Vの者!~挨拶はこんばん山月!~   作:サニキ リオ

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ダメージ計算しながら書いてたからめっちゃ時間かかりました……。
こんなに大変だとは……。

ダメ計ミスってたので修正しました……。


【最終部】剣盾杯 決勝戦

「魔王軍の諸君! あっ、間違えた――にじライブリスナーの諸君! ついににじライブ剣盾杯も決勝戦だ! 刮目せよ! 今日の試合は歴史に残る大一番となるであろう!」

 

[いきなり素が出てて草]

[魔王様ちょくちょくポンコツなのすこ]

[俺は魔王軍配下だから問題なし]

 

 ついににじライブ剣盾杯の決勝戦が開催された。

 にじライブの中でも注目されているライバーであるレオと、にじライブで二番目に登録者数の多いまひるの対戦は視聴者待望の対戦カードだった。

 元々対戦において上位に入る実力を持つレオと、ゲームシステムが苦手分野でも努力によってそれを克服したまひる。

 ややレオが優勢ではあるが、まひるにも勝つ可能性は大いにあった。

 

「はいはい、こんゆみー。何故呼ばれたかわからない茨木夢美でーす」

 

[ヒロイン枠だぞ]

[旦那の試合に駆け付ける嫁の鑑]

[開幕てぇてぇとは恐れ入った]

 

 Aブロック初戦で敗退した夢美がいることに、視聴者達は微塵も疑問を持たなかった。

 むしろ、いて当然という反応に夢美は困惑していた。

 

「みんな、おはっぽー。BGM要員で呼ばれた白雪林檎だよー」

 

[まさかの三期生全員集合]

[白雪姫のピアノが聞けると聞いて]

[今日は清楚な焼き林檎か?]

 

 林檎はピアノに対しては真面目な姿勢を見せていることもあり、ピアノ配信のときは〝白雪姫〟と呼ばれているのだ。視聴者から〝夢美とバラギは別人〟と言われているのと同様に、林檎もまた〝焼き林檎と白雪姫は別人〟と言われているのであった。

 

「てかさー、さっきまでレオとバラギが喧嘩しててさー」

「それ配信で言うの!?」

 

 まさか先程のしょうもない喧嘩をトークで使われると思っていなかった夢美は、素っ頓狂な声を上げた。

 

「まあ、実際は喧嘩に見せかけたただの惚気だったんだけどねー」

「惚気じゃない! レオが自分のこと棚に上げてあたしに『素直に激励の言葉言ってくれよ』なんて言うから喧嘩になっただけだって!」

「お互いに『いつもありがとうって言ってるだろ!』ってキレてるのはどうあがいても惚気なんだよねー」

「ああ、吾輩もブラックコーヒーが欲しくなったくらいだ」

 

[何それすごい見たかった]

[こいつらどこでもてぇてぇするな]

[焼き林檎、情報提供感謝する]

 

 視聴者達はレオと夢美のやり取りを見逃したことを残念がっていたが、林檎からの情報に感謝していた。

 

「終いには私のマネちゃんから『いつまでも夫婦喧嘩してないでスタンバイしてください!』って怒られててめっちゃ笑ったわー」

 

[それは草]

[白雪のマネちゃんwww]

[マネージャー陣からも夫婦って認識なの笑う]

 

 亀戸の話をしてトークにオチをつけた林檎は、配信を盛り上げるために夢美へと告げる。

 

「というわけで、バラギは今からレオを素直に応援してもらいまーす。推しであってもまひるちゃんの応援は許しませーん」

「うむ、直前までスタッフに迷惑をかけた罰だな。バラギはきちんとレオを応援するように」

「ねえ、何で二人共そんなに息ピッタリなの……?」

 

[相変わらずバラギの扱いがwww]

[魔王様もすっかりにじライブに馴染んじゃって]

[何気にサタンゴもてぇてぇという]

[良きてぇてぇだ……]

[此方もてぇてぇくなければ……無作法というもの……]

[お労しや魔王様……]

 

 他企業のVtuberということもあり、林檎とサタンはまだ一回しかコラボしていない。それでも息ピッタリな林檎とサタンのやり取りは、視聴者にとっては格好のエサだった。

 

「さて! そろそろ今回の主役二人に話を聞いていくぞ! まずは我が盟友レオからだ!」

 

 サタンがそう告げると、レオのプレイ画面が映し出された。

 

『みなさん、こんばん山月! 獅子島レオです!』

「おい、レオ! あたしが応援するんだから負けるなよ!」

『わかってるって』

 

[もっと素直に頑張ってと言えないのか]

[バラギ、アウト!]

