ガバ転生メイリンによる「こずみっくいら」再現物語 作:めんりん
メリークリスマス、1人でお過ごしの同志の方も、そうでない幸せな方々にも、どうか等しく祝福のあらんことを。
「…クローンって…なに言ってんだよ、レイ」
突然の告白に、俺は硬直した。意味がわからなかった、発せられた言葉の意味を脳が理解するのにこうも時間を要することがあることを初めて知った。
クローン? 誰が? もちろん、レイが。
「キラ・ヤマトという夢のたった一人を生み出す為の資金として俺は、俺たちは作られた。恐らくは、ただ出来るという理由だけで」
なんだよそれ。意味がわからな……待てよ、キラ? キラってどこかが聞いたような…。そうだ、確かアスランが。
「そうだ、キラ・ヤマト。お前も戦場で既に会っている
………嘘だ。そんなの、だって、
「人より早く老化し、もうそう遠くないうちに死に至る。それが俺の運命であり、決められた結末だ」
ま、まてよ、待ってくれ、そんな、そんなのは、
「だがただ朽ちるのを待つつもりはない。その前にこの戦争を終わらせて、新たな世界を作る。二度とお前達が何かを失わなくてもいい世界を、悲劇なき未来を」
「レイ、まーー」
やめてくれ、頼むから。もう俺たちから何かを奪わないでくれ。これ以上誰もいなくならないでくれ。なんでこうなる、アスランも、メイリンも、レイも。
なんでいなくなる、なんで守れないんだ。まだ足りないのか、なにが足りないんだ。なんで失ってばかりなんだ、俺たちは。戦って戦って、なんでその先には何もない。守る為に戦ってるのに、気付けば大切なものは全て俺の掌から溢れていく。
何のために、俺たちはこれ以上失えばいい。俺は、俺には、なにも守れないのかよ…っ!! ルナも、みんなも、なにもっ!!
「生きろよ、お前達は。この先も、世界が変わった後も。戦争さえなくなれば、争いさえなければ、再び光が見えてくるかもしれない。…お前が守るんだ、シン。世界も、未来も……ルナマリアも」
まて、待ってくれ。俺は、
「待てってっ!! レーー」
『シン、ちょっといいかしら』
……艦長…? こんな時に一体何を。唐突な通信でさっきまで考えてたことが全部吹き飛んだ。言いたいことを言えなかったもどかしさからチラッとレイに視線を向けると、通信に出ろって指で促された。そんなレイの態度と直前のやりとりを思い出してまた頭の中がごちゃごちゃしそうになるのを堪え、平静なフリをしてコールボタンを押す。
「シンです。艦長、どうかしたんですか?」
そういやミネルバ動いてるよな、これ。出撃待機しとけってことか? …いや、それなら先にブリッジに呼ばれるはずだ、こんな細々とした通信なんかじゃなくて、艦内放送で。
『…少し厄介なことになって。ルナマリアは一緒かしら? 出来ればレイも呼んで欲しいのだけど』
「艦長、先程まで少しシンと話をしていたところで、皆揃っています。如何されましたか?」
俺が何か言う前に、レイが自分もいるという報告を兼ねて通信に顔…というか声を出した。俺たち三人に用事って…しかも通信で? ますますわからない、一体なにがあったんだ。
『そう、ならちょうどいいわ。…今ミネルバはアルザッヘル基地の動きを察知した司令部の命令であるポイントに向かっているわ。…それに際して貴方たちのうち二人に、メサイアに機体と一緒に出頭するよう命令があったの』
アルザッヘル…連合軍、まだ戦う気なのかよ。っていうか俺たちの中から二人はメサイアにって…いや、それは…っ!
『レイ、そして…ルナマリア。直ちに出撃準備をして頂戴。貴方たち二人には、準備ができ次第メサイアに向かってもらいます』
っ!?
『シン、気持ちは分かるけど…これは命令よ。こうなると思ったから通信を使ったの。それと、貴方には個別に議長からお話があるそうよ。艦長室のロックを開けてあるから、そこであちらからの連絡を待ちなさい』
……待ってくれ、今のルナはもう戦える状態じゃない。そんなの艦長だって分かってるだろ、なのにどうして…っ!
