ガバ転生メイリンによる「こずみっくいら」再現物語   作:めんりん

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第三十五話 : 少女の願い (前編)

 

 

…はい、私です。もう色々嫌になって部屋に引き篭もって布団の虫になってます。

 

カガリ様との約束? …知らないよあんなの。関係ないもん、私了承してないもん。…この戦争が終わった後の世界に、私の居場所なんてあるわけないでしょ。

 

 

…誰が見捨てて焼いた国の元首様と同じテーブルを囲えるのよ…無理に決まってんじゃんか。

 

 

アークエンジェルは無事にコペルニクスに着きましたよ。原作ならこの後ラクス様、ヤマトさん、アスランさんと私の四人でショッピングついでに偽物射殺イベがあるんですが…。正直、私がそこに行けるかどうか微妙なとこ。

 

現在の私はラクス様とヤマトさんに対してかなりの好感度ガバ…マイナスの意味のそれをしているのでそもそもお声がけがあるかどうかすら不確定。

 

まあ、あのイべは私ほとんど空気だからいてもいなくても問題ない気がするからいいけどね。だってアスランさん一人で襲撃者あらかた返り討ちにしちゃうし、ラクス様は偽物が身を挺して守るだろうし。

 

…けどまあ…万が一そうならない可能性のために、私も行くべきなんだけど。絶賛真っ暗にした部屋に引き篭もってベッドで不貞寝かましてる私にそんな気力があれば、の話。

 

…アスランさんとヤマトさんいたら大抵のことは何とかなるだろうし。ミーア・キャンベルは放っておいてもどうせ死ぬ。…いや、もしラクス様たちが彼女と会うなら、むしろ()()()()()()()()()()()

 

…まあ彼女が生き残ってなおかつ向こうに帰る、なんて展開は天地がひっくり返ってもないだろうけどさ。

 

もうすぐ、もうすぐなの。物語の完結まで、あとほんの少し。舞台はほとんど整ってる、あとはみんなが適当に戦ってくれればそれで終わる。私の長い長い戦いも、ようやく終わる。

 

…やっぱめんどいや、このまま寝てよ。部屋の扉はかんっぜんにロック固めてるから開けられない。呼び出されてもガン無視しとけば誰も、

 

 

「うわ、なによ真っ暗じゃない」

 

 

…入ってこれないはずなんだけど…。開かずの扉と化していた扉の向こうから差し込む光と、そこに映る一人の女性の影。

 

 

「はい、起きる起きる。やって欲しいことがあるの、いいから起きて」

 

 

そう言って頭まで被っていたシーツを引っ剥がした上に、部屋のライトを最大出力で点火する彼女。

 

 

「…ハウさん。私、ロックかけてたはずなんですけど」

 

 

ミリアリア・ハウ。アークエンジェルの古参(?)オペレーターにしてヤマトさん達の同級生…なのかな、わかんないけど。それが今し方部屋に無断で侵入してきて勝手の限りを尽くしている女性の名前。

 

いや、まあ私は居候みたいなもんだからあまり強く文句を言える立場じゃないのかもしれないけどさ。

 

 

「ミリアリア。艦内の部屋のロックくらいお茶の子さいさいよ、CICをちょこっと悪用すればね」

 

 

…随分と大胆なことをする人ですね。普通にプライバシーの侵害な気がするんですけど。

 

 

「キラとアスランがラクスさんに付き添って街にいくから、あなたも一緒に行ってきなさい。はいこれ、私の服。それあげるから、早く支度して」

 

 

そう言って、彼女は私に服やらメイク用品やらを大量に押し付けてくる。いや、だから私行くなんて一言も、

 

 

「体調悪そうだったらやめとこうと思ったんだけど……あなたのは部屋に閉じこもってたら余計に悪くなっちゃうやつみたいだから」

 

 

……逆に外に出たところで何が変わると思ってるんですか。意味ないですよ、こんなの。

 

 

「じゃあ、よろしくね。エレベーターのとこで三人とも待ってるから、くれぐれも急ぐように。いいわね?」

 