 

 レオとまひるはそれぞれ別室で待機していた。これはそれぞれのチャンネルで配信を行うためと、お互いの発言が聞こえないようにするためだ。

 

「そして、紙の相性表からここまで成長した白鳥まひるだ!」

『………………こんまひ! こんまひ! こんまひー! どうも、白鳥まひるです!』

「あ゛っ――くぅ、ごめんまひるちゃん! 今日はレオの応援しかできない……!」

『………………解釈一致だから大丈夫だよ!』

 

[バラギ、根性で限界化を抑え込む]

[推しからの解釈一致は草]

 

 夢美は本音を言えばまひるの応援もしたかったのだが、先ほど林檎とサタンに〝レオの応援〟をするように言われてしまったため、まひるの応援は控えていた。

 

「んー、まひるちゃんの画面が遅延してるねー」

「まあ、試合には影響は出ないから問題ないだろうな」

 

 回線の都合上か、まひるの画面には若干のラグが発生していた。

 

「では、決勝戦の前に意気込みを言ってもらおうか」

『絶対優勝してサタン君への挑戦権を掴む! 夢美も応援してくれてるし、負けるわけにはいかない!』

「ふっ、楽しみにしているぞ!」

 

[レオ君、声トーンがガチである]

[レオ君が本気出してまひるちゃん勝てるのか]

[こいつ、嫁の応援を力に変えてやがる……!]

 

 レオとしては、自分の好きなゲームである以上、たとえまひるに事情があろうとも負けたくはなかった。

 

「では、まひる嬢。意気込みを言うといい」

『まひるは負けない! 雛鳥のみんなから学んだことを活かして絶対勝つもん!』

「……学んだことを力に変えるか。素晴らしい言葉だな」

 

[受け取れ、俺達の力!]

[ポケ廃てぇてぇライオンを倒すんだ!]

[まーたレオ君に異名が増えてるよ]

 

「それでは、にじライブ剣盾杯決勝戦……試合開始だ!」

 

 サタンの合図と共に試合が開始される。

 それと同時に、いつでも曲を弾けるように鍵盤に指を置いていた林檎も大人気であるチャンピオンのテーマを引き始めた。

 

「やっぱこの曲っしょ!」

 

[シロナのテーマだ!]

[二人共ゲームのBGMなんで消してるのかと思ったらそういうことか]

[これは決勝戦にふさわしいBGM]

 

【レオはゆみをくりだした!】

 

【まひるはバラちゃんをくりだした!】

 

「だから何でみんなあたしの名前つけるの!?」

 

[草]

[夢美ちゃんとバラギは別人だから問題ない]

[夢美ちゃんとバラギが戦うと聞いて]

[バラギはすぐ猿化するしこっちもピッタリだな]

 

 レオは相棒である〝ゆみ〟を、まひるは強力な物理アタッカーであるゴリラがモチーフであるくさタイプのモンスター〝バラちゃん〟を繰り出した。

 

『まひる先輩のゴリラはハチマキ型だったはず……きせきを叩き落とされるのは痛いし交換だな』

『レオ君は変えてくるだろうけど、交換先の持ち物を落とせるのなら、はたき安定かなぁ』

「ふむ、レオにとっては有利対面だがゴリラには相手の持ち物を落とす〝はたきおとす〟がある。進化前の耐久が上がる持ち物である〝しんかのきせき〟をはたきおとされるのは痛いな」

「でも、ヘドロばくだんで攻撃した方が良かったんじゃない?」

「一撃で倒せない以上、きせきを失うリスクの方が高いということだ。それに交換先もなかなかエグイからな」

 

[レオ君なんで先発ゆみだったの]

[特殊エスバが来てもカビいるから受けられるからだろ]

[さいせいりょくのおかげで交換すれば体力回復するしな]

 

 サタンはレオとまひるの行動を丁寧に解説する。

 夢美は素直にサタンの解説に感心していた。涼しい顔をしているサタンが必死に頭を回転させ、普段のように立ち回りの解説を行っていることには誰も気づいていない。……林檎を除いて。

 

【ゆみ! もどれ!】

 

【レオはプニキをくりだした!】

 

 レオはダウンロードコンテンツで新たに追加された準伝説と呼ばれるモンスターを繰り出した。このモンスターの持ち物はこだわりハチマキ。技が一つしか使えなくなる代わりに攻撃が上がるというアイテムだ。

 武道家とクマがモチーフであるレオの〝プニキ〟は持ち物を叩き落とされるが、技の縛りが消えるというメリットも生まれるため、一番交換先としては無難だった。

 レオのプニキは決勝まで一度も試合に登場しなかったため、この試合に出るまでタイプの判別すらできていない状態だった。

 元々このモンスターの進化には二種類あり、みず・かくとうタイプになるか、あく・かくとうタイプになるか選べるのだ。

 そのくせ、選出画面ではドット絵が同じため、判別が難しいモンスターなのである。

 

