寒くなってきたので、読者の皆様も風邪にはお気を付けて……。
どうしてこうなった。
レオは自室で唐突に行われることになった二次会という名の〝他企業Vとのコラボ配信〟に頭を抱えることになった。
夢美が由紀を連れて自室に戻った後、イルカの提案でレオのアルバイト最終出勤の打ち上げの二次会をすることになった。そこまではレオも問題なかった。
イルカの言う二次会。それはただの飲み会ではなく突発的コラボ配信を行うというものだった。
さすがに、この提案には異を唱えたレオだったが、すんなりと事務所の許可が取れてしまったこともあり、承諾せざるを得なかった。ちなみに、林檎は疲れ果ててレオのベッドの上で泥のように眠っていた。
「それではレオ君――バイトお疲れ様でした!」
「「「お疲れ様!」」」
「あ、ありがとうございます……」
[カラオケ組てぇてぇ]
[レオ君ゲンナリしてて笑う]
[自宅に四天王が来るライオンがいるらしい]
普通ならば、企業所属のVtuberとのコラボはこのように突発的に行うものではない。
しかし、イルカの一声により、にじライブはもちろん、イルカの所属する〝@LINE〟サタンの所属する〝バーチャルリンク〟和音の所属する〝Vacter〟のマネージャー陣はすんなりと許可を出した。それだけバーチャル四天王とのコラボは〝おいしい〟のだ。
さらに、カラオケ組という組み合わせを再び求める声が多かったこともあり、各企業のマネージャー陣は降って湧いたチャンスを逃す手はなかった。
またイルカの所属する〝@LINE〟は、イルカを全面的に信用していたため、彼女の提案にすぐに許可を出した。他のVtuber達が事故を起こしづらいメンバーだったことも大きいだろう。
「えー、みなさん。唐突なコラボだったのにも関わらず、来てくださりありがとうございます。ことの経緯を説明しますと――」
それからレオは、自分がアルバイトの最終出勤日だったこと、林檎の提案でカラオケ組の四人が遊びにきたこと、流れで四人が自宅に来たことを説明した。
「しかし、よく事務所の許可取れましたね。普通、無理でしょう」
「みんな信用されてるってことだよ! そもそもアタシは個人勢だしね!」
「獅子島さんはうちの事務所からも信頼されていますから」
[レオ君、他の事務所からも信頼されてるのか]
[さすが俺達の聖獣、格が違うぜ!]
[普通ならまず不可能なレベルのコラボだもんな]
「それで、二次会って言っても何するんですか?」
「ただ雑談するというのも味気ないですし、このようなものはどうでしょうか?」
イルカはそう言うと、スマートフォンのアプリを起動して、画面を四人に見せた。
「「「「ワンナイト人狼?」」」」
画面にはデフォルメされた狼のイラストと共に〝ワンナイト人狼〟という文字が表示されていた。
「普通の人狼ゲームをやるのに五人では少ないですからね。ワンナイトならちょうど良いかと思いまして」
人狼ゲームとは、会話と推理を中心にしたパーティーゲームである。プレイヤー達は村人と村人に化けた人狼チームに分かれ、会話を重ねてお互いの正体を探っていく。
昼のターンには全プレイヤーの投票によって処刑される人物が決められ、夜のターンでは人狼による村人への襲撃が行われる。
ワンナイト人狼は、人狼ゲームを簡略化することによって、少人数でプレイできるようになっている。また投票による処刑で勝敗が決まるため、死亡したプレイヤーが手持無沙汰になることがないというのも利点だろう。
「それなら画面出しましょうか」
レオはさっそくイルカのスマートフォンをキャプチャーボードを挟んでパソコンに繋げた。
アプリの画面が表示されたことにより、視聴者達にはレオ達がどの役職かを閲覧することができるようになった。
「みなさん、ワンナイト人狼のルールはご存じですか?」
プレイヤーネームを登録したイルカは、全員がルールを知っているか確認をする。
「俺はわかります」
「アタシも知ってる!」
「吾輩はあまり詳しくないな」
「わ、私も……」
レオと友世は友人グループと過去に遊んだことがあるため、基本的なルールや立ち回りは知っていたが、サタンと和音はこの手のパーティーゲームに疎かった。
「それでは、三人で軽くやってみましょうか」
そう言うと、イルカは役職を占い師、人狼二人、怪盗、村人に設定すると、ゲームを始めた。
「まず、他の人には見えないように自分の役職を確認しますね」
イルカが画面をタップすると、人狼と表示される。
「人狼は一人でも処刑されると負けになるので、正体を隠しながら会話を進めてください。占い師のふりをするのがセオリーですわね」
人狼の画面では〝仲間を確認する〟という文字が表示され、そこをタップすると〝仲間はいませんでした〟と表示された。