 

ビシッと指を突きつけて、やりたい放題言いたい放題やって、彼女は私の部屋を出て行く。残ったのは、彼女が私に押し付けていった数点の洋服とメイク道具。

 

 

「……ちっ………」

 

 

口汚く舌打ちをかましながら、私は最大限に嫌々と身支度を整える。あの三人…特にラクス様のことだ、来なければどうせ呼びにくるに違いない。

 

行き当たりのない苛々を感じながら、私は彼女に押し付けられた洋服の袖に腕を通す。ベージュのジャケットに青色の膝上丈のワンピース。……いつぞやにオーブで買い物に出かけた時の衣装とそっくり。

 

 

「……なにを、いまさら」

 

 

頭にチラついた記憶を振り払おうと、私は嫌々ながらハウ…ミリアリアさんに押し付けられた服に着替え、身支度を整える。…最後に小さめの肩掛けバックに最低限の用品と…拳銃を入れれば一応の準備は終了。

 

まあ、行ったところで起こるのは楽しいショッピングじゃなくて哀れな偽物人形のラストダンスですけどね。

 

 

* * * *

 

 

「メイリンさん、お待ちしておりました」

 

 

身支度を整えて言われた通りエレベーター前に向かうと、物の見事に原作通りのコーディネートをした御三方が揃い踏み。…この三人を待たせるとかなんか変な気分…知らないけど。

 

 

「…すみません、お待たせしてしまいました」

 

 

…別に行きたくて行くわけじゃないんだけど。一応は頭を下げておく。原作通りのコーデのなか悪いが、私だけは原作通りじゃない。…髪だけは結ばずに流したままにしてある。

 

……この姿が見たくなかったら私を同行させなきゃいいんですよ、そこの方。

 

 

「じゃあいこっか。メイリン…って呼んでいいかな、コペルニクスに来たことはある?」

 

 

…まるで意に介さない。貴方が少しでも微妙な顔してくれたら大手を振ってさよなら出来たのに。

 

 

「…いいえ、ありません」

 

 

なんなんだろ。ここまで非友好的な態度を取ってる人間によくそんな優しく接してくるよね、あなたも、あなたの恋人さんとお姉さんも。

 

普通、トラウマ無遠慮に抉ってくるような人間に会話ふります? …鬱陶しくて仕方ない…。

 

 

「…やっぱり、私戻ります。私がいたら空気が悪くなりそうなので」

 

 

ので、いっそ正面切ってみることにした。押してダメなら引いてみろならぬ、引いてダメなら押してみろ的な。

 

けど、そんな私の試みは思わぬ人物に阻まれることとなる。背を向けようとした私の手首を掴む、男性の手。

 

 

「…離してください、アスランさん」

 

「いや…その、えっと」

 

 

よりにもよってあなたですか。原作ならむしろあなたが一番この状況KY外出に反対してたはずなんですけど。いいですけどね、あなたからの好感度はそれほど大事じゃないので。

 

…別に、戦後のことは私に一切合切関係ない。ここは力ずくでも、

 

 

「そう仰らず、どうかご一緒してくださいませんか?」

 

 

………めんどくさいな…。

 

 

「それは…命令ですか?」

 

「ではそういうことに。さ、参りましょう、メイリンさん」

 

 

…やっぱだめか。

 

さぁさぁとラクス様に手を引かれるままエレベーターに乗り込み、そのままヤマトさんがラミアス艦長に行ってきますして車を走らせる。…そういえば道すがら既に私の隣にいるラクス様暗殺エージェントがこっち見てるんだっけ。

 

 

…まあ、いいけどね。どのみち死ぬのはあなたたちの囲ってる偽物の方なんだから。

 

 

* * * *

 

 

…到着しましたショッピングモール。真っ正面にどでかい第五ないし第六使徒みたいな噴水があるとかって言えば通じるかな。

 

 

「とってもお似合いですわ。ささ、次はこれなどいかがでしょう?」

 

 

