魂魄妖夢は外の世界にある両親の墓参りに行くようです。 作:へっくすん165e83
白玉楼ではこの季節、外を眺めれば嫌でも桜が目に入るが、カフェの窓越しに眺める風景には、印刷物の桜しかない。
もっとも、京都にも桜の名所は数多くあり、そのどれもが競わんばかりに花を咲かせているのだが、少なくとも今現在妖夢の見ている風景には桜の木はなかった。
妖夢が道路の反対側の建物に貼ってある桜が施されたポスターを眺めていると、ふと店内から視線を感じ、その方向を向く。
そのまま視線を辿ると少し離れた位置にいた外国人のカップルが、妖夢の方をチラチラと見ながら何かを楽しげに話しているのが見えた。
妖夢には英語はわからないが、雰囲気から察するに、敵意は感じないし、罵倒されているようにも思えない。
外国人カップルは妖夢が自分たちの方を向いたのが嬉しかったのか、妖夢に対して笑顔で手を振ってくる。
妖夢にはその笑顔の意味はよく分からなかったが、取り敢えず手を振り返した。
「oh! very cute!」
外国人の男性が、身をよじるようにして小さい声で呟く。
外国人の女性はその様子に少し呆れながらも、妖夢に対し微笑んだ。
妖夢自身全く外国人を見たことがないわけではない。
霧の湖の辺りに建つ紅く窓の少ない館、紅魔館の主人であるレミリア・スカーレットは日本語こそ話すもののバリバリの外国人だ。
妖夢はレミリアと親しい間柄ではなかったが、全く接点がないわけでもなかった。
「ど、どうもー」
妖夢はどうしていいかわからず、ぎこちない笑みを返す。
そうしているうちに、妖夢の前に料理が運ばれてきた。
「お待たせいたしました。オムライスと、セットのコーヒーです。お砂糖とミルクは卓上のものをご自由にお使いください」
女性の店員は妖夢の前にオムライスとコーヒーを置くと、伝票入れに伝票を丸めて差した。
妖夢は目の前に置かれたオムライスをマジマジと見る。
オムライスという料理自体は知っているし、なんなら幽々子の要望に妖夢が答え、白玉楼で作ったこともある。
だが、それはあくまで人伝てに聞いたものを再現したものに過ぎなかったため、妖夢自身本物のオムライスがどういうものかは知らなかった。
妖夢の目の前に置かれたオムライスは、丸く盛られたチキンライスの上に半熟の卵がかぶせられており、ケチャップベースのソースが掛けられている。
そしてオムライスの頂点にはイギリスの国旗が付けられた爪楊枝が刺さっていた。
「おお、私が前に作ったオムライスと比べると凄いキラキラしてるわね。卵は半熟がいいのか」
妖夢はスプーンを手に取ると、端のほうから少し切り崩し、口に運ぶ。
「中の味ご飯にしっかりと出汁が聞かせてあるし……もしかして卵にも少し味がつけてある?」
妖夢はノートを取り出すと、オムライスを食べて気が付いたことをメモしていく。
白玉楼には主に紫が食材を届けているので、幻想郷にはない食材を手に入れることも可能だ。
妖夢は冥界へと帰ったら主人の幽々子にも外の世界の料理を食べてもらいたいと考えていた。
「上に掛けてあるものは……赤茄子のタレかな。中の味ご飯もこのタレで味付けされてる?」
なんにしても、再現はそう難しくなさそうだと妖夢は思った。
妖夢は味の研究をしながらオムライスに舌鼓を打ち、食後の締めにコーヒーカップを手に取る。
妖夢自身あまりコーヒーは飲まないが、全く飲んだことがないというわけでもなかった。
「確かコーヒーって苦いんだっけ。香りは……まあいい感じ」
妖夢は恐る恐るコーヒーカップに口をつける。
確かに苦いが、飲めないほどではなかった。
「お客様、こちら、イチゴのショートケーキになります」
不意に店員から声を掛けられ、妖夢はコーヒーカップを取り落としそうになる。
