ガバ転生メイリンによる「こずみっくいら」再現物語 作:めんりん
トントントントン。シャーシャーシャーシャー。サササササっ。パカ、チュルン。モミモミモミモミ。ムチュムチュムチュムチュ。
「あら? メイリン、そっちにパン粉ある?」
「えっと…ありました。あ、ミーアさん胡椒振りました?」
「胡椒? いるの?」
唐突な展開失礼します、メイリン・ホークです。……ええ、仰りたいことはわかりますとも、見たことある展開ですよね、私もそう思います。
「気持ち程度でいいですから。ちょびっと」
「へぇー。ならそうしてみようかしら」
可愛いエプロンに動きやすいようにとポニーテールに纏めた髪に三角巾まで付けた厨房ガチ勢…ミーアさんがそう言ってボウルにぶちまけた挽肉と生卵の上に胡椒を振り始めた。あ、少しですからね、ほんの少し。
私? 私は今さっき大量虐殺(微塵切り)した玉ねぎを皿に取り出して冷ましているところです。もうお気づきのことと思われますが、私たちが今立っている場所はアークエンジェルの食堂…の厨房です。
色々とお話が済んだから解散かなーとか思ってたら徐に
「それで、私はここで何すればいいの?」
とか言い出す元ラクス・クライン。いや、命の危機だから保護したのに何をするもクソもなかろうに。拾った命を大事にしてつかぁさいってこと以外に何をしろとは言いませんよ。CICに座るなんてことされたら寧ろ皆さん混乱するので大人しくしててください。
たとえエターナルにいけばバルトフェルド隊長のテンションが天を貫くレベルだろうと大人しくしていてください。
「何かしてないと落ち着かないのよ。あ、みんなご飯まだよね? 私が作ったげる。アスラン、ここの艦長さんに厨房の使用許可もらってきて。メイリン、あなたは私の手伝いよ」
何かしてないと落ち着かない⇨ご飯作る⇨私は手伝い。誰かこの史上最難関の方程式を証明してください。私? 私の数学は因数分解で終わってるので証明は管轄外でーーす。
「働かざるものなんとやら。どうせろくに人と喋らずコソッとタダ飯してたんでしょ」
……ぬおふ。とてつもなく心に刺さる。確かにゼリー用品だけとはいえ人のいぬ間にコソ泥の如くブツを掻っ攫っていたのは事実。居候みたいな待遇に甘んじていたことがこんなところで響いてきた、何だこの過去一しょうもないガバは。
「はい決定、ほらアスラン早く行く」
「あ、ああ、分かった」
困惑しながら走っていく私の恋人さん(になったのかな?)。え、うそんそこのお二人は何もなしですか。平和の歌姫さんとフリーダム(中身)さん止めてよこの暴走アイドル。
「まあ。お二人がお食事を作ってくださるのですか?」
いや、ニコニコするとこじゃないですラクス様。
「よかった、実はお昼食べ損ねてお腹ペコペコなんだ」
なるほど、神はとうに死んでました。そういえばこのお二人こそ他の追随を許さないコズミックイラ最強のマイペースカップルでしたね、へいへい、私が悪ぅございましたぁー…。
……で、はい冒頭に戻るわけなんです。許可が出る前から既に行動を開始した独断キャンベルさんに首根っこ掴まれてこき使われること小一時間。男性が数人いるだろうことも考慮に入れて二人がかりで量産していたブツが出来上がりつつあります。
え、なにをって? 見りゃ分かるでしょ"ハンバーグ"以外に何があるんですか、まったく察しの悪い方ですね(逆ギレ)。
てかミーアさん手際いいなおい。何なら私いらないレベルですよ。絶対この人自炊生活ベテランでしょ、ハンバーグの形を作る時のペンペンペンみたいな工程マジで主婦だったかんな。むしろ路上ピエロのジャグリングかと思ったわ。
「よし、焼き上がる前にスープとサラダもやっちゃいましょ。メイリン、あなたはサラダよ。あら、生ハムもあるじゃない、これも使っちゃお」
「あ、はいただいま」
ほんっとにやりたい放題だなこの人。てかその生ハム絶対厨房用じゃなくて個人名義のやつじゃん。二パックってもうお酒のつまみじゃん、なんかすいません、人の楽しみを悪意なく蹂躙してしまって。誰のだろ、マードックさんかな?
