ガバ転生メイリンによる「こずみっくいら」再現物語   作:めんりん

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…すみません、お昼に予約投稿ができていませんでした…。


第四十一話 : 覚悟を胸に

はぁ…。あ、どうもこんにちはメイリン・ホークですよ。…ええ、そうです、今し方髪の毛濡らして寝巻き三割裸のノーブラ手ブラ(手にそれを持つと言う意味)で交際一日目の彼氏の部屋に駆け込んだバカチン女ですはい。

 

いやだって、仕方ないじゃん。目の前でラクス様に"お前の部屋、鍵壊れてるから"、とか言われたら逃げるしかないじゃんっ。しかもあのバカたれラクシーズを除いたら、私が知る限りこの艦に女性って三人しかいないんだよ?

 

ちなみにその一人であるミリアリアさんは二人の共犯だかんね、むしろこの人が私のプライベートルームぶっ壊した張本人だかんね。同時に私の運命的に見た時の恩人だからまた話が複雑なんだけど。

 

ラミアス艦長は…助けを求めたら保護してくれそうですが何やかんやラクス様に押し切られそうだし、そもあの人にはなるべくロアノークさんと一緒の時間を過ごして欲しいので私の良心に従って却下。

 

ヒルダさん? あの人がラクス様に逆らうわけないじゃないですか、秒で却下です。…まあ別の理由もなくはないですが、これ以上は彼女の内面的かつプライベートかつデリケートな話題になるのでしません、お互いのために。

 

どうしても気になる人はジェンダーに対するある程度の理解と寛容さを持ってご自身でお調べください。

 

とまあ、以上のことから、私が頼れるのはもはやこの艦内にはたった一人のみ。正義の名を冠する赤い機体を駆り、かのフリーダム(中身)さんの相方にして今さっき私なんかを守るなんて言ってくれた彼のみ。

 

…致し方なかったんですよ、他にどうすれば良かったんですか。黙って二人の人形になればよかったんですか、嫌ですよ私は。……まあ、ミーアさんとくっつきっこして寝るのは少しいいかなーとか思いまいいえそんなことはありませんカッパ海老せん、私は人形でもなければ子供でもないですからね、大人のれでぃーなんですから。

 

 

「よいっしょ…っ」

 

 

うし、これで無事に乙女の最強悩殺武装が一つ、ブラの装着も終わりました。にしてもアレですね、折角…かどうかは知りませんが私はアスランさんにジブラルタルで半裸を披露しなくて済んだのに、結局はここで似たような痴態を晒しているという。何という無駄な歴史の修正力、もっと他でやることあるやろがい。

 

 

「メイリン、とりあえずタオルとドライヤー、あと飲み物も持ってきたがど……」

 

 

どうする? と言おうとしたんでしょうね、アスランさん。私も今そう思います、どうします、これ。

 

 

「す、すまないっ!!」

 

 

慌てて扉を閉じて再び外に蜻蛉返りしていく彼と、それを見送る上半身オンリーブラの私。……咄嗟に声すら出なかった……すません、上半身ほぼノーガード&ノーロックのまま考え事するような救いようのないアンポンタンで。

 

…顔の火照りが引いたらドア開けますね、今しばらくお待ちください。具体的には二、三種の恥ずかしい思いによる体温の上昇が鎮静化したらです。

 

そうして、何とかかんとか無事に顔の火照りと体温の鎮静化が無事に終わった(と思いたい)頃。

 

 

「…お待たせしました。どうぞ、っていうかここあなたの部屋ですけど」

 

 

部屋の前で荷物持ちながら直立してる彼をそろ〜…っと中に招き入れる。てかめっさ荷物持ってんね、コス◯コ帰りかな。私あそこのトルティケーヤみたいなのめっちゃ食べてた気がする、もううろ覚えだけど。

 

 

 

「…いや、その。すまない、ノックをすべきだった」

 

 

どこの世界に自分の部屋に入る際にノックする人がおるんですかい。実家にいる時なんてお菓子食べながら足で開けてるわ私。お姉ちゃんと共用だからバレた時とかにめっちゃくちゃ怒られるんだけどね。

 

 

「…い、いえ。…ありとあらゆる意味で私が悪いですから、そんなに謝らないでください。私こそ、つまらないものをお見せしてしまって…」

 

 

にしてもなぁ…この人の女性遍歴…という言い方は悪意があるけども。ど直球でいくとラクス様からのカガリ様からの私だからね。宇宙レベルの女神⇨気高き獅子⇨カナブンみたいなもんだかんね、なんかもう全面的に申し訳ない。え? 何で私なん?

