「由紀ちゃん! どこだ!」
夢美から連絡を受けたレオ達は、レオと夢美の住んでいるマンション近くで夢美の妹である由紀を探していた。
夢美から送られてきた由紀の写真。そこには笑顔を浮かべて夢美に抱き着く、夢美とはあまり似ていない少女の姿が映っていた。
「由紀ちゃん見つかりました!?」
「いえ、こちらは見つかりませんでした」
「こっちもいなかったよ!」
「どこにいるんでしょう……」
「もうこんな時間だから心配ですね……」
それぞれ担当していた場所を探していたレオ達であったが、それらしき少女は見つからなかった。
全員が落胆する中、ふと何かを思いついたように和音が呟く。
「……もしかして、由紀ちゃん。マンションの中にいるんじゃないですか?」
「どういうことですか?」
「バラ――お姉さんのところに来ているのならば、マンションの前までは来ているはずです。合鍵は持っていないのならば、エントランスで足止めを食らうはず。でも、エントランスの自動扉は誰かが開けたときに入ることはできる」
「姉さんと同じやり口、か」
レオは以前、姉である静香がぬるっとセキュリティを突破してきたときのこと思い出した。
「エントランスで由美子を呼び出しても留守だった。隙を見て中に潜り込んでも鍵がないから部屋には入れない……」
「となれば、由紀ちゃんがいるのはロビーの可能性が高いですね」
小学生が夜遅くに家に帰らない。そんな切迫した状況のせいで、レオ達は冷静さを失っていた。
よく考えてみれば、こんな夜遅くに外を小学生が一人で出歩いていれば、警察官でなくても声はかけたり、近くの交番に行ったりはするものだ。
そういった話が上がっていないということは、由紀は室内にいる可能性の方が高かった。
「じゃあ、一旦マンションの中を探しますか」
レオ達は息を整えるとマンションに向かった。
「えっ、拓哉君こんないいとこ住んでるの!?」
「さすがはにじライブ。ライバーへの待遇の良さで言ったら業界一ですからね」
「防音とかしっかりしてそうですね」
「いいなぁ……」
レオの住んでいるマンションを見たカラオケ組の四人は、思い思いの感想を呟き、レオに続いて中に入る。
すると、ロビーにあるソファーには一人の少女が座っていた。
「いた……」
夢美からもらっていた写真を確認すれば、間違いなくソファーに座る少女は夢美の妹、中居由紀だった。
レオは由紀の元へと歩いていくと、屈んで目線を合わせて声をかけた。
「ねえ、ちょっといいかな?」
スマートフォンをいじっていた由紀はレオに声をかけられたことで顔を上げる。
「……もしかしてレオ君?」
「はえ?」
まさか声を聞いただけで名前を言い当てられるとは思わなかったため、間抜けな声を零した。
「生〝はえ?〟だ! すごい本物だ!」
困惑するレオとは対照的に、由紀は興奮したようにはしゃぐ。
「えっと……」
「中居由美子の妹の中居由紀です! いつも姉がお世話になっております! よろしくね、お義兄ちゃん?」
ソファーから立ち上がると、由紀は礼儀正しくお辞儀をして自己紹介をした。
由紀はマンションのロビーにいた。その旨を夢美へと連絡すると、その場にいた全員はレオの部屋に移動した。
「すごい綺麗ですね。普段から掃除しているんですか?」
「ええ、まあ……」
食後に部屋でくつろぐ夢美が散らかすため、高い頻度で掃除をするはめになっているとは言えないレオであった。
「それで、由紀ちゃんはどうして家出を?」
由紀にオレンジジュースを出したレオは、家出の理由を聞くことにした。
「……お姉ちゃんに会いたくて」
「それなら普通に連絡取ってくればよかったんじゃないか」
「だって……お母さんは『お姉ちゃんは忙しいんだから、迷惑かけちゃダメよ』って言ってくるし、お姉ちゃんもお盆と正月くらいしか帰ってこないし……」
「そ、そうか……」
