石上優はやり直す   作:石神

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感想ありがとうございます(゚ω゚)
一部の人に受け入れられない展開があります。


柏木渚から逃げたくない

「石上君、やっと……2人っきりになれたね。」

 

普通なら照れたり恥ずかしくなったりするセリフなのに、僕はその言葉に隣を向く事が出来なかった。館内は空調により過ごしやすい気温になっているにも関わらず、背中を嫌な汗が伝って行く……

 

「……そうですね。」

 

「そういえば……文化祭でゆっくりお話ししようって言ってから、半年くらい経っちゃったね?」

 

「……そうでしたね。」

(まぁ、その間何度か逃げた事があるから仕方ないんだけど……)

 

「石上君、私見ると逃げるんだもん……流石に傷ついちゃうなー。」

 

「それは、すいませんでした。」

 

「ふふ、許してあげる。その代わり……教えてくれる? 貴方はどうして私から逃げるの?」

 

「それは……」

 

「……話せないんだ? じゃあ、どうして眞妃を応援したりするの?」

 

「……いけませんか?」

 

「うーん、正直やめて欲しいかなぁ……」

 

「何故ですか? 好きな人と付き合いたいっていう眞妃先輩の気持ちは、どうでもいいんですか?」

 

「……そんな訳ないじゃない、眞妃は大切な親友だもん。」

 

「だったらなんで?」

 

「なんで……か。はぁ……この子達はいいよね、ずっと……死ぬまで一緒にいられるんだから。」

 

柏木先輩は、目の前の水槽を撫でながらそう洩らした。

 

「私と眞妃はね、小等部の頃からの付き合いなの。その間、ずっと一緒だったの……習い事も、遊びに行くのも、クラスも……でも最近は、眞妃が私に隠し事をするようになった。」

 

柏木先輩の言葉を僕は黙って聞く。

 

「……去年の11月くらいかな? 私に内緒で眞妃が何処かへ行ったり、誰かと連絡を取り合ってるのを見るようになったの。」

 

柏木先輩は、水槽で泳ぐ魚の群れを羨ましそうに見つめながら話を続ける。

 

「それである日、中等部の文化祭に誘われたの。後輩に誘われたって言ってたけど、眞妃を誘うような後輩なら私も誘う筈だからおかしいって思った。そして、文化祭へ行くと……君が居た。」

 

水槽を背にして柏木先輩は真っ直ぐに僕を見る。

 

「直感でこの子だって思ったよ。何かを隠してるような……罪悪感を感じてるような、妙な雰囲気がして暫く色々調べてみても……大した事実は出て来なかったんだけど……」

 

「……」

 

「……君が眞妃と出会わなければ、私達はまだまだ一緒に居られる筈だったのに……」

 

「柏木先輩は……翼先輩にマキ先輩が取られるのが嫌なんですか?」

 

「取られるのが嫌か……当たり前でしょう? 小さな頃からずっと一緒だったのよ? これからだってずっと一緒だと思ってた……貴方がっ…貴方が余計な事さえしなければマキは……!」

 

前回の記憶を通して初めて……悲痛に顔を歪める柏木先輩を見た。でも、僕にはまるで……小さな子供が淋しいと、離れたくないと泣いて駄々をこねている様に見えて……僕はもう柏木先輩を怖いとは思えなくなっていた。

 

「やめてよ……私から眞妃を離さないでよ……眞妃に恋人が出来たりしたら、もう一緒には居られない……嫌なのっ! 離れたくないのっ! 耐えられないの!!」

 

……元々、柏木先輩からずっと逃げるつもりは僕にはなかった。僕だけ記憶を持って巻き戻った時間をやり直す事で、荻野を除けば一番影響を受ける人間は柏木先輩だったから。だから……マキ先輩の背中を押して応援すると決めた時に、柏木先輩から逃げてはダメだと思った。

 

「……それは違います。」

 

「何が違うのよっ……わかってるわよ、自分が可笑しな事言ってるって……でも、私は……!」

 

「マキ先輩は、貴女から離れたりしませんよ。」

 

「……なんでそんな事、貴方に言えるのよ。」

 

「……マキ先輩が貴女の話をする時は、とても嬉しそうな顔で話すんです。大切な想い出を、宝物を自慢するように……柏木先輩がマキ先輩と離れ難く思っているのなら、マキ先輩もきっと同じ様に思っている筈です。だって、2人は親友なんですから。」

