ガバ転生メイリンによる「こずみっくいら」再現物語   作:めんりん

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注意書き&お詫び。

皆様ご存知のとおり、今回は「プロローグ」に続く答え合わせ前半です。プロローグという意図的に情報を遮断、隠蔽した結果、プロローグ時と現在で主人公(メイリン)の心情が

『ほぼ別人』

レベルに乖離してきます。矛盾と捉えられるかたが多数おられるかと思われますので、先にお詫び申し上げます。

それでは、原作本作のターニングポイント兼答え合わせ前半、お楽しみいただければ幸いです。




第十七話 : 訣別 (前編)

 

「雨…か」

 

与えられたホテルの自室で俺はそんな何の変哲もない呟きを漏らした。除隊の意思を示してからおよそ数時間。必ず何か仕掛けてくると踏んで警戒していたのだが。

 

予想と反して現状は何もない。刺客の一人や二人は覚悟していたんだが。まあ、この不気味なまでの静寂が、却って胸中の不安を掻き立てるような気もする。

 

 

「ん?」

 

 

明かりすらつけていない部屋のドアを、誰かが叩く。遂に来たかと警戒心を高めながらドアに近づこうとしたが、その前に鍵をかけ忘れていたらしいドアを開けられてしまう。

 

 

「アスラン! ああもう、やっぱりいた」

 

 

ドアから入ってきたのは、武装した兵士などではなく見知った一人の女性だった。姿も声も、あのラクス•クラインそのもの。議長によって見出された、()()()()()()()

 

 

「ミーア?」

 

 

自身の本名を呼ばれた彼女は、消してあった部屋の明かりをつけ俺の方へ駆け寄ってくる。

 

 

「ダメよ! こんなとこにいちゃ。あなた、さっきも格納庫で議長にちゃんとお返事してなかったし」

 

 

そういえばそうだったな。議長の語る平和への思いや人の幸せの条件。争いのない世界を真に望んでいるのだと分かる彼の言葉は、一見すれば正しいのかもしれない。

 

現に、シンは目を輝かせて聞いていた。受領する新たな機体への期待を多分に含まれていたとは思うが。

 

 

だが、今の俺にはどうしても心から頷くことができなかった。今の彼からは、どこか俺の目の前で死んだ()()()に似た感覚を覚えてしまった。

 

 

「こんなことしてたら、あなたまで疑われちゃう。あのシンって子、もうずっと新型機のとこにいるのよ? あなたも早く」

 

 

そう言って腕を引っ張り、彼女は俺を部屋から連れ出そうとする。疑われる? ちがう、あなた()()

 

 

「まて、ミーア。どういうことだ、疑われる? 俺まで?」

 

「ほら、これ」

 

 

そうして手渡された一枚の写真を見て、驚愕した。そこには、タルキウスで俺がキラやカガリと会っている光景が映し出されていた。

 

 

「さっき、議長があのレイって子と話してて」

 

 

迂闊だった。これではいくらでも俺を拘束する理由ができてしまう。

 

 

「ね? だからヤバいのっ!まずいのっ! このままだとあの子みたいに消されちゃう!」

 

 

…あの子?

 

 

「ミーア。俺まで疑われる、とはどういうことだ? 俺の他にも、議長に目をつけられた奴がいるのか?」

 

「ええそうよ。レイって子と一緒に議長と話してた女の子。多分ミネルバにいるでしょ、こう…赤い髪をこんな風にした」

 

「っ!?」

 

 

そう言って両サイドの髪を持ち上げるミーアを見た瞬間、俺は彼女の言う()()()の正体を悟った。

 

 

「まさか…メイリン?」

 

「そう、たしかそんな名前の」

 

 

馬鹿な。なぜ彼女が議長と? そもそも彼女が消される理由はなんだ?