妖夢はすぐさまカップを持ち直し、何事もなかったかのように店員のほうを向いた。
「あれ? 私ケーキなんて頼みましたっけ?」
妖夢が店員に問いかけると、店員は外国人のカップルのほうを見る。
「あちらのお客様からです」
外国人のカップルは店員と妖夢の視線に気が付いたのか、こちらに笑顔で小さく手を振っていた。
「えぇ……いいのかなぁ」
妖夢はお人好しな外国人のカップルに少々呆れながらも、小さく頭を下げる。
外国人のカップルはそんな妖夢の礼に返すように仲良く同時に親指を立てた。
妖夢は机の上に置かれたショートケーキを見る。
飾り気はないが、それ故に上に乗せられた苺の赤がクリームの白地に映えていた。
「何か引っかかるけど、まあいいか」
妖夢は添えられたフォークを手に取り、上に乗せられた苺を突き刺す。
そして盛られたクリームをつけ、口に運んだ。
「うん、いい感じ。初めから自分で頼んでおけばよかったかな」
妖夢は甘い後味を流すようにコーヒーを飲む。
少々苦すぎると感じたコーヒーの苦みは、程よくケーキの甘さで中和されていく。
コーヒーをより楽しめるよう、このケーキの味は調整されているのだろう。
「まあ、お茶請けってそういうものよね」
妖夢はケーキを平らげると残ったコーヒーを飲み干す。
余韻を楽しむように一息つくと、妖夢は伝票を手に取り立ち上がった。
そしてまっすぐレジには向かわず、外国人カップルのもとへと向かう。
「あの、ケーキごちそうさまでした」
妖夢が頭を下げると、外国人の女性が妖夢の頭を撫でる。
男性のほうは凄い良い笑顔で親指を立てた。
妖夢もそれを真似して親指を立てる。
「頑張ってね」
「あ、日本語喋れるんですね」
女性は非常に流暢な日本語で妖夢に話しかける。
妖夢はそんな女性に呆気にとられつつ、改めて頭を下げると、今度こそレジへと向かった。
『なああの子、小学生ぐらいの歳だろう? こんな平日の昼にどうしてこんなところで昼食取ってるんだろうな』
妖夢がレジで店員にクレジットカードを渡し、少々驚かれているのを横目に見ながら男性が英語で女性に話しかける。
『多分彼女そんな歳じゃないですよ。ほら、平然とカード使ってるし。もう成人してるんじゃない?』
『わっはっは、そんなまさか。きっと親のカードだろうさ』
妖夢は会計を済ませると、ガラスの嵌められた重たい扉を押し開け、店の外に出る。
腹も膨れたことで妖夢としてもだいぶ余裕が出てきたのか、ホテルへは帰らず夜までこの土地を観光しようという気になっていた。
「とすると、どこに行こう。誰かに聞いたほうがいいのかな」
今連絡できるとすれば藍かタクシーの運転手の二択だろう。
だが、今の妖夢には少し気になる場所があった。
「一番初めにこの地に降り立ったあの建物。『きょうとえき』だっけ?」
あの時はとにかく人込みを避けるため早々に立ち去ったが、思い返せば京都駅はかなり面白い構造をしていたと妖夢は思い出す。
妖夢は携帯電話を取り出すと、タクシーの運転手に電話を掛けた。
『お電話ありがとうございます。木下タクシー株式会社の木下です』
「あ、先ほどはどうも。魂魄妖夢です。京都駅まで行きたいんですけど……」
『現在地はどの辺かわかりますか?』
妖夢は周囲をぐるりと見回すが、そういえば先ほどのホテルから殆ど動いていないことに気が付く。
「さっきのホテルから殆ど移動していません」
『リアフォードから? あー……』
運転手は何かを思い悩むように唸る。
妖夢は場所を思い出しているのだと思ったが、運転手はもっと違うことで思い悩んでいた。
『魂魄さん、そこからなら徒歩で向かったほうが早いですよ。そこから西に向かって道沿いに五分ほど歩いたら京都駅です』
