ガバ転生メイリンによる「こずみっくいら」再現物語 作:めんりん
投稿頻度は念のため3日に一度、くらいでいかせてもらいます。5日以上空く時は活動報告します。
第三十六話 : それぞれの一歩
「…それは…本当なのか? メイリン」
今し方俺が諸々の気持ちを告白し、ラクスによって心の呪縛を解かれた彼女から語られる衝撃の真実。正直、半信半疑……と言いたいところだが、何故かそう言われると府に落ちるものもあるのがまたおかしな話だ。現に俺はもちろん、あのキラとラクスですら驚愕に染まった表情を隠し得ない。
「…事実です。お話した通り、これまでに起きたことも、今起きている戦乱も、そしてこの後に起こることも、全て承知しています」
ヘリオポリス襲撃から始まり、アラスカ、ヤキンドゥーエ、そしてアーモリーワンからレクイエムなど今ここに至る全ての戦乱、そしてこの後に起こるらしい『メサイヤ攻防戦』や、それに伴う議長の『デスティニー・プラン』の導入宣言。
…開いた口が塞がらない、とはこのことか。驚いているのに納得もしているからもはや情報と感情の処理が追いついていないのだが。もちろん、過去に起こったことや未来を知っている、などという彼女の言葉は、一見は戯言に思えるかもしれない。
だが、そうだと断ずるにはあまりに内容が正確過ぎる。何故なら彼女は誰がいつ、どこでどう死んだのかすらを全て正確に言い当てて見せたのだから。いや、百歩譲ってミゲルやニコル、そしてクルーゼ隊長のようにザフトに所属していた人間のことなら、まだギリギリ説明がつく……かもしれない…が。
ドミニオンの艦長だったナタル・バジルール、ブルーコスモスの盟主ムルタ・アズラエル、元アークエンジェルのクルーであるフレイ・アルスター、その他機密事項やそこに立ち会ったキラ達でしか知り得ない情報や、彼彼女らの今際の際の言葉ですらも彼女は全て知っていた。
「なぜ私がこのような情報を持っているのか…理由についてはお教えできません。これは皆さんへの拒絶ではなく、説明しても文字通り何の意味もないからです」
…だろうな、ハッキング…などと言われても到底無理だ。明らかに個人が知り得ていい範疇を逸脱している。何ならかつて俺が最初にジャスティスを受領する直前に言われたラクスの言葉すら彼女は知っていたことだしな。
もはや信じるしかない、彼女はこれまでか今に至るその全てが見えていた、もしくは知っていた、と。それが未来予知に迫るかのような予測によるものなのか、それとも他の何かなのかは…わからないが。
「私の最終目標は、デュランダル議長をあなた方に止めてもらい、あるべき未来を実現すること、でした。…そしてそのために、ここに至る全ての悲劇を見逃し、救えるかもしれなかった命を見殺しにしてきたのが…私、メイリン・ホークという人間です」
「…メイリン」
食堂のテーブルで俺の隣に座る彼女は、そう言って太腿の上に置いた手をキュッと握った。
…これが、彼女がこれまで一人で抱え、そして見据えていたものか。最初から見えていたが故に。そこにある平和を実現するために、ただ一人で奔走しここまでやってきた。
目の前の戦火の責を背負い、命を背負い、それを罪として自らに刻みつける。そんな痛ましい行いを、今の今までしてきたというのか。
「…気色悪いですよね。頭おかしいですよね。未来を知っていたから、そんな狂った絵空事を描くために、何千何万、それ以上の命を踏みにじってきたんですから」
……メイリン…。
「…信じて頂けなくとも結構です。もう私がなにをしようと、おそらく結末は変わりませんから」
…結末、か。俺たちが議長を止めて、彼の野望を阻止する未来。俺たちはシンたちと和解し、プラントの指導者となったラクスとともに世界平和の実現のために生きていく。
一見すれば、いい落とし所な未来だろう。デュランダル議長の理想を否定する以上、その先の未来を守っていくことは俺たちの責務だ。その思いは今も変えるつもりはない。
