魂魄妖夢は外の世界にある両親の墓参りに行くようです。   作:へっくすん165e83

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少々短いですが今回も概ねこんなもん
山無し落ち無しな話が続きますが、この話はそういう話です
ああでも、「私の世界は硬く冷たい」のような話をもう一度書きたい気もする今日この頃。リメイクしようかな……


第七話「あ、いえ。また近いうちに」

「寝れない」

 

 窓から街明かりが差し込み、部屋の中をぼんやりと照らしている。

 妖夢はクイーンサイズのベッドから起き上がると、忌々しげにベッドマットを叩いた。

 

「柔らかすぎでしょこれ」

 

 普段ある程度しっかりとした硬さのある敷布団で寝ている妖夢からしたら、マットレスの入ったベッドは少々柔らかすぎて違和感があった。

 

「布団はまだいいにしても枕がなぁ……」

 

 そして何より頭の座りが悪い。

 妖夢は普段使っているそばがらの枕を恋しく思いつつベッドから降りると、薄暗い室内を歩きソファーに座った。

 

 

 

 昨日藍と別れた後妖夢は、ホテルのフロントでもう一泊して行くことを伝え客室へと戻った。

 藍に言われた通りに風呂を沸かし身を清めた妖夢は、部屋もすっかり暗くなっていたので早々に寝ることにする。

 壁の隅にあったコンセントに充電器を挿し携帯電話に繋いでからベッドに潜り込んだ妖夢だったが、思った以上に布団と枕が合わず、十分もしないうちに寝ることを諦めてソファーに移動したのだった。

 妖夢は窓から見える街明かりをぼんやりと見つめる。

 外の世界には夜が来ないという噂を人里で聞いたことがあったが、なるほどこういう事かと妖夢は納得する。

 窓から見える夜の街には煌々と街を照らしている自動車が、昼と変わらないほどの数走っている。

 道ゆく人々も忙しそうに歩き回っており、暗くなければ夜だとは思わない程には活気があった。

 

「もしかして外の世界の人間は眠らなくても生きていけるのかしら」

 

 妖夢は眠そうに大きな欠伸をすると、そのままソファーに倒れ込む。

 ソファーもソファーで十分柔らかくはあったが、ベッドよりかは少々寝心地が良かった。

 

「まだこっちの方がいいか」

 

 妖夢は足を曲げて完全にソファーの上で横になると、肘掛けを枕代わりにして体を預ける。

 数分もしないうちに、妖夢は小さく寝息を立て始めた。

 

 

 

 日が登ると同時に目が覚めた妖夢は、部屋がすっかり明るくなっていることを確認すると、大きく伸びをしてソファーから立ち上がる。

 確か昨日フロントの女性は、朝食は六時半から九時までの間だと言っていたことを思い出し、妖夢は腕時計を覗こんだ。

 

「五時三十二分。六時半は六時三十分だから、朝食まで一時間。……一時間ってどれぐらいの時間なんだろう」

 

 一日を二十四で割った時間が一時間であると妖夢は理解しているが、頭では理解していても体感としてどれぐらいかは実際に経験してみないとわかるものではない。

 妖夢は携帯電話の充電がされていることを確認すると、充電器のコードを外してベッドの上に置く。

 実は昨日助けた少女からメールが一件来ていたのだが、妖夢には知る由もなかった。

 とにもかくにも身支度を整えようと、妖夢は洗面所に向かう。

 洗面所はまだ薄暗かったが、夜目の利く妖夢からしたらあまり気にするようなことでもなかった。

 

「うわ、寝ぐせが……」

 

 妖夢は鏡に映る自分の姿を見て、苦笑を浮かべる。

 昨日はベッドの寝心地が悪く、結局妖夢はソファーの上で眠りについたが、寝相が悪かったのか後ろ髪が変な方向に跳ねていた。

 

「朝から湯浴みは贅沢か……いや、いいか」

 

 妖夢はもう一度腕時計を覗き見て時間があることを確認すると、服を脱ぎ丁寧に畳んでバスルームに入る。

 冷水を浴びないようにシャワーヘッドを壁側に向けると、レバーを奥へと捻った。

 

 

 

 妖夢は身支度を整え終わると、リビングに戻り携帯電話を手に取った。

 

「えっと、カメラ機能は……」

 

 藍から昨日教えてもらったカメラ機能を練習しようと、妖夢は携帯電話を開く。

 そして画面に『新着メール一件』の文字を見つけた。

 

「メール? メールってなんでしたっけ?」

 

 一昨日の講義では電話を取る、掛けることしか練習しなかったため、妖夢自身メールというものが何かは分かっていない。

 だが画面に映し出されている手紙のマークを見て、何かしらの手紙が携帯電話に届いたのではないかと推測する。

 妖夢は手探りで携帯を操作し、何とか新着メールを開いた。

 

