ガバ転生メイリンによる「こずみっくいら」再現物語   作:めんりん

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第三十話 : 届かぬ声

 

 

「少し貴方とお話ししたいことがございまして。今、よろしいですか?」

 

 

黒い和服とミニスカートを組み合わせたような独特な衣装と、白い陣羽織のような上着。透き通るように際立った容姿と美声、軽いウェーブのかかった桃色の美しい長髪。

 

平和を謳う姫君、正真正銘本物のラクス・クラインが、私の名を呼んだ。

 

 

「…私なんかに、何かご用ですか? ラクス様」

 

 

めんどくさいな。ここでさよならするカガリ様とは違い、この人とは終戦まで一応一緒にいなきゃいけない。何ならこの人が指揮するエターナルに私は管制官として乗り込む必要すらある。

 

あまり不用意なことを言ってこの人の不興を買うわけにはいかない。この人に悪い意味でマークされれば、最強のMSパイロットの彼からの好感度ダウンが間違いなくバリューセットで付いてくる。それは私の望むとこじゃない。

 

仕方ない…適当に話を合わせて退散させてもらおうかな。

 

 

「…そんなに警戒なさらなくとも大丈夫ですわ、本当にただお話しがしたいだけですから」

 

 

…っ。…議長といいこの人といい、人の内心を簡単に看破してくれる。キャラクターとしては魅力的でも、実際に人として対面するとなると好きと嫌いとか全く関係ない、一秒でも速くこの場を立ち去りたい。

 

これ以上、余計なことはしたくないの。

 

 

「お話し、ですか。なんのでしょう?」

 

 

私の問いかけにただ微笑みだけを返し、ゆっくりと隣に歩いてくる。内心穏やかではない私のことなど気に留めず、数秒前まで私がしていたように窓の外を見つめ出した。

 

憂うような、悲しむような。そんなどこか儚げな横顔で。

 

 

「…これが、今し方貴方が見ていた光景なのですね」

 

 

…ええ、そうですよ。どっかの誰かが己の都合で泥沼化させた戦争の爪痕です。人の死と嘆きと悲しみに彩られた、この上なく不毛な黄昏です。

 

 

「どうしてこちらに?」

 

 

…見ておきたかったからですよ、己の犯した罪を。背負うべき罪を目にしておくのは、罪人の責務でしょう?

 

 

「…べつに。ただ焼き付けておきたかっただけです、自分への戒めに」

 

 

どうせこの人に嘘は通じない。私程度の嘘に騙されるくらいなら、そもそも平和を求める活動家としてここまで持ち上げられてなんていないだろうし。

 

 

「ではこの景色のなかに、貴方の罪があると?」

 

 

なかどころか、この景色を生んだのが他ならぬ私ですって。私がひとことカガリ様に口添えしてれば、こんなことにはなっていないのだから。街は蹂躙されて火の手が上がり、無意味な戦場に出た兵士たちはそのまま無意味に命を散らした。

 

一つの死が、いったいどれだけの悲しみを生むのか。それは私よりあなたの方がよっぽどご存知なのでは? そして、それを引き起こしたのが今あなたの目の前にいる薄汚い女って話です。

 

 

「…さあ、そうかもしれませんね」

 

 

…嘘はつかない。でも全てを話す必要もない。いくらこの人でも、はっきりと拒絶の意思を示せば踏み込んではこれない。所詮貴方も物語の駒、キラ・ヤマトやそれに続く反デュランダル派の旗頭という役割を担う自覚なき一人の役者。

 

そして、そうなるべく舞台を整えるのが私の仕事。世界をあるべき結末に導くための、運命の奴隷。

 

 

「…それとも、貴方が私を救ってくれますか?」

 

 

…何となく皮肉を込めて、半笑い気味に言葉を投げかけてみる。無理に決まってるけどね。役者は役者、どのみち舞台の筋書きには逆らえない。

 

貴方にも、誰にも。私と同じ景色は見えませんよ、永遠に。

 

 

「…いいえ。貴方を救うのは、きっと私ではありません」

 

 

…ほらね。

 

 

「今の貴方に、残念ながら私の言葉は届きません。硬く閉ざした氷の中に閉じこもる貴方には…きっと」

 

 

……話が早くて助かりますよ。もう一人のお姫様もこうならいいのに。ついでに言えば貴方どころか誰の言葉も届かせるつもりはありません。私の役割を果たすのに、私と他者の感情は不要ですから。

 

世界のあるべき結末を目指すのに、そんな些末なことはどうでもいいんですよ。

 

 

「ですが。それでも今私から貴方に言えることがあるとするのなら」

 

 

…だから無駄だって言って、

 

 

「己が罪でないものを、掬って背負うのはおやめなさい」

 

 

……っ……。

 

 

「それは慈愛でも、まして贖罪でもありません。ただの傲慢です」

 

 

なにを…そんな、そんなことない、これは私の罪なの、私が悪いの。いい加減なこと言わないでよ、なにも、なにも知らないくせに…っ!

