ウサギの観察日記『完結』   作:サルスベリ

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 篠ノ之束、亡国企業を作る、が前回のお話。

 この後どうするかと悩んで、色々と考えて、頑張ろうと決めて。

 力を入れても面白いものは作れないと悟った今日この頃です。

 さあ、ブレーキの壊れた暴走列車が、今日も突き進みますので、どうかよろしくお願いします。






諸行無常な十ページ目

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 男は薄闇の中で未来を見つめる。

 

「おい、出ろ」

 

 声に振り返ると、看守が憎々しい顔でこちらを見ていた。

 

「俺を出すのか?」

 

「上からの命令だ、出ろ」

 

「いいのか? 俺を出せばどうなるか?」

 

 狂気を宿すような瞳に、看守が少しだけ怯えて、すぐに自分が怯えたことに憤り、手に持ったものを振り上げた。

 

「止めろ」

 

 静止する声に、看守がハッとして振り返ると、そこには軍服の男が立っていた。

 

「大佐」

 

「いい、こいつの態度は今に始まったことじゃない。いいから出ろ、織斑一夏」

 

 名を呼ばれ、青年は不敵に笑った。

 

「おまえをどうして出したか、解るか?」

 

 案内されたのは何処かの執務室のような場所。あの場所、刑務所にはないから何処か別の場所か。

 

 一夏は周りを見回しながら、情報を集める。外に出してもらったのは久しぶりだ。手錠はそのままだが、ここには大佐と呼ばれた男以外はいない。

 

「脱走を考えているなら、好きにしろ」

 

 投げやりな言葉に一夏が鋭く大佐を見つめると、小さな白い腕輪が目の前に落ちてきた。

 

「おまえの機体だ」

 

「・・・・・・いいのか?」

 

「ああ、好きにしろ。おまえなら、あいつを殺せるだろうからな」

 

 不敵に笑う大佐が、誰のことを言っているか、一夏はよく解っている。

 

「高坂リクと篠ノ之束、あいつらを殺せるのはお前だけだからな」

 

「・・・・・・ああ、いいぜ、俺があいつらを殺してやる」

 

 不敵に笑う一夏に、大佐は満足そうに頷いた。

 

 こうして、凶鳥は野に放たれた。

 

「っていうことを俺に期待してるんですか、束姉さん?」

 

「なんでそうなるのぉぉぉぉぉぉぉ?!」

 

 ヒーローではなく、ダーク・ヒーローに憧れる一夏君の発言に、高校を卒業したばかりの束は絶叫したのでした。

 

 高坂リクは思う。今日も世界は平和だなぁ、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ISが世界に広まって数年。

 

 束は頑張った。頑張ってISのコアを作って、世界中に配った。しっかりと教育して、ロマンと可愛いだけじゃないって教え込んで、情熱を持ってもいいけど冷静にねとか、ロマンもいいけど理論的な思考も必要なんだよと必死に教え込んだ。

 

 教えて実演して、説得して、頑張って。

 

 一機一機を丁寧に作り上げたISコア達は、生みの親にして育ての親をきちんと見て、白騎士や白式の考えを真っ向から否定するように育ってほしいとの願いを込めて。

 

 中世のお姫様の衣装で必死に教え込んだ。

 

 その結果、『我らが母は可愛い』、そう思いながらIS達は世界中に旅立って行ったのでした。

 

「なんでぇぇぇ?! りっくん!! こうなったらやっぱり革命が必要だよ!世界中の常識を塗り替える、世界を変革させる武力介入が必要なんだよ!」

 

 がっしりと抱き付き、必死に揺さぶる束。もう後になんて退けない、今だって可愛いファッションとか、フリルとかゴスロリとか、世界中の服飾メーカーから『着てください』って送られてくるのだ。

 

 これがISコアのために、さらに増えたらどうなるか。

 

 考えただけで束は全身が震えて寒気がして、顔面蒼白になってしまう。

 

「隠し撮りなんてもう嫌だ」

 

「・・・・・」

 

「週刊誌、怖い」

 

「・・・・・」

 