だが、果たしてそこに彼女の笑顔はあるのだろうか。世界を守ることが、彼女を守ることに繋がるとは、どうしても思えない。
俺はただ世界を守りたいんじゃない、
「えっと…大体分かったよ。…いや、ごめん嘘。本当はまだ色々飲み込めてないけど」
…キラでも困惑することなんだよな、この状況って。お前がけろっとしたらどうしようかと本気で頭を抱えそうになったぞ俺は。違う意味で。
「君が僕らしか知り得ないことや、これから起こる…かもしれない未来を見据えてることまでは、とりあえず分かった…ことにするよ。なんで、とかって聞いても意味ないんでしょ?」
「…はい、説明のしようがありませんから。知っているから知っている、としか」
「でも、まだ分からないことがあるんだ、メイリン」
そうだな、同感だキラ。俺たちは彼女の見据えているものを知った、彼女の目的だったことも知った。だが、そうじゃない。俺たちは、まだ重要なことを彼女の口から聞いていない。
「…ヤマトさん?」
「キラ、でいいよ。君はラクスに…いや僕たちに
そうだ。彼女の助けを求めたあの言葉。彼女の知る未来を実現してくれ、という意味ではない…と思う。いや、たしかにそれも含まれているのかもしれないが、おそらく全てじゃない。
未来を実現するだけでは、彼女を救えない。
「だから教えて、メイリン。君は、どうしたいの? いや違う、
「…っ!?」
…まあ、おおよその答えは分かっているのだがな。そしてそれは、俺の知る人物たちだろうことも。
「…わ、わたし、は」
苦しいだろう、辛いだろう。見えていながら、分かっていながら見捨てた命に、申し訳が立たないだろう。
それでも、俺は君を…
「メイリンさん」
これまで口を噤んでいたラクスが、その清らかに澄んだ声で彼女の名を呼ぶ。
「知っていたから、見逃したことが罪ならば。…それを起こした者、そしてそれを止められなかった私たちも、皆罪人です」
「…でもっ!!」
「メイリンさん、罪とはただ背負うだけのものではありません」
いつも浮かべている優しげな微笑はなりを潜め、強い眼で彼女を見つめる。
「背負うだけでは駄目なのです。それを受け止め、向き合い、自分なりの答えを探してもがき苦しみ、それでも前に進むこと」
自分なりの…答え…。
「贖いとは、そんな長く険しい道のりを、生涯歩み続けること。ただ背負い立ち止まっていては何も為せません」
「…ラクス、さま」
メイリンに、君は悪くない、とは口が裂けても言えない。言ってはいけない。もちろん、君のせいだ、とも言うつもりはない。
ただ、目の前の戦火やその悲劇、そしてそこで散った数多の命全てを君一人が背負う必要はない。そして、だから君に誰かを助ける権利はない、なんてことも絶対にない。
「メイリンさん、今一度申しましょう。己が罪でないものを、掬って背負うのはおやめなさい。それは貴方の…貴方だけの罪ではありません」
そう、それは俺たち全員の罪だ。救えなかったことが罪ならば、救わなかったことが罪ならば、そこにある血溜まりから罪を掬うのが彼女だけでいいはずがない。
「ですから、どうか仰ってください。謂れのない罪を背負わせてしまった私たちに、どうか貴方に贖罪する機会を与えてはくださいませんか?」
「…そんな、でもっ」
瞳に涙を溜める彼女の手に、俺の右手を重ねる。
「大丈夫だ、メイリン。…俺たちが助ける、君と君の仲間を…家族を」
「…っ!? …アスラン、さん」
そうだ、助けるんだ。彼女と、彼女が今も心の奥底で大切に思っている彼らを。仲間を、家族を。それが、それだけが、俺が彼女を本当の意味で救える唯一の方法なのだから。
だから、
「…たすけたい、人たちが、いますっ」
ああ、そうだ。
「…議長を止めたい、みんながみんなでいられる未来に行きたい。その未来に……
命が消える戦場で限られた命を選んで救うことは、傲慢なのかもしれない。卑怯なのかもしれない。許されないことなのかもしれない。
