ガバ転生メイリンによる「こずみっくいら」再現物語 作:めんりん
…はぁ…。あ、えっと。メイリン・ホークです、はい。
私たちとミネルバはダーダネルス海峡に向けて移動準備中。目的は周辺の巻き返しにきた地球軍艦隊とその増援部隊の侵入阻止及び撃退。
で、その増援部隊ってのがオーブ軍っと。ええ、ええ、分かってますとも。これから始まる戦いこそ、第一次フリーダム乱入事件&あのカガリは偽物だ事件&………ハイネ・ヴェステンフルスの死亡事件。
ったく…目白押しにも程があるっての。シンはシンでちゃっかりステラと初コンタクトして来てるし。すぐ顔に出るんだから。
こっからほんと忙しい。まあ…私のこの過去最高レベルの低テンションの理由はそれだけじゃないんだけどさ。
いやだってわかんないじゃん? 今から人殺そうとしてる人間の心のあり方がわかる人いたら教えてほんと。
顔でも洗ってこようかな。特に通信等が来てないことを確認して、私は左耳にしてるインカムを外してブリッジを出る。とりあえずモヤモヤしたら冷水を顔にぶっかけるようにしてる16歳。
カツンカツンと踵を鳴らして乙女の安息所を目指していると、今一番会いたくない顔を含むメンツが向こうから歩いて来た。
「あ、メイリン」
お姉ちゃん、とシンにレイにザラ隊長に…ヴェステンフルスさん。勘弁してくれよ、何のために顔洗いに行くか分かんなくなったわ。
「お、君さっきの。ルナマリアの妹で名前は…あ、メイリン・ホーク。MS管制官なんだって?」
「…あっ…えっと、はい…まあ…」
気さくでいい兄貴分なんだよね、普通に接してれば。それが余計に私の胸中をかき乱すんだけど。いっそ清々しいくらいにクズだったら楽なのに。
「なんかどんどんオペレート大変になってくけどさ。俺も気合入れてメイリンちゃんが楽できるよう頑張るから、一つよろしく」
「…え、あ、よ、よろしくお願いします、ヴェステンフルスさん」
私のその呼称に、彼は分かりやすく眉を潜めた。知ってるよ、そういう
「堅っ苦しいのはなしでいこうぜ? これから関わる機会いっぱいあるだろうし、ハイネでいいって。さっきこいつらにもそう言い聞かしたとこでさ」
無理だ、悪いがあなたと関わる機会はあと数日もない。このまま距離を保たせてもらう。あなたに情を移すわけにはいかないんだよ。あなたには、次の戦闘で確実に死んでもらわねばならない。
私が知る未来への道筋に、あなたは障害でしかない。
「いえ…そういうわけには…仕事がありますので、失礼します」
これ以上顔を合わしたくなかった私は、体を反転させてきた道を戻る。なんなんだまったく、なんでよりによってこうも人格者なんだこいつは。
「あ、ちょっと、メイリンっ!」
ごめんお姉ちゃん、今はお姉ちゃんとも喋りたくないや。
* * * *
深夜。パパッとシャワー浴びて休憩室に逃げてきた。部屋にはお姉ちゃんいるし、顔合わせたら絶対さっきの話になるからね。
仕方ないけど、今夜はここで夜を過ごすとしよう。歯ブラシとかの必需品はかっぱらって来たから、ここで夜明けまで過ごしてブリッジに行けば問題ナッシン。
さて何しよう。一人トランプでもしようかな。タワーとか立ててれば意外とすぐ時間なんて過ぎるもんさ。
心のモヤモヤを吹き飛ばさんがためにノリノリでトランプタワー建設に取り掛かろうとした矢先。
「なんだ、こんな時間に一人でトランプか?」
そんな彼の言葉で私のトランプタワー建設計画は日の目を見ることなく頓挫した。理由は私の心境の悪化。
「ヴェ、ヴェステンフルスさん、こんな時間にどうしんですか?」
「ルナマリアからメイリンちゃんが部屋に戻らないって連絡来てな、原因だろう俺がお話しついでに迎えにきたってわけ」
…あっそ。もうお姉ちゃんたちとそんなに打ち解けてるんだ。やっぱあなたは危険だよ、生かしておけば必ず大きな歪みを生む。
みんなのため、お姉ちゃんたちの、私の知るあるべき結末のため。次の戦闘で確実に死んでもらう。
「あと呼び方な。ハ、イ、ネ。そこんとこも含めてちょっと話そうぜ。どのみちすぐ帰るつもりもないんだろ?」
