ガバ転生メイリンによる「こずみっくいら」再現物語 作:めんりん
はい、おはようございます、メイリン・ホークです。…久しぶりに、普通の朝というものを感じて少し呆然としそうです。本来、私は朝ちょい弱乙女なんですが…まあ状況が状況なのでお目目ぱっちりんこです。
あ、言っておきますがキスと添い寝以上のことはありませんでしたからね、そこんとこ誤解なきようにっ。でも生まれて(多数の意味)初めての男性の腕枕はえもいわれぬ安心感と温もりがありましたとだけは感想として述べておきますはい。
それにアークエンジェルに来てからは目の前の現実と訪れる未来から逃げるようにシーツ引っ被ったり、生きて目覚めた事実に舌打ちしたり、そもゴリゴリに不健康な精神故にまともに寝れなかったりとかなりストイックな自業自得をしていたものでして……。
久しぶりの普通の朝が、世界の運命を決定づける戦いの前に残された最後の猶予だなんて、なんかなぁ…って感じがしますけど。
「たしかこの辺に…あった」
ちなみに、今は自室…というか自室に割り当ててもらっている部屋にきております。隣で綺麗な寝息を立てるアスランさんを起こさないよう抜き足差し足忍び足レバ刺し馬刺しでサイレントに部屋を後にして、朝シャンでかなぐり捨てた女子力を取り戻して、取るべきものを取りに自室に戻ってきた、って感じです。
久しぶりに袖を通すそれはどこか懐かしいような、それでいて切り捨てた過去の温もりを目の当たりにして物悲しいような。いけない、そんなことを考えてる暇はありません。
今は、そして今日は。やるべきことをやらないと。
とりあえずアスランさん起こしますか。彼女におはようって起こされるって彼氏の理想シチュTOPファイブですよね。俗に言う朝チュンです、これは勝ちました。はいそこ既にキャンベル何某がやってるとか言わなーいっ。
そんなわけで朝シャン洗顔歯磨きお着替えを終えたパーフェクトFAメイリンと化した私はそれなりにしっかりとした足取りで今も眠るであろうアスランさんの自室に向かいます。誰かに会うかなーとか思いましたが皆さん真面目にお仕事されるようで通路は無人の極み。
「おはようございます、アスランさん」
とりあえずノックなしで入った部屋では予想に反して既に着替え諸々の支度を終えた彼がベッドに座っていました。あら、朝は割と普通な方なのね。
「ああ…っ…おはよう、メイリン」
少し、言い淀みましたね。まあ仕方ないないでしょう、今の私はザフトの緑服を身に纏い髪を二つ結びにした、原作準拠なメイリン・ホーク。あなたからすれば、ミネルバで見ていた私そのものですから。
…大丈夫ですよ、少し気合いを入れたかっただけです。死装束にするつもりはありません。約束しましたから、必ずあなたの元に帰ると。
数瞬の沈黙の後、鳴り響く呼び出し音に振り返ると、モニター越しにいるのはかのお二人。アスランさんに視線を合わせると、彼は無言で頷き立ち上がる。
「おはよう、二人とも」
「おはようございます、アスラン、メイリンさん」
ふむ…流石に雰囲気が違いますね。柔和に笑ってますが、その裏に秘めた覚悟は本物、昨日にどんちゃん騒ぎをしたとは思えないくらい別人です。
…ええ、行きましょう。直に始まるはずです、彼による人類に対する最終演説が。…いいえ、違いますね。私達がそれを彼の最後の演説にするんです。
* * * *
『皆さんにも、すでにお分かりのことでしょう。有史以来、人類の歴史から戦いのなくならぬ訳。常に存在する最大の敵…それは、いつになっても克服出来ない我ら自身の無知と欲望だと言うことを』
ラクス様とキラさんとともにアークエンジェルのCICに辿り着いた後に
小一時間。メサイアからと思われる彼の中継がモニターに映し出される。
ギルバート・デュランダル。私達の目下最大の敵にして、私がこの数時間後に堕ちゆくメサイアで相対する人物。
『地を離れて宇宙を駆け、その肉体を、能力を、様々な秘密をも手に入れた今でも、人は未だに人を分からず、自分を知らず、明日が見えないその不安。より多く、より豊かに、飽くなき欲望に限りなく伸ばされる手。それが今の私達です』
だから自らが管理すると。お前らは自分のことすら分かってねーからこっちで適性測って割り振ってやるよと。
そして、従わないなら滅ぼすぞと。
『全ての答えは、皆が自身の中に既に持っている』
分かってますよ、あなたが争いのない世界を目指して今も必死に戦っていることは。たとえその始まりが自らの過去であるとしても。いつか知って絶望するくらいなら、初めから知っておけ、そう言いたいのだとしても。
『私は、人類存亡を賭けた最後の防衛策として、デスティニー・プランの導入実行を、今ここに宣言いたします!!』