由紀は寂しそうな表情を浮かべる。一人暮らしを始めてから一度も実家に帰っていないレオとしては、由紀の言葉は大変耳の痛い話だった。
「夏休みだし、こっそり遊びにきて驚かせたかったの」
「家出というか、ドッキリやろうとしていろいろ噛み合わなかった感じか……」
家庭環境に問題があって家出をしたわけではない。そのことを確認できたレオは安心したように、肩の力を抜いた。
「でも、結構待ったんじゃない?」
「大丈夫! お義兄ちゃんが出てた〝Vtuber大集合! バーチャルカラオケ大会!〟のアーカイブ見てたから!」
「マジか! ……マジか」
レオは驚いたように後ろを振り返る。案の定、四人とも驚いた表情を浮かべていた。
「ねえ、お義兄ちゃん。後ろの人達もにじライブの人達?」
「いや、それはだな……」
勝手に正体を話していいものか。
悩んでいたレオだったが、イルカは笑顔を浮かべると、率先して自己紹介をした。
「はじめまして、板東イルカと申します。由紀ちゃん、キュッキュー!」
「イルカちゃん!? じゃあ、そこにいる人達って……!」
驚いた表情のまま由紀が目線を横に移動させると、友世、和音、サタンは笑顔を浮かべてVtuberとしての自己紹介をした。
「やっっほー! 但野友世だよ!」
「な、七色和音です。よろしくお願いします」
「ふっはっは、はじめましてだな、バラギの妹よ! 吾輩がサタン・ルシファナだ!」
「すごい……一瞬でスイッチ入った」
レオも人のことは言えないが、今の一瞬でVtuberとしてのスイッチが入る四人に改めて感心していた。
「カラオケ組……てぇてぇ……」
「小学生も〝てぇてぇ〟知ってるのか……いや、V見てるなら知ってるか」
そんなやり取りをしていると、外から慌ただしい足音が聞こえてくる。
「由紀!?」
「あ、お姉ちゃん……」
乱暴に開かれたドアから汗だくの夢美が入ってくる。
その後ろには、息も絶え絶えの状態になっている林檎もいた。
夢美は靴を脱いで由紀の元へ駆け寄ると、心配そうに顔を覗き込んだ。
「どこも何ともない!? 怪我とかしてない!?」
「うん、ずっとロビーにいたから大丈夫」
「良かったぁ……もう、本当に心配したんだからね……」
安堵のため息をつくと、夢美は由紀を優しく抱きしめた。
「今度からはきちんと連絡しなきゃダメだよ。由紀が遊びにきたいなら、断ったりしないから」
「お姉ちゃん……ごめんなさい。次からはちゃんと連絡する」
心から心配している夢美の姿を見て、由紀は素直に謝罪した。
「とりあえず、一件落着だな」
「はぁ……はぁ……疲れた……もうだめぽ」
「レオも、林檎ちゃんもありがとね。ん?」
夢美はレオと林檎に礼を言うと、部屋の中に見知らぬ四人がいることに気がついた。
「あのー……そちらの方々はもしかして」
「カラオケ組の四人だよ。夢美が電話かけてきたとき近くにいて、手伝ってくれたんだ」
「バーチャル四天王を含めたトップVが、あたしの妹を探す手伝いを……ホア?」
自分よりも遥か上にいるVtuber達が家出した妹を探すために動いていた。その事実に夢美の脳はショートした。
完全に思考停止した夢美に対し、四人は笑顔を浮かべて言った。
「いえ、私達は
「そうそう気にしないで!」
「大したことはしてないですからね」
「本当にただ付いてきただけなので気にしないでください」
由紀を探すために駆けずり回っていたことは伏せ、夢美が気に病まないように配慮した言葉に、レオは心の中で感謝していた。
この人達と繋がりを持ててよかった。改めてそう思ったレオだったが、
「それより、せっかくですからここで二次会といきましょうか。いいですよね、レオ君」
「はえ?」
――畜生イルカの存在を忘れていた。
イルカ「二次会会場はレオ君の自宅で!」
レオ「!?!?!?!?!?」
まさに畜生イルカ