「…いえ、もう休みます。明朝には出港です、ヴェステンフルスさんもお休みになられた方がよろしいかと」
部屋には帰らない、こうなったらトイレにでも篭って意地でも雲隠れしてやる。背中と腰が不安だが背に腹は変えられない。
そう思い立ち、彼の隣を抜けてトイレに向かおうとした時、
「その作戦のために。こんなんじゃダメだと思って来たんだ。悪いが少し付き合ってもらうぜ」
手を掴まれた。気持ちさっきよりも低い声音と一緒に。
「必要ないですよ、仕事はきちんとこなします。任務ですから」
嘘だ。私は明日、意図的に仕事を放棄する。彼が死ぬタイミングは、乱入してきたフリーダムが攻撃を開始し、彼の駆るグフの右腕がフリーダムに切り落とされてから最初にフリーダム、グフ、ガイアが一直線に並んだ時だ。
より正確に言えば、フリーダムとガイアの間に彼のグフが入り込んだ時。MS管制をしてる私からなら、逐一その動きは補足できる。
だから、
「あのな、同じ艦に乗る以上俺たちは仲間だ。俺は仲間を全力で守る。だが管制官の君にそういう態度を取られると、こっちとしては戦いにくくてしょうがないってこと。艦全体のためにも、パイロットとオペレーターの信頼関係は戦場を生き抜く上で必ず必要になるもんだ、違うか?」
違わねーと思いますよ。むしろごもっともだ、私が原因でパイロットのコンディションに影響が出るというのなら、それはクルー全員の生死に直結すること他ならない。私は、間接的に艦を危機に晒していることになる。
でも、それがなんだという。どのみち次の出撃で彼は死ぬのだ。私が彼のMSをオペレートするのは明日が最初で最後、尚且つ私は彼の死神も同然だ。
私と彼の間に、必要なものなど何もない。むしろ今作れば作るだけ、後が辛いだけだ。
いっそ言ってやりたいくらいだ。明日お前は死ぬんだと、私が殺すからんなもんいるかよって。でもそれはできないし、したところで意味はない。
かと言って、このままでは彼は恐らく私の手を離してはくれないだろう。だから、私はさらに最低な手段を使うことにした。
「…では、明日。作戦が終了したら、全てお話しします。それまでに私も気持ちを整理しておきますので。それで今日はご納得いただけませんか? もちろん、作戦行動中に私情を挟まないことをお約束します」
反吐が出る。何もかも嘘だ。私情もいいとこなうえ、作戦終了後に彼はこの世にはいない。これほどまで嘘に塗れた約束も珍しいだろう。
「…わかった、バッチシ帰ってくるから、そん時は腹割って話しようぜ。約束な?」
「ええ、承知しました」
割るのはアンタの腹じゃなくてグフのコクピットだけど、なんて皮肉が頭をよぎった。マジでクズだな、私。
「悪かったな、こんな時間に。お、そうだ、ちゃんと部屋には帰れよ。…姉ちゃん、心配してたぞ」
そう言って、私の手を離して彼は去っていく。私も帰ろう、トイレなんがじゃなくて、もう頭から布団被って何も考えずに寝たい。
* * * *
と、そんな気持ちでフラフラと部屋に帰った私も迎えたのは、明らかに怒なお姉ちゃん。
「あんたねぇ、こんな時間まで一体何してたのっ!? 明日作戦なのよ?」
「…ごめんなさい」
ダメだ、色々あったせいで心の許容量がオーバーヒートしてる。何も考えたくない、聞きたくない、したくない。
「ハイネにもあんな態度で。徽章見たでしょ? 彼もアスランと同じくFAITHなのよ?」
「…ごめんなさい」
知ってる。見る前から、会う前から知ってる。それに選ばれるくらいに人格が優れて、お姉ちゃんたちとアスランさんとの間にあったわだかまりをあっという間に消してしまいそうなほどの存在だということも。
だからこそ、ここで確実に殺さなくてはいけない。
彼の存在は、シンたちに必要以上の成長をもたらすかもしれない。そうなれば、今後の物語のターニングポイントに致命的なズレが生じる可能性がある。
彼が生きていれば、シンは憎しみに駆られてフリーダムを撃つだろうか? アスランさんとああもすれ違うだろうか? そして、アスランさんは本当にザフトを脱走するだろうか?
