ガバ転生メイリンによる「こずみっくいら」再現物語   作:めんりん

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…もういいや、明日の分も今日にいれます⇦

これ含めてあと3本? です(アホ)


第三十三話 : 届く凶刃、守れぬ心

 

「無駄なことは、しないのか?」

 

 

アークエンジェルのCIC。レクイエム発射と、それに次ぐザフトとジブリール派の連合軍との争いが激化する中。

 

キラとラクスから語られる議長の目指す世界。生まれいでる全ての人達の未来を、その人間の遺伝子で最初から決定し、管理する世界。それにそぐわない者は管理、調整、淘汰する世界。

 

デスティニープラン。望むものを全て得ようと、人の根幹…遺伝子にまで手を出した、俺たちコーディネイターの究極…だそうだ。

 

たしかに、そこに争いはないのかもしれない、自分の知らない自分とやらに苦しむこともないのかもしれない。争っても無駄だと、お前の役割はこうなのだと、何より己の遺伝子が知っているから。

 

…無駄、か。こうではない、こうしたい。そうやって足掻いて手を伸ばすことが、無駄だと言うのか。…運命に抗おうとするその意志に意味はないと…そう言うことか。

 

そんなこと…っ!!

 

 

「…無駄じゃないよ」

 

 

…キラ…?

 

 

「未来を決めるのは、運命じゃない。そうでしょ?」

 

 

……ああ、そうだな。自分の道は自分で決める、そうしたいと思ったから俺は、

 

 

ガタンっ。

 

 

「メイリンっ!?」

 

 

俺の座るシートの横に静かに立っていた彼女が、急に片手で覆うように顔を押さえて姿勢を崩した。さっきの音は、咄嗟に彼女がもう片方の手で俺が座っているシートの肘掛けに手をついた音だ。

 

 

「…大丈夫です。ちょっと立ちくらみが」

 

「…それを大丈夫とは言わない。俺はいいから君が座ってくれ」

 

「いえ…部屋に戻ります、アスランさんはそのまま座っていてください

 

 

オノゴロ島の戦いの後。ラクスやキラが彼女と話をしたらしいが、結果はこの有様だ。ラクスですら彼女の心を開くことが出来ず、キラには至っては目の前で自身の髪を引きちぎろうとしたとか。

 

いくらそのことを問い詰めても、何もありませんの一点張り。以降、彼女は自身の部屋に引きこもり誰とも接触することもなかった。

 

今日久しぶりに…と言っても実際にはそう時間は経っていないはずなのだが。…今し方彼女の顔を見た時は…正直驚いた、月並みの表現だがな。元から色白だった肌はさらに青白くなり、目の下には隠せない隈。そして何より…荒みきった瞳。

 

ろくに食事も睡眠もとっていない証拠だ。そんな彼女ともに今このアークエンジェルのCICにて来たわけではあるが…。

 

 

「メイリンさん」

 

 

体を引きずるようにしてCICを出ていこうとする彼女に、ラミアス艦長が声をかける。

 

 

「…あまり、無理しないでね。遠慮なんてしなくていいから。困ったことがあればいつでも言って頂戴」

 

「お気遣い…ありがとうございます」

 

 

そう言って、振り返ることなく彼女はみんなの視線を背中に受けながら去っていく。視線の種類は…まあ概ね心配する視線ばかりだ。俺はもちろん、特にミリアリアなんかも。

 

 

「まったく…あいも変わらずミステリックだなおい。人に心配されるのが仕事か? あの嬢ちゃんは」

 

「…こら。そういうこと言わない」

 

 

苦笑する少佐を、ラミアス艦長の肘がつつく。みんな気づいている、メイリンが並々ならぬ事情を抱えているだろうことは。だが、そのみんなからの声を彼女は尽く振り払った。

 

誰と話すこともなく、誰と関わることもなく。ただ一人で抱え込んで必死に孤独を守ろうとしている。…そして、そんな彼女に何もしてやれない人間の一人が俺と言うわけだが。

 

