、普段から彼女のことを知らない視聴者達も魅了されていた。
「ありがとうございましたー!」
[最高だった ¥5,000円]
[これはいいものだ ¥5,000円]
[まさかこれほどとは…… ¥5,000円]
[おら、チケット代だ! ¥5,000円]
[最後のとこ、指の動きエグくて草]
[やっぱ三期生ってバケモノしかいないんだな]
[レオ君と組んだら音楽最強コンビ爆誕するのでは]
[リズム感つよつよのバラギには踊ってもらおう]
耳コピでの演奏は大好評のままに終わった。
結構な時間を使ってしまった林檎は、最後の曲を弾くことにした。
「みんな、長い時間付き合ってくれてありがとねー。次で最後の曲になるんだけど、連弾用の楽譜使うから、ちょっと全部歌うのは厳しいんよねー」
[お前は何を言っているんだ]
[頭おかしいwww]
[連弾の意味知ってる?]
[まーた二人用の曲弾こうとしてる……]
連弾とは、ピアノなどの鍵盤楽器を複数人で同時に演奏することである。
一般的に連弾といえば、一台のピアノを二人で演奏することを指し、先ほど林檎が弾いた曲もこれにあたる。
ものによっては物理的に不可能なものもあるが、林檎は躊躇わずに連弾用の楽譜を一人で弾くことを決意した。
「というわけで、集まれ! にじライブ海賊団!」
打ち合わせにない林檎の呼びかけ。
困惑するスタッフをよそに、レオと夢美はすぐに林檎の元へと駆けつけた。
「みなさん、こんばん山月! にじライブ海賊団の獅子島レオです!」
「みんな、こんゆみー! にじライブ海賊団の茨木夢美でーす!」
[ファッ!?]
[レオ君とバラギいたのか!]
[そういや、この配信ってにじライブのスタジオでやってるのか]
レオと夢美の突然の登場に小人達だけでなく、配信を見ていた袁傪や妖精達も大いに沸いた。
「こんまひ、こんまひ! こんまひー! まひるも参加するよ! 大事な妹のためだからね!」
「……うん、ありがとう」
[まひるちゃんもいたのか!]
[白組姉妹もてぇてぇ……]
[あぁ^~心がまひまひするんじゃぁ^~……うっ!]
[心臓麻痺で草]
どこか複雑そうではあるが、林檎は素直にまひるの参加にも礼を述べる。
そこで、まひるはその場に誰もが予想していなかった行動を起こした。
「ほら、バンチョーも来なよ!」
「「「え?」」」
[バンチョーも来てんの!?]
[白雪愛されているなぁ]
まひるの呼びかけに、その場にいた全員が困惑する。
何故なら、スタジオにいるスタッフの中には見知った顔しかなかったからだ。
「いっくよー!」
まひるはスタッフがいる方に向かってマイクを投げる。
すると、スタッフの中から素早い動きで一人の女性が飛び出してくる。
「ったく、しゃあないなぁ!」
まひるの投げたマイク。
それを華麗なジャンプと共に受け取ったのは――
諸星だった。
「はえ?」
「ホア?」
「ほ?」
「三人とこうしてオフで会うのは初めてやな。ウチが〝竹取かぐや〟や、よろしくな!」
諸星――いや、竹取かぐやはそんな三人の反応に苦笑すると、ウィンクをしながら人差し指を口元に当てた。
しゃべっているのは諸星のはずなのに、聞こえてくるのはかぐやの声。あまりの事態にレオの脳内は処理落ちを起こしていた。
「いや、ちょ、は? あの、えっ……はえ?」
[レオ君大困惑で草]
[そりゃいるはずないと思ってた推しが目の前に現れればこうなる]
[良かったなレオ君、憧れのバンチョーとの初コラボだぞ!]
いまだに困惑しているレオを落ち着かせるための言葉をかけた。
「まあ、レオが困惑するのもわかる。せやけど、今はやることがあるやろ?」
「――そうですね。かぐや先輩、いえ、かぐや船長!」
「副船長は任せたで! まあ、漫画では戦闘員って言われとるけど」
「じゃあ、まひるは航海士!」
「私は狙撃手でー」
「じゃあ、あたしはコッ――」
「「「「それはダメ」」」」
「……あたしの扱い酷くない?」
[残当]
[メシマズエピソードがあるバラギがコックは無理でしょ]
[船大工でいいのでは?]
「あたし変態じゃないよ!?」
[桃タロスと会話が弾む時点で変態なんだよなぁ]
[相変わらず、バラギの扱い雑で草]
一通り役割も決まったことで、足りない部分は歌える人間が兼任するという形で、歌っていくことになった。
「そんじゃ、みんないくよー! もうわかってると思うけど、弾くのはこの曲だー!」
林檎の合図で曲が始まる。
一人で弾いているとは思えない速度で弾き始める林檎に驚きつつも、マイクを持ったライバー全員は思いっきり歌い出した。
「「「「ありったけの~ゆ~めを~♪ かき集め~♪ 探し物をさ~がし~に、ゆ~く~の~さ~♪」」」」
[ウィーアーだ!]
