Vの者!~挨拶はこんばん山月!~   作:サニキ リオ

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寝落ちして深夜に上げられませんでした……


【重大発表】にじライブ四半期総会

 四半期総会。

 それは社員全員が集まり会社の現状とこれからの方針などを共有する場である。

 にじライブではこれが年四回あり、発表を行うのは基本的に部署のトップの人間である。

 大きめの会議室に集められた社員達は、お互いにどんな発表があるのかわくわくしていた。また社員同士の仲が良いこともあって、営業部は特にしばらく談笑していた。

 

「はーい、皆さんが静かになるまで二分かかりました」

 

 にじライブの社長である綿貫が茶化すようにマイクを通して発言する。

 その一言だけでおしゃべりに興じていた営業部の社員はすぐに静かになった。

 

「なーんちゃって、嘘嘘! きちんと時間通りだから安心してくれよ! ……それでは、これから四半期総会を始めます。宜しくお願いします」

『宜しくお願いします!』

 

 社員全員から元気な挨拶が返ってきたことを確認すると、

 

「これが今日のアジェンダです。最初にこの三ヶ月の数値共有をして、あとは各部署からの発表をしてもらいます。では、まず数値の共有から」

 

 綿貫の言葉と共に、スクリーンに映し出されているスライドが切り替わる。

 そこには、にじライブの業績がパッと見ただけでも右肩上がりだということがわかるグラフが表示されていた。

「まず、今月も無事に利益目標を大幅に達成することができました! 拍手!」

 綿貫の言葉に社員全員が一斉に拍手をする。とはいえ、これは毎回のことなので飽きている社員もちらほらと見受けられるが。

 

「それで、こっちが昨日時点での各ライバーの登録者数」

 

 綿貫がスライドをにじライブに所属しているライバーの登録者数のグラフに切り替えたことで、社員全体にざわめきが広がった。

 

「えっ……」

「マジかよ……」

「グラフで見るとやっぱりあの三人おかしいわ……」

 

 グラフを見れば、新たに追加された三人の登録者数が二期生の登録者数に迫っていた。

 二期生は基本的に全員登録者数が二十万人を超えている。そして、林檎の登録者数は十九万人、夢美が十八万人、レオが十七万人、とデビューして三ヶ月にしては異常な数値を記録していた。

 もちろん、その中でも他のライバーから抜きんでて登録者数が多いのはかぐやとまひるなのだが、それは社員達には見慣れた光景だった。

 

「見てわかる通り、三期生の勢いは凄い。だから、にじライブも次のステップに向けていろいろと体制変更を行おうと思います。諸星さん」

 

 綿貫が名前を呼ぶと、諸星が壇上に上がりマイクを受け取った。

 

「おはようございます。諸星です。それともこんバンチョーと言った方が良かったですか?」

 

 軽い冗談を交えつつ、かぐやは挨拶をして発表を始める。ちなみに、かぐやは関西弁を隠さなくはなったが、こういった発表の場では今まで通り敬語で話すことにしていた。

 

「さて、綿貫社長の言った通りいくつか部署などの変更があります。まず、メディア本部ですが、それぞれ〝開発部〟〝マネジメント部〟〝ユーザーコミュニケーション部〟〝企画部〟と分かれることになりました。それに伴い私も全ての部の統括部長という役職にはなりますが、基本的に業務はマネジメント部の管理になります」

 

 かぐやの言葉と共に表示されたスライドでは、新しくなった組織図が表示されていた。

 

「またこれは竹取かぐやとしての話になりますが、この度マネージャーとして飯田恭平(いいだきょうへい)さんにサポートしていただくことが決定しました。飯田さん、宜しくお願い致します」

「よ、宜しくお願い致します!」

 

 壇上でフルネームを呼ばれた飯田は立ち上がって大声で返事をする。それを見て、他の社員達は初々しい飯田の様子に楽しそうに笑った。

 

「さて、次に開発部ですね。開発部は千石健介さんをリーダーとして、現在ライバーの生活支援アプリを作成していただいております。こちらは二期生の瓜町瑠璃さんと三期生の茨木夢美さんにテスターをしていただき、いずれは多くのVtuberに使っていただけるアプリにしていく予定です。またこちらの正式名称も募集中ですので、Slagの〝ライバーライフ(仮)〟のチャンネルにどしどし思いついた名前を投稿してください」

 

 かぐやはレオ達にも教えたアプリの説明を行うと、次に〝マネジメント部〟〝ユーザーコミュニケーション部〟〝企画部〟について説明をした。

 それから一拍置くと、今日発表する内容で一番重要な発表を行った。

 