…正直、終始不機嫌顔の私の手を引いて何が楽しいのか全く理解できない。男二人は護衛だと言わんばかりに少し離れたところから決して動かないし。

 

そしてアクセサリーショップで私に似合いそうと勝手にバカ高いイヤリング買おうとしたのは全力で止めた。

 

で、色々振り回されて現在は服屋でこの方の着せ替え人形にされているのが私。身バレ防止で呪術師のローブみたいなものを着たラクス様が次から次へと服の試着を強要してくる。

 

なんでよ、あなたがあれやこれやとお着替えして彼氏に感想をねだるとこじゃん、なんで私が、

 

 

「…いえ、もういいですからっ」

 

 

手渡される焦げ茶色のリボンシャツと黒いスカートを突き返し、私は試着室を強引に出る。

 

 

「お気に召しませんでしたか?」

 

 

…その言葉に同意していいですかね、なんならアークエンジェルを出る前からって補足付きで。

 

 

「…べつに。私が今さらこんなこと」

 

 

…何になるっていうんですか。どうせあと少しで物語も終わる、あなたたちと私の関係はそれまでなのに。…それに、今さら私に普通の人と同じことをする資格なんてあるわけない。

 

誰かとお出かけして、お買い物して……くだらない。いらない、必要ない、そんなもの、私の役割じゃない。

 

 

「では、いつであればよいのですか?」

 

 

……いや、だから……。

 

 

「ただひたすらに戦って、背負って、傷ついて。それだけが貴方の役目だと?」

 

 

……違う、私は戦ってなんかいない、押し付けてるだけ。それで傷ついたなんて言う資格があるわけない、そうして生まれた罪を背負うのは当たり前。

 

そうだよ…当たり前のことなんだよ。自分じゃ何も出来ないから、無理やり人にやらせて都合のいい筋書きを書いてるだけ。人の血と嘆きで望む未来を作ろうとしてる私に、許される瞬間なんてあるわけないじゃない。

 

 

「…それは違います。貴方がすべきことは、取るべき手段は…そうではないはずです」

 

 

…何が言いたいからさっぱりです。私のすべきことはみんなに役割を押し付けてあるべき結末へと世界を導くことです。それが私の役割であり、そこに至るための手段ですよ。

 

…あなただって、同じようなことしてるじゃないですか。平和を謳いながら他者に銃を握らせる。…そんなあなたに、とやかく言われる筋合いはありませんね。

 

 

「…そろそろお食事にいたしましょうか。キラ、アスランも」

 

 

………いらない……。

 

 

「だね、いい時間だと思う。混んでくる前にどこか入ろうか」

 

 

……少しは人の話聞いて下さいよ……っ。

 

 

「店内はやめたほうがいい。何かあったときに対応がしにくい」

 

 

……なら帰りましょうよ、あなたはさっきからこっちを見張ってる連中に気付いてるんでしょ?

 

 

「じゃあフードコートかな? それとも何か買って座って、とか?」

 

 

…だから、私は…っ!!

 

 

「メイリン、君はどうす」

 

 

あああっもうっ!! うるさいっ!!!

 

 

 

「…いらないってばっ!!」

 

 

「…メイリン……」

 

 

今がどういう状況かわかってるんですか? 今ごろ議長はメサイヤに踏ん反り返って着々と自らの野望を、デスティニープラン導入の準備を進めてる。こんなところで余計なことしてる暇なんてないの。

 

…そんなことしてる暇も資格も、私にはないんだってば。もうわかってよ、どれだけいえばこの人たちは私を放っておいてくれるの? なんですか、トラウマが足りませんか? 

 

フレイ・アルスター、トール・ケーニヒ、シーゲル・クライン、パトリック・ザラ、ニコル・アマルフィ。まだまだありますよ、なんなら全部ぶちまけてあげましょうか?