 

 

「えっと、その、別につまらないなんてことは…いややめよう、なんだか雲行きが怪しい気がする、この話は」

 

 

…同感です。そういうラブコメちっくなフラグは禄でもない方向に話が引っ張られていくお約束ですからね、はいしゅーりょーしておきましょう。

 

 

「とりあえず髪を乾かしてくれ、そのままでは風邪を引く。それと湯上がりなら水分補給も必要だろう。あとは…上に羽織るものも借りてきた、出来れば着ていてくれると助かるのだが…」

 

 

両手に抱えたものを次から次へと渡してくる彼の手から順繰りにものを受け取っていく。こんなに持ってくれたんですね、お手数おかけしてすみませんほんと。

 

ではとりあえずドライヤーからしてしまいましょうか、折角お風呂入ったのにベトベトでは気持ち悪いですし。

 

 

「あ、ありがとうございます。…では失礼して…ほっ」

 

 

見つけたプラグにコードを差し込み、長い髪の毛を温風で靡かせる。鏡がないのでいまいち加減が分かりませんが…まあ乾けばいいんですよ、乾けば。

 

にしても面倒ですよねドライヤー。これだけ長いとドライヤーだけで十分以上とか普通にかかりますから。世の中の女性ってすご、デート前にお風呂入ってドライヤーして化粧してオシャレして…狂気やん、もはやバーサーカー。そんなだから被ダメも与ダメも五割り増しなんかな。

 

朝シャンだけして部屋でひたすらアニメ観てたわ私なんて。まあそんな私を強引に外に連れ出していくのがお姉ちゃんなんだけどね。

 

恋愛経験二日目のぽんちくりんは既に路頭に迷いそう。

 

 

「? どうかしました?」

 

 

先の見えない未来と己の過去を照らし合わせて暗夜航路しながら、髪の毛ぶふぁーしてたらアスランがぼーっとこっち見てる。どしたんだろ、なんか用事? あ、不法滞在に関しては見逃してください、終わったらすぐに出て行くつもりなので。

 

 

「い、いや…なんでもない。その、大変そうだな、と」

 

 

ほんっとにね。そういうあなたも男性にしては長めですよね、ってよく見たらあなたこそまだまだ髪の毛に湿り気残ってるじゃないですか。男性だからってドライヤーサボりましたね、お説教ですよもうっ。

 

私? 私はほら、やむを得ない事情(ラク以下省略)がありますからノーカンで。何なら走りながらセルフエコドライヤーしたのでいいんです。

 

 

「アスランさん」

 

 

手招きでひょいひょいとやると目をパチクリしながら近づいてくる。

 

 

「屈んでください」

 

 

身長差で上手いこと出来ないんですよ、ほらほら。訳もわからず私の目の前で膝を折る彼の頭を抱えるようにして紺色の髪に残った湿り気をドライヤーの熱風で吹き飛ばす。さあいけピジョット(ドライヤー)、ドリルくちば、間違えた、かぜおこしです。

 

 

「なっ!? おいっ!?」

 

「動かないでくださいよ、まだ乾いてないじゃないですか」

 

 

ジッタンバッタンと暴れそうな彼の頭を片手と胸を使ってホールドしつつ最も濡れている…とうよりは湿っていると思われる後頭部を熱風でなぞる。ほれみそ、水滴だけは拭き取りましたーくらいにしか拭けてないじゃないですか。風邪ひきますよあなたこそ。あと起きた時にトルネードになりますよ、髪が。

 

 

「ふぅ…これでよし、もういいですよ」

 

 

