ガバ転生メイリンによる「こずみっくいら」再現物語   作:めんりん

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描写を知らない機体やその他に関しては想像です


第四十六話 : 急襲、赤き瞳

道を開けなさい、ラクス様のこの言葉に敵軍が一瞬硬直するも、やはりそう上手くいくはずもなく。私たちをロゴスの残党、自らの利権と古巣を守らんとする奴らの残存兵力と断ずる声により、戦いの火蓋が落とされた。

 

おったまげーな流石の突破力で突き進んでいくフリーダムとジャスティスが第一陣をものの数分で無力化してくれましたが、敵の兵力はこんなものじゃない。すぐにでも次の部隊が来るはずです。

 

ちな、敵軍のMSビーコンが凄まじい勢いで消えていく(パイロットは生存)様が表示されるディスプレイの前にいる身としてはちょっとしたホラーだった。自由と正義withミーティアまじ卍、もはやレギュレーション違反。

 

 

「メイリンさん、彼らを」

 

「はい」

 

 

なんて内心でふざけてる(強がり)場合じゃありませんね。ラクス様の言葉に従い、私は今もエターナル内で出撃待機している三人に…具体的には彼らのリーダー的な存在である彼女へと通信を開く。

 

 

「ヒルダさん、出撃願います。大丈夫ですか?」

 

『あいよ、さっさと開けな』

 

 

その言葉を是と判断して、私は今しがた二人が飛び出していったハッチを開放する。カタパルト…おっけ、進路も今ならまだ空いてる、クリアです。

 

 

『…さっき言った通り、私は手を抜くつもりはないよ』

 

 

……ええ、分かってます。でもそれでいいんですよ、あなたはあなたの為すべきを為せばいい。自分のわがままくらい、自分でなんとかしますよ。……他力本願甚だしいですが、現状は。

 

 

「大丈夫ですよ。…根拠はありませんが、えっと、大丈夫なんです。だってその…うんと…大丈夫なんですからっ」

 

『なんだいそりゃ』

 

 

私にもわかりません、語彙力が足りな過ぎることこの上なしですが。大丈夫なんですよ、大丈夫にするんです。そのためにここにいるんですから、そのために我儘を聞いてもらってるんですから。

 

 

「…だからヒルダさんも、お気をつけて」

 

『…………』

 

 

誰にも欠けて欲しくなんてないから。すでに銃火器ビームなんでも飛び交う戦場の真っ只中でほざくなとか言われるかもしれませんが、それが私たちが目指す未来です。みんなに、お姉ちゃんたちに会えたとしても、今目の前にいる誰かがいなくなってるんじゃ意味がない。

 

全部欲しい、全部守りたい、全部がある未来がいい。我儘上等、戯言万歳。それを実現するんだって、もう決めたんだから。

 

 

『…躊躇もしない、加減もしない』

 

 

はい、分かってます。

 

 

『…でも、約束は絶対に守る。ラクス様は、エターナルは絶対に撃たせない。そのついでに、あんたも守ってやるよ』

 

 

…ありがとうございます。十分です、それだけで。

 

 

『さあいくよ、野郎どもっ!』

 

 

ふっと微笑んだ彼女は、私に向けた優しげな視線を鋭いそれに変えて、手下(?)二人組に呼びかける。…マジで女海賊みたいだな、ここだけ見ると。FG◯の星5ライダーにいそう。

 

 

『いくのかよ?』

 

『おうっ!!』

 

 

と、記憶のどこかにあるようなないような決まり返しを聞くと、彼女は操縦桿を握り直してキッと前を向き直る。いつでもどうぞ、と視線を送ると、彼女は力強く頷く。

 

 

『ヒルダ・ハーケン、ドム、行くよっ!!』

 

 

そうして敵軍ひしめく宇宙(そら)と飛び立つヒルダさんを追って、ヘルベルトさんもマーズさんも続いていく。見ればアークエンジェルからもロアノークさんの駆るアカツキやムラサメ隊も出撃が完了した様子。

 

