Aブロック、Bブロック、Cブロック、Dブロック、四つの全てのブロックでの試合が終了し、行われた準決勝。
それぞれ四つのブロックの勝者をランダムに振り分けて抽選で振り分けることになった。
レオが当たったのは二期生の瓜町瑠璃だった。
エナジードリンクが主食と言われている瑠璃は、まひると同じように耐久配信を行っていた。
瑠璃は対戦に潜り続けたが、寝不足が祟って頭が回らなかったり、持ち前の運の悪さでここ一番のところで運負けしたりしていた。
まひると違い、どこが悪かったなどの反省会枠をとって視聴者に教えを乞うこともなく、がむしゃらに対戦し続けていた瑠璃は思ったよりも対戦の腕前は上達していなかった。
結局、レオの〝ゆみ〟に攻撃を受けきられて詰み状態となった瑠璃は、全てのモンスターを〝やどりぎのタネ〟のスリップダメージで倒されるという屈辱的な負け方をしたのであった。
一方、まひるは二期生である鶴野紫恩と当たった。
紫恩はにじライブの中ではかなり対戦をやり込んでいる方だったため、まひるは苦戦した。
まひるの意表を突く戦法は既に露呈していたため、今度は手堅く安定行動を重ね勝利することができた。勝利の鍵はかぐやも使っていたくさタイプの御三家であるゴリラモチーフのモンスターだろう。
ちなみに、かぐやは初戦敗退して試合後に発狂していた。
こうして、レオとまひるの決勝戦が行われることになったのである。
決勝戦はライバーの人数が少なくなってきたこともあり、にじライブのスタジオで行われることになった。
配信形式としては、二人のチャンネルでそれぞれ配信している画面を映して、空いたスペースに各ライバーを配置するという形式だ。
レオ、まひるのどちらの視点からも試合が楽しめ、にじライブの公式チャンネルでは試合と出演者のトークが楽しめるのだ。
本来、主催者はまひるであるため、同時中継はまひるのチャンネルで行われるのが普通である。今回の場合はサタンとの特殊な事情も相まって、公式チャンネルで行われることになったのであった。
本番前、レオはスタジオにいたかぐやへと話しかけていた。
「あれ、かぐや先輩どうしたんですか?」
「……初戦で三タテされた女がいたらおかしいか?」
Dブロック第一試合で可愛がっていたモンスター達を蹂躙されて敗北したかぐやは不貞腐れていた。
「いや、あの、そんなつもりじゃなくてですね……!」
普段は人とのコミュニケーションが得意なレオもかぐやが絡むとどこかポンコツになるのであった。
そんな二人の元に本来いるはずのない人物が現れる。
「あはは、獅子島さんもあのバンチョーの前では形無しですね」
「サタン君? まひる先輩とは共演NGだったんじゃ」
決勝戦には本来サタンの代理でBブロック同様にサラが来る予定だった。
しかし、サラの姿はなくサタン本人がスタジオへとやってきていたのだ。
「……さすがにあれだけの試合を見せられたら、決勝に僕が来ないわけにはいきませんよ。サラにも『お願いだからサタンが出演して!』って泣きつかれましたし」
どこか複雑そうな表情を浮かべてサタンが答える。
そんなサタンの方にまひるがちらちらと視線を送っているが、話しかけようとはしていなかった。
「それじゃあ、獅子島さん決勝戦頑張ってください」
「ああ、優勝してカラオケ大会のときの約束を果たそう」
「楽しみにしています」
最後にレオに激励の言葉をかけると、サタンは他のスタッフの元へと歩いていった。
「三タテ……三タテ……」
「いつまで落ち込んでるんですか……」
「……あかん、もう三ってついとる数字が全部怖なってきた」
レオは滅多に見ることができないかぐやの弱弱しい姿に、少しだけ、ほんの少しだけ高揚感を覚えた。しおらしいバンチョーもありだな、と。
しかしそれも一瞬のこと。
レオは頭を振って邪念を追い出すと、かぐやを励ますことにした。
「仕方ないですよ。かぐや先輩は多忙なんですから。むしろ、撮れ高的にはおいしかったんですからいいじゃないですか」
「………………ま、それもそうやな」
ふぅ、と息を吐くと、かぐやは表情を引き締めて真っ直ぐにレオを見据えた。
「それはそうと獅子島さん。今日の試合はまひるのためにも手を抜かないでください」
「急に諸星さんモードですね……元よりそのつもりですけど、どうしてまた?」
まひるの事情をぼんやりと聞いていたレオは首を傾げた。