 

 

「あの子、議長に正面から逆らっちゃったのよ。私の幸せは私が決めます、みたいなこと言って」

 

 

…なるほど。己の出来ることを最大限にしていることが幸福だという議長の考えに異を唱えたのか、彼女は。

 

他者から押し付けられた幸福などいらぬと。人形として生きるのはごめんだと。

 

 

「それで、議長はなんて?」

 

「何か、第二の白のクイーン足るかもしれないとか何とかって仰って。レイって子に『消してくれ』って。ね? だからヤバいの、このままじゃあなたまで」

 

 

白のクイーン……っ!? まさか、議長の言うそれは…っ!今、彼が一番始末したいだろう人物。それに足ると言うことは、おそらく議長は本気で彼女を消しにくる。

 

 

「ちぃっ!」

 

 

気づけば体が動いていた。ドアを開けて廊下にだれもいないことを確認した俺は、ミーアに向かって手を伸ばす。

 

 

「君も早くっ!」

 

「え、アスラン? 一体どうしたの?」

 

 

まだわからないのかっ!?

 

 

「議長は、自らが与えた役割をこなす者にしか興味はないっ! 彼に都合の良いラクス、モビルスーツパイロットとしての俺っ! そして、自身に対する危険分子は徹底的に排除する!」

 

 

先日の彼女の姿。俺でさえ一瞬ラクスに諭されているかのような錯覚に陥りかけた。もし、あれもまた彼女の本質だと言うのなら。あの未来予知の如き眼と、議長に対する確かな反抗の意識。

 

彼が無視をするはずがない。

 

 

「君だっていつまでもこんなことを続けられるはずはないだろうっ!? そうなれば君だっていずれ殺される! 俺や、彼女のように!」

 

「っ!?」

 

 

自分が命を狙われると知って、彼女は驚愕に表情を染める。

 

 

「君も来るんだ、でないとっ!」

 

 

でないと、いずれ必ず消される。彼女は議長の有用な道具であり、同時にウィークポイントでもある。そんな存在を、いつまでも手元に残しておくわけがない。

 

 

「あ、あたしは…あたしはラクスよっ!」

 

 

だが、伸ばしてた手は彼女に拒絶された。

 

 

「ミーアっ!!」

 

「ちがうっ!!」

 

 

強く、それでいて酷く悲痛な叫び。

 

 

「あたしはラクスっ! ラクスなのっ!」

 

 

それほどまでに。命を危険に曝されているというのに。それでもなおそこにいたいと思わせるほど、『ラクス』という名と立場は彼女を冒してしまったらしい。

 

 

「役割だって良いじゃないっ! ちゃんと…ちゃんとやればっ!」

 

 

ダメなんだ、それでは。たとえそうやって涙を流しながら訴えたとしても、そんなものは通用しない。狙われれば殺される、ここにいる限り避けられはしない。

 

 

「ちっ!」

 

 

外が騒がしくなってきた。保安局が乗り込んで来たのだろう。時間がない。

 

 

「ミーアっ!!」

 

 

だが、再度伸ばした俺の手を取ることなく、彼女は怯えるように後ずさる。

 

その姿を見た俺は、数瞬の躊躇いの後、彼女に背を向けて廊下に駆け出した。背中を刺されるような嗚咽を必死に聞こえないふりをしながら、俺は今この瞬間にも命の危機に晒されている少女の元へ走った。

 

頼む、間に合ってくれっ!

 

 

 

* * * *

 

 

はい皆さんこんにちは。メイリン•ホークですよきゃぴー。

 

 

いや仕方ないやん、めっさ疲れたんだもん。何で私が今ここでラスボスと舌戦しなきゃならんのよ。私、モブキャラじゃないの? 原作で議長と直接関わる機会なくない?

 

まあある程度は好き勝手やってるからそれなりに何かあるかなー程度は覚悟してたけど。まさかここまでなんてね。

 

そしてそのラスボスに盛大に噛み付きわっしょいをかます私のガバマーブル。やだぁ、これでロックオンされたらりーむーなんですけど。

 

あ、今ですか? とりあえず議長ルームから颯爽と抜け出した私は精神体力を回復すべくお姉ちゃんルームに無断で侵入。食堂であれやこれやとあったからか、全面的に甘えさせてくれるお姉ちゃん。

 

