PCゲーム「沙耶の唄」の『羽化』ルートのラストの続きを妄想し、先生の視点を書いた作品になります

沙耶の唄は、いいぞ

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沙耶の唄SS「終わる世界と産まれる命」

 街を一望できるビルの上。彼はそこに座り、街を、世界を静かに見つめていた。

「やぁ郁紀君。調子はどうだい?」

 あの運命の日の後、世界は変わった。いや、狂ったと言った方が正しいか。一人の男と、一匹の地球外生命体の恋愛によって。

「世界を変えて、人々を狂わせ、地球を破滅へと導いた犯人さん?」

 世界は狂気に満ち溢れ、人類は一人を除いて姿を肉塊に変え、比喩でも冗談でも無く、世界は破滅に向かっていた。

 そこら中に動かない肉塊が転がり、キチガイじみた叫び声が街中に響き渡り、見境なく襲ってくる肉塊も多数だった。

「全く……何か言ったらどうだい?」

 私はため息をつき、彼の肩に手を置いた。すると、彼はゆっくりとこちらを向いた。その顔は目の前の惨劇が一瞬夢だと思う程に、優しく穏やかな笑顔だった。

「先生、お久しぶりです。いや、その姿出会うのは初めてなので、『初めまして』と言った方が良いのですかね?」

 ハッキリと聞こえる彼の声。久々に聞いた人間の声。この【狂気】の世界で【普通】に出会う事がどれだけ嬉しい事なのか、今なら非常に分かる。

「初めまして。なんて、他人行儀な事を言わないで欲しいな。これでも一応、君の主治医だったんだからね」

 至って平和な会話をしながら、私は懐から愛用の改造ショットガンを取り出し、彼の後頭部にその銃口を突き付ける。

「へぇ……最近の医者は、患者にショットガンを突き付けて病気を治すショック療法をしているのですか?」

 武骨な改造ショットガンを突きつけられながらも、笑顔を崩さない郁紀。そんな彼に、私は冷笑を返す。

「世界を狂わせた犯人を殺したくなるのは当然だろう? だからこれは世界中の人間の意思とも言える。それに、狂気の世界を作り出した君に対する、私の私怨と言っても良い」

 言いながら私は引き金に掛けている指に力をかける。だがそれを見た郁紀は、私から背を向けて、再び目の前の世界に目を向けた。

「沙耶は、僕にこの惑星(ほし)をくれたんです」

 そのまま郁紀は、ポツポツと語り出す。

「僕は今、先生が見て居る様な狂気の世界に一人で放り出されたんです。そのまま治る事も無く、正直に話せば隔離されてしまう。絶え間なく侵食してくる狂気に耐え忍ぶ事を強制された日々。先生には、想像できますか?」

「いいや。想像できないし、想像したくないね」

 こちらを見る事も無く語り続ける郁紀。無防備な頭を吹き飛ばして黙らせる事は簡単だったが、何かに操られているかのように、引き金に掛けた指はピクリとも動かなかった。

「そんな狂気に耐えられたのは、辛くて苦しい病院生活に耐えられたのは、沙耶がいたからなんですよ。沙耶だけが、僕の希望だった」

 何かを思い出すかのように空を仰ぐ郁紀。私もつられて空を見るが、そこには黒い煙が空を覆っているだけだった。その煙の発生源は言うまでもない。今の世界に耐え切れない肉塊達が、全てを燃やすために放った火が原因だろう。

「僕は沙耶がいればそれで良かった。沙耶が居ればどんな世界でも生きていけた。沙耶の為なら何でも出来た。沙耶以外の物なんて、何もいらない。僕はそう思っていたんです……」

「思っていた……?」

 その郁紀の言葉に、私は少し疑問を覚えた。沙耶はもうどこにもいない。この惑星を死の惑星に変え、郁紀だけを残し、去って行った。そんな沙耶より、今は大事なものが出来たと居のか?

「それはどういう……」

「”””””””””””””””””””””””””!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 それは悲鳴、と呼べるのだろうか?

