ガバ転生メイリンによる「こずみっくいら」再現物語 作:めんりん
「楽しそうだね、あっち」
「…騒がしい、の間違いだ」
キラと二人して頭の上にタオルを乗せて湯船に浸かること幾数分、隣の女湯から次から次へと騒ぎ声が聞こえてくる。真剣な話をしていると思えば直後のこれだ。
本調子ではないとはいえ、あのメイリンが完全に振り回されている。さしものミネルバの問題児でも、歌姫二人組に挟まれては形無しらしい。
…まあ、順調にメンタルが回復に向かっているようで何よりだ。多分な、そういうことにしておこう。俺なんかに今彼女を振り回している二人は止められん、何ならジャスティスでも無理だ。
「それで…お前の方は大丈夫なのか?」
隣であーだこーだと騒いでいる…というか巻き込まれている彼女から伝えられた、レイの生い立ち…いや、正体と言うべきか。だからと言って何が変わるかと問われればわからないが。
…正直、俺もまだ上手く受け止め切れていない。
「大丈夫…だよ。知らないで戦うよりは、ずっといいから」
アル・ダ・フラガ。少佐の父親である人物のクローンであり…クルーゼ隊長と同じ遺伝子をもつ存在、だったか。もはやどこに驚いていいのかわからない。
少佐の父親というところか? クルーゼ隊長と同じ遺伝子? それともそれら全てを見てきたかのように口にするメイリンにか? …本当に、情報密度の濃い日だな、今日は。もう少し段階ごとな展開にして欲しかったところだ、まったく。
「初めてあの機体を見たときから何となく感じていたことだから。それを彼女が形にしてくれた。……それだけだよ」
「それだけって…お前な」
割り切るの早すぎるだろ。もう少しこう…そんな、まさか、みたいなこと言っていいと思うぞ俺は。てか俺が言いたいむしろ。
「彼は…レイは僕が止めるよ。君こそ勝てるの? シンって子に。あとメイリンのお姉さん…ルナマリア、だっけ」
シンとルナマリア、か。メイリンの予想…というか殆ど予知だが、キラはレイと、そして俺はシンとルナマリアと戦うことになるらしい。シン…か。正直、勝てると断言するには些か厳しい相手だ。
あいつは強い、それはオーブでの戦いでも十分に分かった。あいつは、目指すもののために全力を尽くすやつだ。家族も、あの地球軍の少女も、そしてメイリンも。全て失った、守れなかった、そう思っているのだろう。
だからこそ、今のあいつは唯一残されたルナマリアを守るために死に物狂いで戦っている。悲しみと狂気に囚われているだろう彼女の安息を求めて、ただひたすらに、がむしゃらに。
「僕だけならまだしも、ジャスティスに乗った君にすら勝ってるんだ。簡単じゃないよ、彼を無力化してエターナルに連れて行くなんて」
まだしも、と、すら、に入るのが逆だバカ。でもそうだな、大層なことをやろうとしているが、俺もキラも一度シンに負けている。心の迷いや怪我云々があったとしても、だ。容易ではないことはわかっている。
しかも機体を無力化してエターナルに連れ込もうとしているんだ、ただ戦うよりも難易度は跳ね上がる。最悪、俺たちが撃たれる可能性も、ないとは言い切れない。相手は…シンもルナマリアも、そしてレイも、間違いなく俺たちを殺そうとしてくるだろう。
そんな彼らを殺さずに無力化するなど、都合がいいにも程がある。
「分かっている。それでもやるしかないんだ、そうしなければ、俺は彼女を救えない。やっと心を取り戻しかけている彼女を」
そう、彼女を…メイリンを救うには、どうしても彼らの存在が必要だ。そして彼らを救うには、やはりメイリンが必要だ。俺が奪ってしまった彼らの光を、あるべき場所にあった光を。
分かっている、これは彼女の願いであると同時に俺の我儘であることは。散々奪ってきておいて、今更救われて欲しい、救いたいなど戯言も甚だしい。それでも俺は、彼女と彼女の大切な仲間を救いたい。
彼女に、心から笑ってほしい。だから、
「誓ったんだ、他でもない俺自身に。戦うと、守ると。だから必ず取り戻す、彼女の笑う姿が当たり前である日々を」
今はまだ、希少なことなのかもしれない彼女の微笑む姿が当たり前である日常を。そんな彼女を厳しく、だが暖かく囲む世界を。失われた日々を、もう一度取り戻す。
それが俺の誓いであり、償いであり、戦いだ。
「そっか…なら手伝うよ、僕も、あと隣で騒いでるラクスも。メイリンのこと、なんかすごい気に入ってるみたいだし」
そう…なのだろうか。たしかに部屋に連れ込むだの抱いて寝るだのわけわからんベクトルで今も争いが起こっているみたいではあるが。
「今のうちに言っておく。…ありがとな、キラ。彼女の願いを聞いてくれて、助けてくれて。……正直……とても、心強い」