「あ、そうなんですね」
運転手は正直に妖夢に伝える。
妖夢は空を見上げ太陽を見た。
「西は……あっちか。あ、どうもありがとうございます」
「いえいえ、何かありましたら些細なことでもお電話を」
ぷつりと軽い音がして通話が切れる。
妖夢は携帯電話を丁寧に折りたたむと、ポケットに仕舞い直し、歩道を歩き始めた。
運転手の言う通り、歩き始めて五分も経たないうちに妖夢は京都駅に到着した。
妖夢は改めて京都駅を見る。
京都駅は周囲の建物と比較し、かなり特殊な構造をしていると妖夢は思った。
ふんだんに使われたガラスは空の光を反射し、大きな鏡のようになっている。
そのほかにも屋根が三角形を複雑に組み合わせたような形になっていたり、壁の一部が複雑な形に盛り上がったりしていた。
「やっぱりここに来てよかったわね」
妖夢は中に入ろうと、出入り口を探す。
昨日の藍の授業では、駅というのは電車という乗り物に乗るための場所だという話だった。
妖夢は駅に近づいていき、人の流れを見た。
頻繁に人が利用する施設ならば、中に入るには人の流れに乗るのが一番だと妖夢は判断したからだ。
妖夢は人が頻繁に出入りしている出入り口から駅の中へと入る。
そこは妖夢が想像していたよりもかなり大きな空間が広がっていた。
中は細かい階層で区切られているわけではなく、天井まで続く吹き抜けになっている。
正面には電車に乗るための改札があり、入り口側の壁の左右には自動で動く階段、エスカレーターが設置されていた。
ひとまず電車には用事がないので、妖夢は入って右側のエスカレーターを観察する。
地面から階段が湧き上がり上へ上へと勝手に登っていくその光景は、仕組みを知らない妖夢からしたら騙し絵とそう変わらない。
「階段を上に持ち上げるだけならまだしも、永遠と生み出し続けるっていうのはどういう仕組みなのかしら」
そもそも妖夢からしたら階段は動くものではない。
階段が勝手に動いたら便利だなんて発想がそもそも妖夢にはなかった。
妖夢は恐る恐るエスカレーターに向かう人の流れに乗る。
前の人の動きをよく観察し、妖夢はエレベーターに乗り込んだ。
「おっと」
当初平らだった地面は傾斜がつくと同時に段差ができ、そのまま階段になる。
妖夢は段差が出来るちょうど間にいたため若干バランスを崩したが、すぐさま手すりを握って踏ん張った。
「おお、なるほど」
咄嗟に掴んだ手すりだが、よく見ると手すりもエスカレーターと共に動いている。
確かに手すりも一緒に動いていないと体だけがどんどん前に進みバランスを崩してしまうだろう。
妖夢を乗せたエスカレーターはそのまま上へと登っていき、やがて階段部分が平らな地面へと変わる。
妖夢は降り損ねないよう慎重にタイミングを見計らってエスカレーターから降りた。
エスカレーターを降りた先にはさらに上へと続くエスカレーターがあり、その左手にはカフェが見えた。
先程昼食を食べたばかりの妖夢はカフェには目もくれず、次のエスカレーターへと乗り込む。
その調子で二つほどエスカレーターを登ると妖夢にとってはある意味見慣れた光景が見えてきた。
幅の広い階段が建物の一番上までまっすぐ伸びている。
京都駅ビルの大階段だ。
「白玉楼までの階段みたい」
妖夢はエスカレーターを降りると、その階段の真正面へと移動する。
催し物があるときは客席にも使われるこの階段は若干の弧を描いており、威圧するような存在感がある。
この駅ビルの目玉の一つなのか、階段の途中では階段を背に写真撮影をしている家族連れもいた。
「お二人とも、もっと笑ってくださーい!」
三人の中で唯一長髪の少女が、カメラを構えながら前に立つ二人に声を掛ける。
「十分笑ってるだろう?」
