「武器……だと……!!!?」
哲郎は確かに自分に
もっとも、麻痺で済むはずのない攻撃だったが。
『武器を使うと言いました!テツロウ選手!!
彼の体は既に満身創痍!!!
遂に決着の時か!!!?』
アナウンサーの声に応じるように、観客の熱狂も再び最高潮を迎えた。
哲郎が何を考えているかは分からないが、それをやらせる訳にはいかない。
根源魔法を使った反動は大きく、全身を激痛が走っているが、魔界公爵家の名にかけて、こんな所で不覚を取る訳には行かない。
そのことは、彼の身体をさらに動かした。
「終わりだ!! 《
「!!!?」
『こ、これは 何という光景でしょうか!!!
レオル選手、両手で
これは決定打になるのか!!!?』
何故だ…………!!!!
何故この
レオルの口から、腕から、手からどくどくと血が吹き出した。根源魔法を使った身体は限界を迎えているのだ。
両腕を動かせない哲郎の身体に、
倒れろ!!!
倒れろ!!!!
倒れろ!!!!!
レオルの虚ろな意識は、その一つに集中していた。しかし、それも終わりを告げる。
「……タイムリミットだ」 「!!!?」
哲郎の意識と腕が、完全に復活した。
『テ、テツロウ選手、走り出しました!!
ここから何を見せる!!?』
哲郎が一瞬でレオルとの距離を詰めた。そして空高く飛び上がった。
そこからは一瞬だった。
「ッッ!!!? 貴様……ッッ!!!!」
「終わりです。」
ズダァン!!!!!
「!!!!!」
哲郎が落ちる反動を乗せてレオルの首に組み付いた。そのまま一回転して全体重をレオルの首にかける。
レオルは後頭部から地面に叩きつけられ、辺りに血飛沫が舞い、レオルは完全に動かなくなった。
哲郎以外の全員、何が起こったのか分からなかった。
哲郎の体力も尽き、その場に仰向けに倒れた。それが場内に決着を告げた。
「しょ、勝負あり!!!!!」
『決着ゥゥゥーーーーーーーー!!!!!
テツロウ・タナカ ゼースに続きレオル・イギアを打ち破ったァァァーーーーー!!!!!
彼の言う武器とは、この武道場の地面のことだったのです!!!
イギア家の血筋を退けてテツロウ・タナカ
遂に準決勝に駒を進めたのです!!!!!』
アナウンサーと観客達が熱狂に包まれる中、哲郎はよろけながら立ち上がった。
そして、
『こ、これはどうしたことでしょう!!?
テツロウ選手、レオル選手を抱えました!!』
哲郎はレオルを抱え、レフェリーの元に歩いて言った。
「彼を早く医務室へ!!」
『これは驚きました!! 齢11 テツロウ・タナカ!!なんとレオル選手の身体を気遣っています!!! なんと美しい光景!!相手の健闘を称え、敬意を表す これもまた魔界コロシアムのあるべき姿と言えましょう!!!!』
アナウンサーの言葉により、観客席の熱狂は次第に拍手に変わっていった。
その観客席に一礼し、哲郎は去っていく。
その姿に命を軽んじたレオルへの怒りは微塵も無かった。
***
(……これは どういうことなのだ…………)
ベッドの上でレオルは思考を巡らせていた。
自分が負けた事はすぐに理解出来た。
そして、ここが医務室だということも。
両手両足はベッドの端に縛られており、口には枷がつけられている。何より分からないのは、魔法を使えないようにされていることだ。
「兄者!!!」
医務室に男が入ってきた。レオルの実弟 ゼース・イギアである。
「返事はしなくていい。ただ、
(伝言?)
この状況で言う事のある人間は1人しかいない。
まず、自分をこうするように指示したのは哲郎だった。
きっと目を覚ましたら、自害しようとする筈だから、それをさせないように両手両足の自由を奪うように と。
それから、舌を噛み切ることもないように、口に枷もつけて欲しいとも言ったそうだ。
レオルの顔は苦痛に歪んだ。それは肉体ではなく、敵に
「それからもう2つ、伝言があんだ。」
まだ何かあるのか とレオルは意識を向けた。
「まず1つは、自分の"完全決着の定義"は、あなたとは違い、『相手の思うことを1つもさせずに倒す』ことだと。
それから、これは情けではなく、あなたという誇り高い戦士への敬意のためだ と。
あいつはそう言ってたぜ。」
「………!!!!!」
レオルはその言葉でハッとした。
自分の考えを、あんな子供に見透かされていたのか と。
そして 瞼から一筋の涙が零れた。
叶うことなら、「完全に私の負けだ」と声に出して言いたかった。
***
息を切らしながら、哲郎は廊下を歩いていた。
「テツロウ選手、準決勝を戦えますか!!?」
「……休めば 何とかなります…………。」
レフェリーに哲郎は息を切らしながら返答した。彼はレオルへの怒りを完全に断ち、意識を準決勝にだけ 集中させていた。