拘束していたアスランの頭を解放して私は再びなっがい髪の毛との戦いを再開する。はぁ…髪の毛に撥水加工したい。多分私の背中側にいるアスランさんの顔が真っ赤だと思うのでここは武士の情けで振り向かないであげましょう。アバンギャルドな女は気遣いが出来るのです。

 

……決して終わった後に自分がやったことに気づいたとか、彼の顔を鏡にして自分の顔色を想像したとかじゃないですから、ええ違いますとも。

 

 

* * * *

 

 

疲れた。何か今とっさに喋れと言われたら脊髄反射でそう答える自信がある。そろそろ今日という激動に次ぐ激動な一日を終えても許されるのではないだろうか。というか許してくれ、お願いだから。

 

…あ、いや…そう言えばまだ残っていた、ラクスとミーアというその気になれば今すぐにでも世界を混乱に陥れることすら可能な二人による優しさと悪戯混じりな陰謀が。

 

 

「…うーん、やっぱりこれサイズ合わないですね」

 

 

そう言って俺に振り向く彼女の服装は、先程よりも幾らか布面積が増して俺の目に優し…、

 

 

「…こういうの、趣味だったりします?」

 

 

くなってないじゃないか馬鹿。

 

 

「違う、いや決して悪いというわけではないが…ってそうじゃなく」

 

 

キョトンとしている彼女は今し方に俺の目と心を毒した薄着の上に、頼むから何かないかと艦内探索をした俺にミーアが半ば強引に持たせてくれたワイシャツだ。

 

が、どうもシャツのサイズが幾分か大きかったようで…見方によれば今の彼女はワイシャツ以外は何も身につけていないようにも見えてしまう。ショートパンツが完全にシャツの下に隠れてしまっているのが最たる原因だろうか。それとも袖口から除く腕部分が指の第一関節しかないところか。

 

……ほんっとに許さないからな、ミーア。この戦いが終わったら覚悟しておけよ。

 

 

「違うものを探してくる、君の部屋になら他にあるだろう」

 

 

流石にその…扇情的過ぎる。もう迷わずに長袖と長ズボンを取ってこよう、それが俺のためであり彼女のためであり宇宙のためだ。なんならパーカーとズボンとかでもいい、というか布があればなんでいい。

 

 

「いえ、もういいですから。なんか申し訳ないですし…」

 

 

…メイリン、悪いが今の俺にとっては君がその格好で俺の部屋にいることが最大の問題なんだ。そしてそんなあられのない姿で俺の袖を掴み俯く動作すら俺の心に巨大な波風を立てていることを自覚してほしい。

 

 

「ご迷惑おかけしました、戻りますね。明日…最後の戦いになるでしょう、ゆっくり休んでください。おやすみなさい、アスランさん」

 

 

……そうは問屋がなんとやらでな。少しぎこちなさげにではあるが微笑んで背を向ける彼女の手を掴む。ミーアとラクスがはしゃいでいた通りに、いや想像以上に小さな手だった。

 

 

「アスランさん?」

 

 

キョトンとする彼女の表情に心をくすぐられることを感じつつ、俺は二人に言われたように彼女に選択肢を提示する。…まあ、選択肢と言ってはいるが実際には意思確認のようなものになってしまうのだが。

 

 

「すまない、今の君を一人にするわけにはいかないんだ。ここか、ラクス達の元か…病室か。悪いが選んでくれないか?」

 

 

…情けない、と言われるかもしれない。だが流石に交際初日である彼女に部屋に泊まっていけと言えるほど剛毅な精神は持ち合わせていない。願わくばラクス達の元が安定な気がするのだが…。

 

 

「ここではない選択をするのなら送る。どうする?」

 

「…いや、どうすると言われましても…」

 

 

困惑するよな、だがわかってほしい。君を、他ならぬ君から守るためにはこうするしかないんだ。

 

 

「まあ…言わんとしていることは分かりました。けど、私がここに残ると言ったらアスランさんどこで寝るんですか?」

 

「…うっ」

 

 

…生憎、この部屋にはベッドは一つしかない、しかも一人用。もちろんここは彼女に譲る、というか使ってくれ。俺は…まあシーツでも借りてきて床で寝るか…椅子に座って机に突っ伏してでも寝るさ、最悪な。

 

 