『…以上よ。三人とも急いでね』
それを最後に、艦長からの通信は途切れる。…何で、何で何だ。どうして俺じゃなくて、ルナを…。
「シン、聞いていたな。艦長室に行け、万が一にも議長をお待たせするようなこと、あってはならん」
「…分かってる! でもっ!!」
激昂する俺の肩を、レイが片手で掴む。その痛みと振動が、取り乱した俺の思考を少しだけ鎮静化…させてくれた気がする。
「落ち着け。メサイアに行くと言うことは議長に直接お会いする機会があると言うことだ。俺からも少し掛け合ってみる、可能性は低いだろうが、何もしないよりはいいだろう」
……レイ……。
「お前ほど上手くは出来んが、なるべくはルナマリアが落ち着けるよう最善を尽くす。だからお前はお前のやるべきことをやれ、いいな?」
……分かった。ここで騒いだって何もならないよな。それに、ルナを一人残して俺たち二人がメサイアに行ったりするよりはいいのかもしれない。
レイが付いていてくれるなら。今は…そう思うしかない。その後は…また考えるさ。
「ああ……分かった」
…ルナ、ごめんな。少しだけお別れみたいだ。今のいままでひたすら焦点の合わない瞳のまま俯いて口を閉じていたルナの前にしゃがみ込んで、手を握りながら優しく話しかける。虚な彼女の目に合わせて、少しでも安心させるように。
「…ルナ、出撃だ。レイと一緒に、議長のところに行ってくれ」
「……………」
……少し、ほんの少しだけ、視線を上げたルナの光を失ったような瞳が俺を見る。
「…………シ、ん………は……?」
掠れたような、今にも消えてしまいそうなか細い声で。それを聞いた俺は、ルナの手を握っている手に込めている力を強める。
「……ごめん、俺はいけない。…俺は…ミネルバを、守らないと」
本当は、一緒に行きたい。ルナの側を片時も離れたくない。…二度と戦場に立たせたくない。…でも、今はそれも叶わない。
「…大丈夫、レイが一緒に行くから。レイの側にいれば大丈夫、絶対にルナを守ってくれる」
…座り込むルナを支えるようにして立たせて、そっと抱き締める。ごめんな、一緒に行ってやれなくて。……ごめんな、そんなボロボロなのに、また戦場に出すようなことになって…。
「…だから、また後でな、ルナ」
「…………………」
いつのまにか弱々しく握られていた袖口から、そっと手を離させる。自分で立てることを確かめると、離した手をそのままレイの肘あたりに持っていて掴ませる。
「…頼む」
「…ああ。行くぞ、ルナマリア」
ゆっくりと背を向けて部屋を後にしていく二人に続いて、俺も部屋を出る。…まあ、一緒に行けるのはほんとに部屋の外までしかないんだけどな。
ダメだと分かっていても、背中越しに去っていく二人へ振り返ると。俺と同じようにほんの少しだけ振り向いて光を灯さない暗い瞳で俺を見つめる彼女がいた。その僅かに動いた唇から発せられた音は、残念ながら届かなかったけど。
それでも俺には。彼女が必死な叫びが聞こえた気がした、行かないで、離さないでと、俺に訴えかけているような。
「……くそっ!!」
…切り替えろ。レイが一緒なんだ、きっと大丈夫だ。頭の中の不安を誤魔化すために、足早に廊下を歩いていたらすぐに艦長室の前に辿り着いた。途中で食堂を横切った際にヴィーノとヨウラン達と目があった気がしたけど、悪いが今誰かと話す余裕なんてない。
ロックが外されてる、そう言われた通りボタン一つで部屋の扉は開いた。無人の艦長室に一人で入るなんて、普通はあり得ないんだけどな。
部屋に残る微かな香水の香りすら気に留めることなく、俺はただ端末の前で立って連絡を待った。まさか座るわけにもいかないしな、ここに。
そして、それは数分と待つことなくやってくる。通信が入ったことを知らせるコール音がした瞬間に応答ボタンを押し、敬礼とともに姿勢を整える。
『やあ、シン。久しぶりだね、活躍は聞いている。ご苦労だったね、色々と』
モニター越しに映し出された人物は、柔和な声でそう話しかけてくる。相変わらず、人を惹きつける優しい声音…だと思う。
「…お久しぶりです、議長」
デュランダル議長。さっき世界中に向けてデスティニープランの導入宣言をしたり…そしてレイとルナをメサイアに呼んだ…んだよな、この人が。…艦長からルナの様子はこの人も聞いてるはずなのに、どうして。
『…そうだな、先ずはそこから話そうか。その方が君も話しやすいだろう』
…この一瞬で見抜いたのか、この人。いや、当然と言えばそうか、どうせ俺のことだ、もろに顔に出ているに違いないさ。こう言うことすると、昔はルナやレイには子供っぽいって怒られてたんだけど。
『と言っても、殆ど言い訳になってしまうがね。レイを呼んだのは個人的に彼と話すことがあったのと、単純にメサイア防衛の為の戦力とさせてもらうためだ。後者について説明はいるかね?』
「いえ、ありません」
そこは別にいい、ついさっき本人の口からとんでもないこと聞かされた上にまだ話が中途半端なとこで終わったから不完全燃焼気味なのはあるけども。レジェンドを戦力として手元に置きたいって話ならまあって感じか、ミネルバ単体の戦力は下がるけどこればっかりは仕方ないさ。
一戦艦よりもあなたがいる要塞の方が優先度が上なのは事実なんだから。
『…ルナマリアを召集した理由は…そうだな…。シン、これは私と君だけの話としてくれるかな? …立場上、あまりこう言う真似を堂々と行うのは避けねばならんのでね』
…ってことは、何か個人的な理由か、もしくは…。
「わかりました、議長の仰る通りに」
『ありがとう。…単刀直入に言わせてもらえば…シン、君の目から見て、彼女はまだ戦えるかな?』
…それは……っ。でも、だからってミネルバから下ろすなんてことされたら、ルナはっ!!