でも、こうしてこちらの迎撃態勢が整った瞬間に映し出された艦影に、私は心臓を握り潰されるような重過ぎるプレッシャーを味わうこととなる。

 

 

「…ま、そう来るよなやっぱり」

 

「……………」

 

 

アスランさん達を狙った艦砲の雨、その先に、それはいた。ダークグレーを基調としながらも、外枠を赤いカラーリングで縁取られたその艦を、私はよく知っている。

 

当たり前だ、つい先日までそこに搭乗員として乗り込んでいたのだから。そして自ら別れを告げたものでもあり、再会を望んだものでもあるその艦の名前は、

 

 

「…ミネ、ルバ…っ」

 

 

分かってた、ここにくるってことは。筋書きだろうが戦局的にだろうが、あの艦がこうしてやってくるのは至極当然のことだし、そうなることを私も望んだ。でも、いざこうして姿を目の当たりにすると、言いようのない圧迫感みたいなのに襲われて。私の体は、脳は、視覚情報以外の処理を停止した。

 

戦場の真っ只中で、艦の管制官が呆けるなんてあってはならない大失態。だと言うのに、それがいかに重大な失態なのだと知っているはずなのに、私の体はうんともすんともいかない。

 

 

「ーーーさん」

 

 

動け、動け。でもそうして念じて活動を再開したのは心拍数が激増している心臓と、過度な空気を取り入れて悲鳴を上げる喉と肺。焼けるように熱くなる喉とキャパオーバーを起こす寸前の肺が、私の制御を変えて暴れ出す。

 

 

「メーーーさん」

 

 

どうしよう、どうしようどうしようどうしようどうしようどうしようっ!! 分かってたのに、こうならなきゃいけなくて、それをどうにかしないといけなくて、なんとかするんだって決めたのに、

 

 

「ーーイリンさん」

 

 

会いたいってお願いしたのに、謝りたいって思ったのに。助けたいって思ったのに、助けてくれるって、約束したのに。

 

私、私……わたし、は、

 

 

「メイリンさんっ!!」

 

 

「っ!?」

 

 

…ラクス、さま…?

 

 

「何をしているのですか、貴方は」

 

 

わ、わたし、は、、

 

 

「決めたのでしょう? 戦うと。誓ったのでしょう? 己と向き合うと」

 

 

…………ラ、クス、さま…。

 

 

「…約束、したのでしょう? 必ず助けると」

 

 

…やく、そく……。そうだ、約束。……助けるって、助けてくれるって、言ってくれたんだ、この人が、キラさんが……アスラン、さんが。

 

 

「ならば前を向きなさい。望むものがあるのなら、勝ち取りたいものがあるのなら、守りたいものがあるのなら。…大丈夫ですわ、そのためにここにいるのですから。私も、キラも、アスランも…そして、貴方も」

 

 

…そう、ですね、そうでした。どんなに胸が苦しくても、張り裂けそうなほどに痛くても。それでも前を向いて進まないと、何も得られない。我儘を通すと決めたなら、甘ったれた理想を貫くと誓ったなら。

 

 

「…大丈夫、なのかね?」

 

 

心配、というよりは。確認の意を込めたバルトフェルドさんの低い声と鋭い視線が私に突き刺さる。

 

 

「すみません、大丈夫です。やれます」

 

 

そんな彼の視線を真正面から受け止めて、私はこう答える。本音を吐けば。今だってとてつもなく辛い、どれだけ覚悟を決めようと目の前で爆散していく機体や戦艦を目にするたびに、言いようのない刃のようなものに切り裂かれる感覚を覚える。

 

ミネルバの姿が、私に筆舌にし難い罪悪感や苦痛を押し付ける。苦しい、辛い、逃げ出したい。ほんの僅かでもそう思わないと言えば、それはきっと嘘になる。

 

それでも、だとしても。たとえどれだけ胸が苦しかろうと、心が苦痛に苛まれようとも。私は、みんなに会いたい、会って、いっぱい話して、謝って、思いを伝えたい、思いを聞いてあげたい。

 