「写真集なんて私が出していいものじゃないよ!!」

 

「・・・・・・」

 

「りっくぅぅぅぅん!! もうねもうね!! 私のライフはゼロなんだよ! 解ってよ、りっくん!」

 

「・・・・」

 

 抱きついてガシガシと揺らす束と、まったく反応しないリク。

 

 季節は夏、普段は長そでな束は珍しく半袖の上着に、胸元が開いた服装なのは、篠ノ之母が動いた証拠かもしれない。

 

 ただし、袖口にレースとか、細かい刺繍が施されていたり、スカートが前はミニスカート風なのに、後ろはフリルのロングスカートなのは、篠ノ之母の中で何か葛藤があった証拠かもしれない。

 

「りっくん! 答えてよりっくん! ここには!」

 

 がっしりとリクの首に抱きつく束。

 

私の涙と!

 

 ギュッと抱きしめる彼女の、とある部分がさらにリクに圧迫を与え。

 

私の羞恥心と!

 

 フワッと流れるいい匂いは、きっと束がリクの胸に顔を埋めたからだけじゃない、と思いたい。

 

私の限界があるんだからぁぁぁぁ!!

 

 ギュッと全身全霊をリクに預ける束だったが、訴える相手から一切の反応は戻ってこなかったのでした。

 

「・・・・・・ねえ、トオル、あれって狙ってやっていると思う?」

 

 リナ、半眼で目の前の何かを見つめてポツリと呟く。

 

「狙ってやっているなら、凄い男殺しだな」

 

 トオル、深々と溜息をついてどうするかと悩む。

 

「・・・・・・・」

 

 深雪、氷の微笑を浮かべながら右手を握り込み。

 

「姉様、今日も麗しい」

 

 箒、涙を流して柱の影から見護り。

 

「うわぁ」

 

 一夏、色々なものを見てしまい赤面。

 

 そして、我らが『ちゅうにびょう』まっしぐらだった千冬はというと。

 

「うるさい!! 今の私は教師に向かっているんだぞ! 目の前で不純異性交遊など認めないからな!」

 

「ちちちちちちちちちちーちゃん?! わたわたわた私はそんなこと!!」

 

 赤面して必死に否定する束だったが、その体はリクから離れることなんてなく、返ってもっとピタリと密着してしまい。

 

「お前は自分の色香を自覚せんか!!!」

 

「ふぎゃ?!」

 

 千冬の一撃で束は遠くに飛ばされたのでした。

 

「よし、リク、大丈夫か? リク?」

 

 彼は地面に倒れたまま、ピクリとも動かずにいた。

 

「リク?! しっかりしろ傷は浅いぞ! 死ぬんじゃないリク!」

 

 慌てて千冬は彼を抱き上げ、必死に名前を呼ぶが反応がない。

 

リク!! リクぅぅぅぅ!!!

 

 そして千冬は絶叫したのでした。

 

「・・・・・・第四真祖、英雄王、その上で馬鹿みたいな身体能力を持っていても」

 

「男なんだよなぁ、あいつ」

 

 リナとトオルは、何処か遠い場所を見ながら呟いたのでした。

 

 今日の高坂リクの教訓は、この一言に尽きた。

 

 おぱーいは凶器。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 中学生にして大きなものを持った束の成長は、とても順調だったご様子で。高校生になったら周りの見る目がとても険しいものになり、大学生になりかけている現在は、拝まれることもあるらしい。

 

 とはいえ、そこまで育ってはいないのだが、束は身長も伸びなかったのでロリ系に見えないこともないくらい、そんなギリギリの身長になっていた。

 

 篠ノ之母曰く、『あの子はロリでも妖艶でもイけるわ』とか。

 

 可愛い衣装は、英才教育の果て、どんなものでも着こなせる。最近はISの発表とかする時は、必ずフリルドレスとか、ゴスロリとか、可愛い衣装じゃないと学会が参加を認めない、なんてこともされることもあるらしい。

 

 この世界、政治家だけじゃなく学者も変態が多い。なんてことはなく、可愛い衣装を着た束でないと、ISコアが『拗ねる』ようになってしまった。

 