「言っておきますが、床とか椅子とかはダメですよ。パイロットであるあなたにこんなことでコンディションを崩されたら未来も何もないです」

 

 

しかしだな、そうする他に道がないんだ。俺のことは大丈夫だから君がベッドを使え。悪いが俺が駄目というがこっちとしても君を床や椅子で寝かせるつもりはないからな。

 

 

「…今更病室は嫌ですし、あの二人のところはもうゴリゴリなので…必然的にこちらにお世話になろうかと思うのですが」

 

「…そうか、なら」

 

「ただし。私からも条件があります」

 

 

…一応、聞いてみよう。なんとなく、予想はついているのだが…。

 

 

「…ベッドは、その…ふ、ふた、ふちゃりでつか、つかかうというにょがですにぇっ」

 

 

……言えてないぞ、なにも。自身の髪よりも顔を赤くした彼女を見て、ああ、自分も今似たような顔をしているのだろななと、どこか他人事のように思った。

 

明日は最後の戦い…らしいと言うのに。なかなかどうして、前途多難だな、まったく。

 

 

 

 

* * * *

 

 

支度を済ませ、二人してベッドに入り消灯すること幾数分。自然と互いに背中合わせの姿勢となり、現在俺は背中越しに感じる己のものではない体温や甘い匂いやらを無視しようと壁と睨めっこしている。

 

目を瞑れば視界が閉ざされる。そうすれば自然と視覚以外の感覚が鋭敏になってしまうため、今は何としても目を閉じるわけにはいかなかった。

 

駄目だ…かんっぜんにラクスとミーアの術中に嵌ってしまっている、彼女のためだと必死に自分に言い聞かせてはいるが、そうでない想像をしてしまうのは男の性だろうか。

 

……とりあえずこの戦いが終わったら必ず何かしらの方法で二人には報復してやるとしよう、いつもいつもやられてばかりだと思うなよ。

 

 

「…起きてますか、アスランさん」

 

 

俺が心の内に小規模な反逆の火を灯していると、背中から細く囁くような声が聞こえてくる。

 

 

「…生憎と、この状況下ですんなり眠れるほど能天気な性格ではない…つもりだ」

 

 

どっかのフリーダム(中身)と違ってな。あいつのそう言う話、一切合切ほとんど聞いたことないから詳しいことはわからないが。

 

 

「…私もです。ねぇ、眠れないついでに、ちょっとディープなこと聞いていいですか?」

 

「…好きにしてくれ。俺も少し聞いておきたいことがあるしな」

 

 

特にさっきのこととかな。君のその眼は…いつから、なにを、どこまで見ていたのか、見ているのか、とか。

 

 

「…多分、話ついでにお答えできると思いますよ」

 

「…そうか。それで? 聞きたいことというのは?」

 

 

世の中には深夜テンションなるものがあるらしいが…なるほど、暗闇というのは人の本性を曝け出す手助けをするような性質があるのだろうか。言われてみればいつもより幾分か内面の鍵が緩い気がする、気のせいかもしれんが。

 

 

「…アスランさん。今更なんですけど…カガリ様とはどうしたんですか? 指輪、渡してましたよね。たしかプラントに渡る前に、セイバーを受領する直前、でしたっけ。ほら、ヘリに乗る前に」

 

 

…本当に、まるで見ていたかのような言い方だ。今更、なのかもしれんが。

 

 

「…フラれたよ、時間的には昨日に。俺から言わなきゃいけなかったのに、気付いたら全部言われて…指輪も海に投げられた」

 

 

俺が悪いのに。俺が背負う罪だったのに。それなのに、カガリに背負わせてしまった。…いや、背負ってくれたんだ、俺のために、そして何よりメイリンのために。

 

 

「…私のせい、ですね」

 

「ちがう、これは俺の問題だ。君がとやかく言う問題じゃない」

 

 

人として、男として。俺の不甲斐なさが招いた結果だ、君が背負うべきものなんて一つもない。

 

 

「…ねぇ、何で私なんですか? あなたならもっと素敵な人、たくさんいるのに。それこそカガリ様やミーアさんとか」

 

 

…何で、か。なんでなんだろうな。というかミーアを入れるな。

 

