ガバ転生メイリンによる「こずみっくいら」再現物語 作:めんりん
荒れ狂う海上を飛翔する、四機のMS。一つはもちろん、私とアスランさんが乗るグフ。
それを追撃するために来たのが、後ろの三機。うち二機は予想通りのやつ。…もちろん、来て欲しくはなかったけどね。
蒼と赤を基調としたボディーカラーと巨大な赤翼を広げる「デスティニーガンダム」と、ダークグレーな色合いにドラグーンシステム背負った「レジェンドガンダム」
パイロットはそれぞれシンと……まあレイだろうね。
そして、三機目。そうか、
彼のパーソナルカラーであるオレンジを基調とした、シンとは色違いの同型機。「デスティニーガンダム•ハイネ専用機」
量産機部隊じゃなくて最新鋭機を、それも複数を作戦前に全部出してくるなんて。私、よっぽど議長に嫌われたっぽいね。
『止まれアスランっ! メイリンちゃんもっ!』
撃つ前に通信か。原作だと問答無用でレ…レジェンドがライフルぶちかましてきた気がするけど。優しいな、ヴェステンフルスさん。
『なに考えてんだお前らっ! 基地に戻れ、今なら間に合う! 俺が間に合わすっ!』
一切の迷いなく、降伏を呼びかけて、さらには助ける宣言までしてくれる。でもね、もう遅いよ。
戻ったところで、元々マークされてたアスランはもちろん、爆速でヘイト買ったガバな私に今更そんな余地なんてない。
『ハイネ』
ほらね?
『先ほども言ったが、メイリン•ホークには機密漏洩…つまりスパイの容疑がかかっている。そしてアスランがそれを助けたと言う。可能ならば生け捕りが好ましいが、作戦前の君たちに万が一があるようなことは避けたい。…撃墜を許可する』
『議長っ!!』
そう言って、一方的に通信を切る。いや、こちらの状況は見て聞いてるが、話すことはねーよって感じか。にしても、機密漏洩にスパイか…強ち間違いじゃないのが皮肉過ぎる。
『……っ……。最後だ。降伏しろ、アスラン、メイリンちゃん』
奥歯を噛み締めるような音が、通信越しにも聞こえた気がする。それほどまでに、必死に何かを堪えるような顔で、ヴェステンフルスさんが問いかける。
「…すまない、ハイネ。それはできない」
『なんでだよっ!? 戻れよ、なんでこんなことしてんだっ!!』
ヴェステンフルスさんではなく、その怒号はもう一機のデスティニー…シンの方から聞こえてきた。
『いいから戻れって!! こんな…こんな…っ! ルナはどうなるんだよっ!? メイリンっ!!』
「っ!!」
分かってる。きっとお姉ちゃんは傷つく。言葉じゃ表せられないくらいに、もしかしたら、立ち直れないくらいに。
でも、だからこそ君が必要なんだよ。誰よりも家族を失う気持ちを、悲しみを知る君が、お姉ちゃんのそばにいてくれるって分かってるから。
身勝手に押し付けて、本当にごめん。でも、こうするしか出来ないから。私は、お姉ちゃんの側にはいられないから。
「戻れないんだっ! 彼女はっ!!」
アスランさんも、私がもうミネルバに…軍にいられないことはわかってる。でもそれを全て言ったところで状況は変わらない。むしろ、聞いてしまった彼らの立場が危うくなってしまう。
「頼むシン、ハイネ。行かせてくれ。ダメなんだ、このまま彼の言う通りに戦い続けては」
伝えたいのに、伝えられない。今も彼はじっと見て、聞いているんだろう。私たちが…いや私が下手なことを言わないか。
随分と買いかぶってくれたもんだ、私の知識の源なんてブルーレイとスマホで調べられる程度のものしかないと言うのに。
『…降伏は、しねぇんだな?』
「ハイネっ!」
ゆっくりと。普段の溌剌とした気さくな声音とは正反対に、寒気がするほどに冷たく、低い声だった。
『…分かった…』
瞬間、凄まじいマニューバでオレンジに染められたデスティニーがライフルを連射しながらこちらに突進してくる。
「くそっ!?」
アスランさんが流石の反応で避け、外れた光の球が海面に巨大な水飛沫を突き上げる。
でもって、これがMS軌道のGってやつ? めちゃくちゃじゃんこんなのいつも乗ってんのかよこいつら。頭ぶつけ回るわこんなのに立ち乗りしてんだぞこっちは。
『ハ、ハイネっ!?』
『戦えねぇなら引っ込んでろっ!!』
いまだに迷うシンの声を、ヴェステンフルスさんの血を吐くような怒鳴り声が覆い潰す。
『さっきの聞いたろ!? 命令なんだよ議長のっ!! 動けねぇなら邪魔すんなっ! お前もだ、レイっ!!』
『っ!? お…おれは…』
シンも…そしてレイも。いまだ動かず、武装も抜かず。そっか、原作と違って、シンに"迷うな、撃て"って言うはずの彼が動かないんだからこうなるのか。
やれ、じゃなくて。邪魔をするな、か。彼らしいのかな。
「やめろハイネっ! こんなことっ!」