 

そんな、ドロドロとした怒りとともに視線を上げたその時、

 

 

『ハロッ、ハロッ! ドゥアンダースタァン??』

 

『ハロッ?』

 

 

声を上げたのは、私でもラクス様でも他二人でもなく。どこからかピョンポコピャンポコと跳ねてやってきた赤い球体ロボット。小さな紙切れを加えたそれは、最後の一跳ねで私の胸に飛び込んでくる。

 

 

「これ、ミーアのっ」

 

 

反射的に受け止めてしまった球体ロボ…ハロを見てアスランさんが慌てて駆け寄ってくる。…ええ、まあ、そうでしょうね。

 

 

「助けて殺される…罠ですね」

 

 

ハロが加えていた紙切れの内容はもちろん、SOSという名のラクス様を誘き出すための嘘。…いや、少なくとも将来的には殺されるから全てが全て嘘ではないのかもしれないけどさ。

 

 

「だが放っておくわけにもいかない。それも見越して仕掛けてる」

 

 

…いいえ、むしろ行かないことが最適解なんですど。気付いてないんですか、アスランさん。

 

 

「別に…いかなくてもいいと思いますけど」

 

「っ!? …メイリン? なにを」

 

「私は参りますわ。彼女は、助けを求めているのでしょう?」

 

 

……だから、助からないんですって。

 

 

「それに、どこかでいずれ…ちゃんとしなければならないことです。そうでしょう?」

 

 

………無駄だって、言ってるのに。

 

 

「分かった。アスラン、艦に連絡してくれる? …大丈夫、罠だって分かってていくんだし。何かあっても、二人は僕らが守るよ。そうだろ、アスラン?」

 

 

………私は、守られる側じゃありません…。ラクス様だけ守ってればいいんですよあなたは。

 

 

「ああ、そのつもりだ。連絡がつき次第向かおう、これは…野外ステージ…なのか?」

 

 

……無駄なのに。…どのみち結果は変わらない、何一つ、救えやしないのに。

 

 

 

* * * *

 

 

指定された場所…なんかコロッセオ風な野外ステージみたいなとこに到着し、位置的に舞台袖みたいなとこからアスランさんがゆっくりと外に出る。

 

 

『ハロッ、ハロッ! センキューベリマッチ!』

 

 

場違いなほどに陽気な声で転がっていく赤ハロ。そして、それが転がる先に、彼女はいた。

 

 

「…アスラン…っ?」

 

 

ミーア・キャンベル。議長によって見出された彼の人形。ラクス・クラインという偽りの姿と名前を与えられ、ただひたすらに利用された挙句、何を成すでもなく散っていくことを定められた哀れな少女。

 

着々と自身に迫っている死の定めなど彼女が知るはずもなく、死んだとされていた想い人の登場に驚きと喜びが混じり合った表情でアスランさんに駆け寄ってくる。

 

…そうだよ、このままこっちに。本物のラクス様を舞台に誘い込めって言われてるんでしょ? まあ、目の前にアスランさんが現れたらそんなこと忘れちゃうのも無理ないかもだけど。

 

 

「アスランっ!! あなた生きて」

 

「そこで止まれ」

 

 

駆け寄ってくる彼女に、アスランさんは懐から取り出した拳銃の銃口を彼女へと向ける。

 

 

「ア、アスラン…?」

 

「メッセージは受け取った、罠だってこともわかってる。だが……これが君が助かる最後のチャンスだ」

 

 

……いいえ、それは違いますよアスランさん。もうとっくに、()()()です。

 

 

「アスラン」

 

 

ヤマトさんと私が手に持った拳銃でそれぞれ通路を警戒しているなか、ラクス様がフードを外して彼女の前に姿を晒す。

 

 

「…ラクス、さま」

 

「こんにちは、ミーアさん。はじめまして」

 

 

驚愕に目を見開く彼女を前に、ラクス様は少しずつ彼女へと近づいていく。そして、そこから逃れようとするように後ずさる彼女。

 

 

「お手紙には助けてとありました。殺される、と。では、私たちと一緒に参りましょう」

 

 

……さて、そろそろかな。

 

 

「…あ、あれは私よっ!! 私だわっ!!」

 

 