『こんばんわ! せっかくなのでメールしちゃいました(*^-^*) 昨日は本当にありがとうございますm(__)m 私小さいころからよく転ぶ子供だったらしいんですけど、今でもよく転ぶんですよね(; ・`д・´) 妖夢さんもお気をつけて! って私ほどおっちょこちょいじゃないか_(:3」∠)_』

 

「なんだこれ」

 

 あまりにも慣れない表現方法に妖夢は十秒ほど固まる。

 書いてある内容は理解できるし、横の記号が表情を表しているのも理解できる。

 だが、あまりの文化の違いに、内容を理解するのに数回読み直さなければならなかった。

 

「携帯で手紙が送れることにはもう驚かないけど……」

 

 幻想郷では文語体と口語体という形で、話し言葉と書き言葉は異なっている。

 話し言葉で文章を書くという話を聞いたことがないわけではなかったが、ここまで違和感のあるものだと妖夢は思っていなかった。

 

「手紙だったら返事を書かなきゃだけど……これどうやって返事を書くんだろう」

 

 電話をするなら手っ取り早いが、まだ早朝だ。

 起きていない可能性が高いため、妖夢は取り敢えずメールの件は保留することにした。

 そうこうしているうちに朝食の時間になったので、妖夢は必要最低限のものだけ持って客室を後にした。

 

「えっと、確か一階って言ってましたっけ?」

 

 妖夢はエレベーターを待ちながら昨日フロントで聞いたレストランの場所を思い出す。

 フロントを挟んでエレベーターの乗り口の反対側だとフロントの女性が言っていたが、実際に入り口を確認したわけではなかった。

 

「まあ受付の女性に聞けばいいか」

 

 妖夢は到着したエレベーターに乗り込むと、ボタンを押して扉が閉まるのを待つ。

 十秒もしないうちにエレベーターの扉は閉まり、下へと動き始めた。

 

 

 

「はい、レストランはここから廊下を奥に進んでいただいて突き当りです」

 

 エレベーターを降り受付にいる女性にレストランの場所を聞いた妖夢は、指し示された方向を見る。

 廊下は途中で左に曲がっており奥を見通すことはできなかったが、受付の女性がそう言うならそうなのだろう。

 

「ありがとうございます」

 

 妖夢は受付の女性にお礼を言うと、廊下を奥へと歩き始める。

 そこまで長くない廊下を左に曲がると、妖夢の目の前にレストランが現れた。

 

「おはようございます。朝食はビュッフェスタイルとなっております」

 

 レストランの出入口でコック帽を被った男性が妖夢に恭しくお辞儀をする。

 

「びゅっふぇ?」

 

 聞きなれない言葉に、妖夢はコック帽の男性に聞き返す。

 男性は妖夢の容姿をちらりと見ると、丁寧に説明を始めた。

 

「あちらでお盆とお皿をお取りいただき、自分の食べたい料理を好きなようにお盛り付けください」

 

「おお、なるほど」

 

 妖夢はコック帽の男性にお礼を言うと、お盆の上に皿を数枚置き、料理の前を歩き始める。

 

「ん? 結構見たことあるわね」

 

 目の前に並ぶ料理の中には妖夢の見たことのない料理も多かったが、半分は妖夢にも馴染み深い和食だった。

 妖夢は見たことない洋食にも興味を惹かれたが、ついつい見慣れた和食ばかり皿に盛ってしまう。

 茶碗に白米を盛り付け、味噌汁をお椀に注ぎ、箸をお盆の上に置くと、妖夢は鼻歌交じりにテーブルについた。

 

「まあ、外の世界の料理は少し違うかもしれないし」

 

 妖夢は綺麗に巻かれた卵焼きをひと切れ口に運ぶ。

 優しい味付けの卵焼きは程よく火が通してあり、硬くなりすぎていない。

 

「凄い丁寧に火が通してある。火力の調整が難しいのに。焦げも全くないし」

 

 もっとも、妖夢とここのホテルのシェフでは使っている道具に差がありすぎる。

 繊細な火加減ができるコンロにフッ素コーティングされたフライパンなど、幻想郷にはない便利な道具が外の世界には多く存在しているため、妖夢から見たらここのホテルのシェフが超絶な技術を持っているように思えた。

 

「この焼き鮭も絶品ね。脂の乗りといい焼き加減といい。味付けもちょうどいいし」

 

 白玉楼で働いている幽霊も料理は相当に上手だが、一歩ここのシェフには負けていると妖夢は感じた。

 妖夢はその後も和食の朝食を楽しむと、最後に味噌汁を飲んでほっと息をつく。

 外の世界に来てまだそれほど時間が経ったわけではないが、妖夢は既に少し白玉楼が恋しくなっていた。

 

「おっと、いけないいけない」

 

 半分旅行のような感覚で外の世界に来ているのに、帰りたくなっていては何の意味もない。

 妖夢は気を取り直すと、案内をしているコック帽の男性に軽く会釈をして客室に戻った。

 