「…宇宙に上がろう、アスラン」

 

 

…キラ…。

 

 

「議長を止める。…多分、それがいろんなことへ繋がる唯一の道だよ」

 

 

…そうだな。彼女の見据えているものがなんなのか、進めば分かるかもしれない。あらゆるものを切り捨ててまで彼女が成し遂げようとしているものがなんなのか…それがわかれば。

 

 

「…………………」

 

 

 

* * * *

 

 

月面にあるダイダロス基地。そこにある砲を止めろ、ってのが俺たちに与えられた任務。

 

……ヤヌアリウスを吹き飛ばしたあの砲台を、何千何万…いやもしかしたらそれ以上のプラントに住む人達の命を奪ったロゴス…ロード・ジブリール。

 

絶対に許さない、基地から引き摺り出してやる。プラント、家族、ステラ、そして…メイリン。…もう逃げられると思うなよ、見つけ出して八つ裂きにしてやる。

 

 

「…ジブ、り…ル…ろ、ゴスっ!! 殺す…コロスっ!メイ、リン…のっ!!」

 

「…大丈夫。落ち着いて、ルナ」

 

 

……ルナの精神は、もう限界に近い。落ち着いてる時間とそうでない時間のインターバルが日に日に短くなってきてる。こうして作戦前は俺が一緒にいないと確実に錯乱するようになった…と思う。ミネルバを離れたことないからはっきりとはわかんないけど。

 

…正直、崩壊したヤヌアリウスを見たルナを落ち着かせるのは骨が折れたけど。騒ぎを聞きつけて鎮静剤持ってきた軍医さんをなんとか説得しながらルナをあやすのは流石に大変だった。

 

…あの時、オーブでジブリールを討ててれば。アイツらが邪魔さえしなければ、 …俺がもっと早くアイツを…アスランを撃ててれば、なんて思ったりもした。今更言っても、仕方ないけど。

 

 

だからこそ、これで終わらせるんだ。ロゴスさえ…ジブリールさえ討てれば。…そうすれば、ルナの悪夢も……。

 

 

「作戦を説明する。…二人ともいいか?」

 

 

待機ルームのモニターを操作しながら、レイが声をかけてくる。…悪い、もう大丈夫だ。

 

 

「…ああ、頼む」

 

「…うん」

 

 

大丈夫、俺が側にいればルナもこうしてすぐに自分を取り戻す。それが僅かな時間だったとしても、俺が手を握ってる限りは。絶対にルナを()()()()になんかいかせない。何がなんでも守ってやる、繋ぎ止めてやる。

 

 

「第二射までに月艦隊が第一中継点を落とせれば、辛うじてプラントは撃たれない。だが奴らのチャージの方が早ければ…艦隊諸共薙ぎ払われる」

 

 

…そうはさせないために、俺たちがいるんだ。そのための作戦だ、そうだろ、レイ。全ての元凶。ロゴス、ロード・ジブリール。ここで殺してやる、終わらせてやる。

 

プラントも月艦隊も、絶対に撃たせない。

 

 

「…覚悟は決まってるようだな。では作戦を話そう」

 

 

ああ、頼む。

 

 

「今回の優先目的は砲の無力化だ。従って、こちらの戦力を二つに分ける。陽動を兼ねて正面から基地を制圧する隊と、裏から砲のコントロールを落とす隊だ。隊と言っても、ミネルバには俺たち三人しかいないがな」

 

 

なるほど。なら戦力の割合は正面が二機、別働隊が一機ってところか。…機体性能を考えればデスティニーとレジェンドが正面、インパルスが別働隊……なんだと思うけど…。

 

 

「奴がいるんだ、間違いなく基地の防衛にはデストロイが出てくると見ていい。アレを素早く無力化するためには、やはりデスティニーの力が不可欠だ」

 

 

…分かってる。ならそれは俺がやる。

 

 

「分かった。なら正面は俺だけで」

 

「よって、別働隊は俺がやる」

 

 

…レイ?