 

「…未来が見えるなんて妄言かまして、散々見捨てて、切り捨てて。気持ち悪くないんですか、憎くないんですか。私…あなたにこうまでして守ってもらう価値のある女なんですか」

 

 

………………。

 

 

「あなたの仲間も家族も見殺しにして。ハイネさんやミーアさんだって見捨てるつもりだったような汚らしい女を、守る価値なんてあるんですか」

 

 

…家族、か。口ぶりからして血のバレンタインとジェネシスのことを言っているのだろうな。それとミーアにハイネ、か。…ハイネもまた、君の見た未来には生きていなかったんだな。

 

そんな彼が俺たちを…彼女をその手で撃ったと…なんとも皮肉な話だ。

 

 

「…知っていたから、どうしたと言うんだ。知っていても、何も出来ないことだってある。ただ事実だけを突きつけられて、それだけで君が悪いんだと、一体誰が言う」

 

 

知ろうとしたわけでもなく、ただこうなるのだと知らされたところで一体彼女に何が出来たと言う。まだ軍人ですらなかった少女に、世界は何をさせようとしたんだ。

 

それに、

 

 

「救いたいと思ったから、そうしたんだろ? ハイネも、ミーアも」

 

「…偽善ですよ。自分に預かり知らぬ命は切り捨てるのに、目の前で散るのは見逃せない。…ただの卑怯者です、自身の手を汚したくないだけの臆病者です」

 

 

たとえそうだとしても。その行いが偽善と言うのだとしても。

 

 

「…先日のプラントを撃ち抜いたあの兵器、レクイエムの話は聞いているか?」

 

「…ええ、()()()()()()

 

 

超射程超出力のビームを廃棄コロニーを利用して屈折させる恐ろしい戦術兵器。プラントを貫き蹂躙せんとした光は、たしかに多くの被害をもたらし多数の死者を生み出した。

 

だが、

 

 

「…ビームを屈折する中継ステーションを巡る攻防戦には、ハイネとデスティニーの姿もあった。彼がいなければ、さらに多くの被害が出ていたかもしれない」

 

 

いや、間違いなく出ていただろう。デスティニーの力はそこいらの量産機など歯牙にも掛けないほどに圧倒的だ。それは実際に戦った俺が知っている。

 

そんな機体とともにハイネがいたからこそ、プラントの被害は最小限に抑え込まれたんだとしたら。もし彼がいなければ、もし中継ステーションの破壊がもう少し遅れていたならば。プラントはさらに多くの被害を被ったかもしれない。さらに多くの死者を生み出していたかもしれない。

 

 

「全てを救えたわけじゃないのかもしれない。でも、それでも確かに、救われた命がある。今があり、未来がある。罪だけが君の全てじゃないんだ、メイリン」

 

 

見捨てて、切り捨てた。その言葉が全て間違いだと言うことは出来ない。いくら俺が言葉を尽くしたところで、今すぐに彼女の在り方を変えることは難しい。だから、言葉では足りぬと言うのなら。

 

 

「…君は俺が守る。何に変えても、何と戦うことになったとしても。いつか君が心から笑えるようになるまで、そんな世界になるまで」

 

 

行動で示そう。この戦争を止めて、議長を止めて。もうこれ以上、彼女が罪を背負わなくていい未来を。全てを取り戻し、当たり前だった日々に彼女を送り届ける。

 

そのために、俺は俺の力を使う。何に強制されるわけでもない、俺自身の意思で。

 

 

「…ふふっ。すみません、少し意地悪な話でしたね」

 

「まったくだ。気が気じゃない」

 

「…でも、一つ答えてもらっていませんよ」

 

 

…? と言うと?