冷蔵庫の中身を見てきゃっきゃする元ラクス様、実に庶民的でよろしい。ただしタイミングが今じゃなければ。今さっきまで見殺しにしようとしてた人とキッチンに立ってレッツハンバーグな私の心はカオスタイフーン真っ只中ですよ。アルゴングぅぅぅレイトどころかドルマゲス第二形態すら一撃で殺れるくらいにはビュンビュンでぶおんぶおんですからね。
「ソースはケチャップと赤ワインでいいわよね。スープは野菜とコンソメにするとして…あ、いいパンがあるじゃない、ラッキーっ」
……もうどうにでもなればいいんですよ、はぁ……。あ、この生ハム美味しい、どこのだろ?
* * * *
はいというわけで無事焼き上がりましたよ、ええ全部。アスランさんの掌サイズと大きさこそ控えめですがその実、個数に関してはまっこと大人気ないハンバーグの山…を通り越してもはや山脈。
いやね? 私だって過去に似たようなことやったよ? 唐揚げで。でも唐揚げって個数食べてなんぼみたいな食べ物だし、成長期の男の子とか普通に二十個とか食べるし? だからミネルバで私が作ったマウント富士(唐揚げ)って四、五人で食べるならむしろ適切な量みたいなとかあるじゃんか。
でもさ…ハンバーグて(呆れ) …食べても二枚とかやん、グラムによりけりだけど。びっくりゴリラとかでもそんくらいでしょ言うて。…なのに今回のこのキャンバーグ(ミーア・キャンベルによるハンバーグ)、軽く五十超えてるからね。なんなら七十くらいあるかんね、マジで疲れた作るの。腱鞘炎でCIC休めるかな。
これに加えてこちとらサラダボウルまでやってんだかんな、やっぱ明日私エターナルで寝てていいですか。
だってほら、アルプス山脈並みの量と密度、現に大皿三枚に連なってるからね。キャンバーグだけで。
アーループースーいちまんじゃーくオロチーのうーえで三ー点ー倒立さあはじめましょ、のアルプス山脈。ちょっと歌詞が曖昧だけどまあニュアンスは伝わるっしょ。
「メイリン、何してるの。取り皿にナイフにフォーク。何人分いるか分からないのよ、あるだけ出して」
寸胴スレスレ並々タプタプにまでなってる野菜スープを皿によそいながらまだまだ私をこき使う気満々のキャンベル氏。アップにした髪から覗くセクシーな頸を見せてるとこすみませんが、私明日もあるのでこの辺で失礼したいであります。ちょっと世界の命運をかけたあれやこれやがあってですね。
「明日、大変なんでしょ? ならいっぱい食べて暖かくしてぐっすり寝る。…言っとくけど、今帰っても連れ戻すわよ」
…エスパーかな。何か私の周りにちょいちょいコーディネイターじゃなくてニュータイプいるんだけど。寧ろフェストゥムとかエスペラントの類じゃないの、ねぇ。
ミールにやたらめったら私の内心を看板するんじゃありまそんって伝えたい、何ならこれを私の祝福にしてください。よー意味わからんけどその辺。
「はーい…」
故に私に出来ることはただひたすらに肉体労働(無賃)に従事するのみ。そうして言われた通りにこれでもかと席を用意すること十分と少し。終わった後の洗い物が恐怖になるレベルの人数ですね、はい。
はぁ…何人分あるんだろうこのキャンバーグ山脈とその他草原(サラダ)と湖(スープ)と大地(パン)。間違いなく私たち五人だけじゃ収まらない、なんならラミアス艦長やらCIC中枢メンバーかき集めても無理じゃない? ほら、ノイマンさんとか食細そうだし。
「あら、いい匂いね」
「おお、こりゃ凄い。二人だけでやったのか?」
あ、噂をすれば何とやら、艦長とロアノークさんいらっしゃいませです。一番乗りですね、まあアスランさんが真っ先に声をかけたはずなので当然と言えますが。
「メイリンさん…もう、いいの?」
…ああ…。そういえば病室から逃亡した私を探してくれてたのはアスランさん達だけじゃないのか。もしかしたらこれから来る人全部にこの手の話しなきゃダメかな?