だが、それでも俺は彼女を救いたい。罪を背負おうが偽善者だと罵られようが裏切り者と蔑まれようが構わない。
もう一度、彼女をあの場所へと導きたい。彼女という光が最も絢爛に、そして暖かく輝く、彼らのもとへ。
「…私の仲間を、私が見捨ててしまった彼らをたすけたい…っ」
そうだ、そしてあと一人。君にとって、何より大切な家族の元へ。
「…お姉ちゃんに……会いたい……っ!」
君を失い、おそらく最も傷ついているのは彼女だ。悲劇に囚われ、自身を見失い、今ももがき苦しんでいる。…彼女を救うには、絶対に君が必要だ。
そして君を救うには、彼女たちが必要だ。だから、
「貴方の願い、確かに。では叶えましょう、その願いを。キラ、アスラン、お二人も宜しいですか?」
「うん、やろう。…たくさんなんだ、もうこんなのは」
…当然だ。もう目の前で彼女が悲しみの涙を流すのは見たくない。無力に打ちひしがれて、なにも救えないと嘆くのはたくさんだ。
多くのものを取りこぼしてきた、奪ってきた。でもだからこそ、今度こそ…。たった一人の女の子くらいな。
「ああ、もちろんだ。シン、レイ、ハイネ…そしてルナマリア。…君を待っている人が、たくさんいるんだからな」
そして全員でたどり着くんだ、彼女が…いやみんなが目指す未来に。
「…アスランさんっ…」
…約束も、あることだしな。彼女を連れて、オーブに帰って、財布の中をごっそりと持っていかれてやらなきゃいけない、大事な約束が。
その時には今は涙を流している彼女の顔が笑っていられるようにするのが、俺のやるべきこと、だな。
* * * *
…えっと…はい、あの…メイリン・ホークです。正直、頭の中が混乱してカオスして困惑してます。
見捨てるつもりだったミーアさんを救ったことで罪の意識に潰されて自殺しようとしたらアスランに告白されたり……キス、しちゃったり。
間髪入れずにラクス様にほんのちょこっと出来た壁の隙間から容赦のないハートスナイプを頂いてわんわん泣いて色々ゲロって。てかタイミング的に私たちのやり取り聞いてたんじゃないの疑惑がありますよラクス様。
私の心を閉じていた壁にアスランさんが傷つけるのを待つ…って体で私たちのZ…ではないか、Dくらいのあれやこれ全部見てたんじゃなかろうか。
……その、どうすればいいのか。いや、正直まだ気持ちの整理が追いついていないというか、でもなんか手を握られたりすると安心するというかドキドキすると言うか。
…私なんかのことを、こんなにまで思ってくれて、守るって言ってくれて…みんなを、お姉ちゃんを助けるって言ってくれて…。
嬉しくない、なんてことはない。でも、本当に許されるのかな、私に。私なんかに、誰かを愛することが、誰かに愛されることが。
…いや、違うかな。罪を言い訳に、目の前のことから逃げちゃダメなんだ。背負うだけじゃ意味がない…。
私が歩む道は、きっと険しい。想像も出来ないくらいに。こうして色々と状況が変化したとは言え、私のしたことが全て許されたわけじゃない。
今も私は自分のしたことを覚えているし、罪の意識だってハッキリと残ってる。手の届かないところでたくさん見捨てて、切り捨てて、押しつけて。でも目の前に突きつけられたものだけは我が身かわいさに掬いあげる。
…正直、今も怖い。隣にいるアスランさんが手を握ってくれていなければ、またいつ自分を見失ってしまうか分からないくらいには。
けど、それでも私は前に進まなくちゃいけない。苦しいからってそこで蹲ってるだけじゃ何もできない。
これから少しずつ、私は私なりの答えを探していかなくちゃいけない。救えたかもしれない数多の命に償う方法を、術を。死んで消えてしまいたくなる時だって、これから何度もある。
だとしても。逃げないで、向き合って、前に進む。それが多分、私がしなくちゃいけないことだから。