 

 

「デスティニーとインパルスのエクスカリバーなら、デストロイにも致命打を与えられる。それは先のヘブンズベース基地でも実証されている」

 

 

…それは、そうかもしれないけど。でもそれは、

 

 

「…どのみち、今のルナマリアを一人で放っておくことはできん。なに、裏から少し小突いて砲を制圧するだけだ、すぐにそっちに合流できるだろう」

 

「…レイ?」

 

 

心配そうに腕を掴むルナの手を、レイはそっと離す。

 

 

「…俺は大丈夫だ。二人とも気を付けろよ、敵の戦力数で考えればそっちの方が遥かに多いのだからな」

 

「…ああ、分かってる。任せろよ、正面は俺が必ず殲滅する」

 

 

そう言って格納庫に向かおうとするレイの肩を、またルナが掴む。心配そうに、泣きそうな顔で。

 

 

「…そう心配するな。また、後でな」

 

 

そっとルナの頭に手を置いて、レイは一人でエレベーターの扉を閉じる…前に俺たちを見る。

 

 

「作戦までまだ少し時間がある。…急ぐ必要は、ないと思うぞ」

 

 

そう言って、今度こそエレベーターの扉を閉じて一人で格納庫に向かっていく。……何から何まで、ほんとに頭が下がる。

 

 

「…シン。レイ、ひとり」

 

 

…ああ、俺たちのためにレイは自分で別働隊を買って出たんだ。ルナを…一人にしないために。

 

 

「そうだな。だから俺たちで守ろう、レイを。そうしたら、絶対大丈夫だから」

 

「…まも、る…。…うん、守る。レイを、守る」

 

 

…そうさ、もうこれ以上、なにも失うもんか。守るんだ、絶対に。そうしたら…っ!?

 

 

「…シンも、守る」

 

 

…っ!?……ルナ…っ!!

 

 

虚な瞳で、それでも俺の頬に手を当ててそう言ってくれる彼女を、俺は力いっぱい抱き締める。そうしたかった、堪らなくそうしたかった。こんなにボロボロで、傷ついて。それでもルナは……。

 

 

「…だい、じょうぶ」

 

「…ああ、大丈夫だ。君は俺が守るから…っ! 君だけは…絶対に…っ!!」

 

 

涙を流す俺の頭を、そっと撫でてくれる彼女の手を取って誓う。彼女だけは、心をすり減らし、狂気の坩堝に囚われてなお、俺に温もりを感じさせてくれる彼女だけは。

 

そうさ、守るんだ。ミネルバを、仲間を、レイを、プラントを。もうこれ以上、失ってたまるか。

 

そのために、今は討つべき敵を撃つ。ロゴス、ロード・ジブリール。平和を乱し、自分の欲のために命を弄んでいるような奴。殺してやる、家族の、ステラの、メイリンの仇。

 

そして、もうこれ以上ルナが苦しまなくていいように。戦いのない、あったかくて平和な世界のために。…もう一度、ルナが笑ってくれる世界のために。

 

そのために。俺に力を貸してくれ、デスティニー。

 

 

* * * *

 

 

ミネルバ接近。その報を受けたダイダロス基地は泡を食ったようにスクランブルを発令。慌てふためきながら迎撃態勢を整える。

 

これより接敵するのは、間違いなく現ザフトの最強戦力。昨日にベブンズベースをものの数十分で壊滅に追い込んだMSのうち三機を有するかの艦の姿は、ダイダロス基地に勤めるもの達の脳裏に今も焼き付いていた。

 

起動する固定砲台。発進する無数のウィンダム、かつてミネルバを苦しめた大型MAのザムザザー、ゲルスゲー。迎撃戦力は万全だと、ダイダロスの誰もがそう思った。

 

だが、その認識はおおいに甘かった。これより彼らに迫るのは、ただのザフト軍兵士ではない。失った光に、それぞれの思いを馳せ力を振るう者たち。雑兵如きがどれほど群れようと、彼らの進撃を食い止められる道理はなし。

