石上優はやり直す   作:石神

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柏の花言葉……独立、愛は永遠に。


石と柏のエピローグ

〈生徒会室〉

 

マキ先輩と別れると、真っ直ぐに生徒会室へと向かう。室内には誰一人居らず、辺りはシンと静まり返っている。

 

「まぁ今は、1人の方がいいのかな……」

 

独り言をポツリと零し、僕は書類に手を伸ばした。

 

「……」

 

30分程書類処理に時間を費やした後顔を上げる……珍しく全員遅れている様だ。伊井野は風紀委員の仕事で遅れる事も珍しくは無いけど、普段なら居る筈の会長や四宮先輩の姿も無い……藤原先輩はどうせ遊んでるんだろうけど。

 

「……」カチャッ

 

ソッと生徒会室の扉が開かれ、入って来た人物を見て一瞬息が止まった。

 

「柏木、先輩……」

 

「石上君……」

 

僅かに目を腫らし、泣いた様な跡が残った顔で……柏木先輩は真っ直ぐに僕を見つめている。

 

「……何か用ですか? 会長や四宮先輩ならまだ来てませんけど……」

 

気まずさと気恥ずかしさを誤魔化す為に、若干素っ気ない言い方になってしまった。怒鳴ってしまった事や、情け無く泣いてしまった事も影響しているんだろうなと、僕は何処か他人事の様に……自分の言動を分析していた。

 

「そ、その……」

 

「……」

 

「ごめんなさい!!」

 

「……え?」

 

先輩はそう言うと同時に、勢いよく頭を下げた。

 

「イジワルしてごめんなさい、八つ当たりしてごめんなさい……」

 

「せ、先輩……?」

 

「泣かせて……ごめんなさいっ!!」

 

泣いてしまった事を面と向かって謝罪され、カッと顔が熱くなると同時に思わず後退る。

 

「そ、その事は……」ススッ

 

「ま、待って!」ガシッ

 

勢いよく先輩に抱き付かれ、後ろへと体勢が傾いた。

 

「ちょっ!?」

 

真後ろのソファに足が当たった所為でバランスを崩し、僕と先輩はそのまま倒れ込んだ。

 

「うっ!」ボフッ

 

「きゃっ!?」

 

「……だ、大丈夫ですか?」

 

「ごめんなさい……」

 

先輩は僕の胸に顔を埋めたまま、謝り続けている。

 

「……もういいですよ。」

 

「良くない……良くないよ。」

 

「……」

 

「ごめんなさい……もう石上君と一緒に居られなくなるって思ったら私っ……! あんな事……石上君にしか言わない! 誰でもいいなんて思って無い!!」

 

……そうか、そうだったなら……先輩だけに謝らせる訳にはいかないな。

 

「僕も……すいませんでした。」

 

「どうして……石上君が謝るの?」

 

「先輩から逃げないって約束したのに……」

 

「違う! 私がっ…私があんな事言ったから!」

 

「僕も……紛らわしい言い方をしたのが悪かったんです。さっさと言いたい事全部言っていれば、こんな事にはなってなかったかもしれないのに……」

 

「全部……? 石上君は、何を言おうとしたの?」

 

「あの後……僕と偽物の恋人じゃ無くて、本物の恋人になって下さいって……言おうとしたんです。」

 

「……」

 

「テストで先輩との約束を果たせて……少しは格好良い所も見せられたのかなって、自惚れてたんですけど……」

 

「……自惚れなんかじゃ無い、石上君はカッコ良いよ。」

 

「ははは、そうなら嬉しいっすね……」

 

「ちゃんと本当だから。じゃあ……私達、本当は両想いだったんだね……」

 

「みたいですね、僕が不安にさせたから……」

 

「うぅん、違うよ。私が……」

 

「はは……僕達、謝ってばっかりですね。」

 

「……うん。」

 

「先輩……1つだけ約束してくれますか?」

 

「……約束?」

 

「……はい。もし先輩が僕に対して、不安や不満を感じる様になって……その事に悲しんだり、怒りを覚える様な事があったら……隠さずに僕に言って下さい。」

 

「石上君……」

 

「1人で耐えたり、我慢したりしないで下さい。」

 

「我慢しないで……いいの?」

 

……この時の柏木渚の心情は、とても一言では言い表わす事が出来ない様な状態だった。

 

四条眞妃と本音で話し合い、そんな訳が無いと否定し続けていた石上優への想いを自覚し、両思いが発覚……更にその本人から我慢する必要は無いと許しを得たのである。

 

「……はい、良いですよ。ちゃんと受け止めますから……」

 

「じゃあ、石上君……」

 

それでも、今の柏木渚の状態を一言で表すのなら……

 