…怖いよ、すごく。でも、きっと大丈夫。そんな道を、険しくて苦しい道を、隣で一緒に歩いてくれるって言ってくれる人がいるのだから。こんなに汚れた私の手を……握ってくれる人がいるのなら。
それに…約束もあるから。ちゃんと謝りたい、あの人に。……いやまあ謝らないといけない要件が一つ増えてるのだけども。原作通りというか、なんか違うような、そんな案件が。
「…あの、そろそろいいのかしら……?」
私の隣に座った彼女が、おずおずといった様子で口を開いた。
そう言えばこの人もいるんでした。色々ありすぎて頭の片隅にすら気にしていませんでした。めっさアウェーにしてしまった、ごめんなしゃい。
「ああ、すまないミーア。君の話しがまだだったな」
そう、私の偽善ムーブの被害者二号さんことミーア・キャンベルさんです。見かけたからちょうどいいやとそのまま食堂まで同行していただきました、私ではなくラクス様によって。
とりあえずこの辺でいくつか事後報告をばさせてくださいましおくんなましさいたま市。
私がラクス様のお胸の中でギャン泣きした後、とりあえず諸々の用事を片付けるために一度皆様付き添いのもとに部屋に帰りました。
自分で自分を抱きしめながら爪食い込ませて血が滲んでた患者服を取り替えてくれたのが…まあ私が点滴スタンドでぶん殴った女性の軍医さんだったり。
全力で謝ったら、これで私の世話になるのが最後になるといいわねって笑ってくれた。いやほんとすんません、多分ちょいちょい抗鬱剤とかもらいにくるかもです。…あ、これはアスランさんとラクス様に止められてるんでした。ほんっとに容赦のない方々です。
私のカルテを持ってた男性の方の軍医さんに至っては、私の精神が回復……したとは言い切れないけど、殆ど奇跡みたいなものだから気を付けろってさ。要経過観察、とのこと。
で、お着替え(えんじ色の上着と白い無地パン)したことだし一度食堂へ、とラクス様に促されてる途中に心配そうな目で様子を伺ってたミーアさんをラクス様が問答無用で確保して、私のぶっちゃけ話を一緒に聞いてもらいました、はいまる。
…胸焼けしそう、いや濃すぎだろ。なんだこの脂マシマシ具大盛り汁多め麺大盛りみたいた次郎系ラーメン並みの密度は。私のラーメン知識なんてカップ麺袋麺、そしてスガキ○とかしか外食ラーメンしたことないんやぞ。
「…私は、どうなるの? 一応はあなたたちを…ラクス様を殺そうとしたのよ?」
…それを言ったら、私はあなたを殺すつもりだったんだけどな。…まあだからこそ、彼女のことは私が責任を持たないといけないですけれど。見捨てるつもりで救った命、これは絶対に私が責任を持たないといけないことだから。
「あの、ラクス様。この人を…ミーアさんを戦争が終わるまで艦に乗せてあげてください。多分…プラントに返しても殺されます、彼女は」
…それか、もうすでに殺されたことになっている可能性すらある。どのみち用が済んだら十中八九消されることには変わりないのなら大人しくプラントに…というより議長のもとに返す必要はない。
もちろん問題はそれだけじゃないけれど、兎にも角にも目先の安全を確保しないことには元の木阿弥&本末転倒。この戦争が終わるまでアークエンジェルかエターナルにいればとりあえずは何とかなる…はず。
その後とのことは、またその時に考えます。…今はちょっと、頭の中がキャパオーバーです…。
「もちろんですわ。そうする為にお連れしたのですから。それで構いませんか? ミーアさん」
「…あの、えっと」
…まあ、煮え切らないのも無理はないか。今の彼女は、これまでに積み上げてきたものを全て失ったのだから。
彼女はもう、ラクス・クラインじゃない。ただのミーア・キャンベルだ。あれよこれよと持ち上げられ、踊らされ、利用されてきた者に、はい今から自由ですよレッツfreedomいぇーいと言ったところですぐに決断出来るはずがない。
「…私は、ずっと嘘をついてた。プラントの人やザフトに所属する人たちに。言われた通りにラクス様の名前と姿を勝手に使って、偽って…最後にはあなたたちを殺そうともした」