「…はい、大丈夫です。これまでご迷惑おかけしてすみませんでした、ラミアス艦長。乗艦してから碌に挨拶もしてなくて…」
「…いいのよ、そんなこと。でもこれからは、ちゃんと無理せずに言って頂戴。…もう、あんなことしちゃ駄目よ?」
「はい…」
それだけ言うと、二人はまだ誰もいないテーブルへと背を向けて歩いていく。…あ、待ってください。
「フ…、ロアノーク、さん」
「おお? どした嬢ちゃん」
まさか私に呼び止められるとはおもっていなかったのでしょう、なんだ何だと目を見開く彼の視線を合わし、そして下げる。謝罪の意を込めて頭と一緒に。自分の記憶に自信を無くしている彼に、私は決して口にしてはいけない言葉を吐いてしまったのだから。
「あの時は…不躾なことを言ってすみませんでした」
「ん…? ああ、あれね」
どうしたの? と言った様子のラミアス艦長に何も言わず、彼は少しずつ歩み寄ってくる。頭下げてるから足しか見えないけど。まあ張り倒されるくらいは覚悟してますがいざそれを目の前にするとなかなか怖いものがありまして。
そして内心ビクビクの私の前にやってくると、
「気にしなさんな。強ち、間違いってわけでもないしな」
ぽんっと。大きな掌が私の頭の上に置かれた。その感触に驚いた頭を上げると、大人の男性らしい、優しげな瞳と目が合った。
「…嬢ちゃんこそ、大丈夫か? 色々と」
……大丈夫ですよ。支えてくれる人たちがいるんだって、みんなが教えてくれたから。
「はい。…ほんとに、すみませんでした」
「だからいいって。まあ、俺以外にあんなこと言うのはやめとこうな」
それだけ言うと、彼はもう一度私の頭を優しく叩いて離れていく。けど、そのままラミアス艦長と席につくのかなと思ってた私の予想を裏切り、徐に振り向いてくる。
「あんなことと言えば…前に嬢ちゃんが言ってた"いずれ分かる"って言葉…そのまま受け取っていいのか?」
…ああ、そういやそんなことまで言い散らかしてましたね。吐いた唾が飲み込めないとはよく言ったものです。…どうしよう、本当に言葉通りの意味なんで説明のしようがないですし、だからと言ってミネルバのへっぽこ(名誉毀損)タンホイザーでのショック療法なんて口が裂けても言えないですし。
とは言え、なんでもありませーんってのも何か悪いし…。仕方ない、あんましこう…意味深モードは使いたくないのですが、まあ贖罪も兼ねて少しだけ。
「…私からは何も。ただ、答えはすでにあなたの中にあります。心の感じるままに行動してください。そうすれば…きっと大丈夫です」
たとえ記憶がなくとも、心に刻まれた思い出は決してなくならない。あなたが今感じているものが、懐かしさが、温もりが、きっとあなたを導いてくれるはずです。
「…なるほどね。いいアドバイスだ、従わせてもらう。んじゃ、俺たちは先に座って待ってようかね。おお、美味そうじゃん」
…つまみ食いは駄目ですからね、皆さん揃ってからですよ。あと何人くらい来るか知らんけど。
* * * *
「…ええ…。何か俺の知ってる食堂じゃない…」
ロアノークさんとのアレやこれやが終わった後。次から次に食堂にやってこられるアークエンジェル中枢の皆様。
まずはミスターバレルロールにしてアークエンジェルを不沈艦たらしめているノイマンさんをはじめミリアリアさん達CICメンバーさん。
「あなた…っ。大丈夫なの? こんなことしてて」
そう、それですよミリアリアさん。やっぱそういう反応になりますよね、寧ろふつうこうなりますよね。なのにそんな私とっ捕まえて肉体労働に従事させる某ハイレグ暴走キャンベルが間違ってる、そうに決まってる。
「…一応は。ご迷惑おかけしました、ミリアリアさん」
ぺこりと頭を下げる。実際、この人が強引に私を外に放り出さなきゃ今の私はなかったのかもしれないし。
「…そう、よかったわ。何かあればいいなさい、無理しちゃダメよ」
「はい、ありがとうございます」
ザ、常識人。私の周りにいる一部の方々も少しはこう言う一面を学んだ方がいいと思います。
「おー…坊主に言われて来てみりゃ…こいつはすげぇ」
苦労人メカニックのマードックさん御一行ですね、キラさんが呼んでくれたみたいです。流石はスーパーコーディネイター、先んじて私達だけでは処理できなくなることを予期していたみたいです。
「すまない、遅くなった」
そして先ほどより幾ばくか疲労顔のアスランさん。ご苦労様です、アイスティーとスポーツ飲料用意しておきましたよ。
「お疲れ様です、準備整ってますよ」
「……ああ、いや…何か強烈な既視感がしてな…」