 何処からともなく聞こえたそれは、機械が軋みを上げる音とも、野生の獣の咆哮とも、人が絶望した時の悲鳴とも聞こえる。どれにしても、とてもよくない事が起こった事だけは理解できる。

「お、もうすぐですね。楽しみです」

 そんな絶望の音を聞きながら、郁紀は嬉しそうに笑う。この悲鳴が、まるで祝福のファンファーレだと言わんばかりに。

「やっぱり君は壊れている。イカレている。狂っている。沙耶と深くかかわり過ぎた。もっと早くこうしていれば、世界は救えたのかもしれない。そうなると私は、世界を救った勇者になるのかな? ガラじゃ無いんだがね」

 そう言いながら、動きが鈍い指先に力を込め、引き金を引いた。

「おもちゃのショットガンですか? カチカチ音が鳴って楽しいですね」

「……だろう? 君が楽しんでくれると思ってわざわざ山奥の別荘から持って来たんだよ」

 私の運が悪いのか。惑星が郁紀を生かそうとしているのか。それとも、信じて居ない神様が私に唯一の救いを与えてくれたのか……

 引き金を引いた愛用のショットガンに装填された最後の一発は、郁紀の頭を撃ち抜くことはせず、カチリと言う軽い音をさせるだけだった。

「君の勝ちで、私の負けだ。せめて私が生まれ育った世界の最後を見届けさせてくれないか?」

 せめて最後くらい、狂気に飲み込まれなかった最後の肉塊として、世界の最後を見届ける権利はあるだろう。そう思った私は郁紀の隣に立ち、ビルの屋上から世界を見た。

 

「終わり?違いますよ先生」

 

 そこには、

 

「これから生まれるんです」

 

 自分が想像していたどんな世界よりも、

 

「「沙耶と郁紀の子供が」」

 

 美しかった。

 

 生命の誕生は、どんな物でも美しい。そう、心の底から思えた瞬間だった

 道端に転がる動かぬ肉塊。死に場所を求めてさまよう肉塊。自分の姿を見ようともせず、同じ肉塊を殺し続ける肉塊。その全てが動きを止め、これから起こる事に体を震わせていた。

「ア……アガガガハハハハハヒヤアアアアア!!!!!!!!!!!」

 かろうじて悲鳴だと聞こえる叫び声を上げた一つの肉塊の背中から、大きな肉の花が咲いた。その花は苗床の醜い肉塊を浄化するかのように華麗に咲き誇り、この狂気の世界に生まれた事を心の底から喜んでいるようだった。

「ほら見てください、先生。僕と沙耶の子供達です。可愛いでしょう? まだ小さいから言葉を話せないですが、喋れるようになったら僕の事をなんて呼ばせましょうか? 『おとうさん』? 『パパ』? それとも渋く『オヤジ』でもいいかもしれないですねぇ……」

 そう言って郁紀は、父親が悩む事を嬉しそうに私に相談してくる。あの花は、肉塊全てから生える花の全てが、沙耶と郁紀の子供たちなのだ。

 そう思うと、私は自然と笑みがこぼれた。どんな狂った世界でも、新たな生命の誕生に立ち会えた事は、嬉しいものだ。

「郁紀君。そして、聞いているのだろう? 沙耶。君達に最後に言いたい事がある」

 その内、私の背中からも子供が生まれるのだろう。だが出産の痛みに耐えきれないであろう私は、早々にこの世から立ち去る事にした。

 今なら最後にこめた弾丸が出ると確信していた私は、自分の頭にショットガンの銃口を突き付け、引き金に掛けている指に再び力を込める。

 その光景を黙って見つめる郁紀君に、私は狂気の世界に入ってから浮かべた事が無い、自然な笑顔で言った。

「結婚おめでとう。沙耶、郁紀君。君たちほど愛し合った夫婦を、私は見た事が無いよ」

 そう言って、私は引き金を引いた。

 破裂音と共に飛び出た最後の弾丸は、私の頭を簡単にミンチにするだろう。そんな私が見た最後の光景は、

「「ありがとうございます、先生」」

 笑顔の郁紀と、郁紀の背中から抱きついている、真っ白なキャミソールを着た少女だった。




羽化ルートは一番有名なルートですかね。
沙耶が羽化するCGは何度見ても美しいですよね

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