…嘘、ね。本当にそうかな。あ、いやまあ確かに彼女はラクス様じゃないし、姿そのものは借りパクのようなものかもしれないけど。最後のやつはそも傷心の彼女につけ込んで唆したあのバイザーの人とそれを指示したと思われる議長に責がある気がするし。
…あ、しまっ、
「…あ、あ、は…っ」
引き金を引く指、弾丸が額を撃ち抜く感触、押し寄せる罪の重圧。バイザーの人…サラって人を殺し、私の心を押し潰したあの感じが一瞬でフラッシュバックする。
「…は、はぁ…はぁ…っ!」
鼓動は早まり、呼吸は荒く。歯と歯が打ち合ってカタカタと音を鳴らす。まじか、ただあの人を思い浮かべただけでこうなるのか私は。まずいまずいまずいこれ止まんな、
「メイリン」
そんな時、隣にいるアスランさんの手が、膝の上でパンツを握り潰していた私の手に重ねられる。それだけで、パニックに陥りそうになっていた思考が鎮静化し、呼吸や鼓動も徐々に平常運転に戻っていく。
「…ありがとう、ございます」
「…無理はしないでくれ、気分が優れないなら休んだ方がいい」
大丈夫ですよ、こうやってあなたが私を繋ぎ止めてくれるなら。
「…いえ、あと少しだけ」
みんなに心配そうに見つめられながら、私は思考を再開する。さて、どこまでいったっけ。アスランさんの手をキュッと握って押し寄せる重圧に耐える。甘えるな私、まだまだいける。
それで、えっと…そうだ。つまり何が言いたいかと申しますと、
「嘘…だけではないと思います」
今し方の彼女の発言に、私は異議を申し立てる。
「…え…?」
呆然とする彼女に、私は思いの丈をぶつける。だって、嘘じゃないから。あなたのしてきたこと全てが嘘だなんてとんだお門違いだもん。
「確かに、あなたはラクス様じゃない。そこは否定しませんし、するつもりもありません。名前と姿、どちらも借り物です。そこにあなたの介在する余地はありません」
そう、確かに借り物だ。でも逆に言えばこれだけだと思う、彼女の嘘は。
「ですが、声は違います、歌は違います。声と姿が似ている、ただそれだけで掴めるほど人の心は簡単ではありません」
長年疑問だったんですよ、こうも歌い方どころか方向性も何もかも違う彼女とラクス様がなぜ同一人物だと思われたのか。歌のいくつかはラクス様のcoverだとしても、だ。
小林幸子とAKBくらいは違うと思うぞ個人的に。
なんか歌の感じ変わった? とかじゃ到底納得出来ないレベルでしょ、いくら姿形が一緒でも疑問に待とうぜって言うのが私の見解。いや確かに私とその他では見えてるものが違うけれども。
「それでも、あなたの歌は何度も人々の心を癒し、また熱狂させてきました」
そう、それでもなお彼女の歌と声は人々の心を震わし、ラクス・クラインというあまりに大きな存在を演じ続けた。
「たとえそれが他者から与えられた役割であり、虚構の姿だったとしても。あなたが戦火に晒され疲弊した世界と人々に光を届けたことだけは、決して嘘じゃない」
ある日突然見出された一般人が一朝一夕で演じ切れるほど、ラクス・クラインという名前と存在は軽くない。
戦時下という特殊な環境で、人々の娯楽と癒したり得る歌を届けられたのは、間違いなく彼女のひたむきな努力と研鑚によるもの。ただ声が似ているだけの素人が満員御礼のドームコンサートを開くまでに一体どれだけの歌唱力とパフォーマンスを身につける必要があったのか。
それを為し得た彼女の功績は、間違いなく本物だ。
「あなたの歌に救われた人達が大勢いる、救われた沢山の心がある」
歌い方も、喋り方も性格も何もかも違う。でも彼女の人々と世界を思う心だけは、きっと違わない。確かに彼女はラクス・クラインとしては偽物で、嘘で紛い物なのかもしれない。でも、
「あなたの
「…メイリン…」
…ふう、言い切った。喋ってる間ずっとアスランの指ギュってしてたからなんか手も疲れた。大丈夫かな、指取れたりしてない? 私の精神安定剤的な役割あざました。