これは好機とベッドに座るお姉ちゃんの膝に頭を乗せて飼い猫のようにゴロゴロしてた私が数分前。今は自分の部屋に戻るべく廊下をトコトコ歩いてますよ。心配になってついてきてくれたお姉ちゃんと一緒に。

 

このあと、私は飛び込んで来たアスランさんと保安局の人たちに半裸を披露してそのままさよならバイバイ。

 

そうなる前に、お姉ちゃんには何かしらメッセージ残しとくかなぁとかおもったけどまあそんなに現実は甘くなく。だらだらグダグタしてたらあっという間に太陽沈んで雨降り注ぐってね。

 

 

「まったく…あんな奴らとこの先一緒に戦うなんて信じらんない。これだから地球軍は」

 

「ごく一部だよ。みんながみんなあんな風じゃないよ、きっと」

 

 

いまだにお姉ちゃんはぷんぷん。まあ普段私があれやこれやとかましてレイに捕まってることに比べれば軽いことよはっはっは()

 

 

……大丈夫だよ。この先何があっても、お姉ちゃんはきっと。どんなことがあっても、シンが隣にいてくれるから。

 

だから私がいなくても、きっと大丈夫。そう自分の胸に言い聞かせ、自室のドアを開けようとした時、

 

 

「メイリン•ホークだな? こちら保安局だ。お前を拘束するよう命令が出ている、悪いが同行してもらう」

 

 

はい? なんだって?

 

背後からかけられたなんのこっちゃブレイドワークスな声に振り返れば、ボディーアーマーとアサルトライフル構えた兵士の皆さんがこんにちは。

 

いやいや待て待て、お前らが追うべきは私じゃなくね? 結果的に私も含むがそうじゃねぇだろうがおい。

 

 

「どういうこと、この子に何の用?」

 

 

お姉ちゃんが私を庇うように前に出る。やばい、これは流石に予想してなかった。

 

 

「部外者に仔細は伝えられない」

 

「ざけんじゃないわよ、どこからの命令だって聞いてんの、用件も言わずにいきなりこんなの、おかしいでしょ」

 

 

やめてお姉ちゃん。それ以上やるとお姉ちゃんにまで余計な火の粉が飛んじゃう。かと言って私にアスランさんみたく素手で兵士を打ち倒すほどの腕力もない。

 

だが、この親指の爪を噛みしめたくなるような状況をぶち壊すチャンスは、意外とすぐにやって来た。

 

 

「伏せろっ!」

 

 

鋭い叫び声に、私は咄嗟にその場で屈む。直後、私の上を弾丸のような速度で影が飛び越した。

 

影は私を飛び越した勢いのまま兵士の一人に飛び膝蹴りをくらわせ、着地同時に左右の兵士の顔面にそれぞれ膝と拳を打ち込む。

 

瞬く間に武装した兵士三人を物言わぬ死体…ではないけど気絶させたのは、今し方に貧弱な私と引き合いに出した、ここにいるべき張本人のアスラン•ザラその人だ。

 

 

「アスラン!? なにしてるんですかこんっ!!」

 

 

声を出すお姉ちゃんの口を、アスランさんは原作の私にしたように手で塞ぐ。

 

 

「すまない、説明してる時間がない。外に出たいだけだ、静かにしてくれ」

 

 

倒れる兵士と、いつになく真剣なアスランさんの声を聞いたお姉ちゃんはおずおずといった様子で頷いた。

 

それを確認したアスランさんは、お姉ちゃんの口から手を離して倒れる兵士からアサルトライフルを一丁拝借。次いで私に目を向ける。

 

 

「メイリン、事情は移動しながら説明する。俺と一緒に来てくれ。ここにいるのは危険だ」

 

 

……なるほど。どうやら今議長にタゲられてるのは私ということか。そしてそれをラクス様(偽)づてに聞いた彼がここまで突っ走って来てくれたんだね。

 

 

「ちょ、ちょっと、どういうことよ、いったい何が」

 

「お姉ちゃん」

 

 

アスランさんに詰め寄ろうとしたお姉ちゃんの手をきゅっと掴み、視線を私に向けさせる。

 

 

