あれは今から数百年は昔のことだ。
地上の王として君臨すべく獣の一族と鳥の一族は日夜争い続けていました。
その熾烈な争いによって多くの種が絶え、このまま戦いが続ければ例え勝利したとしてもわずかに生き残った種がいずれ絶えてしまうであろうことは自明であった。
そんな逼迫した戦況だったので、獣の一族は洞窟に住むコウモリにも加勢してもらおうと使者を出したのだ。
「コウモリよ、獣の毛皮を持つあなたにもこの戦いに加勢してもらいたい。宙を舞う鳥の一族に対抗するにはそなたの翼が必要だ」
「普段は獣でありながら翼を持つ半端ものと我を蔑んできた貴様らが、今更我に助力を乞うだと?」
「都合のいいことを言っていることはこちらも承知している。
しかし、この地上の王を決める戦いに参加しないのなら、あなたの居場所は未来永劫この薄暗い洞窟にしかない。あなたはこの争いに参加するしかないはずだ」
「獣の使者よ。
地上の王を決める戦い、そう言ったな。
そもそもそれが間違いなのだ。
今も昔も、そして永劫に至るまでこの地上の王は我らコウモリだ」
「半端ものを王と認める獣がいるとでも?」
「王とは認められるものではない、君臨するものだ。
それすらもわからぬ貴様ら負け犬風情に王を名乗る資格などないわッ!」
コウモリの一喝によって思わずすくみ上がる獣の使者。
しかし、自らが半端ものと蔑むコウモリに怯えたとあっては恥でしかない。自らを奮い立てるため吠え上げる。
「半端もの風情がッ!
我が爪牙の前に散るがいいッ!」
洞窟の天上につり下がっているコウモリめがけ飛び掛かる獣。
しかしコウモリはひらりとその突進を躱す。勢い余って天上に激突した獣はそのまま受け身も取れずに地面に叩きつけられる。
「グッ!」
「翼を持つ我に飛び掛かってくるとは、浅はかなり。
そして、爪牙を持つのは貴様だけでないことを忘れるなッ!」
コウモリは地に伏す獣にその牙を突き刺す。傷口こそ浅いものの、そこから入る病原菌たちによって獣の使者は争いの終わりを待つことなく息絶えるだろう。
「さて、見ているのだろう? 鳥の一族の者よ」
「おや、バレていましたか」
そういって岩の影から出てきたのは一羽の鳥だった。
獣の一族と同じくコウモリに助力を願いでようとしていたのだろう。
「我らコウモリは貴様らが恐れるこの暗闇をも見通す目を持っている。
この程度造作もない」
「素晴らしい!
あなたのその力、我ら鳥の一族の下で役立てませんか?」
「所詮は鳥頭、か。
そこで伏している獣にも伝えた通り、地上の王は我一人。貴様らの不毛な争いになど興味はない」
そう言ってコウモリは鳥の使者に背を向けるが、鳥の使者はそれを良しとしない。
「ならばこの争いを不毛なものにしないため、そして後顧の憂いを断つためにここであなたを処分するとしましょう」
そう言って鳥の使者はコウモリに襲い掛かる。
しかしコウモリは鳥の使者の猛攻を舞い落ちる木の葉の如くひらりひらりと躱していく。
「くッ! この暗闇では狙いが定まらない……!」
「所詮は暗がりを恐れる鳥頭。それも何故暗闇を恐れているかも忘れているのだから救いようがない」
「何ですと?」
コウモリは動揺する鳥の使者に淡々と告げる。
「貴様ら鳥が暗闇を恐れるのは、過去に我らコウモリの領域を侵した貴様の一族が当時の長によって粛清されたからだ。
その鳥頭に刻まれていなかったようだが、本能には刻み込まれていたようだな」
「……くッ! だが、姿が見えずとも気配はあるはずッ!」
「本当にそう思うか?」
コウモリの余裕に鳥の使者は違和感を覚えるも、ハッタリに違いないと無視をする。しかしそれがハッタリでないことはすぐにわかった。
「……気配が、感じ取れない!?」
「そう。貴様と我では生物としての『格』が違う。大地の気配すら感じ取れぬ貴様に我を見つけることはできんよ」
「……そんな、バカな」
呆然とする鳥の使者にコウモリは背後からグサリと牙を突き立てる。鳥の使者は哀れにもその痛みで死んでしまった。
「ふむ、民草の諍いになど興味はないが、この先我の安寧が妨げられるというのは面倒だ。
ここは一つ真に地上を治めるべき生物がコウモリであることを今一度世に知らしめるとするか」
そうしてコウモリは洞窟を出る。不毛な争いを止めるため、王者の何たるかを民へと伝えるため。
長きに渡る争いで疲弊した獣の一族と鳥の一族はコウモリの力によって蹴散らされ、地上には平和が訪れたのだった。
おしまい