「両思いの男女が2人っきりになったら……何をすると思う?」

 

感情が昂り過ぎて、れっ!をする(やらかす)一歩手前である。

 

「え!? えぇと……は、ハグとか?」

 

「……ふふ、いいよ。石上君は照れ屋さんだし、私はお姉さんだからね……」

 

「……か、柏木先輩?」

 

近付いて来る柏木先輩の瞳から逃げる様に、僕は反射的に目を瞑った。

 


 

〈生徒会室前〉

 

「やれやれ、随分と遅れてしまったな……」

 

担任教師と奉心祭についての話をしていた俺は、普段より遅れて生徒会室へと向かっていた。

 

「スマン、遅れっ……」ガチャッ

 

そして俺は……扉を開けた事を後悔した。

 

………

 

「ン……ンムッ…」

 

目の前から洩れ聞こえる小さな吐息に、時間の感覚が狂わされる。1分、或いは5分、もしかしたら10秒も経ってなかったのかもしれない。口を塞がれる感覚が消えると、僕はゆっくりと目を開けた……

 

「せ、先輩……」

 

「ハッ…ハァ……」

 

柏木先輩は息を整えながら、ゆっくりと体を起き上がらせた。

 

「えっ……い、今!? キッ……」

 

「ふ…ふふふ……」

 

動揺する僕を見下ろしながら……柏木先輩は、ゾクリとする様な妖し気な笑みを浮かべた。

 

「か、柏木先ぱっ……ンンーッ!?」

 

「ンンッ…チュッ……フムッ…」

 

先程の触れるだけのキスとは違い、はむはむと啄む様なキスに……一気に身体が熱くなっていく。

 

「ンム…ムゥ……!」

 

「せ…ンンッ…輩!? ちょ、ムッ…待っ……!?」

 

「」パタン

 

微かに扉の音が聞こえた気がしたけど、今の僕にソレを確かめる余裕は微塵も無かった。ドンドン熱くなる身体と、なんとか先輩を落ち着かせなければという思考が混ざり合う。

 

「フゥ…ハァ……ふふ、私……眞妃の気持ち、わかっちゃったかも。」

 

「え……?」

 

「私、キス(これ)……ハマっちゃうかも。」

 

「せ、先輩! とりあえず落ち着きましょう! 冷静になってっ……」

 

「私はちゃんと冷静だよ? それより……」

 

未だ戸惑いの消えない僕をジッと見つめて、柏木先輩は呟いた……

 

「石上君は違うの? 気持ち良いのは……私だけ?」

 

「い、いやっ、そんな事無いですけど……」

 

「じゃあ……もっと、しよ?」

 

「ち、ちょっと待っ……んむぅっ!?」

 


 

〈生徒会室前〉

 

「」

(石上ぃ!? 何やってんの!? っていうか何!? ヤッてんの!? 思わず閉めちゃったけど、コレどうすればっ……)

 

「あ、会長じゃないですかー!」

 

「藤原あああ! 来るなあああ!!」

 

「な、なんですか、小声で叫んだりして……早く入りましょうよー?」

 

「ち、ちょっと待て! 今どうすれば良いか考えてるからっ……」

 

「んー?」ソロリ、カチャッ

 

………

 

「んっ…むっ……」

 

「チュッ…ンン……」

 

「」パタン

 

………

 

「……どうだった?」

 

「はああっあぁ!? ヤッてる! 会長! ヤッちゃってますよ!?」

 

「だから! どうすれば良いか考えてるって言ってんじゃん!」

 

「は、入ってやめる様に言うしかないんじゃ……」

 

「さ、流石にそれは気まずいと言うか……最悪、終わるのを待つとか考えたんだが……」

 

「私は嫌ですよ!? 出所不明の体液が染み付いたソファに座るなんて!?」

 

「そんなん俺も嫌だわ! っていうか体液とか言うなよ、変に生々しくなるだろ!」

 

「わ、私、急用が出来たので帰りますね……」

 

「お前ふざけんなよ!? あんなデカイ爆弾の処理、俺1人にやらせる気か!?」

 

「い、いいですか会長? 私は帰る、会長は残る……つまり、挟み撃ちの形になるんです。」

 

「お前が帰る形にしかなってない!」

 

「あの……2人共、何をしてるんですか?」

 

「し、四宮……」

 

「か、かぐやさん……」

 

「どうして入らないんですか?」

 

「じ、実はその、バル○ン焚いててな……」

 

「そ、それで今、部屋の中では番を見つけた蝶が子孫を残そうとしてまして……」

 

「それってバル○ン焚いてちゃ駄目なんじゃ……」

 

