「ほな、来月に向けてのミーティング始めるでー」
かぐやの言葉により三期生の月間ミーティングが始まる。
一期生は活動しているライバーがかぐや一人のため、正体が社内でバレた現在では三期生のミーティングと一緒にかぐやの状況も報告するようになっていた。レオのマネージャーである飯田がかぐやのマネージャーを兼任しているというのも大きいだろう。
「まず、剣盾杯お疲れ様! 取れ高たっぷりの試合でリスナーからも大好評やったな」
「「「ありがとうございます!」」」
かぐやはミーティングの本題に入る前に、三期生全員を労った。
先日の剣盾杯では、レオは決勝戦でまひると熱い戦いを繰り広げ、夢美はレオとの絡みで笑いを提供し、林檎は一撃必殺技を連続で当てて勝利するという豪運っぷりを見せつけた。
当然、これらの様子は切り抜き動画が作成されて大いに伸びていた。
「バンチョーも取れ高たっぷりでしたよねー。初戦で三タテ――」
「あ?」
「ひえっ」
笑いながらかぐやの戦績に触れようとした林檎だったが、ギロリと睨まれたことにより悲鳴を上げて口を噤んだ。
それから誤魔化すように咳ばらいをすると、かぐやは今後についての話を始めた。
「みんな、それぞれの担当から聞いとると思うけど、3D化が決まったで!」
3D化とは、文字通り現在使用しているライバーのモデルを3Dのモデルで作成することだ。
これを行うことによって、普段は表情の変化を読み取るだけの状態から、全身の動きをモデルに反映させられるようになるのだ。
Vtuberが登場したときは、むしろこういった3Dモデルが主流だったが、この手のモデルは制作にかなり費用がかかるため、手が出しづらい環境だった。
現在Vtuberといえば、にじライブのライバーと同じように、2Dのモデルを使用するのが主流である。
故に3D化は、ある意味にじライブのライバーにとっては、一つの通過点とされていた。
「えっ、三期生全員ですか!?」
レオは驚いたように同期である夢美と林檎の方を見た。
夢美も、林檎も驚いたように目を見開いてお互いに顔を見合わせる。
三人共自分だけが3D化していた場合、気まずいからと黙っていたため、かぐやに知らされるまで三期生全員が3D化することは知らなかったのだ。
そんな三人の様子を微笑まし気に見守ると、かぐやは話を続けた。
「順番としては、今週末に林檎、その翌週にバラギ、最後は月末にレオや」
「私が最初かー」
「林檎はピアノ配信の人気もある。レオと並んで3D配信との相性がええからな」
林檎のピアノ配信は小人達からずっと3D化を望まれていた。
にじライブ側としても、Vtuberに興味がない層や海外の視聴者を獲得するためにも林檎の3D化は急ぎたいところだったのだ。
「あ、あたしはどうして二番目なんですか?」
夢美は恐る恐るという様子で、自分が何故二番目に選ばれたのかをかぐやに確認する。
「いろいろな兼ね合いの結果や。レオはその気になればガチライオンで出演できるしな」
「勘弁してくださいよ」
「そういう割には随分とノリ気やな」
「あはは……バレました?」
しかし、かぐやは夢美の疑問をそれとなく誤魔化してレオへと話を振った。
かぐやは誤魔化したつもりだったのだろうが、夢美にはその意図がはっきりと伝わっていた。
はしゃぐ林檎とレオをよそに、夢美は一人どこか暗い表情を浮かべた。
「そういえば、三人共、昨日の歌動画も良かったで! あんたらはトラブル続きやったから、きちんとしたコラボに視聴者達も大喜びやったしな!」
夢美の異変に気が付いたかぐやは強引に話の方向を三期生全員で出した歌動画の方へと持っていった。
「あー〝ハクナマタタ〟ですね」
「あたし、プンバラギってあだ名付いたんだけど……」
「ピッタリじゃん」
「はっ倒すぞ」
レオ、夢美、林檎の三人はライオンが主人公のアニメ映画の挿入歌を歌った。主人公のパートは当然レオが歌い、ミーアキャットのパートを林檎が、イボイノシシのパートを夢美が歌っていた。
「しっかし、白雪が編集をやってくれて助かったよ。まさかあんなクオリティになるとは思わなかった」
「ね! ホント林檎ちゃんって凄いよね!」