助け出してあげたい。そうであるなら、そう願うのなら、そう足掻くのなら。今は戦え、お前の役目を果たせ、お前に今出来ることを全力で為せ、メイリン・ホーク。どうしようもなく無力で、卑怯な私に出来ることを。こんな私を助けるって言ってくれた人たちのためにも。

 

 

「新たに接近するモビルスーツあり、ザク7、グフ3」

 

 

ディスプレイに表示される敵機の識別コードをもとにブリッジ全体に伝わるように私は声を張り上げる。私に何かを打ち倒す力はない、何かを跳ね除ける力はない。それでも、今この場で私にしか出来ないことはある。

 

ないなら絞り出せ、振り絞れ、出来ることを死ぬ気でこなせ。私に出来ないことはきっと彼らがやってくれる。私を助けると誓ってくれた最強の騎士と、今も私の側で戦う歌姫と………そして、私の心を救い上げてくれたあの人が。

 

 

「………?」

 

 

そんな決心を新たにした私のインカムが、更なる敵機の接近を知らせるべくアラートを響かせる。ついにきた、そう思って私はその機体の名前を読み上げようとして

 

 

「………え…?」

 

 

咄嗟に出た言葉は、ただそれだけだった。目の前に表示される機体の名称を反芻しようとした私の口から出た言葉はその一文字のみ。お姉ちゃんが…インパルスの接近を知らせようとしていた私の脳に、それはあまりに衝撃的な事実だった。

 

 

「…そん、な……」

 

 

どうして、この機体がここにいる。どうして彼がここで出てくる。ミネルバから発進し、尋常ではない速度で突貫してくる機体の姿を見て、私はあらん限りで目を見開いた。

 

 

「メイリンさん?」

 

「…て、敵機接近」

 

 

まずい、まずいまずいまずい。単純ゆえにこの状況で彼の接近は非常にまずい。今のエターナルの防衛戦力では絶対に彼の攻撃は防げない。本来の力を、おそらくは十二分に発揮できる彼に、対抗することはできない。

 

 

「デ、デスティニーが…デスティニーが真っ直ぐにこちらに向かってきますっ!!」

 

 

…デスティニー。しかもあの機体色は……シン。私が再会を望む一人にして、今や敵軍の主力筆頭のような存在。満身創痍だったとは言えジャスティスに乗ったアスランさんすら下した、最強の敵。

 

それが今、フリーダムもジャスティスもいない、ほぼ無防備なエターナルに急速接近してくる。

 

 

「っ!?」

 

「くそっ、ここで出てくるかっ!! キラとアスランはどうした、まだ取り付けないのかっ!?」

 

 

あの機体に対抗できる戦力は、こちらにはフリーダムとジャスティスしかいない。でも今彼らは中継ステーションを破壊するために敵陣のど真ん中を突き進んでいる最中、とても間に合うとは思えない。

 

それに、

 

 

「どちらでもいい、近い方を呼び戻しーーー」

 

「なりませんっ」

 

 

私と同じことを思ったらしいラクス様の鋭い声がバルトフェルドさんを押し留める。そう、それではどのみち意味がないんです。

 

 

「ここで中継ステーションを落とさなければすべて無意味です、今お二人を呼び戻してはいけません。あの機体には…デスティニーには現状の戦力で対処してください」

 

 

不可能だと、誰もが分かってる。デスティニーの強さはみんなデータなり映像なりで分かってる。単騎で多数を捩じ伏せるその様を、ここにいる誰もが理解してる。あれに対抗するには、キラさんかアスランさんが必要だなんてこと、言われなくても分かってる。

 

けれど、今二人を呼び戻したところでステーションの破壊に手間取ればどのみち数で圧倒的に劣る私たちはあっという間に敵に包囲されて、最悪レクイエムも発射される。そうなれば反デュランダル派の要であるオーブ諸共私たちは焼き尽くされることになる。

 

 

「お前を失えば俺たちはおわりなんだぞっ!?」

 

 

聞いたことのない怒号を発するバルトフェルドさんの言葉も痛いほど分かります。旗頭のラクス様を失えば私たちはどのみちジ・エンド、世論を味方に出来なければ元の木阿弥もいいところ。

 