…今頃、彼女の頭の中には自身を唆した付き人や、議長の言葉がてんやわんやと反芻してることでしょうね。……まるで走馬灯のように。

 

 

「だって、だって…そうでしょ? 声も、顔もおんなじなんだものっ!!」

 

 

彼女が心の叫びを吐露するなか、私はその瞬間に備えて銃のグリップを握り直す。原作だとアスランさんの役目だけど…まあ念には念をってことで。

 

 

「私がラクスで…何が悪いのっ!!」

 

 

はい、ここ。

 

 

「あうっ!?」

 

 

発狂?ヒステリック?を起こして彼女がバックから取り出した拳銃を、構える前に撃ち落とす。響く銃声と、弾かれるようにして転がっていく拳銃。

 

取り出すタイミングが分かっていれば、これくらい簡単ですよ。

 

 

「メイリン!?」

 

 

すみませんね、出番取っちゃって。まあここで万が一あなたやラクス様に怪我でもされたらたまったもんじゃないんで。

 

 

「…だから言ったじゃないですか、無駄だって」

 

 

自分でもゾッとするくらい冷たい声が出た気がする。ほら、彼女私のこと見て止まってる。

 

 

「…あなた、たしかアスランと一緒に」

 

「…ええ、まあ…ご覧の通り生きてますよ」

 

 

…会わないのなら、彼女のことなんて眼中にはなかったんですけど。

 

アスランさんは気付いてないようなので言っておきますが、ここまで来たら私は彼女を()()()()()()つもりはありません。

 

彼女は…というより彼女の付き人のあのバイザー付けた女の人は議長と繋がってます。つまり、もうこの時点で私の生存が向こうに知られてしまった可能性があるんですよ。

 

原作なら私なんかモブ中のモブだったからまったく問題ないんだけど、今回の私は議長に直々にロックオンされてしまっている。たとえ彼女らが私のことを知らなくても、ことの次第を報告されるだけであの人なら自ずと察しをつけてくる。

 

…そうしたら、絶対にお姉ちゃんが危険に晒される……。そんなもの、容認するわけにはいかない。

 

 

「メイリンさん」

 

 

……彼女に向けている私の銃を、ラクス様の手がそっと下ろす。

 

 

「名が欲しいのなら差し上げます、姿も。…それでも、貴方と私は違う人間です」

 

「…あ、あ……」

 

 

その言葉に崩れ落ちる彼女を尻目に、私はいままさにラクス様を狙っているだろう狙撃手の位置を脳内と目線の二つで探す。二、三箇所しか覚えてないけど、それでも何もしないよりはマシなはず。

 

…タイミングは、彼の鳥が教えてくれる。

 

「私たちは誰も、自分以外の何にもなれないのです。でも、だからこそ貴方も私もいるのでしょう? ここに」

 

 

…その自分とやらすら、知らず知らず何かに押し付けられたものに過ぎないものだとしたら…なんてちゃちな考えが浮かんだ。

 

 

「だから、出会えるのでしょう? 人と、そして自分に。貴方の夢は貴方のものです。それを歌ってください、自分のために。夢を、人に使われてはいけません」

 

 

……違う。あなたたちが誰かに出会うのは、そう世界に仕組まれているから、運命に予め定められているからですよ。…そして夢なんてものは、所詮あなたたちが舞台の役目を果たすために与えられた仮初の光。

 

…人に使われなくとも、自らの預かり知らぬところであなたたちは利用されているんです、物語という不可視の支配者に。

 

…そんなこと、気付かない方が幸せだとは思いますが。

 

 

『トリィッ』

 

 

っ!? 来たっ!