 

 

「…どうして、私なんですか? こう言ってはなんですけど、そんなにアスランさんと関わった記憶がないと言うかなんというか…」

 

「…それを言うなら、なぜ君は俺を受け入れたんだ。あまり自分から話すのもどうかと思うが、中々の女性遍歴だぞ、今の俺は」

 

 

世間一般から見れば、間違いなく女性の敵に括られる人種だと思う。なんせ婚約破棄を行った舌の根も乾かずにこうして彼女と関係を持っているのだから。もちろんそこに至るまで日にちだけでは到底説明できない多種多様紆余曲折なあれやこれやがあると言えばそうなのだが。

 

 

「…はっきりとは、わかりません」

 

 

………………。

 

 

「…でも、何もかも怖くなって、耐えられなくなって…。どこにも逃げられなくて。全部終わりにしようとした私を、あなたは繋ぎ止めてくれた」

 

 

…無我夢中だった。いなくなったと聞いて、走り出して、目の前でナイフを握る君を見て。…考えるより先に体が動いていた。

 

死んでほしくなかった、生きていて欲しかった。ただその一心で、気づいたら君を抱き締めていた。

 

 

「こんな私を守ると言ってくれた、こんな私の手を握ってくれた。…私は、あなたを愛したい。あなたに愛されることが赦される私になりたい、あなたを愛することが赦される私になりたい」

 

「…メイリン…?」

 

 

何を言っている、赦される? そんなことは、

 

 

「私、議長に会います」

 

 

…っ!?

 

 

「会って、終わらせてきます。世界のためとか、未来のためとか、そんな大層な物じゃなくて。私自身のけじめのために」

 

 

起き上がり、振り向いた先には。俺と同じく体を起こした彼女が、暗がりのなかただ前を向いて言葉を紡いでいた。その声音は、いつかの一本のコーヒーを受け取った時のように静かで、透き通っていて、それでいて強い意志を感じさせるようなそれだった。

 

 

「今まで、沢山の人達に押し付けてきました。運命を、役割を、死を。私には何もない、何も出来ない、だから仕方ないんだって、必死に自分に言い聞かせて」

 

「しかし、」

 

 

どうするつもりだ、まさか戦闘中に敵要塞に乗り込むとでも言うのか、君一人で。そんなこと、

 

 

「でも、それももう終わりにします。押し付けるのも、逃げるのも。だから、私行きます。行って、終わらせてきます」

 

「駄目だっ!!」

 

 

許せるわけないだろうっ。危険すぎる、君が一人で議長に会うことも。戦う力を持たない君が戦場に身を晒すことも。

 

 

「忘れたのかっ! 議長は俺ではなく君を消そうとしたんだぞっ!! そんな君がのこのこ彼の前に姿を現したら間違いなく殺されるっ!! 第一、どうやって彼の元に行くつもりだっ!!」

 

 

モビルスーツもない、フリーダムやジャスティスに乗せるわけにもいかない、乗せるつもりもない。あんなものに乗るのは俺たちだけで十分だ。

 

 

「エターナルに搭載されているはずの内火艇(ランチ)を使います。大丈夫ですよ、流石に操縦方法くらい心得てます」

 

「そう言う問題ではないっ!!」

 

 

あんなもので戦場に飛び出すなど自殺行為だ。一度でも敵機に狙われたらそれで終わりなんだぞ。

 

 

「お願いします、行かせてください。私を想ってくれるなら、こんな私のことを大切だと思ってくれるなら。誰のためでもない、私自身が歩みを進めるために」

 

 

……しかしっ…!

 

 

「大丈夫ですよ、タイミングは間違えません。分かってますから」

 

 

………メイリン……。

 

 

「約束します、必ず戻るって。必ず帰ってくるって。あなたの…元に」

 

 

そう言って俺の胸元を掴む彼女が、微笑みながらそっと目を閉じる。……わかった、それが君の望みなら。君が自身の未来に踏み出すために必要なことだと言うのなら。

 

守ってみせる、君を、君達を。何度目も分からない決意を胸に、暗闇のなか華奢な彼女の身体を抱き寄せ、そっと唇を重ねた。

 

この微笑みを、温もりを。たとえ何と戦うことになろうとも、俺が守る。

 

シン、ルナマリア…悪いが加減はしない、全力でお前達を打ち倒す、そして彼女に引き合わす。

 

彼女の悲しみも、お前達の悪夢も、明日で全て終わりにしてやる。だからそのために、もう一度俺に力を貸せ、ジャスティス。彼女たちを捕らえる暗雲を切り裂き、俺の正義を示すために。

 

 

 

 


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