わかります、思わず立ち眩みを催すほどのデジャブですよね。まあ今回の下手人私じゃないですけど。
「案内ご苦労様、メイリン。こっちは片付いたからあなたも座りなさいな」
あ、きたなこの騒動の下手人こら。てかエプロン外してねーし。
「いえ、私は最後で大丈夫です。アスランさん、お先にどうぞ」
「それだとあなたアスランの隣に座れないわよ?」
…うっ。確かに知らない人に挟まれるのは私の先天性社交性欠如病によろしくないですが…まあ背に腹は代えられません、流石に皆さんを差し置いて私が座る気にはなれないですし。
「大丈夫です」
「…分かった。ミーア、悪いが頼めるか?」
こうやって適度に私の意思を尊重しつつ気遣いしてくれるのほんと嬉しい。何どうしたのアスランさん、あなたこう言うこと苦手じゃなかった? 頼む相手のチョイスがアレだけども。
「りょーかい。ほら、座る座る」
ミーアさんに促されてアスランさんも席に着いていく。少し空いてますが、あの人の周りはキラさんとラクス様に埋めてもらいましょう。その近くにはラミアス艦長とかいるし、流石にあの面子の中に入る勇気はありません。経歴的にもね。
「…そう心配しなくても大丈夫よ。ちゃんと私が隣に座ってあげるから」
「…だから心配してるんですー」
やび、これ心の声にするつもりだったのに。私のお口のおバカ。
「あら、素直じゃないのね。じゃあこの手はなーに?」
ん? あっ…。微笑む彼女が指差す先には、彼女の袖をそっと掴む小さな手が。…はい、私の手です。どうやら無意識に心の安息を求めて彼女の肘あたりを掴んでいた様子。
まあ…出会って間もないのにここまで私が油断してるってことは相当居心地いいんでしょうかね、この人。
私を腫れ物…とまで行くと言い過ぎですけど、容赦なく接してくれるところが逆に私も気を遣わなくていいと言うか。
……すっっごい納得いかない話ですけれど。あと限度というものがあると思いますけど。
「…大丈夫だから。一人で放り出したりなんてしないわよ」
「………」
そのままミーアさんの暖かい手に繋がれて後の人たちを待つこと少し。
「僕らが最後かな、ごめんね」
「すみません、お待たせいたしました」
我らがお姫様と騎士様がお帰りになられた。そういやこの人たち誰を呼びに行ってたんだろ? ミリアリアさんとかマードックさんとかもういるし、あと残ってる人って、
「ほぉー…こいつはまた…いいことあるもんだなたまには」
「まったくだぜ、ウチのリーダーじゃこうはいかぐはぁっ!?」
…ああ、なるほど。アニメではほっとんど描写なくて完全に忘れてました。そう言えばこの方々もいるんでしたね。だからラクス様が呼びに行ったんだ、この人たちと関わりあるの現状あの方だけだしね。
「馬鹿言ってないでさっさと歩きな。殴られたくなきゃね」
「…こ、言葉と行動の順序が、お、おかしくねぇか…」
ずんぐりむっくり三連星…失礼、ドムトルーパー三機のMSパイロットの御三方。橙色の髪をオールバックにして右目に眼帯をはめた女性と眼鏡をかけて釘?を加えた男性、そして今しがた鉄拳を横っ腹に食らって悶えてる男性。大丈夫かな? すごい音したけど、どごぉっ みたいな。
どういう人たちかマジで記憶にないので戦闘中の言葉遣いから察するしかないのですが……なるほど、そういう感じですか。
…ていうか多くね? なんなら今アークエンジェルにいるネームド人物全員集合レベルなんだけど。しかも色々用意が終わってやっとこさ私も席に着いたらあらびっくり。
「ん? ああ、アンタかい。デュランダルに追われてザフト抜けてきたオペレーターってのは」
…なんで私の隣があなたなの…。もう片方にはしっかりミーアさんが座ってくれてるけども。いやまあ来た順に座ればこうなるかもしれないけどさぁ…よりによっていっっっちばん情報ない人なんだけど、原作知識にすらないんだけど。どうすりゃいいのこれ。
「は、はい。メイリン・ホークです。えっと…」
この人のような『ザ、姉御っ!』みたいな人は初めてなので接し方が分かりません。しかも私の持病である先天性社交性欠如病の対象のせいでめっちゃどもるし。
「なに緊張してんだい、別にとって食やしないよ。ヒルダ・ハーケンだ、そっちのバカ二人合わせてよろしく」
「ヘルベルト・フォン・ラインハルトだ。気をつけろよ嬢ちゃん、んなこと言ってるが普通にとって食うからなこいつ」
「…マーズ・シメオンだ。おう、こんな風にな…」
私達の前に座ってる二人がそう挨拶してくれるのはありがたいのですが、なんかこう…一人がすでに死にかけてる。え、大丈夫ですか? ご飯食べれる? ゼリー持ってきましょうか?