まひるのため、というのであれば実力が上のレオが負ける方がためになるはずである。
「この決勝戦にサタンさんが来ているというのも大きいです。彼女の目的はかなりの割合で達成されています。現時点で重要なのは勝つことではなく熱いバトルを見せること」
「熱いバトル、ですか」
「まあ、あなたならこんなことを言わなくても熱いバトルを見せてくれると信じていますが――期待しとるで?」
最後にかぐやらしい不敵な笑みを見せると、レオはにやける口元を押さえながら呟いた。
「まったく、あの人はすぐそうやって俺を喜ばせる……」
それからレオはピアノを弾いている林檎の元へと向かう。
「さっきから気になってたんだけど、何でピアノ?」
「やー、何か盛り上がるポイントでBGM弾いてくれって頼まれちゃってさー」
林檎はBブロックで敗退したが、盛り上がるポイントでピアノを弾くBGM要員としてスタジオに呼ばれていた。
「白雪の演奏があれば確かに盛り上がるだろうな」
「にひひっ、最高に盛り上げてやんよー」
林檎は笑顔を浮かべると、再びピアノに集中し始めた。
「で、夢美は何でいるんだ?」
「よっちん曰く〝てぇてぇ要員〟だってさ。意味わかんないんだけど……」
実は一番最初の試合でレオに敗北した夢美もスタジオに呼ばれた。
夢美が呼ばれた理由は至極単純である。レオの決勝戦を応援するヒロインポジションとしてだ。
「たぶん俺の相棒のニックネームが〝ゆみ〟だからだな」
「せめてもっと可愛いのに付けてよ!」
「俺にとってはこのゲームでの相棒だからな。俺の相棒は〝ゆみ〟以外ありえないだろ?」
「まあ、それはそうだけどさ……」
宥めるようなレオの言葉に、いまだ夢美は不服そうに頬を膨らませた。
「人は見た目じゃないって言うだろ?」
「けっ、綺麗事言いやがって……イケメンが言ったって説得力ない、って、の……?」
いつものようにレオと軽快なやり取りをしていた夢美だったが、レオの言葉が引っかかったのか怪訝な表情を浮かべた。
「どうした?」
「ううん、何でもない……今のどこかで?」
それからしばしの間、夢美は神妙な面持ちで考え込んでいたが、結局何も思い出せなかったため、話題を切り替えることにした。
「あ、今日帰ったら優勝パーティしよ!」
「フラグ立てるのやめろ」
俺この戦争が終わったら結婚するんだ、並みの死亡フラグを夢美が立てたことで、レオは露骨に嫌そうな表情を浮かべた。
「安心してよ。負けたら残念パーティになるだけだから」
「どこにも安心できる要素がないんだが……」
負けた場合のパーティの名前があんまりだったため、レオはゲンナリとした。
「負けたらあたしが慰めてやるって言ってんの。だから、変に気負わず思いっきり楽しんでこいってこと」
「まったく、お前は最初から素直にそう言えないのか……」
夢美の遠回しな激励の言葉に、レオは呆れたようにため息をついた。
そんなレオの様子を見て、夢美は普段からレオが素直じゃないことにやきもきしていたこともあって、烈火のごとく詰め寄った。
「はぁ!? その言葉そのままレオに返すけどぉ!」
「俺は出来るだけ正直に褒めてるだろ! メイクバッチリ決まってるなとか、今日のコーデは可愛いなとか!」
「あたしだって、いつもおいしいごはんありがとうって言ってますぅ!」
「俺だっていつも片付けしてくれてありがとなって言ってるっての!」
日常の些細なやり取りが原因で、レオと夢美は本当にしょうもない喧嘩を始める。
周囲の生暖かい視線に気が付かずにヒートアップしていく二人に、ストップをかけた者がいた。
林檎のマネージャーの亀戸である。
「ほら、そこの二人! いつまでも夫婦喧嘩してないでスタンバイしてください!」
「「誰が夫婦だ!」」
胸を押さえたり、顔を手で覆ったりしていて役立たずと化した同僚のマネージャーにチョップを入れると、亀戸はレオと夢美に持ち場につくように促した。
「ねえ、亀ちゃんなんかバンチョーに似てきてない?」
「確かに……」
すっかり頼もしくなった亀戸に困惑しながらも、二人は持ち場へと戻っていくのであった。
あ……ありのまま今起こった事を話すぜ!
「俺は熱いバトル回を書こうと思ったら
いつのまにかただのほんわか回を書き終えていた」
な……何を言っているのかわからねーと思うが
俺も何をされたのかわからなかった……