「それでは最後に重大発表です。兼ねてから企画していた海外ライバーの募集を開始しようと思います」

 

 かぐやが切り替えたスライドには〝にじライブEnglish〟の文字が大きく表示されていた。

 海外展開。その発表に社員達は大いに沸いた。

 にじライブのライバーの人気は基本的に国内に留まるが、かぐややまひるなどの一部のライバーはいわゆる〝海外ニキ〟と呼ばれる海外の視聴者達にも人気があった。

 海外ニキは、切り抜き動画に翻訳した字幕を付けて動画を投稿したり、言葉がわからなくてもライバー達のリアクションなどを見て、言語の壁を越えて配信を楽しんでいるのだ。

 

「またそれに伴い〝にじライブEnglishチーム〟を設立します。こちらのリーダーはマネジメント部所属の四谷愛(よつやあい)さんにやっていただきます」

 

 かぐやの言葉に今度こそ社員達はざわつき始める。

 四谷は入社してからまだ日が浅い。

 それなのにこんな大役を任せて大丈夫なのか。そんな不安があったからだ。

 今回の話を聞かされていなかった飯田と亀戸も驚いた様子で四谷を見ていた。

 

「四谷さんは帰国子女で英語は問題なく話せます。あと確かドイツ語もいけましたよね?」

「はい、日本語、英語、ドイツ語、あとフランス語もちょっとなら話せます!」

 

 四谷はイギリスの帰国子女で英語は元々問題なく話せた。日本に来た頃など、日本語の方が不自由だったくらいである。

 前職も貿易会社に勤めていたことや、趣味で頻繁に海外旅行をすることもあって、彼女の英語はまったく錆び付いてはいなかった。

 

「もちろん彼女だけに任せるつもりはありませんが、彼女がこのチームのリーダーに相応しいと感じました。何せ、この会社の中で日本語で苦労した経験があるのは彼女だけですから」

 

 かぐやはそう言うと、最後に四谷を見て優しく微笑んだ。

 

「ひとまず今回は試験的な運用でもあるので、募集するライバーは一人になります。発表もまだ先にする予定ですので、この情報は口外しないようにお願い致します。それではメディア本部の発表を終了します」

 

 かぐやが壇上から降りるのと同時に、今度は内海が壇上に上がってマイクを受け取った。

 

「おはようございます。内海です。それでは、総務部からの発表を行います」

 

 眠くなるような優しい声音で内海は総務部の発表を始める。

 

「営業部の皆さんは特に外回りが多くて大変だと思いますが、勤怠管理がかなり雑になっています。そこで新たに導入した勤怠アプリを社用携帯にインストールしてください。こちらのアプリならGPSを使用してどこで打刻したのかがわかりますので、サボっていたらすぐにわかりますからね」

 

 笑顔の裏に感じる圧に社員達はゴクリと唾を飲み込んだ。

 

「また他の部署の方々もリモートワークの際にはこちらのアプリを使用してください。できるだけ打刻忘れのないようにお願いしますね」

 

 それから、内海の発表もつつがなく終了した。

 興奮冷めやらぬといった様子で会議室を出ていく社員達を眺めながら、かぐやは嬉しそうに口元を歪めていた。

 

「お疲れさん」

「お疲れ様です」

「綿貫社長、内海さん」

 

 かぐやに声をかけてきたのは綿貫と内海だった。

 

「今日、配信ないだろ? 久しぶりに三人でご飯でもどうだい」

「はぁ……新体制で忙しいのはわかっとるやろ?」

「まあ、いいじゃない。久しぶりに()()()()()()()で食べにいきましょうよ」

 

 内海が言った〝一期生のみんな〟という言葉にかぐやは驚いたように目を見開く。それから悩んだ後、かぐやは綿貫からの誘いを承諾することにした。

 

「……しゃーないな。時間作るから二人もさっさと仕事終わらせるんやで?」

 

 どこか嬉しそうにそう言うと、かぐやは足早に会議室を出て行った。

 その背中を見ながら綿貫は意外そうに言った。

 

「……まさか、君が一期生という言葉を使うとは思わなかったよ」

「まあ、ああでも言わないとかぐやちゃんは来てくれないからね」

 

 どこか陰のある笑みを浮かべると、内海は話題を切り替えるために綿貫の体型について言及することにした。

 

「それよりかっちゃん。また太ったんじゃない?」

「君もそれを言うのか……」

 

 ゲンナリした様子の綿貫を見て、内海は楽しそうに微笑むのだった。

 




やっと飯田ァと四谷さんの本名出せた……

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