 

 

「そんなことをして、一体誰が救われるのですか? 誰が報われるのですか? ただ貴方が貴方を苦しめ、貴方を思う人たちの心を苦しめるその行いに、どんな意味があるというのですか?」

 

 

…なんなのよ、どいつもこいつも。

 

 

「…どうかこれ以上、貴方の心を貴方自身の手で傷つけないでください。己が悪い、己のせいなのだと。自らを偽りの罪で縛りつけた先に得た()()…そこにあなたの望むものなど、一つもありはしませんわ」

 

 

…っ!? …なんで……?…。

 

その言葉を最後に、彼女は振り返ることなく私に背を向けて去っていく。黄昏だったはずの空は、いつのまにか夜の帳が顔を出し始めていた。

 

 

「…違うよ、ラクス様…。そうなるように世界が成り立ってるの、そうなるように私がみんなに押し付けてるの、役割を、死を。……それを罪と呼ばないで…なんて呼べばいいんですか……?」

 

それに、私に救われる資格なんてないんですよ、初めから。

 

例え世界があるべき結末を迎えたとしても。そこに私の居場所はない、あっていいはずがない。遺伝子で他者に役目を強制する議長と、物語という舞台での役割を他者に強制する私。

 

ほらね? 居場所なんて、初めからなかったんだよ。

 

 

「…どうだっていい。それが私の役割なんだから」

 

 

あるべき世界へ、あるべき結末へ。それ以外に、私は何かを守る方法を知らないんだから。

 

 

 

* * * *

 

 

『ちっ…報告通り結構な数だぞ』

 

 

俺のデスティニー含む発進したイザーク隊全機に、そんな不機嫌そうな通信が入った。現在俺たちは廃棄コロニーなんてわけわからんものを護衛する連合艦隊が展開している宙域に来ている。

 

何を企んでるかは知らないが…良からぬ思惑があってのことだけは確かだな、こりゃ。

 

 

『けど、なんだってこんなとこに』

 

 

少なくても、俺たちのためにわざわざこんなグレート級な粗大ゴミを運搬してるわけじゃないだろうぜ、ディアッカ。

 

 

「理由なんていい、とりあえずあれと守ってる奴らを蹴散らす。意味もなくこんなとこに来たりはしねぇだろ」

 

 

嫌な予感がする。今ここであれを何とかしないと、取り返しのつかないことになるような。こういう時の勘ってのは、案外当たるもんだ。外れて欲しいと思う悪い勘ほど、な。

 

 

『出たよ、隊長の山勘。これ外れないんだよなぁ…』

 

『まったくだ、たまにはいい予感も欲しいくらいだぜ、俺に可愛い彼女ができる予感とか』

 

『何言ってんだ、んな大層な予感が出来た試しがあるか? てかそれは予感に頼らずお前が自分で何とかしろ』

 

「よしわかった、お前ら帰ったら便所掃除期間延長だ、あと半年はトイレから出てくんな」

 

 

鬼っ!! 悪魔っ!!! とか言ってくるオレンジショルダーな奴らの声を容赦なく俺は切り捨てる。…変わらねぇな、こいつらは。ありがたいことなんだが。

 

それとこれとは話が別だ、しっかりやれよ、便所掃除。これ特務隊権限な。

 

 

「ガナー付けてるやつらはとにかくあれぶっ壊せ、それの護衛と補助に一個小隊。残った奴らと俺、イザーク達で敵を叩く。それでいいか?」

 

『賛成です。あんなものをわざわざえっちらほっちら運んでいるんだ、ろくでもないことを企んでいるのは確かでしょう』

 

 

まったくだ。ならやるか、色々あって鬱憤溜まってんだ、悪いが八つ当たりさせてもらおうか。赤翼から膨大な光を放出させて、俺は攻撃を開始した連合艦隊目掛けて機体を突っ込ませる。

 

 

だが、この時の俺たちは知らなかった。目の前にある巨大な置物が、後に歴史に名を刻むほどの大量殺戮兵器の足掛かりであることを。

 

予感は当たっていた、だが予測の規模が足りていなかった。

 

俺たちが戦闘を始めてしばらく、その無慈悲な引き金は引かれてしまう。そして悪意と利己に塗れた光の奔流が、すべてを奪い去っていった。

 

その結末を知るのは、己の欲のためにと引き金を引いた一人の男と、世界のためと犠牲を黙認した者。

 

そして全てを知り、しかし全てを見逃し心をすり減らす一人の少女のみ。

 

 

この日、宇宙に無数の血の花が咲いた。

 

 

 

 

 

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