「やかましい。で、そっちが…ラクス様の替え玉かい?」
…声のトーンが一段下がりましたね…。そういやこの人たち筋金入りのクライン派、大丈夫かな、この人たちからしたらミーアさんってかなり際どい立場なんじゃ。
「ミーア・キャンベルです。皆様のご厚意でしばらくの間この艦でお世話になることになりました」
なんて思ってたら今までの暴走特急が嘘のように冷静なお声が。…この人こういう喋り方できんだ。てっきりラクス様モードか独断進行モードしかないと思ってました。
「…そうかい。まあ…ラクス様が決めたことならいいさ、私らは」
…ほっ。話のわかる人たちで助かりました。偽物許すまじとなったら私が盾になる覚悟でしたが杞憂だったみたいですね。さっすがクライン派話がわかりゅう(違う)
…おっと、そろそろ食べましょ。折角のキャンバーグ山脈with湖と大地が勿体ないですよ、皆様さあ召し上がれ、たんと召し上がれ、どんどん召し上がれ。…私の小さな小さな胃袋のためにも。
* * * *
「こいつは…美味いねぇ…」
あら、ヒルダさんが唸ってる。よかったねミーアさん、とりあえず胃袋掴んどけばコミュニケーション何とかなるんじゃないかな。まあ私と違ってこの人コミュ力高そうだけどさ。
「それだけじゃない、なにせこれ作ってくれたのは他でもないこの子たちだろ? ……ラクス様に着いてきてよかったぜ」
ヘルベルトさんのモチベーションが分かりませんが御満足頂けたようで何よりです。そういやこの人が釘咥えてるのって戦争の後遺症による鉄分不足を補うためでしたっけ。なら沢山食べて下さい、一枚ですでにお腹の容量が圧迫されている私のためにも。
「…出来れば腹の調子がいい時に食いたかったぜ…」
…泣くほど? え、美味しいの? それともお腹痛いの? てか腹の調子ってさっきの鉄拳じゃん。胃薬…いや湿布のがいいのかな普通に。
「ふぅ…」
私? もうお腹いっぱいですよ当たり前じゃないですか。でもパン一個にキャンバーグ一枚、そして野菜スープもちゃんと食べましたからね。病み上がり(内外ともに)にしては十分な栄養摂取をしたのではないでしょうか。寧ろ過剰摂取じゃないかな、栄養に過剰とかあるのか知らんけど。
…お水欲しいな。でも水が入ってる容器に手が届きそうもありませんし……仕方ない、少しウズウズしますが皆さんの食事が終わるまで我慢しましょうか。
「ほら、これだろ欲しいのは」
なんて思いが通じたのか、ヒルダさんが容器をとってそのまま私のグラスに水を注いでくれる。これはどうも、お手数おかけして。ていうかよくわかりましたね。
「こっちが見えない分、反対側はよく見えるのさ。もちっと周りを頼りな、またぶっ倒れて病室を抜け出したりなんてしないためにもね」
…その言い草とヘルベルトさん方の視線…なるほど、あなた方も脱走した私を捜索してくれた人たちの一人ということですね。
「…ありがとう、ございます。ヒルダさん」
「あいよ、いいってことさ」
頼る、か。押し付けるではなく、ただそうあれと願うでもなく。簡単に言ってくれます。それが出来たらあんなに苦労はしなかったというのに。
…いえ、それだけ単純なことだった、ということなのかもしれませんが。あ、では頼るついでに一つ。
「ミーアさん、そのペーパーナプキン一枚ください」
ちょうどお口の周りを拭きたかったのですよ、私届かないのでミーアさん取ってー。
「はいはい。ほら、こっち向きなさい」
「んむぅっ」
あ、ちょ。取ってとは言いましたが拭いてくれなんて言ってないですよ。てか何なんですかみんなして私を子供扱いして。これでもザフトの正式訓練を受けた立派な軍人なんですよ、私は。脱走したけど。
「それで、ミーア、って言ったね。アンタはこれからどうするんだい、このままこの艦にいるのかい?」
ヒルダさん、どうせその話を振るならお口ふきふきされてる私を助けてからでもよくないですか。今絶賛そのミーアさんに捕まってるんですけど、私が。