巨大な対艦刀…アロンダイトだっけ?を振りかぶって突進するオレンジのデスティニー。それを受け止めたシールドごと、グフの左手が切り落とされる。
本調子に近いアスランさんと言えど、機体ポテンシャルの差は勿論、コックピットに私という重た過ぎるハンデを背負っている彼は本気のマニューバを行えない。彼一人なら回避できる攻撃も、私がいるせいで防御という選択肢を取らねばならない。
『こんなこと、だと?』
低く、ドスの効いた声だ。怒ってるのが一目瞭然なくらいな彼の口から、そんな声が聞こえた。
『分かってんだよ…そんなことはぁっ!!』
吠え、再度剣を構えてデスティニーが突っ込んでくる。背中の両翼から鮮烈な光を闇色の景色に撒き散らしながら、胸の内にある心の呵責を振り切ろうとするかのように。
『助けてもらった命で、今その子に刃を向けてるっ!! 分かってんだよ!! テメェに言われなくても、くだらねぇ真似してるなんてことはっ!!』
…だから、違うって言ったのに。私は、あなたに恩を返してもらえるような女じゃない。人に役割を押し付け思い通りの未来を描こうとしてるだけの、いわば議長と同じ穴のなんとやら。
そんな女に、助けてもらったなんて言わないでよ。
『けどな……俺は…俺たちは、軍人なんだよアスラン』
「ハイネっ!」
『や、やめろぉぉぉぉぉぉっ!!』
大剣を振りかぶるヴェステンフルスさんの機体を、突貫してきたシンのデスティニーがシールドで横合いから突き飛ばした。
『シンっ!』
『もういいだろ! ハイネも、アスランもっ!』
睨み合う二機のデスティニー。混乱し戸惑うシンの叫びが、狭いコックピットに反響した。
『降伏しろ、勝てるわけないだろこの状況でっ!』
頼むから、と。心の底からそう呼び掛けるシン。私たちを庇うように立つデスティニーと、それを見据えるもう一機のデスティニー。そして、
『何をしている、レイ』
再び、悪魔の囁きが聞こえてきた。未だ棒立ちを続けるレジェンドに…レイに業を煮やした議長が、発破…ちがうね、脅しかな。
『私は、撃てと言ったはずだ』
『し、しかし』
あんなことしたのに。あんなこと言ったのに。君に生きてと願い、最後にはその手を払って切り捨てた私に、まだ迷いをもってくれるんだね、君は。
『彼女を撃て。それは敵だ、我らの』
…どうあっても私を殺したいらしいな、この人は。議長の通信から艦長の制止を呼びかける声が聞こえてくる気がするけど、そんなものこの人はなんのその。
『俺は…っ』
『レイ』
私に、怒る資格なんてない。今し方彼を切り捨て、銃を向けた私にそんな権利などあるはずがない。
でも、それでも憤らずにはいられなかった。それがあなたのやり方かと。ただ殺すだけでは飽き足らず、レイの手で私を殺させたいんだ。
己の都合の良い戦闘人形に、誰かを思う情など必要ないと。だから消せと、自らの手で。
『彼女を撃て、レイっ! それは平和を乱す我らの敵だ! この基地に集った全ての者たちの思いを踏みにじる悪だ』
…言ってくれる。ほんの少しだけ当たってるのがまた痛烈な皮肉だけど。
『っ!? ………っ…!』
何かを押し殺すように俯いた後、これまでの硬直が嘘であるかような化け物じみたスピードでレジェンドが向かってくる。
向かう先にいるのは私たち…ではない。彼がその手に掴んだのはライフルでもサーベルでもではなく、デスティニーの両肩。
『やめろっ! 離せよレイっ!!』
戸惑うシンとデスティニーを、レジェンドが引き離す。
『…仕方ない。ハイネ、後は頼んだよ』
そして、直後。再び翼を展開したもう一機のデスティニーが、声なき叫びを上げるように、光の涙を撒き散らすように私たちに向かってくる。
『くそ…くそっ…くっそぉぉぉぉぉぉぉぁぁぁぁぁっ!!!』
「ハイネっ!!」
『やめろ、やめろっ!! ハイネ!!!』
『…っ!!』
激情のままに振るわれたデスティニーの刃が、残ったグフの右手を背中の飛行ユニットの翼ごと切り飛ばす。武装を握るための腕と、飛ぶための翼を失った私たちの機体を、彼は海面へと蹴り落とす。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「ぐぅっ!?」
蹴られたものと海面への落下による凄まじい衝撃の中、
『…すまねぇ…恨んでくれ…こんな、こんなことしかできない俺を…っ!!』
消え入りそうな涙声とともに、雨のように降り注ぐ破壊の光が次々と海面諸共私たちの機体を貫いた。
「メイリンっ!!」
機体の限界を感じ取った彼が咄嗟に私を庇うように抱き締め、刹那の後に私の視界は光に覆い潰された。
シンの絶叫、レイの押し殺したように私の名前を呼ぶ声、そして体を襲う凄まじい衝撃を最後に、私は意識を手放した。