つまり…現状は限りなく詰みです。希望があるとすれば、キラさんとアスランさんがステーションを破壊してこちらに戻られるまで持ち堪えることですが…。

 

ミーティアという主砲を失ったエターナルに、VPS装甲を貫ける兵装は殆どありません。加えてデスティニーの速度と攻撃力はザクやグフを遥かに凌駕しています、迎撃なんてとても現実的な話ではありません。

 

取り付かれれば一巻の終わり、しかし接敵まであと数分もなし。まさに崖っぷち、絶体絶命。

 

 

『何やらゴチャゴチャ言ってるみたいだけどね』

 

 

そんな時です、絶望に暮れる私の耳にどこまでも気さくで勝気な彼女の声が届いたのは。

 

 

『ようはアレをどうにかすりゃいいんだろ?』

 

 

そう言って彼女は…ヒルダさんは目の前のザクのコックピットを撃ち抜きながら、もう肉眼で視認できる距離までやってきたデスティニーに向き直る。

 

…まって、やめて、やめて下さい。いくらあなたたちでも今の彼…シンの相手は、

 

 

『いくよ野郎どもっ! のこのこ1人でやってきたアホに目にモノ見せてやろうじゃないさっ!!』

 

『あいよ』

 

『よっしゃぁっ!!』

 

 

ダメ…ダメです、ダメ……、待ってっ!!

 

 

「ダメーーーーーーーっ!!! ヒルダさぁんっ!!!」

 

 

* * * *

 

 

戦艦()()()()()。敵軍の旗艦にして旗頭である歌姫が搭乗するその艦に、一機のモビルスーツが立ち塞がる。

 

名を、デスティニー。今やザフト側の主力最有力候補にして、一騎当千を軽々と実現せしめる最強の一角。そして、恐らく今ザフト軍で最も歌姫を憎み消さんとする少年の愛機でもある。

 

沸る憎悪を力に変えて、背に背負った赤翼からは眩いばかりに薄紫の光を噴出させる。全てはかの歌姫を葬らんがために。

 

守ると誓い、今や少年に残された唯一の存在である彼女の安寧のために。争いなき世界のために、暖かな未来のために。そのためならば、いくらでもこの手を血に染めて見せよう。

 

それで世界が変わるのならば。それで優しい未来が訪れるならば。それで彼女を守れるのならば。

 

 

『……ここで消えろ……ラクス……クラインっ!!』

 

 

左翼側に取り付けられた長射程高出力ビーム砲と右手に持つライフルを同時に乱射するも、ビーム砲はバレルロールにて回避、ライフルに至っては拡散され装甲を穿つには至らない。

 

加え、

 

 

『ラクス様の艦を撃とうなんざ、いい根性してんじゃないのさっ!!』

 

 

アラートに目を向ければ、少年に対して突貫してくる三機のMS。黒と紫を基調としたずんぐりとしたその機体は、見た目に反した脅威的な速度でデスティニーへと飛翔してくる。

 

見たことがある、直接交戦したわけではないがオノゴロ島の戦いで内陸部に侵攻したザフト軍を相手にたった三機で大立ち回りをした手練たちだ。経験に裏打ちされた確かな実力は勿論、三機によるコンビネーションには目を見張るものがあるため、接敵した場合には十分注意すべし。

 

と、ジャスティス、フリーダムの交戦データに付随する形で添えられていた内容を少年は脳内で思い返す。

 

女性らしきパイロットの怒号とともに、デスティニーに向けてビームの雨とロケットランチャーの弾頭がまさに三機分、怒涛のように迫ってくる。だが、

 

 

『………っ……』

 

 

少年が機体に命じたのは回避行動ではなく前進、それも両翼から膨大な光を噴出させての全速マニューバ。ビームの雨を最低限の動きとバレルロールでいなし、その最中に放ったライフルの弾丸でロケットランチャーの弾頭を射抜き、爆散。

 

 

『ちぃっ!?』

 

 