「じゃあ、次は俺ですね」
イルカからスマートフォンを受け取ったレオは自分の役職を確認する。
表示されたのは、怪盗だった。
「怪盗は誰か一人と役職を交換することができます。例えば、イルカさんと役職を交換すると……」
レオがイルカの箇所をタップすると〝あなたはイルカの人狼と役職を交換しました〟というメッセージが表示される。
「基本的に怪盗は交換した役職のふりをするのがセオリーですね。あと、交換された側は村人サイドになるので、人狼のつもりで動いてると痛い目を見ることもありますよ」
最後に軽く説明すると、レオは友世にスマートフォンを渡した。
「じゃ、アタシの番ね! おっ、占い師だ!」
友世が引いたのは占い師だった。
「占い師は一人だけ誰がどの役職か見れるよ! あと、こうやって……」
友世はあえてプレイヤーを選択せずに〝選ばれていない役職を占う〟という部分をタップした。表示されたのは、人狼と村人だった。
「これで人狼が一人ってことと、村人がいないってことがわかるよ!」
そして、話し合い開始というボタンを押すとタイマーが起動して話し合いフェイズが開始された。
「まあ、こんな感じで話し合いをして怪しいと思う人に投票するんですよ」
「人狼は村人サイドのプレイヤーに票を集中させるのがセオリーですわ」
「人狼は投票されないように、村人サイドは人狼に投票するように頑張るんだよ!」
一通り説明を終えた三人は、勝敗画面を閉じると新しくゲームを始めた。
「さて、質問はありますか?」
イルカが質問を促すと、サタンが真っ先に手を上げる。
「ふむ、村人はどうすればよいのだ?」
「村人は基本的に特殊能力がないので、話し合いの時に情報を整理して冷静に推理することが大事ですわ。あまり黙っていると人狼と疑われてしまいますし」
「まあ、人狼がそれを逆手にとって『村人だけど、状況がわからなくて黙ってました』って言うときもありますけどね」
イルカの説明にレオが補足すると、今度は和音が質問する。
「吊人ってどんな役職なんですか?」
「吊人は処刑されると勝ち! 処刑されなきゃ負け! シンプルでしょ!」
「まあ、人狼っぽくふるまうのがベストですかね」
こうして一通り説明を終えたレオ達は、コメント欄を非表示にしてゲームを始めることにした。
「では、まずはわたくしから……」
[お、占い師だ]
[吊人か人狼引いて欲しかった]
[おっ、和音ちゃんは村人か]
イルカが占い師を引き当てて和音を占うと、表示されたのは村人だった。
「次は俺ですね」
[人狼キタ――――!]
[人狼というより人獅子なんだよなぁ]
[仲間友ちんか]
レオは人狼を引き当て、友世が仲間の人狼であることを確認する。
「アタシの番!」
[大丈夫、友ちん嘘つける?]
[脳のフィルターぶっ壊れてるからな]
[二人人狼で占い当てられなかったのはキツイな]
友世が引き当てたのも人狼だった。これで既に状況がかなり人狼側に有利な状況になっていた。
「次は吾輩だな」
[初心者に吊人はキツイだろ]
[これは結構動き方重要だぞ]
[占い師、二人狼、吊人、村人か]
サタンが引き当てたのは処刑されると勝利になる役職吊人だった。
「最後は私ですね」
[安定の村人]
[和音ちゃんの村人感]
[解釈一致]
事前にイルカが占った通り、和音の役職は村人だった。
「それでは、話し合いスタートですわ!」
[これは楽しみ]
[どう考えても人狼側が有利]
[魔王様のムーブにも期待]
イルカの合図により、話し合いが始まる。
ワンナイト人狼において、信用度というのは大事な要素だ。
いかに信用できる発言をして、自分の役職を確定させるか。それが出来なければ疑われて投票されてしまう。
占い師という役職は黙っているメリットは基本的に少ないため、そうそうに名乗り出て占い結果を告げる方が良い。
「では、占い師の人は手を――」
「はいはい! アタシ、占い師!」
イルカが流れを作って占い師が名乗り出るように促したとき、友世は勢いよく手を上げてレオを指さして宣言した。
「アタシ、レオ君を占ったよ!」
[おっ、これは吊人って言って投票を避ける作戦だな]
[まあ、妥当な動き方ではある]
[レオ君と動き方がカチ合わなかったのも大きいな]
レオは最初は様子を見るつもりだったが、友世の動き次第では作戦に乗るつもりだった。もとより、人狼を引いた友世が何もせずにじっとしているわけがないと思っていたのだ。
「獅子島さんはどの役職だったんですか?」
和音の問いに友世は意気揚々と答える。
「人狼だったよ!」
「………………はえ?」
友世の突然の裏切り宣言に、レオは窮地に陥ることになるのであった。
ワンナイト人狼面白いので、おすすめです。
昔は少人数で集まると結構やってましたね。