「はい。私がエターナル? に行くと皆さん混乱してしまうとかで」
「はっはっは。なるほどな、そりゃ混乱しそうだ」
ヘルベルトさんは比較的話の分かる人みたいですね。ミーアさんとラクス様が作戦時に同じ空間にいたらいらぬ混乱を招くことが説明しなくとも察してくれたようで。皆さんが『さあ行くよ!! ラクス様のためにっ!!』みたいな決め台詞言ってる時にしれっとミーアさん映ったら色々アレですし。
「そうか? 見分ける方法あんだし大丈夫な気もするんだけどな」
…果てしなくいやーな予感するのでお口チャックしてもらっていいですかマーズさん。
「ほら、髪飾りとかむネうごあっ!?」
……あーあ、言わんこっちゃない。
「今のはお前が悪いな」
おそらく向かいに座るヒルダさんに脛蹴られて本日二度目の悶絶をしているマーズさんと、それをため息混じりに軽ーく叱責するヘルベルトさん。そしてしれっと食事を続けるヒルダさん。
…痛そ、ブーツで脛とか風穴開きそう。大丈夫? 次の戦闘でマーズさん出撃不可になったりしない? 主に身体的負傷で。ジェットストリームアタックって二人でも出来んのかな。
「ねぇ、私とラクス様を見分ける方法って?」
…さぁ、自分の胸に聞いてみたらどうですかね。胸だけに。
* * * *
「ご馳走様でした、ミーアさん、メイリンさん」
上品に口元を拭ったラクスのその言葉を最後に、この混乱団欒極まった食事会も無事に終了した。正直なところ、離れた対角線上に座っていたメイリンの様子が気になって仕方なかったのだが…。
「ごちそーさん。美味かったよ」
「いいえ、お粗末さまでした」
ドム…と言ったか? 三人のパイロット組ともミーアが上手いこと取りなしてくれたのだろうか、今も五人で談笑している姿が目に映る。
「じゃ、メイリンはあっちで会ったらよろしく。なに心配いらないよ、エターナルは私らがきっちり守るからね」
「…はい、よろしくお願いします、ヒルダさん。ヘルベルトさんとマーズさんも」
ヒルダ、と呼ばれた女性が去り際に優しくメイリンの頭に手を置いていく。そしてそれに続くように二人の男性も食堂を後にする。ラミアス艦長やフラガ少佐をはじめ他のみんなも彼女らに一言二言お礼を言うと、同じように食堂から姿を消していった。
後に残ったのは予めある程度の片付けが済んで少量のカップと小皿だけが並んだ使用済みのテーブルとシンクにある大量の洗い物。さて、片付けくらいは俺も手伝えるだろう。
「…キラさん、少しいいですか?」
「ん? うん、どうしたの?」
大きめのトレイに皿を乗せようとしていたキラを彼女の言葉が呼び止める…メイリンの雰囲気が変わった。なるほど、その類の話か。そして俺と同じことを感じ取ったのだろう、ラクスもまた手を止めて彼女とキラに視線を向ける。
「…先程、伝え忘れたことがあります。私の我儘を聞いていただく上で、あなたにはどうしても知っておいて欲しいことが」
…また心の呵責に耐えているのか、視線は俯き知らず知らずのうちに彼女の右手は自らのもう片方の手に爪を立てる。
「メイリンっ」
慌てて彼女に駆け寄り、今まさに自分を傷つけようとしていた彼女の右手を取る。何を話すのか知らないが、これ以上彼女が自分の身も心も痛める必要はない。…そんなことを、許すつもりもない。
「大丈夫だ、ゆっくりでいい」
「…は、い」
俺の右手の中で、彼女の小さな手がゆっくりとだが握り返してくる感触があった。そして心を落ち着かせるように深呼吸をすると、改めてキラに向き直る。
「これから話すことは、もしかしたら再びあなたの心を傷つける行為なのかもしれません。…彼の過去を勝手に暴くのは、酷く傲慢で残酷なことなのかもしれません。ですが…」
……彼…?
「…いずれ必ず知ることになるでしょう。ならば、今の少しでも時間が許すうちに、お伝えさせて下さい。 …あなたがメサイヤで相対することになる機体…レジェンド。そのパイロットであるレイ・ザ・バレルの生い立ちと、正体を」