「藤原ぁ! なんでバル○ン焚いてるっつってんのに、蝶が子孫を残してるとか生々しい言い方すんだよ!?」

 

「あわわわっ……部屋の中の光景を思い出して、つい言っちゃいました!」アワアワ

 

「?」

 

「すいません、遅れまっ……って皆さん、何をやってるんですか?」

 

「い、伊井野……」

(や、やべーよ……風紀にうるさい伊井野にアレが見つかったら……)

 

「み、ミコちゃん……」

 

「……? 皆さんが入らないなら、私が先に入りますね。」カチャッ…

 

「み、ミコちゃん、ストープッ!」

 

「ちょっと待て伊井野!……アレだから! とにかくアレだから!!」

 

「はぁ? 白銀会長まで一体何を騒いでるんですか? 早く入って仕事しますよ!」ガチャッ

 

「ち、ちょっと待っ……」

 

………

 

扉の辺りが妙に騒がしくなって来たのを感じた……なんだ? 僕は何を忘れてる? 唇の柔らかい感触と、肌に当たる吐息……更には身体に感じる心地良い重みに、頭がボーッとしてしまい思考が鈍る。

 

「文化祭まで時間無いんですから、遊んでる暇はっ……!」

 

その声に視線を向けると、扉を開けた伊井野と目が合い……そしてその瞬間、全てを理解した。

 

「」バサッ

 

「あ……これは、その……」

 

忘れていた、此処は……

 

「ア……ア……」フルフル

 

「い、伊井野?」

 

生徒会室だった。

 

「き、騎乗ぃ……」

 

「待て、違う。そんな事やってないから!」

 

「や、ヤッて……」

 

「変換するな!」

 

「……藤原さん、騎乗位って何ですか?」

 

「ゔぇっ!?……へいSir○騎乗位で検索。」

 

「おいバカやめろ。」

 

伊井野に続いて、四宮先輩、藤原先輩、会長が次々に生徒会室へと入って来た事で、一気に騒がしくなった。見られた……滅茶苦茶恥ずかしい。ま、まぁとにかく、これだけ人の目があれば先輩も自重して……

 

「石上君、ちゃんとこっち見て。」

 

「え、あのっ……そ、それより、見られてますよ?」

 

「そんな事より……気持ち良かった?」

 

「は、はい! それはもう! だ、だから、とりあえず落ち着きましょう!……ね!?」

(これ以上は色々ヤバい、何がヤバいかはアレだけど……とにかくヤバい!)

 

「そっかぁ、気持ち良かったなら……もっとしても良いよね?」

 

「……へ?」

 

柏木先輩の言葉に、一瞬思考が止まった。……え? もっとしても良いってどういう意味だっけ?

 

「ン…ンムッ……チュッ…ンン…」

 

「むうぅっ!? …んむ!?」

 

そんな考えは、次の瞬間には弾け飛んでいた。

 

「チュルッ…ウン……ンムッ…!」

 

「んーっ!?」

(し、舌が入っ……!?)

 

「」

 

「」

 

「」

 

「はえー……」

(眞妃さんの言ってた通り、ディープキス(おさしみ)は普通の事なのね……)

 


 

〈秀知院敷地内〉

 

「ふふ、怒られちゃったね?」

 

「笑い事じゃないです……」

 

「皆凄い剣幕だったもんね。」

 

「はい、明日から凄い気まずいです……」

 

そう言いながら僕は、あの後の一幕を思い出していた……

 

………

 

「い、石上! 生徒会室で何してっ……!?」

 

「石上くんのスケベ! 非常識正論男!!」

 

「ま、まぁ、そういう事は学校では……ちょっと、な。」

 

「おさしみ……」

 

「そ、その、今日は生徒会休ませて下さい!」

 

「あ……」

 

僕はそう言い残すと、先輩の手を取り生徒会室を飛び出したのだった。

 

………

 

「石上君、怒られちゃうかな?」

 

「うぅん、どうでしょうね。でも……」

 

「……?」

 

「先輩と、ちゃんと分かり合えたので……それは良かったかなって。」

 

「そっか……うん、私も良かったかな。」

 

「これから……よろしくお願いしますね?」

 

「うん、こちらこそよろしくね……ひゃっ!?」

 

びゅうっと強い風が吹き、全身を冷やしていく。僕の火照った身体を冷やすには、丁度良いかもしれないけど……

 

「……先輩、寒くないですか?」

 

「うん、平気。だって……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君の隣は……暖かいから。」

 

ー完ー

 




なんとか…なんとか終わらせられた_:(´ཀ`」 ∠):
至らない所もありましたが、ここまで読んで下さりありがとうございました! 出来るだけ早く、afterも投稿したいと思います。(`・ω・´)

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