ぎこちない笑みを浮かべている長身の女性は更に歪に顔を歪ませた。
長身の女性とは逆に、横に立っているまだ小学校を卒業してなさそうな背丈のチューリップ帽を被った少女は笑顔は気味が悪いほどに完璧な笑顔を作っている。
「もう、お二人ともふざけないでくださいよー」
長髪の少女は一度カメラを目から離すと、二人を引っ張ったり軽くしゃがませたりしながら位置を微調整する。
そしてまたカメラを構え、被写体が上手く写るよう少しずつ後退を始めた。
「あれって天狗が持ってるカメラかな。やっぱり外の世界は進んでるわね」
妖夢はそんな女性の三人組を見ながら階段を登り始める。
半霊を身体の中に入れているためか、普段より疲れにくいように感じた。
「うーん、もう少し後ろかな?」
「落ちるなよー」
少しずつ後退する長髪の少女に、チューリップ帽の少女が茶化すように声をかける。
「大丈夫ですよー!」
長髪の少女は元気よく答えるが、確かに小さな少女が注意するように、長髪の少女のすぐ後ろは階段だった。
あと半歩でも後ろに下がればそのまま階段を転がり落ちるだろう。
「にしてもカメラか。盲点だったな。今からでも手に入れば幽々子様へのお土産が……」
ブツブツ言いながら妖夢はロクに上も見ずに階段を登っていく。
「上の方が見切れ……——ッ!?」
次の瞬間、カメラを構えていた少女が段差から足を踏み外した。
「——ッ」
少女が足を踏み外したことに気がついた妖夢は咄嗟に地面を蹴り階段を駆け上がる。
「やばぁあああ!!」
緊張感のない悲鳴をあげる少女の真下に入り込むと、倒れてくる少女の背中をそっと支えた。
「ああああぁぁぁ……あ?」
少女は一瞬何が起こったのか理解していない顔をしていたが、何か納得したように後ろに倒れ込みながら前に立っている二人に対して親指を立てた。
「お二方、ナイスです! そのままもうちょっと引き寄せてください」
妖夢は少女が何を言っているかわからなかったが、そのまま少女の背中を押して少女を立たせていく。
そして少女が自分の足でバランスを取ったことを確認すると、そっと背中から手を離した。
「ほら言わんこっちゃない……すまなかったね。ありがとう」
長身の女性が頭を掻きながら妖夢に礼を言う。
長髪の少女はようやく自分が後ろから支えられたことに気が付いたようだった。
「って、え? あ、ああ! すみませんありがとうございます!!」
長髪の少女は慌てて振り返ると妖夢に対して深々と頭を下げる。
妖夢はそんな少女の態度に慌ててそれを制した。
「あ、いやいやそんな。たいしたことでは……」
まあ確かにあのまま階段を転がり落ちていたら怪我は免れないだろう。
「いやいやいやいや、本当にありがとうございます!」
コントのようなやり取りを繰り返す二人を見ながら、被写体になっていた二人は何かを話し込んでいる。
やがて長身の女性が妖夢の方へと近付いてきた。
「うちのを助けてくれてありがとう。もしよかったら近くのカフェでお茶でもしていかないかい? 礼に奢るよ」
妖夢はちらりと腕時計を確認する。
藍との約束の時間まではまだ随分ある。
時間を潰すという意味合いもかねて、妖夢は女性の誘いに乗ることにした。
「ええ、それは素晴らしい提案ですね」
「よし決まりだ。私の記憶が正しければ少し上がったところにカフェがあったはず」
長身の女性の先導で妖夢は大階段の横の扉から駅ビル内に入る。
長身の女性の記憶通り、扉を抜けてすぐのところにおしゃれな雰囲気のカフェがあった。
「平日のこの時間だから席は空いていると思うんだが……」
女性は一人店の中に入っていくと、店員の女性と話し始める。
良い返事がもらえたのか、女性はすぐに店の外に出てきた。