(それに、親友が好きな人と付き合って、目の前でイチャイチャされ続けても……マキ先輩は貴女から離れようとはしませんでしたよ。)

 

「……」

 

先程まで昂っていた柏木先輩の感情の波が……小さくなっていくのを感じた。

 

「……眞妃はね、すっごく優しいの。」

 

「はい。」

 

「言葉遣いが悪いトコもあるけどね、他人を思いやれる……優しい子。」

 

「そうですね。」

 

「だからね、大好きなの。」

 

「はい、知ってます……」

 

「……そっか。もし眞妃が私から離れたりしたら、責任取ってくれる?」

 

「……僕に出来る事ならいくらでも。」

 

「じゃあ、とりあえずは……いいよ。今日の所はコレでおしまい……まだアシカショーやってるかな? ……行こっか、あんまり離れたままだと眞妃に怒られちゃう。」

 

「……そうっすね。」

 


 

〈水族館アシカショードーム〉

 

「うわぁ! マキちゃん、あのアシカ凄いね。」

 

「うん、凄い……」

(優のお陰で翼君と2人になれた。変わった後輩よね、なんの得にもならないのに……)

 

隣でショーに夢中になっている翼君を盗み見る……今回は、今度こそは、次はきっと……告白するって決めて、その度に何も言えなくなる自分の弱さが嫌いだった。そういう事がある度に優に対して愚痴を吐いて、宥められるのがお約束になっていた。今日も2人で居る時間があれば告白するつもりだった。でも……私はまた何も言えなくなる。

 

〈……以上で本日のアシカショーは終了となります。ご来場の皆様ありがとうございました。〉

 

「マキちゃん、終わったよ……大丈夫?」

 

俯いている私を心配した声が隣から聞こえる。

 

「あ、もしかして気分悪い? ちょっと休もうか、動ける?」

 

昔から変わらない、その優しさに……

 

好きな人がいる人の想いは……報われてほしいじゃないですか

 

物好きな、可愛い後輩の言葉に……

 

「翼君……」

 

私は……

 


 

〈水族館内水中通路〉

 

〈……以上で本日のアシカショーは終了となります。ご来場の皆様ありがとうございました。〉

 

「あー、アシカショー終わっちゃいましたね。」

 

「んー、じゃあ此処で待ってようか? 丁度戻る時通る筈だし。」

 

「そうですね……ん? 小野寺?」

 

「い、石上……やっほ。」ギクッ

 

「奇遇だな、誰か友達と来てたのか?」

 

「う、うん……伊井野と大仏さんと3人で……」

 

「へー、仲良くしてるみたいだな。」

 

「そりゃまぁ、同じクラスだしね。ゴメン、伊井野達先に行っててさ……もう帰るトコなんだよね。」

 

「そっか、引き止めて悪かったな。」

 

「気にしなくていいよ、じゃあね。」

(見つかっちゃったし、2人が戻って来たらボロ出しそうだし、さっさと此処から出よう。)

 

私が通り過ぎる瞬間、石上の隣にいた女性と目が合った。

 

「尾行する時はもう少し上手にね?」

 

「っ!?」

 

ボソリと呟かれた言葉が耳に突き刺さった……恐怖で振り返る事も出来ないまま、私は走って伊井野達の元へと向かった。

 

「あっ、麗ちゃんどうしっ……」

 

「早く出るよ!!」

 

「えっ、麗ちゃん?」

 

「何かあったの?」

 

「いいから早くっ!!」グイグイッ

 

「「ええぇぇっ……」」ズルズル

 

………

 

「……あ、マキ先輩達いましたね。」

 

「うん、合流出来て良かった。」

 

此方へゆっくり歩いて来る2人の姿が目に映った。マキ先輩は俯き、翼先輩はそっぽを向いている。お互いの姿を見ていない2人の瞳に反して、2人の手は……しっかりと繋がっていた。

 

 




マキちゃん曇り顔派の人はすいません(´;ω;`)
悩んだけど、5巻167ページを見て救済する以外の選択肢が消えました。マキちゃんの泣くトコはもう見たくない…
あと、サタン柏木のマキちゃんに対する同一化願望というのがイマイチ理解出来ませんでしたが、ちょっと歪んだずっと一緒に居たい願望だと思うのでこういった話になりました。
あんまり狂気度上げると収拾つかなくなりそうだし…原作のやべー奴感には勝てない_:(´ཀ`」 ∠):

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