 

 

『デスティニー、インパルス、発進っ!!』

 

 

ミネルバより、二機のMSがダイダロス基地正面に展開。どちらもベブンズベースではあのデストロイを相手に単騎で致命打を与えた者たちだ。片方は光を失い、いや奪われ哀れな傀儡と化しながらも狂乱とともに力を振り回す者。

 

 

『アアアアァぁぁぁぁぁっ!!』

 

 

狂気のまま、彼女は高機動装備の速度で駆け回りながらライフルを引き金を引く。かつて隣にいた妹に茶化されていたとは思えぬ正確なその射撃は、道を阻むものたちのコックピットを容赦なく射抜く。

 

爆散する機体を前に、彼女は心の狂気を垂れ流す。

 

 

『ロゴす、ジブりールっ!! メイリンの、仇っ!! 全部…全部死ねぇぇぇぇぇぇぇっ!!!』

 

 

破壊の光を振り撒きながら、ひたすらに黒き憎しみを撒き散らす。手が届かぬなら引き金を、届くのなら刃を。滾る憎悪に身を委ね、彼女はただ目の前の命を奪うためだけに機体の操縦桿を振り回す

 

 

『…お前らのせいだ…。お前らなんかがいるから…世界はっ!!』

 

 

想い人のそのあまりに痛々しい姿を目にした少年は、自らの心の内で種を爆じく。

 

 

『…消えろよ、お前ら……っ!! この世界から……ルナの…前からっ!! 消えろぉぉぉっ!!!』

 

 

怒りに燃える少年は、機体背部に取り付けられた赤翼を展開、薄紫の光を放出させて敵機の群れに機体を突貫。迫りくる敵機をエネルギーを凝縮させた掌で握り潰し、巨剣で叩っ斬り、ライフルと長距離超エネルギー砲で薙ぎ払う。

 

その姿、まさに一騎当千。彼の近くのものはもちろん、そうでないものですら気がついたらコックピットを爆散させられていた。戦慄するダイダロス基地のMSパイロット。出撃からものの僅か数分で、彼らは自分たちが決して敵わぬもの達と戦っているだと直感で理解した。

 

また、この戦いは全世界にありのまま全てがリアルタイムで映し出されていた。ある者の策略によって。自分の運命の行く先を知る権利がある、そう言葉にしたとある支配者足ろうとする者によって。

 

 

『……………』

 

 

激戦のなか、ついにダイダロス基地から破壊の巨神が出撃する。名を"デストロイ"、かつて単機でベルリンを火の海に包み込み、また少年の守ろうとした一人の少女とともに沈んだ最悪の機体、それが、三機。

 

 

『…性懲りもなく…また…っ!いいさ、全部ぶっ壊してやるっ!!』

 

 

残像を残しながら凄まじい速度で突貫したデスティニーが、振りかぶった巨剣を力任せに振り下ろす。ただそれだけで、巨神はなにをするまでもなく胴体を縦にかち割られ爆散する。

 

 

『ミネルバっ!! ソード、シルエットォっ!!』

 

 

巨神を目にした少女は、艦に対艦刀を搭載した換装機の射出を要請。出撃してきたバックパックに換装…はせず、輸送されてきた装備だけを湯水のように消費。

 

飛翔してきた装備を前に、彼女は間髪入れずに二本の対艦刀を携え巨神を強襲。

 

 

『ハアアアアアアっ!!』

 

 

振り撒かれる破壊の雨を掻い潜り、右手に持った刃を巨神のコックピット目掛けて力の限りで突き刺す。そうして崩れゆく巨神には目もくれず、バーニアを全力で吹かして急上昇した彼女は死にゆく巨神から引き抜いた対艦刀を迷わず残った最後の巨神の超距離陽電子砲目掛けて投擲する。

 

発射間近だった陽電子砲に刃を突き刺され、暴発。体勢を崩す巨神。そんな隙を、少年が見逃すはずはなく、

 

 

『堕ちろぉぉぉ!』

 