その動画の編集は林檎が行い、静止画を並べただけではなく様々なエフェクトを使い分けたクオリティの高い動画となっていた。
「ま、それほどでもあるけどねー」
二人から手放しで褒められた林檎は飄々とした態度を維持しようとしていたが、その口元は完全に緩みきっていた。
「レオも少年声と青年声の使い分けうまかったよ……さすが元アイドルだよね」
「まあ、な」
林檎を褒めている流れで自分が褒められると思っていなかったレオは、唐突に夢美に褒められたことで照れたように頬を掻いた。
「はぁ……」
小さくため息をつくと、夢美は決意を込めた瞳で言った。
「そういえば、あたし歌ってみた動画出そうと思うんです」
「お、ええやないか。何を歌うんや」
「ふふふ……それはまだ内緒です!」
どこか無理をしているように笑うと、夢美は口元に人差し指を当てた。
「ボイトレなら手伝うぞ」
「動画編集なら任せてー」
夢美の宣言を聞き、レオと林檎は張り切った様子で協力を申し出る。
「ああ、大丈夫。今回は自分で何とかしたいから」
「夢美がそう言うなら……」
「そっかー……」
夢美はそんな二人の協力を断った。
レオと林檎は肩透かしを食らったように、しょんぼりとした表情を浮かべた。
それからミーティングはつつがなく終了した。
「レオ、あたしは用事あるから先に帰ってて」
「……はえ?」
「別に常に傍にいないと死ぬわけじゃあるまいし、そんな顔しないでよ」
基本的に事務所に行くときも来るときも一緒に行動していたレオは、夢美の意外な申し出に間抜けな声を零した。
そんなレオに苦笑すると、夢美はレオを安心させるように笑顔を浮かべた。
「あたしは大丈夫だからさ」
「……わかったよ」
――こういうときの夢美は梃子でも動かないよな。
不承不承、といった様子でレオはとぼとぼと一人帰路に就いた。
夢美はレオが先に帰るのを見届けると、事務所の休憩スペースの一角に腰を下ろした。
「はぁ………………気まずいなぁ」
夢美は先日レオの初恋の相手を聞いたことや、自分の最近の現状を鑑みて悩んでいた。
このままレオと一緒にいていいのか、このままレオや林檎と同じようにライバーとして走り続けられるのか。
そんな不安が夢美を常に襲っていた。
「バラギ」
「あっ、バンチョー……」
机に突っ伏すようにだらけていた夢美の元にかぐやが現れる。その手にはストレートの紅茶とカフェオレがあった。
「ありがとうございます……今回はストレートティーなんですね」
「成長しない女と思われるのは心外やな」
冗談めかして笑うと、かぐやは夢美の横の席へと腰掛けた。
夢美がレオとのことで炎上したときも、こうして二人は事務所の休憩スペースで話をした。
あのときはかぐやの正体が諸星であると気づいていなかったため壁を感じていたが、今ではすっかり頼れる先輩だと夢美は感じていた。
「何か悩みでもあるんか?」
「まあ、悩みっていうほどのものじゃないですけど……」
「嘘やな。顔に書いてあるで?」
「あはは……バンチョーに隠し事はできないなぁ」
かぐやは夢美の現状から、彼女がどんなことで悩んでいるか見当がついていた。
一瞬だけ辛そうな表情を浮かべると、かぐやは夢美へとアドバイスを送った。
「正直、ウチにはきっとあんたの悩みを解決することはできへん。きっとバラギもウチには話しづらい内容なんやろ?」
「そう、ですね……」
「せやったら、事務所の外の人間に相談すればええ。情報漏洩も心配やから同業者が好ましいな」
「そんな知り合い――あ」
夢美には事務所外の人間であり、相談できる同業者に心当たりがあった。
そんな夢美の様子を見て安心したかぐやは、笑顔を浮かべて言った。
「解決策をすぐに見つけられんかったとしても、話すだけで楽にはなる。あんま頑張り過ぎひんようにな」
「バンチョー……ありがとうございます」
「構へん、構へん。あんたが明日も元気に配信してくれるならそれでええ」
カフェオレを飲み干すと、かぐやは「さ、仕事に戻るかー……」と呟きながら、マネジメント部がある方へと去っていった。
さあ、てぇてぇに繋がるための大事な話の始まりだ!