「ごめん、私行かなくちゃ」

 

「メイリン! アンタまで何言ってーー」

 

 

ごめんね、こんな急な形になっちゃって。

 

 

「こんな形でお別れしなくちゃいけなくて、ほんとにごめん。でもきっと、必ずまた会えるから」

 

 

全てが終われば、生きていれば。きっと会えるから。

 

 

「な、何言ってるのよ? 全然わからないわよっ!」

 

 

だから…だから。

 

 

「また…また()()ね、お姉ちゃん」

 

 

涙で霞み始めた視界の中、私はお姉ちゃんを突き飛ばす。直後に、アスランさんの手を取って自分の部屋に入って鍵を掛ける。

 

 

「メイリンっ!? 何してるの! 開けなさいっ!!」

 

 

ごめん…っ! でもきっと、必ず会えるから。

 

 

「…いいんだな?」

 

 

確認の意を込めたアスランさんの低い声に、私は頷いた。

 

 

「いつかはこうなるって、分かってましたから。だから大丈夫です、絶対に、また会えますから」

 

 

そう言って、私は備え付けられた端末の最後のキーを押した。直前の直前まで用意しておいた、警報装置の誤作動コマンドだ。

 

瞬間、基地のあちこちで警報が鳴り響く。流石に今港のサイレンだけ鳴らしても意味ないからね。格納庫方面を避けた色んなとこに悪ささせてもらっちゃった。

 

「今のうちに格納庫へ、飛行可能な機体があるはずです」

 

「分かった。外に出たら車を回す、見えたら乗り込んでくれ」

 

 

私が頷くと、彼は部屋の窓ガラスを体当たりでぶち破りそのまま雨が降りしきる外へと駆け出していく。

 

少しでも私だと認識されづらくされるため、両サイドのヘアゴムを外して原作のようにそれなりに長い髪を背中へ流し、引き出しにしまっておいた拳銃を懐にしまう。

 

 

「開けてっ! お願いだからここを開けて、メイリンっ!!」

 

 

叫ぶお姉ちゃんの声に涙が溢れそうになるが、それは唇をきつく噛むことで我慢する。

 

 

「ごめんね、お姉ちゃん……っ!」

 

 

その言葉を最後に、私もまた彼を追って雨が降りしきる夜へと駆け出す。

 

大丈夫、きっとまた会える。全てが終わったら。ううん、その前に。あの運命の戦いの中で、宇宙で必ず会える。

 

だからその時まで、ちょっとの間のお別れ。

 

私、頑張るから。頑張って生きて必ずそこにたどり着くから。

 

だから……

 

 

ーまたね、お姉ちゃんー

 

 

 

* * * *

 

 

「ハッキングされてるぞっ! くそいつの間に!」

 

 

鳴り響いたサイレンの出所を特定した保安局の兵士達が続々と車に乗り込み走り去っていく。

 

聞けば、彼女を拘束しようとした兵士数名を突然現れたアスランが打ち倒し、ルナマリアの制止を振り切って一緒に逃走したとか。

 

あの何よりも姉を第一にしている彼女が、その姉の声を振り切って逃走したという事実。恐らく生半な覚悟ではなかったことだろう。

 

反対に、俺は未だに決められないでいる。ギルに「消せ」と言われた直後、頭が真っ白になる俺をよそに、彼は保安局に彼女の拘束を通達した。

 

拘束とは名ばかりで、実際は捕まったら最後。あらぬ容疑を着せられて人知れず闇に葬られる。

 

どうすればいい? 