 

コックピットに巨剣を突き立て、そのまま急上昇。機体中枢を余すことなく切り裂かれた巨神は、胴体を巨木のように裂きながらな爆散する。

 

全てを蹂躙、焼き払わんと出撃したデストロイは、三機全てがなにをするまでもなくものの数分で全て粉砕された。あらん限りの憎しみと狂気を撒き散らす少女と、それを守らんと怒りに燃える少年の手によって。

 

 

『デストロイ、三号機も大破…ぜ、全滅しました……』

 

『馬鹿なっ!? まだ出したばかりだぞっ!?』

 

 

デストロイに発進を命じたダイダロス司令部はまさに驚愕と恐怖の嵐だった。虎の子であったデストロイその全てが何もできずに全滅し、敵MSは今なおこれと言った損傷もなく進行形で基地を侵略中。

 

今司令部にいる誰もが、既に自分たちに勝ち目がないことを薄々と感じ始めていた。そして、それは数多の命を食い物にし、同胞すら切り捨ててここまで逃げてきたかの者も同じ。

 

 

『レクイエム発射だっ! フルパワーでなくともよい、撃てっ!! 奴らを薙ぎ払うんだっ!!』

 

 

もはや何度目かもわからぬ命の危機。憎きコーディネイター共の国ではなく目先の敵だけでも薙ぎ払わんと男は司令官に指示を出す。

 

しかし、

 

 

『えええいっ!!』

 

 

中継点…廃棄コロニーを防衛せんとする部隊相手に奮戦するザフト艦隊により、レクイエムの放つ光の奔流を屈折させるための廃棄コロニーに異常が発生していた。

 

 

『…やらせるかよ…っ! もうこんなっ!!』

 

 

今ダイダロスで大暴れしているデスティニー、その同型機を駆る者の猛攻が、コロニーを守る部隊を次々と蹴散らし、彼の元部下たちや多くの艦隊の一斉放火により、既に廃棄コロニーはその機能を殆ど消失していた。

 

 

『駄目ですっ! フォーレに異常発生っ!! ポジション取れませんっ!!』

 

 

今引き金を引いたところで、そのレクイエムはプラントではなく己への鎮魂歌と成り果てる。その事実が男の精神をさらに逆撫でた。

 

 

『…駄目ならそれでもよいっ! フォーレの奴らだけでもっ!』

 

『それでは終わりですっ! 次のチャージまではとてもっ』

 

『いいから撃てっ!! ……その隙に脱出する』

 

 

呆然とする指揮官に、男はさも当然と言わんばかりに囁く。

 

 

『私が生きてさえいれば、まだ幾らでも道はある。基地を降伏させ、同時に撃つんだ。言い訳は幾らでも作る』

 

 

どこまでも自己保全を優先とした、下劣な策だった。青い顔をして冷や汗を流す司令官の肩に、同じく引きつるような笑みを浮かべながら男は優しく手を置いた。

 

 

『…君はよくやってくれた。ともにアルザッヘルにでも逃げれば、また…』

 

 

だが、いくら足掻こうとこの男に送られる死は、彼の知らぬ間に着々とその背に迫っていた。

 

 

『ん? なんだ、べつど』

 

 

それの存在に気付いた時には、名も知らぬパイロットたちの命は既に消えていた。だが、ある意味ではその方が幸運だったのかもしれない。突如として接近してくる新たな機影に、まだ生きていた者たちは戦慄することとなるのだから。

 

 

『あ、あれはベブンズベースのっ!? なんでこんなとこ、うわぁぁぁぁっ!?』

 

 

迎撃しようとした者たちは、その武器を構えることもなく爆散する。

 

 

『邪魔だ、消えろ』

 

 

円盤のような機械翼、その突起のようなものが翼と機体腰部から分離する。

 

その名を"ドラグーン" 、一つにつき2門のビーム砲を内蔵する分離式攻撃端末、それが…八機。縦横無尽に宙を駆け巡るそれらが保有する砲門は……総数にして16門。

 