 

 

「っ!? ラクスっ!!」

 

 

それに気づいたアスランさんがラクス様の頭を下げつつ舞台袖にいるヤマトさんに突き飛ばす。無音で飛来する弾丸が石畳を抉るなか、アスランさんが呆然と動けない彼女の手を取って、私たちとは少し離れた陰に身を隠す。

 

 

「何人だっ!? 知ってるかっ!?」

 

「わかんないっ! サラしかっ!!」

 

 

向こうでそんな会話をした直後、このままでは埒が明かないと判断したアスランさんが彼女をこちら側に預けて、一人舞台袖を飛び出していく。…分かってたけどすごいな、相手マシンガンとかライフル持ってんのに、拳銃だけで向かってくんだから。

 

 

「う…うぅ…っ」

 

 

…ちっ。

 

 

「…しっかりしてください、じきに走りますから」

 

 

頭を抱えて涙を流す彼女のもとに歩み寄り、そう声をかける。ここでうだうだされてラクス様やヤマトさんに怪我をさせるわけにはいかないんですよ…それだけです。

 

 

「…あ、あなた…」

 

 

こちらを見上げてくる彼女を尻目に私も窓枠のようなところから銃を撃ってるけど、正直あんまし意味がない。私のはあくまで射的がうまいだけで実戦経験は皆無のほぼパンピーだ。…現にいま手も足も震えてる。

 

撃たれるかもしれない、なんて恐怖に駆られながら照準を定めて狙った場所を撃つ…なんて芸当は出来ない。せいぜいこっちも弾丸あんだぞって相手に牽制かける程度の意味しかない。

 

 

「っ!? 走ってっ!!」

 

 

分かってますよっ!! こちらに制圧射撃かけてた一人が手にしたものに気づいたヤマトさんの声を聞いて、私は咄嗟に隣にいる彼女の手を取って通路を走る。

 

直後、後ろで強烈な爆発音がして煙で通路が見えなくなる。たどり着いた階段の陰に隠れながら、頭を打たないように両手で下げる。

 

 

「ちぃっ!!」

 

 

それを見たアスランさんが煙が晴れる直前を狙って飛び出していく。走って銃弾を躱すなんてとんでもムーブをしつつ、空中で横回転して銃弾を避けつつ引き金に引くなんてビックリ人間ばりな攻撃で敵を仕留める。

 

 

「ああっ!?」

 

 

片手を負傷したらしい彼女のお付きの女性が投げてきた手榴弾は、私が何をするまでもなくヤマトさんが空中で撃ち返してクーリングオフ。自分で投げた手榴弾の爆風を受けて女性は吹き飛ぶ。

 

見ればアスランの無双もあらかた終わったようで、

 

 

『大丈夫か、ボウズども』

 

 

フラガ少佐?ロアノーク一佐? が乗るアカツキがステージにたどり着いたときには、私たちに降り注いでいだ銃弾は完全に止んでいた。

 

 

「遅いです、ムウさん。彼女たちを早く」

 

 

へいへいとボヤきながら彼はアカツキの掌をこちらに差し出してくる。

 

 

「メイリン、大丈夫か?」

 

 

…べつに、なんともないですよ。

 

 

「…はい。アスランさんもお怪我がなくて何よりです…」

 

 

嘘ではない。ここで彼に怪我でもされたらそれこそガバどころの話じゃ済まない。

 

 

「…そうか、よかった」

 

 

………………。

 

 

『さ、お姫様』

 

 

コックピットに乗る彼に促され、ラクス様がアカツキの掌に乗る。……うん、あの人…意識取り戻してるね。

 

私の視線の先には、倒れてボロボロになっても何とか拳銃を構える女性が一人。震える銃口が見据えてるのは、もちろんラクス様。

 

 

「はい、君も」

 

「…あ…あの…」

 

 

ヤマトさんに差し出された手をどうしようか迷う彼女。……ほら、気付きなよ、あと視線を少し右に。

 

 

「…っ!?」

 

 

…そして、手を取ろうとした直前に彼女は気がついた。自分のお付きの女性が、いままさに凶弾を放たんとしていることに。

 

 

「あぶないっ!!」

 

 

……そう、これでいいの。これで私の生存を知る人はいなくなる。…これでいい、これで原作通り。

 

彼女の命を救う必要はない、むしろ彼女の死はラクス様が議長打倒を改めて誓ういいスパイスになるはず。…そうだよ、だから何も気にする必要はない。これまで通り、ただ見て見ぬ振りをすればいい。世界のために、未来のために、それが正しい選択なの。

 

余計なことはしない、もうこれ以上、私は私の役割から逸脱したことはしない。…そんなこと、許されるはずがない。

 

 

だから、さっさとその銃を握る手から力を抜け。まさか自分の預かり知らぬところで無数に人が死ぬのはよくて、目の前で起こる悲劇は見逃さないとでも……?