 

 

『お電話ありがとうございます。木下タクシー株式会社の木下です』

 

「あ、お世話になってます。魂魄妖夢です」

 

 妖夢はホテルの客室にあるソファーに姿勢を正して座りながら、タクシーの運転手に電話を掛けていた。

 

『おお、妖夢さん。毎度ありがとうございます。本日はどちらまで?』

 

「一応行きたい場所は決まってるんですけど、もしかしたらその後もあちこち回るかもしれないんですよね」

 

『んー、そうなりますと……』

 

 タクシーの運転手は近くにいる誰かと何かを相談し始める。

 数十秒もしないうちにタクシーの運転手は電話口に戻ってきた。

 

『うちの若いのの研修も兼ねて、そいつを一日貸し出すっていうのはどうでしょう? 知識や能力分お安くしときますよ?』

 

「一日貸し切りということです?」

 

『何なら軽い雑用を押し付けても大丈夫です。いい修行になります』

 

「なるほど……」

 

 妖夢は携帯電話を耳に当てたまま、少々考え込む。

 確かに一日貸し切りは魅力的だ。

 だが、新人というところが少々引っかかる。

 

「その若いのさんは、道はちゃんとわかるんですよね? 私土地勘は全くないので二人して迷子は困るんですけど……」

 

『あ、いや。流石にその辺は大丈夫です。ただ、渋滞に巻き込まれにくい裏道の知識や操縦技術はベテランには数段劣るというだけで』

 

「ならいいか。それでよろしくお願いします」

 

 妖夢的には別に安くなくても全く問題ないわけだが、一日タクシーを貸し切りにできるというのは大きなメリットだ。

 妖夢はタクシーの運転手にまだホテルにいることを伝える。

 

『リアフォードですね。何時にお迎えに上がりましょうか』

 

「今が七時前だから……九時にホテルの前で待ってます」

 

『九時にリアフォード前ですね』

 

 妖夢は希望の時間を提示し、電話を切る。

 これで今日の足は確保できた。

 妖夢は携帯電話をポケットに仕舞うと、昨日教えてもらった道場をもう一度地図上で確認する。

 この地図の縮尺がどれほどかは妖夢にはわからないが、そこまで離れているようには見えなかった。

 

「って言っても資料館まで結構掛かったからなぁ……」

 

 あの時は車で移動したからそこまでの時間は掛からなかったが、歩いていくとしたら相応に時間が掛かるだろう。

 それを思えば、タクシーを一日レンタルできたのは大きかった。

 妖夢は一度ホテルをチェックアウトするために、荷造りを始める。

 一度リュックサックの中身をひっくり返し、忘れ物がないが一つ一つ点検し始めた。

 

 

 

 あと十分あまりで九時になろうかという時間に、妖夢は客室を出て一階に降りる。

 エレベータを降りた妖夢はそのままフロントに向かった。

 

「すみません、宿代の支払いはここでいいんでしたっけ?」

 

「チェックアウトですね。お部屋の鍵をお預かりします」

 

 妖夢は言われた通りに部屋の鍵をフロントにいる女性に手渡す。

 女性は手元のモニターを確認すると、電卓を取り出して宿泊料金を妖夢に提示した。

 

「お支払いはどうなさいますか?」

 

「カードでお願いします」

 

 妖夢は財布から渡されていたクレジットカードを引き抜くと、フロントの女性に渡す。

 フロントの女性はカードをリーダーに通しながら妖夢に聞いた。

 

「お支払い回数はご一括でよろしいでしょうか」

 

 こう言われた時の返答は一昨日の講義で教わっている。

 妖夢は教わった言葉の通りにフロントの女性に伝えた。

 

「はい。一括で大丈夫です」

 

「こちらにサインをお願いします」

 

 妖夢は差し出されたレシートにサラサラとサインを書き込むと、カードを受け取る代わりにレシートをフロントの女性に渡す。

 フロントの女性はサインを確認すると、深々と頭を下げた。

 

「ご利用ありがとうございました。またのご利用をお待ちしております」

 

「あ、いえ。また近いうちに」

 

 今日またここに泊まる可能性もある妖夢は、小さく会釈すると、そそくさとフロントから離れる。

 そろそろタクシーが来る時間ということもあり、妖夢はそのままホテルを後にした。




薄暗いホテル
 妖夢は部屋の照明の付け方がわかっていないので、夜になると部屋は相当暗くなります。

メール
 今で言う既読無視だが、そもそも既読機能自体がない。

顔文字
 当たり前だが幻想郷に顔文字の文化はない。あったとしても「へのへのもへじ」

木下タクシー株式会社
 従業員数名の小さなタクシー会社

タクシー貸切
 時間貸しだと大体一時間七千円ほど

宿泊料金
 スタンダード料金でも一泊十万を超えている
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