個による多、圧倒的な理不尽を難なく実現させた光の雨は、驚愕する彼らを一切の容赦なく蹂躙していく。

 

 

『な、なにをしているっ!? 早くゲルスゲーを』

 

 

前に出せ、そう言おうとした者の前で、アラクネのような大型MA…ゲルスゲーの腹部に二つの孔が穿たれる。ミネルバの主砲すら防ぐ陽電子リフレクターを物ともせず、今現在彼らを蹂躙しているドラグーンよりもさらに大型のものが、先端からビームスパイクを展開して貫いたのだ。

 

 

『いやだ、死にたくないっ!! 死にたく』

 

 

だが、背を向けたところで彼から逃れられるはずもなく。まるで羽虫を手で払われるかの如く愚かな兵士たちは散っていく。立ち向かえば死、背を向けて逃げれば死、もはや彼らに生き残る道など、どこにもありはしなかった。

 

 

『…ん?』

 

 

背後からのアラートに振り向けば、いつぞにミネルバを苦しめ、最後にはシンの手で葬られた大型MA、ザムザザーが一機。だが、インパルスでは苦戦するそれも、レジェンドの前では無意味。

 

先程と同じように、背の大型ドラグーンを射出しようとしたその時、

 

 

『レ、イっ!!』

 

 

巨大な対艦刀を真っ直ぐに構えたインパルスが凄まじい速度で突貫、今まさに彼が撃ち抜こうとしたザムザザーを背後から串刺し、爆散させる。

 

 

『…レイ、だい、じょうぶ』

 

 

錯乱し狂乱し、だがそれでも仲間を思う少女の声がコックピットに届く。

 

 

『…助かった、ルナマリア。俺はこのまま制御室を落とす、お前は基地司令部を。…早く戻ってやれ、シンが心配するぞ』

 

『う、ん……また、後でね』

 

 

対艦刀を失い、ある意味身軽となった彼女は想い人への元へと機体を翻す。…無茶をする、今頃シンの胸中は間違いなく穏やかじゃないだろうな。

 

そんなことを思いながら、彼女を追跡しようとする部隊がいないことを確認した彼は、自らの役割を果たさんと目的地へと飛翔する。

 

 

『カウントダウン開始、発射までT➖30』

 

『よし、全周波数で回線開けっ! トリガーはこちらに』

 

 

そして、男の命令通り再びレクイエムを発射させるべく着々と準備を整えていた哀しい司令官の元に、

 

 

『てやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』

 

 

それを防がんと飛翔してきたデスティニーの振り撒く高出力ビーム砲のうちの一発が着弾し、ただそれだけでダイダロス司令部は薙ぎ払われた。自分勝手で独善的な男の命を守るためだけに破壊の引き金を握らされた者たちは、それをするまでもなく、呆気がないほどにその命を散らした。

 

 

『…ふん』

 

 

また、同時にレクイエムの制御室へと難なくたどり着いたレジェンドは、躊躇なくその引き金を引く。これによって、司令部と本命であったレクイエムの制御を同時に失ったダイダロス基地は、ほぼ完全に戦闘力を失った。

 

 

『…ええいっ!』

 

 

それを見届け、唇を噛みながら逃げ果せようとする男の艦。だが、

 

 

『…? ……っ?!!』

 

 

ここで待機。そう想い人に言われて敵のいない…正確には彼女の想い人が殲滅したのでいなくなった基地上空を浮いていたインパルスが、発進する艦影を察知。

 

それが為せたのは、まさに神の悪戯。彼女を駆り立てる際限なき憎悪が起こした、誰もが望まぬ闇色の奇跡。

 

 

『…ジブリ、ル…? …ロゴ、すっ!!!』

 

 

本能で分かった。あれだ、と。あれこそが全ての元凶だと。自らの欲のために要らぬ争いを引き起こし、その陰で得た利益で笑うものたち。戦火の絶えぬ世界を望み、彼女の最愛の妹を奪った憎き者たち。

 

 