[配役決めてた時点で予想はできてた]
[てか、マジで白雪の指どうなってるんだよwww]
それぞれの配役にあったパートをまひる、レオ、夢美は順番に歌っていく。
「羅針盤なんて~渋滞のもと~♪ 熱にうかされ~舵をとるのさ♪」
[まひるちゃん可愛い]
[絶対目的地に着けなさそう]
[やめたれwww]
それから、かぐやのパートになった途端、かぐやはすぅっと息を吸い込むと全力で自分のパートを歌った。
「こ~じん的な、あ~らしは誰かの~♪ バイオリズム乗っかって――――――! 思い過ごせばいい!♪」
[バンチョー声の伸びエグくて草]
[これは10億超えの賞金首ですわ]
[もはや四皇レベル]
かぐやが高い歌唱力を持っているのは周知の事実だったが、彼女の歌声は改めて彼女が事務所でもトップのライバーだということを認識させる歌声だった。
それからサビを歌って二番を歌い始めると、レオと夢美のパートが回ってきた。
「「ぜんぶまに受けて~信じちゃっても~♪ 肩を押されて~一歩リードさ♪」」
[はい、バラレオてぇてぇ]
[白雪の肩を押したのはこの二人なんだよなぁ]
[テエテエの実の能力者だったか]
[テエテエの実は草]
[レオ君はどう考えても動物系だろ]
[じゃあ、バラギの能力で]
激しく指を動かしている林檎は、あらかじめ歌うと決めていた自分のパートを歌った。
「つ~まり~いつも~ピンチは誰かに~♪ アピール出来るいいチャンス~♪ 自意識過剰に!」
[配役完璧で草]
[やってること完全に長鼻狙撃手なんだよなぁ]
[なるほど、それでウィアーなのか]
それから曲はラストの箇所に差し掛かる。
「「「「ポケットのコイン~♪ それとYou wanna be my Friend~♪ ウィーアー、ウィーアーオンザクルーズ――! ウィーアー! ウィーアー!」」」」
最後に、レオ達は持っているマイクを一斉に林檎の方へと向けた。
レオ達の意図を察した林檎は、力強く鍵盤を弾くと空気を目一杯に吸い込んで叫んだ。
「ウィーアー!!!」
汗をかきながらも、満面の笑みを浮かべて叫ぶ林檎。その姿には自己嫌悪に陥って周囲の人間を拒絶していたときの様子は欠片見受けられなかった。
「みんな、ありがとー! 今日の配信はこれで終わりますが、私はこれからもガンガン配信していくから、全力で付いてこいよー! それじゃあ、おつりんご!」
「「「「おつりんご!」」」」
[おつりんご!]
[おつりんご!]
[おつりんご!]
[おつりんご!]
[おつりんご!]
こうして林檎の復帰配信は大盛況のままに終了した。
後日、林檎のチャンネルに投稿された歌動画、【歌ってみた】ウィーアー~5人のにじライブ海賊団~は、にじライブのライバーによる歌ってみた動画で、もっとも多い再生数を記録することになるのはまた別のお話である。
配信が終わり、興奮冷めやらぬと言った様子のレオと夢美は二人で林檎のどこが凄いか語り合っていた。
そんな二人の言葉に照れ臭くなった林檎は、かぐやとまひるの元へとやってきた。
「二人共、その、ありがとうございました」
「ええって、ええって、気にすんなや」
「まひるも楽しかったし!」
「……まさか、諸星さんがバンチョーだとは思いませんでしたけど」
「まあ、にじライブが子会社化するときにいろいろあってな。社内でもあんまり公にしてないんや」
諸星香澄が竹取かぐやであることを知っているのは、にじライブが子会社化する前からいた古株の者達くらいだった。
事実、三期生のマネージャー三人は驚きのあまり、口から魂が出てきているような表情を浮かべている。
「まあ、どっちにしろこれからもお世話になります! あ、それと潤佳」
「ふえっ?」
本名で呼ばれたまひるは呆けた表情を浮かべる。
そんな彼女に、林檎は頭を下げた。
「あんたの優しさを素直に受け取れなくて、今まで勝手に嫌っちゃってごめん」
「そんなことないよ。まひるが何もできなかったのは事実だし……」
「ううん、本当は嬉しかったんだ」
それから林檎は照れ臭そうに頬を掻くと、まひるに礼を述べた。
「だから、まあ、その……私のこと、見ててくれてありがと――お姉ちゃん」
「林檎ちゃぁぁぁん!」
「たぁー、もう! 抱き着くなー!」
涙を流しながら抱き着くまひるを引き剥がそうとする林檎。
そんな二人の様子を見ていたかぐやは楽しそうに笑った。
「林檎、あんたはみんなからこんなにも愛されてるんや。もう引退なんて言うんやないで……」
過去に思いを馳せながらそう呟くと、かぐやはそそくさとスタジオから去っていくのであった。
というわけで、林檎の復帰配信でした!
次回で二章は終わりますので、三章をお楽しみに!
ちなみに連弾についてですが、イメージが沸きにくい方は曲名と連弾で調べていただければ動画が出てくると思います!
にじライブ海賊団「面白いと思った方はお気に入り登録、高評価お願いしまーす!」