加え、煙の中を突き抜けなおも速度を上げながら迫るデスティニーのライフルの光が女性の駆る機体の右手に抱えていたバズーカを射抜く。誘爆を防ぐために撃ち抜かれたバズーカを虚空へ投げ捨て、彼女は背中に取り付けられたサーベルを引き抜く。

 

 

『ヒルダっ!!』

 

『問題ないよ、それよりアレだ。どうやら出し惜しみしてる場合じゃないみたいだしね』

 

 

仲間の声にそう返し、彼女は自身も含め仲間二人の機体を一直線に並べる。

 

 

『いくよっ!! 最短最速でコイツを落とすっ!!』

 

『あいよっ』

 

『おうっ!!』

 

 

彼らの機体が…ドムが赤く赤く染まっていく。《スクリーミングニンバス》と呼ばれるこの武装は、胸部に装備されている装置よりビームと同じ性質を持つ粒子を散布し、ミラージュコロイド電場技術を応用することで、敵にダメージを与える攻性の幕状に展開する防御フィールドを形成する。

 

また複数機のフィールドを合わせることで強固に増幅させることも可能でなり、機体全体がビームサーベルのような状態となる、まさに攻防一体の武装。

 

 

『『『ジェットストリームアタックっ!!』』』

 

 

これこそが彼らの真骨頂であり、彼らの駆るドムにのみ許された奥の手でもある。ここに彼らの熟練な連携が合わされば、それはさながら巨大なビームサーベルが弾丸を放ちながら突撃するかのような、まさに手のつけようのない攻撃性を発揮する。

 

 

『…ちぃっ!?』

 

 

事実、高速で迫りながらビーム、ランチャーを発射する彼らの連携を前にさしもの少年も苛立ちを露わにし機体に回避行動させることを余儀なくされた。少年の放つビームライフルの弾丸は攻性フィールドに難なく弾かれ、かと言って左翼の高出力砲を撃つ隙はない。

 

そして、

 

 

『そこっ!!』

 

 

横薙ぎに払われたサーベルを避けた先に飛来するビームとロケット弾の応酬に、少年はやむを得ず防御の構えを取る。

 

 

『ぐぅぅぅぅぅぅっ!?』

 

 

受け止めたビームシールド越しに伝わってくるロケット弾の爆発の手応えに歯を食いしばるも束の間、間髪入れずに再度払われた女性のサーベルがさらにシールドを打ち付ける。

 

 

『おわりだよ、ボウヤ』

 

 

シールドを全面に押し出してなんとか機体を守りながらも鍔迫り合いを行うも、既に少年の背後からは女性の仲間の二機がそれぞれバズーカとサーベルを引き抜き迫っている。

 

 

『……んだ』

 

『…あ?』

 

 

電撃を散らす剣と盾による鍔迫り合いのなか、少年の呟くような声が女性の耳を僅かに撫でる。

 

 

『……こし……だ』

 

 

だが女性は気づかない。この状況のなかであまりに小さなこの呟きが、引き金となることを。

 

 

『あと…少しなんだ…っ』

 

 

もう少し、あと少し、あと一歩。今、少年のほんのわずか先を駆ける桜色の戦艦。それさえ、そこに乗る一人の少女さえ葬れば。

 

 

『…ま……るな…っ…』

 

 

それで訪れるのだ、新しい世界が。暖かな未来が。彼女がもう戦わず、傷付かず、奪われない時がようやく。そのために、そのためだけに、今少年はここにいる。妄執と呼ばれようが構わない、それで守れるのなら、それで傷ついた彼女に安寧が訪れるのならば。

 

それで、全てを終わりにすることが出来るのならば。

 

 

『ーー邪魔をスるなァァァァァァァァァァァァァァァっ!!!!』

 

 

 

黒き激情が、少年の内の種を爆じく。直後、まるで奔流の如き光がデスティニーの両翼から吹き出し、彼女の機体を凄まじい速度で後方へと押し流す。

 

 

『がっ!?』

 

 

殴り付けるようにシールドを機体に押し当て、尚も圧倒的な推力でデスティニーはドムを押し返す。そして、

 

 

『…くそっ!!』

 

 