全て不明瞭だ、もしかしたら私の考えすぎなのかもしれない。だが、何か一つでも歯車がズレてしまえば、物語の結末は必ず変わる。危ういバランスの上で成り立っている物語に、ハイネ・ヴェステンフルスという存在はあまりに不確定過ぎる。
だから、殺すしかない。私が目指す未来のために。彼はなにも悪くない、ただただ運命に恵まれなかった、それだけの話だ。
「ちょっと、聞いてるのメイリン。いつまでも子供みたいなことしてないで、ちゃんと話してみなさい。いい人よ、少なくてもあんたが嫌いになるような人じゃないんだから」
ああもうっ!! だからっ!! そんなの全部っ!!
「わかってるってばぁっ!!」
「っ!? メイリン…?」
思わず耐えきれなくなって大声が出た。心のぶつける場所を探すようにスカートをぎゅっと握りしめる。あれ、なんだろ。視界が霞んでる、鼻も詰まってきた。
「わかってるもん…でもっ…でもっ…!」
嗚咽で声もうまく出ない。もういやだ、どうして私なんだ。どうせならキラとかに転生すれば良かったのに。なんで何もできない私がこんなことしなきゃいけないんだ。
力もない影響力もないただのオペレーターに、他にどうしろってんだ。
文句あるなら今すぐ誰かなんとかしてよ、今すぐ議長とロゴス殺して世界救えよ。
でもそれがっ!!
「それが…できないからっ…頑張ってるのに…っ!」
頑張ってるのに。それでもなんとかしようと頑張ってるのに。
「なのにぃっ……っ!?」
………あれ、あったかい。
「…ごめん、言い過ぎたね」
「お…ねぇ…ちゃん」
わたし、抱きしめられてる?
「…そうよね、アンタはアンタなりによくやってるわ」
…………
「大丈夫よ、何があっても、私はアンタの味方だから。疲れたでしょ、今日はもう寝なさい」
…そう、お姉ちゃんに言われると。急に瞼が重くなってきた。これが泣き疲れってやつなのかな。やめよ、考えるのめんどくさいや。…これ以上はもう、何も考えたくない…。
* * * *
なんてことが、ほんの数分前。
「…すぅ…すぅ…」
「まったく…どうしたんだか」
そう呟いて、私は隣で泣き疲れて眠る妹の髪を撫でる。久しぶりに、と言うか初めてみた、この子のあんな泣き顔。
小指ぶつけて涙目になってたりはよく見てるけど。あんなに何か思い詰めて押し潰されそうになってるような顔は、多分はじめて。
「…わかってる、か」
そうよね。普段からトンチンカンなこと言ってアホやらかしてるからたまに忘れそうになるけど。
この子はバカじゃない。まして理由もなく人を避けたり嫌ったりするような子でもない。人見知りがあるのはまあ…しってるけど。
だから、きっと理由があるのだろう。この子なりに、仲良くしたくてもできない理由が。仕方ない、少しだけ待ってみよう。ハイネには悪いけど、まあこればっかりはね。
流石に妹にあんな泣き顔されて無碍に出来るほど、私は薄情じゃない。
「それでもまあ……やっぱ甘いのかな、私」
可愛い顔で寝ちゃって、もう。さっきまで涙と鼻水でグシャグシャにしてたくせに。いいわよ、でも。
アンタがいい相手見つけて嫁に行くまでは、私が守ってあげる。何があっても、私が必ず守ってあげるから。
だから、今はゆっくり休みなさい。
「おやすみ、メイリン」
可愛らしい寝息を立てる妹の額に軽い口づけをして、私も一緒のベッドに入る。何があったか知らないけど、今日くらいはいい夢見なさいよ。
* * * *
そう、誓ったはずなのに。
この数日後、私は自らの無力さをこれでもかと痛感させられることになる。でもこの時の私には、そんなこと知る由もなくて。
いつまでもずっと、この子が隣にいてくれるんだと無意識に思い続けていた。
けれど、そんな私の浅はかな願いを、運命はまるで嘲笑わうかのように奪い去っていく。
全ては、あの雨の降りしきる、雷鳴の夜に。
西川案件が終わるまではこんな雰囲気(・Д・)