 明らかに白騎士と白式の系譜と解るほどに、使用者が可愛い衣装を着ないと動かない、そんな鋼の意思が宿っているようで。

 

 そんなISなので、男に反応しない。どんなに試しても、可愛い衣装を着させても、絶対に反応しないという鉄壁の志を身につけていた。

 

 屈強な軍人が、フリルのミニスカートに猫耳をつけて挑んだのだが、見事に粉砕して泣きながら帰る様子は、あの他人に怯える束が真っ先に土下座するくらいに、とてつもない悲哀だったとか。

 

 ならば、女性ではと女性の軍人さんに頑張ってもらった結果、何とか起動してくれるようになったのだが。

 

 『もっと可愛く』、なんて目の前に表示された結果、三十過ぎの軍人さんは心が折れて退役。田舎に戻って結婚しますと、上司に辞表を突きつけたらしい。

 

 こうなってきては、ISを扱うためにどうすればいいか、誰の目にも明らかでした。

 

 即ち、可愛いに負けない、どんな衣装を着ても心が折れない人たち、あるいはそういった世代にISを使う勉強をさせることで、将来的にISを自在に使える人材を育てる。

 

 丁度、同じ頃、各国のトップたちによるIS学園構想が発表になっており、世界中のマスコミ達は、誰もがトップたちの英断を褒め称えた。

 

『さすがです! 皆さまのような政治家がいれば世界は平和ですね!』

 

 そんな称賛の言葉を受けて、各国のトップたちは笑っていた。

 

 あの時の馬鹿騒ぎは絶対に墓まで持っていこう、内心で誰もが固く誓った。何に誓ったか、そんなのは決まっている。彼らの魂に。

 

 もっと言えば、可愛いの伝道師の篠ノ之束に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして同じ頃、世界中を騒がせる集団がすべての情報端末にその姿を見せた。

 

『世界中の可愛いを信奉するすべての者達へ』

 

 漆黒のマントを着た、漆黒の仮面の集団。

 

『我々は『亡国企業』。世界中の可愛いに反旗を、世界中のロマンに対して理性を持って叩き伏せる。気がつくがいい、貴様らが行っていることがいかに愚かかを』

 

 薄暗い闇の中、先頭に立つ男が手のひらを受けに向ける。

 

『貴様らのロマンが、世界を壊していることを知るがいい。我らは貴様らに可愛いは正義、ロマンがセオリーなどといった、馬鹿馬鹿しい理屈が、世界を狭めていることを教えてやろう』

 

 グッと男が拳を握り、突き出す。

 

『繰り返すぞ、我らは『亡国企業』。世界に変革をもたらすものだ。我らの存在を忘れるな、情熱を言い訳にして逃げる貴様らに、教えてやろう。我らの理性と理論こそが世界であると』

 

 バッとマントを翻し、彼らは闇の中へと消えて行った。

 

 それは誰の目にも明らかな、世界中の常識に対しての宣戦布告だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふはぁぁぁ! あれ、どうしたの皆?」

 

 仮面をとった束の周囲で、リク、千冬、リナ、トオルは悶絶しているのでした。

 

「フ、これで私も姉様のために」

 

 箒、まだまだ『ちゅうにびょう』期間のためにセーフ。

 

 深雪、そうそうに辞退して撮影件演出でお手伝い。

 

「俺、この人たちと戦うの?」

 

 一夏、あまりの重圧にちょっと泣きそうになっていましたとさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 









 暴走列車はブレーキが利かないから、暴走なのです。

 ISが女性にしか反応しない理由、それは可愛い衣装を可愛く着れるのが女性だから。

 基準点は束。

 女装、男の娘、そちらも反応するけど、なんか違うと拒否。

 そして、暴走した各国トップは、その暴走した結果の学園を褒められて、凄い悶絶したとかしなかったとか。

 いや、もっと悶絶する集団がいたから、大丈夫だよね。

 そんなお話でした。

 ではではこのあたりで。

 この作品が皆さまの日常の小さな楽しみの一つとなっていたなら、サルスベリにとっては幸いでございます。






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