自らが押し戻される延長線上に守るべき艦がいることを悟った彼女は咄嗟にスクリーミングニンバスをカットし、直後に機体を母艦に叩き付けられる。

 

 

『ガハっ!?』

 

 

全身を突き抜ける重過ぎる衝撃が、ほんの刹那彼女の意識を奪う。だが瞳から光を消し、燃えたぎる憎悪を持って機体を駆る少年がそんな隙を見逃すはずもなく。

 

 

『『ヒルダっ!!』』

 

 

リーダー格の彼女を救うべく追ってきた彼らに対し、少年が取った手段はまさに冷酷。振り向き様に左翼側に取り付けられた高出力砲を展開し、ほんの少し機体を離し、間隔をつくる。

 

直後、瞬間的なバックブーストとともに高出力砲の石突のような背面部分を用いて、女性の駆るドムのコックピットをまるで突き刺すように殴り付ける。

 

再度の重撃に、彼女の意識は再び昏倒。身体の内側で何かが折れる音をききながら意識を手放す。

 

 

『てめぇぇぇぇぇっ!!』

 

 

そんな仲間の姿を見た男が一人、激情に駆られバズーカを投げ捨てつつサーベルを構えながら突貫してくる。

 

 

『まてマーズっ!! 罠だっ!!』

 

 

だが、時既に遅し。自らに迫る敵機に対し、少年は僅かなためらいもなく引き金を引いた。結果、少年の放った高出力プラズマ砲は男の駆るドムのスクリーミングニンバスを易々と貫き、その左胸部を腕諸共吹き飛ばした。

 

 

『がぁぁっ!?』

 

『マーズっ!?』

 

 

そして、背面にて僅かな動きを感知した少年は機体の両脚を折り曲げつつ彼女の機体コックピットに押し当て、直後に翼を広げ全速マニューバ。デスティニーの爆発的な推力と暴力的なまでの質量を用いて、三度パイロットに直接打撃を敢行した。

 

また、ここで唯一被弾していない男…ヘルベルトの機体のスクリーミングニンバスが限界時間を迎え、赤い発光色に包まれていた機体が元の色へと戻る。だがそれでも引くわけにはいかない、少年の狙いは自身ではなく被弾した彼の仲間…マーズなのだから。

 

 

『くそったれがぁっ!!』

 

 

手に持つバズーカとビームを乱射するが、そもそも三機分のそれを悠に捌く少年には焼け石に水ほどの効果もなく。

 

 

『おおおおおっ!!』

 

 

殆ど一瞬でクロスレンジに詰められ、彼がサーベルを引き抜きそれを袈裟斬りに振るった瞬間に、その腕は少年に届くことなく斬り飛ばされる。背に背負った巨剣ではなく、肩口に取り付けられないブーメラン型の武装を両の手に持った少年の片腕がそれを成し、

 

 

『がぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』

 

 

もう片方の刃を、少年は敵機の肩口から縦に思いっきり突き刺した。内部機構を光の刃で蹂躙され、コックピットを襲うは爆散と電撃の嵐。咄嗟に機体を捻り直撃を回避したものの、パイロットは生死不明の重傷を負い、機体は大破、もはや戦闘が可能な状況ではない。

 

 

 

『まだ……終わってねぇんだよぉぉぉぉっ!!!』

 

 

左腕を失い、スクリーミングニンバスを失い、額から血を流しながらも雄叫びとともに振るわれた刃を、やはり少年は腕ごと斬り飛ばす。

 

 

『うおおぁぁぉぁぁぁっ!!』

 

 

それでもなお身一つで己に向かってくる機体に対し、

 

 

『がっ!?』

 

 

デスティニーの右手が男の機体の頭部を鷲掴み、

 

 

『…死ね』

 

 

直後、デスティニーの掌から放たれた超密度の光の刃がドムの頭部を貫いた。爆炎を吹き上げながら虚空へと漂流していく機体には目もくれず、障害を排除し終えた少年は機体を翻し、敵の母艦、いや旗艦たるエターナルへと再度突貫。

 

エターナルより放たれた雨のようなミサイル群を速力を持って振り切り、右手に持ち直したライフルで迎撃。そしてエターナルのブリッジ、その直線上についにデスティニーが現れ、高出力砲を構える。