「私の言わんとしたこと、全て言われてしまいましたわ」
おおふ…それは誠に失礼仕りましたモノホンのラクス様。
「ですが、彼女の仰る通りです。ミーアさん、貴方には私が果たさねばならなかった数々の使命を押し付けてしまいました。それについては、謹んでお詫び申し上げます。私が至らぬばかりに、貴方に取り返しのつかない悲劇を負わせてしまうところでした」
「…ラクス、様…」
悲痛な表情でそう口にするラクス様の言葉が、私の脳裏に一人の人物が浮かんでくる。彼女の言う悲劇を仕組もうとした、彼の姿が。……そうですね、いずれはケリをつけないといけません。
同じ穴のなんとやら。近いうちに勝手にお会いさせて頂くことにしましょうか、議長。……それが多分、私のつけるべきケジメだから。
「…そして、何よりの感謝を。貴方のおかげで、多くの人々が救われました。戦火に苦しむ人々の心、傷ついた世界に、貴方の歌を届けて下さったこと、本当に、本当にありがとうございました」
その言葉に、ついに彼女は泣き崩れる。
ラクス・クラインというあまりに大きすぎる存在を演じ、それを迫られ最後には容赦なく使い捨てられる定めにあった彼女は、今ようやくその呪縛から解き放たれた。
* * * *
「彼女のことはこのままアークエンジェルで保護できるように僕からも言っておくよ。エターナルに来たら、多分みんな混乱しちゃうから」
ミーアさんが落ち着いた頃を見計らってヤマ…キラさんがそう口を開いた。ですね、エターナルのシートにラクス様と一緒に座っていようものなら皆さん「ええっ!?」とかってなって戦闘どころじゃないでしょうし。
髪質、髪色、髪型、髪飾り。見分ける方法もないことはありませんが。…って全部髪の毛じゃねーかつっかえな原作知識。
あ、そうそう。私からも一つ。
「必要なものがあれば私に言ってください。ミリアリアさんからのいただき物が沢山ありますから」
多分ポジ的に私はエターナルに行ってしまうし、てかそうなるようにラクス様に頼み込むから今のうちにこの人には私がこれでもかと押し付けられた…というかまあいただいた女性用品を彼女にシェアしておきたい。
艦内にあるだろって? 細かいこと言わない、こういう些細なコミュニケーションが傷心な人には必要なのですよ、多分。
「…ありがとう。…えっと、メイリン、さん?」
「メイリンで構いません。たぶん歳下ですし」
というか私に敬称付けてんの育ちがグゥゥレイトなラクス様ぐらいじゃね今思えば。あ、ラミアス艦長もか。まああの人は基本恋人さん以外は敬称付けてるからノーカンです。
「じゃあ、メイリン。私からも一つあなたに言いたいことがあるわ」
ん? 私に?
「髪、前みたいに結んだら? あっちの方が似合ってるわよ」
…それは私みたいなガキンチョにはあなたみたいな長髪背中流しは早いと言うことですか。
…と、まあ冗談はさておき。もう闇落ち反抗期は終わりにしたいのでそうしようかとかとも思ったんですけども。ないんですよね、ヘアゴム。ミリアリアさんからのいただきものにもなかったし。まああの人は髪短いから当然と言えば当然なんですが。
「はい、これ」
そう言って、私の前に差し出される高級そうなヘアゴム。キラさんがいつぞやと同じように掌に乗せたそれを差し出しながら、優しげな口調で口を開いた。
「今なら、受け取ってくれるかなって」
…そうだ、私謝らないと。この人にも、ロアノークさんにも。
「…その……あの時は、すみませんでした。あなたの心を土足で踏みにじるようなこと言って…」
八つ当たりでこの人の目の前で死んだ女性の名前を口に出すなんて、外道極まりない。そしてそんなことをした私を助けてくれるって言うんだから正直心苦しいことこの上ない。
「…気にしないで、とは言えないけど。もうしないでしょ? あんなこと」
…はい、もうしないです。絶対に。
「じゃあいいよ。だからこれで、仲直りってことで。別に怒ってないけど」