 

これまで俺は、ギルの目指す平和な世界を作るために、ただそれだけのために戦ってきた。二度と争いなど起こらない二度と俺のような、()()()のような者が生まれてこない、平和な世界を目指して。

 

だが、彼女はそんな彼の世界を否定した。清々しいほどにあっさりと、正面から。

 

排除すべきだ。これまで通り、俺が目指すもののために。なのになぜ、俺は今こんなに迷っている。なぜこうも引き金にかける指が重い。

 

なぜこうも、胸に刺すような思いに支配されなくてはならない。

 

迷うなと、撃てと、いくら頭で命じても。俺の身体は一向にいうことを聞く気配がない。

 

そんな曖昧な思考のなか、何気なく走る車の窓の外を見た、そのとき

 

 

「っ!? アスラン…?」

 

 

猛スピードで走り去る乗用車のハンドルを握る、逃亡中の男の顔を見た。

 

 

 

* * * *

 

 

 

アスランさんがF1レーサーばりの爆走運転をかましてたどり着いた格納庫には、やはりと言ったように原作通りの機体が置かれていた。

 

グフイグナイテッド。いつぞやにとある人物が乗っていた機体の、正式量産カラーリング。

 

 

「急ぎましょう、いずれここにも追っ手が来ます」

 

 

頷いた彼とともに、機体に乗り込むためのリフトに乗ろうとしたその時、ふと小さな疑問が頭をよぎった。

 

たしかに小さい、だが決して軽くはない疑問。

 

追っ手…そういえば、原作でレイが格納庫に一人で来れたのって…っ!!

 

そう、取り返しのつかない失敗に気づいた時には、

 

 

「そこまでだ」

 

 

鳴り響く一発の銃声。空へと向けられた銃口からは硝煙が漂い、それを持つ彼の鋭い視線が私たちを射抜く。

 

 

「そこまでだ、メイリン」

 

 

低い声に、鋭い視線。来ないで欲しいと切に願った彼が…レイが、いつもよりも数段重い雰囲気を漂わせ、そこに立っていた。

 

 

「レイっ!」

 

「っ! 待って!!」

 

 

銃を向けようとするアスランさんを、慌てて押し留める。

 

 

「レイ…ひとり?」

 

 

見たところ、レイのほかに保安局の兵士は見当たらない。足跡も、車の音も、何も聞こえない。

 

 

「…ああ」

 

 

どうして一人で来たの、なんて言えない。理由なんて、分かってるから。兵士に拘束されるより、一人で来たほうが確実に()()できるからね。

 

 

「…私を、ころーー」

 

「戻れ、メイリン。俺は…お前を…お前を撃ちたくはない」

 

 

殺しに来たの? そう聞くつもりだった私の声を、彼が遮った。

 

……え? 今、なんて?

 

 

「今なら、まだ間に合う。議長には俺から掛け合う、軍にはいられなくなるかもしれない。だが、決してお前が殺されることになるようにはしない」

 

 

…あのレイが……議長に殺せと言われた私を……?

 

 

「今より不自由な生活を送ることになるかもしれない、だが死なせない。尊厳も失わせない、家族と……ルナマリアと会えなくなるようなことにもしない」

 

 

議長の、彼の作る世界のために。そのためだけにと戦ってきた、戦ってきたはずの彼から、こんなことがあるの?

 

 

「…レイ…」

 

「約束する。議長は…ギルは俺が必ず説得する。俺の言葉なら、きっと聞き入れてくれる。だから」

 

 

戻ってこい、メイリン

 

 

そう言って、彼は私に右手を差し出した。普段は隠している、私があの時押し付けたミサンガが見えるほどに、大きく。

 

 

ああ、そうか。こういうことになるわけか。なるほど、ひどい話だ。

 

 

ここで私が彼の手を取れば、彼の運命は変わるだろう。最後には死ぬしかないはずの彼の運命は、おそらく違った形で、違った場所にたどり着くに違いない。

 

 

私の命と、世界の命運を代償に。

 

 

なんて、なんて残酷な話だ。友達一人救うのに、私は己と世界の双方の命を捧げねばならないらしい。

 

願ったのは私だ。もしそんな未来があるのならと、彼に願いを込めたのは私だ。

 

けど許さないと。代償なき甘ったれた願いなどゆるされないと。そういうわけか。

 

彼を救いたいのなら。悲劇の結末から彼を救い出したいのなら、彼以外の全てを差し出せと。

 

私の命も、世界の明日も、全て捧げるのなら救ってやるぞと。そう言いたいのか、神様とやらは。

 

 

「………」

 

 