 

 

『…やらせ、ないって……言ってんだよっ!!』

 

 

何とか意識を取り戻した女性が少年に特攻、曖昧になる意識と骨折による激痛をただ気合で押し留め、眼帯に隠れていない瞳を自らの血で染めながらも、彼女は機体を走らせる。

 

今から迎撃は間に合わない、敵わない。故に彼女は残り時間僅かとなったスクリーミングニンバスと腕に内蔵されたビームシールドを全開にしつつ、デスティニーとエターナルに挟み込むようにして機体を入れ込む。たとえ完全には防ぎきれずとも、直撃さえさせなければ。

 

それで自分が死することになろうとも。そうだとしても、彼女には守らなければならない人がいる、守ると約束した少女がいる。

 

 

『消えろ、ラクス…クラインっ!!』

 

 

そう叫び、少年は引き金を引こうとした。これで終わると、ようやく終わるのだと。そう思った。

 

 

しかし、

 

 

『…っ!!?』

 

 

鳴り響くアラートと同時に横合いから飛来する光の雨が、少年とエターナルを引き離す。

 

この期に及んでまだくるか、そんな思いとともに自らの邪魔をした敵の正体を確かめるべく、そちらへ振り返り。

 

 

 

『…は…?』

 

 

そこにいたのは、少年のよく知る機体だった。だが同時に、その機体の存在は少年を強く困惑させた。当然だ、なにせ()が少年に銃を向けるはずがないのだから。

 

仲間のはずだ、たとえともに戦った時間は少なくとも。今ここで彼に銃を向けられる理由が、少年には何一つ思い当たらなかった。

 

だが撃たれたのは紛れもない事実、しかも敵の旗艦を撃つ寸前のときに、だ。………ならば…そういうことなのだろう。

 

 

『……そうかよ…っ…アンタも裏切るのかよっ!?』

 

 

自らに銃口を向ける()に、少年はただ純粋な怒りと、そして悲しみを込めた叫びを上げた。

 

 

 

 

* * * *

 

 

ドムトルーパー隊の壊滅。目の前で起きるあまりに一方的な戦闘に、私に息をすることすら忘れさせられた、それほどまでに壮絶な戦いだった。

 

強すぎる、圧倒的過ぎる。アスランさん達ほどではないにしろ、こちらのエース級三機をこうもあっけなく蹂躙するシンの姿に、私は内心で肩を抱きしめずにはいられなかった。

 

何故なら、あれが彼の今の心のありようなのだから。私が見捨てて押し付けた結果が、彼をあんな風にしてしまった。あれほどまでの戦いをしなければならないほどに追い込んでしまった。

 

声を、かけることが出来なかった。今の彼に、果たして本当に私の声は届くのだろうか。

 

そうして戸惑う私の前に、デスティニーが現れる。ボロボロになったヒルダさんが、それでも私たちを守る為に盾になろうとしてくれてるけど、多分デスティニーの攻撃は防げない。

 

突きつけられる死の恐怖に、誰もがそう覚悟した。目を逸らしたり、唇を噛み締めたりと、各々がそうするなか。

 

 

突如として飛来する光の雨が、エターナルとシンを引き離した。一瞬の硬直の後、私は慌てて光学映像で光の方角を拡大する。アスランさんやキラさんではありえない、あれはミーティアの武装じゃない。ムラサメ隊やロアノークさんだってこちらに援護を回す余裕なんてないはず。

 

一体だれが……っ!?

 

 

「…………え……?」

 

 

そこに映る機体を、私は知っている。あの日、荒れ狂う海上で耐え難い激情のままに私たちを撃つしかなかった、彼の機体。

 

パーソナルカラーであるオレンジを基調としたカラーリングと、ガンダムタイプ特有の鋭いV字アンテナ。

 

そして、背中に背負った赤き両翼。

 

 

「……()()()()()()………」

 

 

シンのものではないもう一機のデスティニーが、今まさに私たちを葬らんとしていた機体に、銃口を向けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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