『誤解しないでくれたまえ。戦えぬから駄目だ、と言う話ではない。君たちミネルバには、現在レクイエムの第一中継ステーションに向かってもらっている。それについては知っているかな?』
「…いえ、え、レクイエム?」
レクイエムって…俺たちがダイダロス基地で堕としたあの兵器だろ? 何でその中継ステーションなんかに今更、
『先程、それを使って地球軍のアルザッヘルを堕とした。これで残っていた地球軍の残存戦力の殆どは討てたと言っていいだろう』
…使ったのか、あの大量破壊兵器を。プラントの人たちを大勢殺した兵器を…っ!
『君の言わんとしていることは分かる。だが、これも平和のためだ。あの勢力は、言ってみればロゴスの残党のようなものでね、残すわけにはいかなかったのだよ』
…そんなの…だとしても…っ!
『それとも、君が私に聞きたいのはこんな話なのかね?』
……っ…。違う…俺が聞きたいのは、何でルナの状態を知っておきながらわざわざメサイアに呼んだのかってことだ。…今はそれだけ聞ければいい、そうだろ。
『次は間違いなく彼等がくる。あのアークエンジェルとオーブのラクス・クラインを名乗る者達がね。君たちミネルバには、彼等から第一中継ステーションを守って欲しい』
…それで、だからなんだって言うですか。理由になっていない気がするんですが。
『こう言う言い方は好ましくないのだが…仮に私が君とレイを召集したのなら、ミネルバのモビルスーツ戦力は彼女一人となる。その場合、如何に彼女の精神状態が好ましくないとはいえ、戦闘となれば出撃は免れない』
それは…でも、だからってあんな状態のルナを呼びつける必要なんて、
『だが、こちらの防衛部隊というなら話は別だ、その必要がなければ出撃はしない、
………っ!? 出撃、しない?
『分かるかね? メサイアにいる限り、彼女の出撃は私の権限で止められるのだ。もちろんレイには出撃してもらうし、要塞が危機に瀕すれば彼女にも出撃を命じざるを得ない。だが、そうでないのなら』
…メサイアが危機に陥らなければ、そもそもそんな状況にさえしなければ。…第一中継点であいつらを叩き潰せれば、ルナは…インパルスは戦線に必要ない、そう言うことか。
『少し…回りくどいかもしれんが。彼女にインパルスを与えたのは私だ、であれば彼女を追い詰めた責任の発端もまた私にある。だが今は状況が状況でね、現状私に打てる手立てはこれが精一杯だ』
…ミネルバはこれからあいつらと戦闘になる。ここにいたら、間違いなく出撃せざるを得なくなる。でもメサイアにいるなら、俺がここで奴らを叩ければ。
ルナを守れるのなら、ルナがもう戦わなくていいのなら…あなたの思惑に乗ってやるさ。潰してやる、今度こそここで。メサイアには行かせない、ここでまとめて踏み潰してやる。
『彼女さえ、あのラクス・クラインを名乗る者さえ倒すことが出来れば。旗頭を失った彼らに戦う術はない』
…ラクス・クライン。あいつさえ、あの女さえいなくなれば…今度こそ…っ
『もし彼女の召集が君の戦意を害しているのなら、今すぐにでも取り消すが。…どうするかね?』
「…いえ、お気遣いありがとうございます。…インパルスを、彼女をよろしくお願いします」
これからの戦場に、インパルスはいらない。俺がやる、俺が終わらせる、今度こそ全てを。…次にルナに会うのは、それが済んでからでいい。新しい未来で、生まれ変わった世界で。だから、
『…ああ、分かった。インパルスの出撃は可能な限り私が留めておく。…頼んだよ、シン。これが最後の戦いだ、争いなき平和な世界、その実現の為の。君の活躍に期待している』
それを最後に通信が切れる。…やってやる、やってやるさ。これで全部終わりにしてやる、それで平和になるのなら。ルナが戦わずに済むのなら。俺が叩き潰してやる、インパルスを戦場には出させない、そうなる前に、この戦争を終わらせる。
本物だろうが偽物だろうが、どっちだっていい。それでようやく終わるんだ、このくだらない戦争が。俺たちから、ルナから奪ってばかりの苦しい世界が。
母さん、父さん、マユ、ステラ…メイリン。もう何も失わない、何も奪わせない。今度こそ守るんだ、俺に残ってるもの全てを。だから…っ!!
『生きろよ、お前達は。この先も、世界が変わった後も。戦争さえなくなれば、争いさえなければ、再び光が見えてくるかもしれない。…お前が守るんだ、シン。世界も、未来も……ルナマリアも』
…………っ!!
「…殺す、殺してやる…っ!」
世界のために、守るために。そして…ルナがこれ以上傷つかなくてもいい未来のために。お前は邪魔だ。