『あああああぁぁぁぁぁぁっ!!』

 

 

機体を翻し、彼女はまさに飛び立ったばかりの艦の真前に飛翔。

 

 

『なあっ!?』

 

 

ブリッジでそう慄く仇の声など知るよしもなく、彼女は憎しみのまま握ったサーベルをブリッジに叩き付ける。爆散するブリッジと、サーベルの熱で生きたまま体を蒸発させられる男。

 

だが、溢れる憎しみのままに暴れ回る彼女が仇を前にそれだけで終わるはずがなく。

 

 

『ロゴすっ!! ジブ、リールっ!!! 死ね、シね、死ネ、シネシねしネ死ね死ネェっ!!! メイリンの、メイリンのっ!!!』

 

 

仇。溢れ出る憎悪を叫びに変えて、彼女は残ったインパルスのエネルギー全てを使い切らんばかりにライフルを乱射。

 

その数実に二十発超。憎悪の光に晒され、既にあらゆる意味で役割を失った艦はさらにその上から徹底的に蹂躙される。撃ち抜かれ、爆煙を吹き上げ、形を失い、それでもなお彼女の攻撃は止むことはなく。

 

やがて限界を迎えて爆散する艦。異変に気づいた彼がデスティニーをフルスピードで飛翔させ戻ってきた頃には、文字通り全てが終わっていた。

 

 

『……はぁ……はぁ…はぁ…は、あは…ははははは…』

 

『…ルナっ……………』

 

 

なるべく戦わせたくない。そんな思いで彼女を置いていったことが、最大限に裏目に出た。

 

響く彼女の笑い…いや、()()()

 

 

『…ふふふ…ふふふふ…あはははははは……やった、やったよ、メイリン…お姉ちゃん、やっと殺せたよ………やった、やったぁ……ふふ…ふふふ…あはははははははははははははっ………』

 

 

久しく聞いた想い人の笑い声は、あまりに黒く残酷だった。そしてそれを聞いた少年は人知れず機体の操縦桿を殴り付ける。これだけは止めようと、何としても止めなければと。そう胸に誓って戦ってきたはずなのに。

 

中途半端に守ろうとした結果が、いまの彼女の乾いた笑い声。一人にすべきではなかったのに。つい自分の感情が先走って彼女を置き去りにしてしまった。それが、取り返しのつかない結果を招くとも知らず。

 

 

『……作戦は終わった…。帰ろう、二人とも』

 

 

そう仲間に促されて、少年は文字通り何もかも()()となったインパルスの手を取る。

 

 

『……かえろう…帰ろう、ルナ』

 

『…ふふ、ふふふふふ。はははははは』

 

 

未だ仇を撃った余韻から目覚めぬ想い人の手を取りながら、少年たちは帰るべき場所へと機体を翻す。

 

戦いは終わった。世界の悪であるロゴス、その最後の生き残りにして中枢、ロード・ジブリールの死亡。ミネルバとそれに属する者たちは、またもや快挙を成し遂げた。

 

だが、この戦いで笑うのは世界でたったの二人。失った…いや奪われた妹の仇を遂にその手で葬ったと思っている一人の少女と、

 

 

『…ありがとう、ジブリール。…そして、さようならだ』

 

 

己が理想のため、全ての運命を掌で転がす男のみ。

 

 

まもなく世界は変革を迎える。全ての人類が争わず、誰もが満ち足りた平和な世界。それを為さんとする彼が、遂に本性を曝け出さんとしていた。

 

 

『……………』

 

 

だが彼は知らない。全てを転がしている己ですら、たった一人の少女が描く舞台の自覚なき役者であることを。

 

 

だが、得てして運命とは酷なもの。世界の罪を一身に背負い、その身を汚し心を削りながら、それでもなお己が知る未来だけを目指さんとする少女は、まだ知らない。

 

 

その罪の本当の意味を、痛みを。

 

 

全ては、真と偽り…二人の歌姫が邂逅せし、かの他にて。

 

 

 

 

 

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