私はあなたを否定する。人類のため、未来のため、そんなご大層なものなんかじゃない。私が幸せになってほしい人達のために、私が守りたい人達のために。
誰かに何かを強いなければ実現しない未来を見るのは、もう辞めました。だから……っ。
「メイリン…っ」
…そんな顔しないでください。こうしてあなたが隣にいてくれるから、あなたが私の手を握ってくれるから、あなたが待っていてくれると知っているから、私は行けるんです。
さあ、議長。ジブラルタルでの続きと洒落込もうじゃないですか。他者に運命を押し付けた未来を描こうとした者同士、いっちょ腹割ってお話ししましょうよ。
* * * *
「…議長…」
つい今し方に放送された議長の演説、その内容のあまりの突拍子のなさに俺は驚愕した。したけど、少しだけ納得…とは違うけど、ああ、これが議長の理想なんだなって気もした。
ジブラルタルで議長が言ってたこと。自分に出来ることをして、誰かの役に立って、満足して。みんながそうならもう戦争なんか起きないって。これがそうなんだなって考えると、まあ多少は。
…それに、今の俺にとって優先することはそこじゃない。
「ルナ、喉乾いてないか? ちゃんと水分取らないと駄目だぞ」
「…………」
…あの日、ダイダロス基地でジブリールを撃った日からずっと、抜け殻のようになってしまったルナの面倒を見る方がよっぽどだ。
あれ以来、仇を撃って嗤う声を聞いて以来、ルナは殆ど喋ってない。いや、喋るどころか、
ご飯を食べよう、水を飲もう、シャワーを浴びよう。何かしようと訴えかけなければ、それこそひたすらメイリンと過ごした部屋のベッドから動こうとしない。光を失った空洞のような瞳で、ただずっと失った温もりがあった場所に座っているだけ。
唯一行動を起こすとすれば、俺が一人で部屋を出て行こうとすると袖を掴んでか細く俺の名前を呼ぶくらい。
まあ、ご飯は一緒に取りに行けばいいし、水分補給も予め用意しておけば問題ない。けどシャワーは無理だ、流石に人の目があるしそもそもそういう問題だけじゃない。
だから、そこだけは艦長にお願いしてる。事情を察してる艦長は一日に一回、俺達…というかルナの様子を部屋まで見に来てくれる。その都度、ルナをシャワールームまでお願いしてるって感じだ。
忙しいはずなのに、なにかと時間を作って俺たちを気にかけてくれる艦長にはほんと感謝しかない。多分副長とかが代わりにブリッジにいてくれてるんだろうから、正確には艦長だけじゃないんだろうけど。
なんなんだ、メイリンの仇を討つためだけに戦って、傷ついて、苦しんで。それが終わったらもう何もないってか。……何でだよ、もういいだろ、もう十分ルナは頑張ったじゃないか。
……解放してくれよ、彼女を。これ以上、彼女から心を奪わないでくれ。俺から…ルナまで奪わないでくれよ。
『シン、少しいいか』
……レイか。ああ、さっきの議長の話だろうな。僅かな躊躇いもなく部屋のロックを解除してレイを中に招く。…ごめんな、わざわざ話しにしてくれたんだろ。俺が…俺たちが簡単に部屋から動けないことを分かってるから。
「…大丈夫か?」
…別に、いつも通りさ。
「平気だよ。さっきの…議長の話だろ、どうしたんだよ」
どのみち、レイは知ってたんだろ。戦えというなら戦うだけさ、ルナの分まで。もう二度とインパルスを、ルナを戦場になんて出すもんか。
「落ち着いているんだな。てっきり慌てふためいているんじゃないかとこうして来てみたんだが」
…ああ、こういう状況じゃなかったら、多分俺から話に行っただろうさ。
「…これから大変になるから、気合い入れろって話か? 分かってるさ、戦争のない世界を作る、平和な未来を作る。デスティニープラン? ああ、やってやるさ、それで世界が変わるなら」
それでルナが戦わなくていい世界になるのなら。もう二度と彼女が傷つくことのない世界になるのなら。
「全部ぶっ潰してやる。邪魔をするなら、俺が」
それを遮るなら、彼女をこれ以上脅かすのなら。彼女の安息を妨げるというのなら。俺が潰す、全部全部叩き潰してやる。たとえそれが…かつての仲間なんだとしても。
「………シ、ン……」
……っ!? 黒い感情に飲み込まれそうになった俺の袖口を、弱々しく彼女が掴む。……そうだ、そうだよ。
「…ごめん、怖かったな」
作るんだ、今度こそ。争いのない、平和な世界を。あったかくて優しい世界を。そうしたら、そうすれば…いつかきっと…ルナの心も。
「…そうか。分かっているなら、いい、邪魔したな」
背を向けて部屋を出ていこうとするけど……レイ、なんかさっきから体調悪そうじゃないか? 何となくフラフラしてる気がする。
「待てよレイ、気分悪いなら無理すんなよ、休んでけって」
明らかに様子がおかしい、額の冷や汗だって増えてきてる。そんなで帰れるかよ、ゆっくりしてけ。
「…なんでもない、構うなっ!!」
…っ!?