そっと手を動かす。ゆっくり、ゆっくりと。その時、初めて私は、レイの顔に僅かな安堵と、笑顔を見たような気がした。

 

 

 

そして私は、彼に右手を差し出した。……懐から取り出した、()()の銃口とともに。

 

 

「っ!? メイリン…?」

 

 

驚愕か、悲しみか。目を見開く彼に、私は告げる。

 

 

「…ありがとう、レイ。君にそこまで大切にされてるなんて……思ってもみなかった」

 

 

涙でもう、彼の顔はよく見えない。それでも、この突きつけた銃を下ろすわけにはいかない。

 

 

「…本当に、本当に嬉しい。叶うなら、私も君の手を取りたい」

 

「ならっ!!」

 

「でもそれじゃぁっ!!」

 

 

聞いたことのないほどに張り詰めた彼の声を、私の声で覆い隠す。嗚咽で震えながら、必死に思いを紡ぐ。

 

 

「でもそれじゃ…私の守りたいものが…守れないから…っ」

 

 

私にはできない。彼を救うために、それだけのために、自分を、お姉ちゃんを、家族を、世界を、全て捧げるなんてこと。

 

 

「君の…()()()のやり方じゃ……私の守りたいものは守れない……っ」

 

 

彼は選んでくれた、私を守ろうとする道を。

 

でも足りなかった、彼は議長の元を離れることはしなかった。

 

もし彼が私を、私だけを選んでくれていたのなら。今私の隣にいたのは、彼だったのかもしれない。

 

でも、そんな未来は。そんな都合のよくて我儘な未来なんて、どこにも無い。

 

 

「…だから…レイ」

 

 

涙を拭う。悲しいから、泣いていたから。そんな理由で、目を背けてはいけない。

 

言わなきゃいけない。しっかりと目を見て、そらさずに。それが、私にできる最後だから。

 

 

「…今までありがとう…それ、つけててくれて…嬉しかった」

 

「やめろ…やめろっ!! メイリンっ!!!」

 

 

 

 

ごめんね、

 

 

 

 

()()()()

 

 

 

「っ!?」

 

 

駆け寄ろうとした彼の頬を、一発の弾丸が僅かに撫でる。引き金を引いたのは、私。切れた傷口から流れた一筋の血が、彼の頬を伝う。

 

それが涙に見えたのは、私の錯覚なのかな。

 

呆然と崩れ落ちる彼に背を向けて、私はリフトを操作してアスランさんとコックピットに乗り込む。

 

 

「…いきましょう。もう…いいですから」

 

「…わかった。…すまないな」

 

 

謝らないでください。これでいいんです。これで、()()()()ですから。

 

アスランさんがシステムを起動させ、機体を起こす。肩を掴むように機体を固定しているアームを解除して、格納庫を出る。

 

カメラは見なかった。

 

別れは告げた、この先の未来で彼と会うことも、もうないだろう。私が救おうとして手を伸ばし、彼が伸ばしてくれた手を、最後に私が跳ね除けた。

 

なんて、なんて傲慢。勝手に願い、無理だとわかれば踏み潰す。自ら撒いた希望の種を、私は自分で踏みにじったんだ。

 

これが罪だということは、私が一番分かってる。命を弄ぶ外道だと言うことも。だから咎なら受ける。いくらでも、この身で贖える限り、いくらでも。

 

でも、今は止まれない。

 

世界が救われて、みんながみんなでいられる未来にたどり着くまで。その日が来るまで、私は走り続ける。

 

この罪に塗れた心と体を引きずって、這いつくばって泥を啜ってでも、必ずたどり着く。

 

決意の空は闇色で、空も海も罪人の出港を嗤うかのように荒れて乱れる。目指すは天使の名を冠するあの艦。そして飛翔する私たちを追従する、()()の影。

 

いいさ、これもまた私が招いた罪だというのなら、全部纏めて背負うまで。

 

こんなもので止まれるほど、止まることが許されるほど、私の運命は、優しくないんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 




…やってしまった…罵詈雑言を浴びる準備はできております。

後編は間に合えば今日中。可能性はビールのアルコール度数くらいです.°(ಗ
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