 

 

………ふざけるな。どこまでお前は汚いんだ、周りの人たちに散々押し付けて、助けられたかもしれない数々の命を見殺しにして。

 

なのに今さら…今さらっ!! 我が身かわいさに吐き気がするような偽善を行うと? そんなことは許されない、許されていいはずがない。たとえ誰が、何が許したとしても、()が私を許さない。

 

 

動くな、見逃せ、殺せ。それがお前の役割だ、全てを知り、他者に運命を押し付けるお前の罪だ。

 

 

それが、お前の

 

 

『助けてくれてありがとう。俺が今ここにいられるのは、全て君のおかげだ』

 

 

…お前の、おまえ、の、

 

 

『このデカイ借り、必ず返すからよ。だから色々含めて、ありがとう』

 

 

……私のっ!! 罪なんだからっ!!!

 

 

 

* * * *

 

 

『あぶないっ!!』

 

 

その叫びの意味を理解できた者が、果たしてこの場に何人いただろう。言葉の意味はわかった、その言葉が誰を指すのかもわかった。

 

だが、ではどうすればよかったのか。その答えを知る者は、残念ながらこの場にはたったの一人しかいなかった。

 

それは、最強のMSパイロットではなく、その彼と対を為す親友でもなく。

 

平和を謳う姫君でもなく、在りし日の思い出を失った歴戦の戦士でもなく。

 

 

()()()()()だった。

 

 

響く一発の銃声。撃ち抜かれたのは、叫びを上げて真なる姫を庇おうとした偽りの歌姫……ではなく。彼女を利用し唆し、真なる姫をとある人物の策略のため葬ろうとした、一人の女性、その眉間。

 

 

そして、その引き金を引いたのは、

 

 

『…メイリン?』

 

 

青年は、己があるべき居場所から連れ出し、いままさに硝煙を漂わす拳銃を握る少女の名を呼ぶ。だが、

 

 

『…あ、あ、ああああ……っ』

 

 

瞳孔を開き切り、震える手で銃を構えたまま動かぬ彼女に、青年の言葉は届かない。

 

ドミノ倒し、という言葉がある。大量かつ慎重に並んだそれらを、意図的かそうでないかは別として、板を一押し。

 

少女がしてきたのは、まさにそれなのだ。目の前で起こる悲劇や罪といった大きな板を、一つ一つ並べていただけ。だが、そこへ到来する、小さな風、それが全てを……薙ぎ倒した。

 

つまり、いま彼女はようやく知ったのだ。これまで自分が背負い、切り捨ててきたものの大きさを、重さを。背負ったつもりでいたそれらの容赦なき重圧のなかにいる彼女に、そんなものは届かない。

 

命と罪、そして死。自らの行いとその本当の意味を理解していなかった愚かな咎人に、もはや何ものをも届かせることはできない、そんなものを受ける資格はない。

 

 

 

『あ…あ、あ…ひぃっ!? いや、いや、いやぁっ!! いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!』

 

 

少女に許されるのは、ただひたすらに金切り声を上げ、耐えられぬ業火にその身と心を焼かれ、いるはずのない屍の影に苛まれるのみ。

 

 

『メイリンっ! メイリンっ!!』

 

 

己の名を叫ぶ声すら聞こえず、少女はただ罪の業火に焼かれゆく。

 

 

あらゆるものを切り捨て、己が身と心でさえも捧げ世界の明日を目指した少女の心は。誰でもない、少女自らの手によって砕かれる。

 

 

この日、世界から()が消えた。

 

 

 

 

 

 

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