…どこまで心穏やかなのこの人。魂の穢れをどこかに捨ててきてない?…いや、四六時中魂浄化機能付きの恋人といればそうなるか。それともそう言う人だからラクス様のパートナー足り得るのだろうか。
「…はい、ありがとうございます」
小さくお礼を言って、差し出されたヘアゴムを受け取った。…なんか、すっごい久しぶりな気がするな、髪結ぶの。
「貸して」
いざ結ぼうとしたら、隣に座っていたミーアさんにひょいっと取られる。そして慣れた手付きで私の長めの髪を両サイドに纏めると、取り出したコンパクトミラーで私の顔を映す。
「うん、バッチシ。やっぱり結んだ方が可愛いわ。髪を下ろしてるあなたは…何となく無理をしてるような感じがしてたから」
あなたがツインテモードな私を見たのはジブラルタルの一回こっきりな気がしますが。そんなあなたにすらこう言われてしまうなら世話ないですね…。
鏡に映っているのは、確かに私だ。見慣れたような、でも久しぶりに見た、いつもの私。なんか不思議、ミネルバにいた頃はこれが当たり前だったのに。
私がいっつもなんかやらかして、シンに笑われて、レイに無言で首根っこ掴まれて…お姉ちゃんに叱られて。そんな当たり前の時の私。
「…あれ?」
テーブルに一滴の涙が落ちて初めて自分が泣いていることに気がついた。でも、そう気付いたらなんか止められなくて。
『ちょ、ちょっとタンマっ! 離して、とりあえず離そ、そして話を聞いてレイ』
『ああ、離してやるし聞いてやる。……お前の姉の目の前でな』
『それじゃ手遅れだってばっ!!』
『なんだメイリン、今度は何やったんだ?』
シン、レイ……。
…お姉、ちゃん……っ!!
「はいはい、泣かないの」
当たり前だった日常を反芻していた私を今に呼び戻したのは、そんなミーアさんの声と、彼女の指が私の目元を優しく拭った感触。
「可愛い顔が台無しよ。それに…友達と家族に会うんでしょ? それなのにあなたが泣いててどうするの」
………ミーア、さん。
「…あなたに何があったか私には分かんないし、未来とかあるべき結末とかはもっと分かんないし、無神経なこと言ってるのかもしれない。でもね」
……………。
「そんな私でも、一つだけ分かることがある。…きっとみんな、あなたの笑顔が見たいのよ。…私も頑張るから、あなたに助けてもらったこの命で。だから笑って、涙はここぞって時にとっておきなさい」
そう言ってみんなの座る方へ視線を移す彼女にならって、まだ少しだけボヤけた視線のままキラさん達の方へと私も顔を向ける。
…嘘、まだまだ全然ボヤけてる。それでも、見えなくても分かった、キラさんも、ラクス様も、そして何より
「メイリン」
隣で優しく私の名前を呼ぶ彼も、みんな私に向かって微笑んでくれてるってことは。
「仲間だったり、家族だったり…大事な人たちに会う前に、まずはあなたがちゃんと笑えるようにならなくちゃ。辛気臭い顔でなんてダメよ、絶対に」
…笑えるように、ように。ちゃんと、みんなに会えたときに、笑える、ように。でも、私、
「大丈夫だ、メイリン。必ず会える、俺たちが必ず君と彼らを引き合わす。だから」
……なんですか…ズルいですよ、今だけこんな。いっつもいっつもこう言うことにはてんで鈍いくせに。私に、お姉ちゃんのご機嫌取りの方法を聞きに来るようなどうしようもなく鈍臭い人のくせに。
でも、そうですね。傷ついて、苦しくて、それでも今彼らは戦ってるんだから、そんな彼らを差し置いて私が泣きべそかいてちゃいけない。
…だから、
* * * *
それはひどく不器用で、ぎこちなくて、その上涙も流れていて。かつての彼女が浮かべていたものと並べれば、比べるべくもない出来損ないだ。
だがたとえ出来損ないだろうと、過去のそれにはまるで及ばなかろうと。数多の罪に塗れ、癒えぬ傷を抱え、全てを閉ざそうとした少女は。
『………っ』
この日ほんの僅かに、在りし日の笑顔を取り戻した。