メイリンが二人と関わって数日と経っていない。俺だけならともかく、出会ってそう時間が経っていないメイリンのためにここまでしてくれることには、感謝しかない。
俺だけでは救えなかった。キラも、ラクスも…そしてカガリにも。その他多くの人たちが彼女を暖かく囲んでくれた。傷つき突き放し、一人になろうとする彼女に手を伸ばしてくれた。俺から言うのもおかしな話かもしれないが…感謝の言葉がない。
「別に、そうしたいと思ったからしただけだよ。僕もラクスも…多分、カガリも」
……キラ……。
「だから必ず助けよう。彼女も、彼女の友達も…そして家族も。悲しいだけの戦いを、今度こそ終わらせるためにも」
「…ああ、そうだな」
「あと、君には後できっちり財布の中身を散財してもらわないといけないからね、オーブで」
なんだ、やっぱ根に持ってるんじゃないかこいつ。まあその通りなんだが。…きっちり散財してやるさ、カガリがやると言ったんだ、恐らくとんでない値段の店を予約しているに違いない。メイリンの目玉が飛び出るくらいの、な。
…とりあえずこの戦いが終わったら預金残高の確認をしておくか、一応、それなりに貯蓄はあるはずだが…まあカガリのことだ、その辺は一切合切の容赦はしないだろうからな。念には念を、と言うやつだ。
「それに、なんか取り戻してあげたいなって。これが君の見てた光景なんでしょ? ミネルバで」
そう言ってキラが指差すのは、壁? に仕切られた向こうの女湯。やいのやいのと騒ぐラクスとミーアに必死に自らの自由意志を主張するメイリンの声。
…ミネルバでの光景とはある意味180度違う光景な気がするが。主に被害を受ける側ともたらす側的な意味で。
問題児からマスコットに鞍替えしたのだろうか? それともあの二人がメイリン以上の問題児なのか。
「そうであるような、決定的に何かが違うような…」
「変わらないよ、きっと。…だって、あんなに楽しそうじゃない」
…だから、騒がしいの間違いだ、まったく。
* * * *
じゃあ、また明日。そう言い残したキラと別れて自室…として割り当ててもらった部屋に帰ってきた俺は何をするでもなくベッドに座り込んでいた。誤解のないように言っておくが、何も無意味に黄昏ていたり暗いことを考え込んだりするためでもない。
「…ふぅ…」
単に…そう単に頭の整理をしたいだけだ。色々とあったからな、本当に。言葉にすると"色々"で済んでしまうが、そのど真ん中にいたこちらとしてはたまったものではない。
もちろん悪いことばかりではない、寧ろ良いか悪いかの二択で篩い分けをするならば、良いことなのだろう。命の危機にあったであろうミーアの保護が叶い、自責の念に潰されかけていたメイリンがようやく俺たちに心を開いてくれた。
メイリンが内側に抱えていたものの正体を知った、彼女の願いを聞くことができた。彼女を救うための道筋も見えた。…まあ後半は捉え方次第といった感じがしないでもないが。
「シン、ルナマリア…」
明日、相対することになる二人の名が自然と口からこぼれ出る。メイリンの予測ではルナマリア⇨シンの順に接敵するだろう、とのことだが…果たしてどうなるか。
戦力差だけで見ればそうなってくれるのが理想的と言えるだろう。こういう言い方は好きではないが…いくら理性のタガが外れているとはいえ、ルナマリアとシンでは戦闘の難易度が桁違いだ。機体性能も加味してな。
シンが俺に接敵してくる前にルナマリアを無力化出来れば、道はある。だがもしこれが叶わなかった場合、もしくは接敵順が逆になってしまった場合は…少しまずいかもしれない。
それに…問題は二人だけではない。間違いなく彼…もう一機のデスティニーも戦線に出てくるだろう。彼を…ハイネを説得出来れば、そのチャンスがあればいいのだが…果たしてどうなるか。
「ん…?」
そんな時だ、俺の耳に部屋への来客を知らせる電子音が聞こえてくる。誰だろうか、キラか?
だが、そう深く考えず、そして来客の正体すら確認せずにドアを開けた俺の最初に働いた五感が捉えたのは親友の声ではなく…トンっという軽い音とともに軽い振動が胸を打つ感覚と直後に鼻腔をくすぐるシャンプーの香り。
「メ、メイリンっ!?」
まだ湿り気を残した髪を流したままの彼女が俺の胸に飛び込んで来た。…待て待て待て、何がどうなっている、どういう状況だこれは。
だが、一瞬で心拍数が跳ね上がる俺のことなどお構いなしに、更に事態を混沌へと叩き落とす一言が至近距離…いやもはやゼロ距離にいる彼女の桜色の唇から発せられる。
「助けてアスランさんっ! 私…攫われるっ!!」
…………敵襲か?