「…レイ……?」
肩にかけた手を振り解きながら、聞いたことのないような怒号をあげるレイの姿に、咄嗟に体が固まった。
「…っ。すまん、少し感情的になり過ぎた」
そう言って、ポケットから取り出したカプセル状の薬品が入ったボトルから掌に数粒取り出して一気に飲み込む。おいおい、水もなしにそれは駄目だろ。
慌ててテーブルの上に並べておいた水の入った新品のボトルをレイに手渡す。ルナのために貯蓄…というか掻っ攫ってたのがまさかこんな形で役に立つなんてな。
「…悪いな」
手渡したボトルを素直に受け取ったレイが蓋をあけてそのまま小さく一口水を飲む。壁に寄りかかってたり、目と目の間を手で抑えたりはしてるが、顔色は少し良くなった…よな。
「…今のなら気にするな、持病のようなものだ。それよりもさっき自分で言ったこと、忘れるなよ」
気にするなって…無理だろそんなの。今まで一回も見たことないぞあんなの。ずっと隠してたのかよ。
俺が何か声をかけようと思考している中、レイは何事もなかったかのように俺たちに背を向けて去っていこうとする。
「待てって。どういうことだよ、何だよ持病って。大丈夫なのか?」
いきなり親友のこんな姿見せられて、はいそうですかって納得できるか。
「…シン。この先、お前には幾つもの試練が待ち受けている。これまでとは違う見方、そして選択を迫られることもあるかもしれん」
「いや、だから」
そんなことよりも、レイのことだろ。なんなんだよ、どいつもこいつも勝手に抱え込んで、勝手なこと言って。
「だが何があっても、決してルナマリアの手を離すな。たとえ何を犠牲にすることを迫られても、絶対に彼女を選べ。それがお前にとって全てを守ることに繋がる」
…なんだよ、何が言いたいんだよ。やめろよ、そういうこと言うの、こんなのまるで。
「…分かってるよ、そんなの。けど、何で急にそんなこと言うんだよ、やめろよな。なんか、ドラマで死んでく親父みたいだぞ、それ」
まるで、もうすぐ自分はいなくなるみないな。そんな感じがするようなこと、言うなよ。もうこれ以上失いたくないんだよ、レイまでいなくなったら、俺たちは、
「…実際、俺にはもう、そう時間は残されていない」
「…え…?」
「テロメアが短いんだ、生まれつき」
………は? テロメア? ふざけんな、何言って、
「…俺は…クローンだからな」
* * * *
デスティニー・プラン。生まれ持った遺伝子で個人の未来を予め決定、管理する世界。人の意思ではなく、遺伝子によって全てを決定して統治する世界。
…そう、それが、貴方の選択なのね…ギルバート……。
『艦長、艦隊司令部より入電です』
…いけない、少し思考に没頭し過ぎたかしら。自室として使っている艦長室、そのシートに預けていた身体を起こして端末のキーを押す。
「なに、アビー」
メイリンの代わり…という言い方は好きではないのだけど。あの子の代わりにそこに座る彼女の名を呼ぶ。あの子と違って悪さもしない、艦内システムにハッキングなんて大問題も起こさない、至って普通のオペレーター。あの子と比較すると、少々実践経験が浅い一面があるけれど…って。
…切り替えなさい、今はそんなこと考えてる場合じゃないわ。
『連合軍、アルザッヘル基地に動きあり。月艦隊並びにミネルバは直ちに座標、四二八六に集結せよ』
「分かったわ」
…そう、今はそんなこと考えてる暇はない。今は…戦わないと。
『…それと、これはメサイアから、なのですが』
メサイアから? ということは議長…ギルバート? それにアビーのどこか言い淀む声音を気になるわね、一体どうし
『レイ・ザ・バレル及び…その…ルナマリア・ホークに、メサイアへの招集命令です』
…何ですって…?