「四人掛けのテーブルがちょうど空いているらしい。すぐ入れるよ」
「んじゃいこー!」
チューリップ帽の少女は見た目相応の笑みを浮かべて意気揚々と店の中に入っていく。
その後を追うように店の中を歩いていき、開いている四人掛けのテーブルへと腰掛けた。
妖夢の前には長身の女性。
その横に長髪の少女。
妖夢の隣にはチューリップ帽の少女が座った。
「何にする? 私はどうしようかなー、パフェもいいしケーキも美味しそうだし」
チューリップ帽の少女は妖夢に見せるようにメニューを開くとあれこれ指さしながらページをめくり始める。
「あ! 私パフェがいいですパフェ!」
「お前は少し反省しような」
長髪の少女を長身の女性が嗜める。
「さあ、遠慮なく注文してくれ」
長身の女性に促されるまま妖夢はメニューを覗き込む。
昼に入ったカフェに比べて料理が少なく、スイーツが充実している印象を受けた。
「じゃあ、私もその「ぱふぇ」っていうのにしようと思います」
「どれにする~?」
「なので「ぱふぇ」を……って、え?」
チューリップ帽の少女がメニューを妖夢のほうへと突き出す。
そこには色とりどりのパフェの写真が十種類以上並んでいた。
「え、えぇ~……こんなにあるの? えっとぉ……」
妖夢はメニューを眺めながら目を回す。
そんな妖夢の様子を察したのか、チューリップ帽の少女は妖夢のほうに体を寄せると、くっつくようにしながらメニューを指さした。
「私のおすすめはこれ! 全体的に全部甘いんだけど控えめなのがこれでー、今の一番人気はこれじゃないかな?」
「私苺がいいです!」
長髪の少女は身を乗り出すようにしてメニューを覗き込む。
妖夢はそんな二人に挟まれながらチューリップ帽の少女が勧めたパフェを指さした。
「じゃあ、私はこれで」
「あんたはどうすんの? パフェ?」
チューリップ帽の少女は長身の女性に向かって不躾に問う。
長身の女性は既に何を頼むか決めていたのか、端的に返した。
「私はガトーショコラで。みんな飲み物はどうする?」
長身の女性は少し手を伸ばしてメニューの最初のほうのページを開く。
「私抹茶ラテ!」
「私キャラメルホイップカフェラテのシロップ添え!」
チューリップ帽の少女と長髪の少女が同時に指さす。
妖夢は少し迷ったが、チューリップ帽の少女が指さした抹茶ラテが気になったのでそれを指さした。
「よし決まりだ。店員さーん!」
長身の女性は大きく体を捻り振り返ると、店員を呼ぶ。
そしてメニューを指さしながら飲み物とスイーツを注文した。
「さて、改めてうちの子をありがとね。昔からそそっかしい性格ではあるんだが……」
長髪の少女は照れるように頭を掻く。
「いやぁあはは、ほんと助かりました」
「今年は春休みがちょっと長くてね。いい機会だから京都まで観光に来たんだ。そちらさんは?」
妖夢は本当のことを話すか少々悩んだが、ある程度正直に話すことにした。
「曾祖父母のお墓を探しに京都まで来たんですけど、あまり手掛かりがなくて」
「お墓参りか。立派なことで。でも場所も分からないっていうのはどういうことなんだい?」
妖夢は当たり障りのない程度に事の顛末を話す。
長身の女性は死亡通知と写真を交互に見ると、ふむ、と顎に手を添えた。
「魂魄流剣術か……実際に見たことはないが、昔小耳に挟んだような気はするな。確か三尺近い刀を巧みに操る剣術とかなんとか」
「ご存じなので?」
「ああそういうの詳しいもんね」
チューリップ帽の少女が茶化すように笑う。
「いや、詳しいことは何もわからん。すまないがそれ以外の情報は何も……」
長髪の女性は思い出すようにこめかみを何度か叩く。
「些細なことでもいいんですけど……」