[プニキwwwwww]

[ある意味、もう一匹の相棒]

[バラギがバラギと呼ばれるようになった所以でもあるからな]

 

 レオがプニキを繰り出したことで、視聴者達は大爆笑だった。

 レオはこういった取れ高も意識してモンスターにニックネームをつけていたのだ。色違いである〝ゆみ〟に関しては完全にこだわりの領域ではあったが。

 

【まひるはごちうさをくりだした!】

 

【プニキのあんこくきょうだ!】

 

【きゅうしょにあたった!】

 

 まひるはみず・フェアリータイプのうさぎがモチーフのモンスターを繰り出す。

 このモンスターはとくせいにより火力が高いので、ダウンロードコンテンツで解禁されてからはなかなかの使用率を誇っていた。

 レオとまひるの手持ちにはそれぞれ有利不利がはっきりと別れるモンスターが多くいた。

 誰かが欠けると不利になる。そんな状況だったため、二人の試合は交換合戦となっていた。

 

【プニキ! もどれ!】

 

【ごちうさ! もどれ!】

 

【ゆみ! もどれ!】

 

【のるなエース! もどれ!】

 

【せごどん! もどれ!】

 

【バラちゃん! もどれ!】

 

 交換に交換を重ね、レオとまひるは徐々にダメージを与えお互いのモンスターを疲弊させていく。こうなると有利になるのはレオの相棒〝ゆみ〟のとくせいである。

 ゆみは交換するたびに体力が三分の一回復するため、交換すればするほど回復していくのだ。

 結果、お互いの残りは一匹ずつになったが、レオの〝ゆみ〟の体力は半分以上残し、まひるの〝バラちゃん〟の体力は半分を切っていた。

 

「これは凄い試合になってきたな……」

「あたし、二人が何考えて戦ってるか全然わからないんだけど……」

「二人はお互いに有利な対面を作ろうとしていた。だが、そもそもまひる嬢の選出には回復ソースがない。対するレオは〝さいせいりょく〟や〝たべのこし〟という回復ソースがある。むしろ、まひる嬢の〝ごちうさ〟がばかぢからを急所に当ててレオの〝せごどん〟を落としただけでも大健闘だろう」

 

 サタンは既にまひるが勝利するのは厳しいと感じ始めていた。

 それでも、必死でレオに食らいついて勝利をもぎ取ろうとする姿勢に思うところはあった。

 気持ちを切り替えると、サタンは林檎へと指示を出した。

 

「焼き林檎! ここでBGMだ!」

「トレーナーみたいに指示出すなっての! ま、弾くんだけどね!」

 

 レオとまひるがここで大きく動くのはサタンも理解していた。

 林檎はサタンの指示を理解すると、練習していたバトルが盛り上がる曲である〝XY&Z〟を引き始めた。

 

『ゆみ――』

『バラちゃん――』

 

『『ダイマックス!』』

 

[うおおおおおお!]

[いけえええええ!]

[倒せまひるちゃん!]

[守れレオ君!]

 

「……あたしはどんな顔してこの試合を見ればいいんだ?」

 

[草]

[熱い展開なのにワロタ]

[結局は夢美ちゃんVSバラギの構図www]

[まひるちゃんは押し切れば勝ち、レオ君は守り切れば勝ちか]

[モジャでダイマ切る人初めて見たわwww]

 

 レオとまひるのモンスターが巨大化する。まひるの画面が遅延していた影響もあり、まるで二人のモンスターが同時に巨大化したような演出になる。

 

【バラちゃんのダイワーム!】

 

【ゆみのダイウォール!】

 

 レオは三ターンの初手を守りに使った。まひるも守られてることは理解していたため、動揺はしていない。

 

『ダイワームなら確定三発。下げられた特攻はダイアシッドで取り戻せる。ここで守り切れば俺の勝ちだ……!』

「えっ、レオ何も見ないでダメージ計算できんの? こいつやばない?」

「まあ、上位勢は割とダメ感自信ニキ多いからな。相手の型がわかっていればそう難しいことではない」

「いや、難しいわ!」

 

 レオは脳内で即座にダメージを計算して、ほとんど自分の勝ちであることを確信していた。

 

『まひるは、私は――絶対に勝つんだぁぁぁぁぁ!』

 

 魂を揺さぶるような絶叫と共に、まひるは次の技を選択する。

 

【バラちゃんのダイワーム!】

 

【きゅうしょにあたった!】

 

 圧倒的不利を覆したいまひるの強い思いが通じたのか、〝バラちゃん〟は攻撃を急所に当てた。

 1.5倍のダメージが入ったことで計算が狂ったレオは慌てて次の手を考える。

 しかし、もう一度急所に当たらなければ問題ない。そう結論付けて攻撃技を選択した。

 