「確か京都御所の警備の雇われ武士がどうとか聞いたが……だいぶ昔の話だしなぁ」
京都御所という情報は全く新しいものだった。
妖夢の両親が京都御所の警備についていたということだろうか。
それとも魂魄流剣術の門下生が警備についていただけだろうか。
妖夢の頭の中にいくつもの可能性が浮かび上がるが、どれも憶測の域を出なかった。
なんにしても妖夢の両親は昭和の時代まで生きていたのだ。
それ以前にどんな職についていようがあまり関係ない話だろう。
「でもその妖夢ちゃんのご両親がお亡くなりになったのは戦時中なんでしょ? なら当時のことを覚えてる人間も結構いるんじゃない?」
届いたパフェをつつきながらチューリップ帽の少女は言った。
「まあ、それも期待しての道場訪問というわけで……」
「はぁ、なるほど。今戦後何年ぐらい経ったんでしたっけ?」
長髪の少女は首をかしげるが、その様子に長身の女性はため息をついた。
「お前は学校で何を学んだんだ。今が2005年、終戦が1945年だ」
「えっと……六十年ですか。なら結構生きている人多そうですね!」
「お前単純に六十歳以上とか考えてないよな?」
長身の女性の言葉に長髪の少女はきょとんとする。
「当時十歳だとしたらそこまで詳しい話は分からないだろう? 最低でも十五歳以上でなければ詳しい話は聞けないはずだ」
「だとするとプラス十五で御年七十五歳以上ですか」
「七十五歳以上で魂魄流の門下生となると、自然と人数は限られてくるだろうな。そうだとしたら確かにこの辺の道場を回るというのは効果的な方法かもしれない」
長身の女性は一口コーヒーを飲むと、鞄からメモ帳を取り出しペンを走らせる。
そしてその紙を妖夢に差し出した。
「あと二日は京都にいるつもりだから何かあったら連絡してくれ。古い武術や政治のことに関してなら多少は相談に乗れるだろう」
妖夢は電話番号が掛かれた紙を貰うと、ノートに挟む。
「ありがとうございます。それと、お茶とお菓子ご馳走様でした」
妖夢は椅子に座ったまま小さく頭を下げる。
唐突な出会いだったが、非常に有意義な時間だった。
「んもうカナコ様ったら普通に赤外線で連絡先交換したらいいじゃないですか。ほら妖夢ちゃんも携帯出して!」
長髪の少女は自分の携帯を取り出すと、なにやら設定を始める。
「セキガイセン?」
「ああ、こっちでやりますよー」
そして妖夢の携帯ももぎ取るとあっという間に連絡先を交換した。
「ああ、なるほど。携帯買ったばっかりだったんですね」
長髪の少女は妖夢の連絡先一覧を見て何か納得したように頷くと、妖夢に携帯電話を返した。
「ここのさなえちゃんっていうのが私ですので、多分カナコ様に直接かけるより早いと思いますよ」
妖夢には話の半分も理解できなかったが、取り敢えず連絡先一覧の藍の名前の下に「さなえちゃん」の項目が増えていることを確認する。
藍と同じようにここを選択すれば電話を掛けれるのだろうと妖夢は判断した。
「色々ありがとうございます。何か聞きたいことがありましたら電話掛けますね」
「ああ、私らはもう少しここでゆっくりしていくから。京都駅ビルを探索しに来たんだろう? 暗くなる前にあちこち回ってみたほうがいい」
長身の女性はそう言って妖夢に微笑む。
妖夢はもう一度パフェのお礼を言うと、会計を任せて店を出た。
オムライスに旗
お子様ランチかな? 店員の勝手な気遣い
赤茄子
トマトのこと
外国人カップル
再登場の予定は今のところない
京都駅ビル
中々面白い構造してます。気になる方はGoogleマップのストリートビューで内部の見学が可能
大階段
観客席にもできるように設計された幅の広い階段
家族連れらしき女性三人組
長野から京都へ観光に来たらしい。今後再登場するかは未定