『倒してバラちゃぁぁぁん!』

『耐えろゆみぃぃぃぃぃぃ!』

 

「ねえ、マジであたしはどうすればいいのこれ?」

 

[これは熱い]

[バラギ大困惑で草]

[切り抜き確定なんだよなぁ]

 

【バラちゃんのダイワーム!】

 

【きゅうしょにあたった!】

 

【ゆみはたおれた!】

 

 あるはずがないと思っていた二回連続急所。ここぞというところで天はまひるの味方をしたのだ。

 

『やったぁぁぁぁぁ!』

『くっそぉぉぉぉぉ………………』

 

[おおおおおおお!]

[まひるちゃんが勝った!]

[レオ君もいい勝負だったぞ!]

[最近のにじライブのライバー伝説作りすぎじゃない]

[伝説は量産されるもの]

 

 レオの手持ちを全て倒したことで、まひるは勝利の雄たけびを上げた。

 それとは対照的に、レオは悔しさを滲ませていた。

 ほとんど勝ちに近い状況での運負け。これほど悔しいこともあるまい。

 

「勝負あったな! 勝者、白鳥まひる!」

「イェーイ! お姉ちゃん、おめでとう!」

 

[おめでとう!]

[おめでとう!]

[おめでとう!]

 

『二人共ありがとう! レオ君も対戦ありがとね!』

『……ええ、悔しいですが優勝おめでとうございます!』

 

 レオは悔しさを噛み殺して何とかまひるの優勝を祝う。そんなレオに対して夢美が声をかけた。

 

「レオ! いいバトルだった! だから、今日は準優勝パーティしよ?」

『夢美……』

 

[てぇてぇ]

[こいつらはすぐにいちゃつく]

[これでまだ入籍していないという衝撃]

 

 夢美は見た目以上にレオが落ち込んでいることを画面の向こうにいても察していた。

 レオはゲームをしていると、アイドル時代のような負けん気の強い素の部分が顕著に出る。それが自分の好きなゲームならば尚更のことだ。

 運負けしたとなれば、相当悔しいはずだ。夢美はレオの心情を慮って本番前にも言っていたパーティを行うことを提案したのだった。

 

「それでは、まひる嬢。優勝者としての言葉を述べるといい」

 

 そして、一通り場が落ち着いたタイミングで、サタンはまひるに優勝者としてコメントするように促した。

 

『雛鳥のみんなー! みんながまひるに根気よく教えてくれたから、あのレオ君にも勝つことができたよ! もちろん、最後は運勝ちだったけど、みんなの応援があったから優勝できたとまひるは思う! だから、ありがとうね!』

 

[全雛鳥が泣いた]

[これは名試合だった]

[負けても嫁といちゃついてるライオンのことは気にするな]

 

「それでは諸君! にじライブ剣盾杯はこれにて終了だ! 吾輩とまひる嬢のバトルについてはまた後日発表があるぞ! それではまたな!」

 

[最高の時間をありがとう……!]

[途中からきたから早くアーカイブ全部みたい]

[魔王様との対決も楽しみ]

[それはそれとしてレオ君とも戦ってほしい]

 

 こうして、にじライブ剣盾杯は大好評のまま幕を閉じた。

 決勝戦の同時接続数は十二万人を超え、後日ネットニュースでも取り上げられることになるのであった。

 配信が終わり、それぞれスタッフと話したり撤収作業を行っていると、まひるは勇気を出してサタンの元へと駆け寄る。

 

「あ、あのさ……」

「白鳥さん、お疲れ様です。コラボの予定はまた後日打ち合わせましょう。優勝おめでとうございます」

「あっ……」

 

 取り付く島もない様子のサタンに、まひるは言葉を失ってしまう。

 サタンはサタンで苦し気な表情を浮かべると、そそくさとスタジオを後にしようとした。

 しかし、駆け寄ってきた誰かに腕を掴まれ、サタンは足を止めて後ろを振り返った。

 サタンの腕を掴んでいたのは――林檎だった。

 

「待ちなよ、松本司(まつもとつかさ)。必死に頑張ったお姉ちゃんに対して、それはないんじゃないー?」

 

 林檎は飄々とした様子の中に、静かな怒りを込めてサタンを本名で呼んだ。

 




ちなみに魔王様関連の伏線ですがカラオケ回から仕込んでおりました。

またまたFAいただいちゃいました!

【挿絵表示】

とても素敵なイラストをありがとうございます!

ツイッターの方でもリツイートしております!
https://twitter.com/snk329

まひる&レオ「面白いと思った方はお気に入り登録、高評価お願いしまーす!」

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