ウサギの観察日記『完結』   作:サルスベリ

13 / 15



 月日が経つのが早いなぁと感じる今日この頃です。

 コロナのために大変な方々、苦しいとか辛いって思う人達の、ちょっとした楽しみになればぁと考えて頑張って仕上げました。

 そうなっていたらいいな、本当にプッと笑える作品であってほしいです。

 ではでは、どうぞ。








気がついたら終わっていたらしい十三ページ目

 

 

 

 

 

 光陰矢の如し。そんな言葉が生まれるくらい、月日が経つのは早い。しばらく見なかった赤子が立っていたり、久し振りにあった子供がしっかりした女性になっていたように。

 

 時間というのは人間の思う以上に早く進んでいく。

 

 高坂リクと篠ノ之束の大乱闘から、それなりの月日が流れたことを、織斑一夏は散りゆく桜を見ながら、懐かしく思い返していた。

 

「何を黄昏ているのですか?」

 

 背後からかけられた声に、一夏は振り返ることなく桜を見続けた。

 

「懐かしい想いがするんだ。もう随分と、感じたことない想いがあってさ」

 

 小さく答える彼の横、頭二つ分ほど低い場所から彼女も桜を見上げた。

 

「私には何も感じられませんが?」

 

 冷たい言葉に、一夏はフッと笑って顔を向けた。

 

 夜のような漆黒の髪と氷のような蒼い瞳。昔は子供っぽかった手足もすっかりと伸びきって、それなりの凹凸のある女性らしい体つきとなった幼馴染。

 

 高坂深雪は、冷たい表情のまま桜を見ていた。

 

「そう、かな」

 

「貴方の場合、専用機が『暮桜』だからなのでは?」

 

 そういうものだろうか。一夏は自然と、昔からの相棒である胸元のペンダントを握り締めた。

 

 腕輪になったり、ガントレットになったり、忙しい相棒なのだが、最終的にペンダントの形に落ちついてくれて助かった。

 

 装着して待機状態にするたびに、形が変わってしまうから、一時期は何処にいったなんて探すことにもなったが、ようやく落ち着いてくれて一安心だ。

 

「そろそろ、行きませんか? マドカがあちらで待っていますので」

 

「ああ、そうだな」

 

 軽やかに体を動かして歩き出した深雪の後を追って、一夏は足を進めた。

 

 一歩、二歩と進んだ足を彼はふと止めて、再び桜を振り返る。

 

「・・・・・束姉、俺は頑張るよ」

 

 散りゆく桜を見ながら、一夏はもういない『篠ノ之束』にそう告げて講堂へと進んでいく。

 

 織斑一夏、織斑マドカ、高坂深雪。

 

 十六歳の春、今日はIS学園の入学式だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 講堂に入ってきた生徒を彼女は見回した。誰もが浮かれた顔でいる、わけでもなさそうだ。浮かれた顔をした生徒、引きしまった顔をした生徒、表情の読めない生徒。

 

「フ、今年も馬鹿ものどもが揃ったな」

 

 軽く笑う彼女の背後に、何故か不動明王が浮かんでいるような錯覚を、新入生はもちろん、在校生達でさえ感じてしまうが、それも仕方がないことだ。

 

 歴代最強のIS使い。

 

 剣一本で天下を下した女傑。

 

 生身で量産型ISの一個師団を殲滅した鬼。

 

 色々と逸話が多くあり、もうこいつがいれば最終兵器はいらない、なんて陰で呼ばれるほどに強くなった教師は、ニヤリと笑いながら生徒達を品定めしていた。

 

「千冬、顔」

 

「おっと、いかんな。もう若くはないのだから、抑えねば」

 

 隣からの指摘にグッと顔を引き締めるのだが、その顔が怒っているような表情になるので、講堂の室温が一気に下がったように錯覚してしまう。

 

「今年も大変な年になりそうね」

 

 深くため息をつくのは、彼女の幼馴染の一人。

 

 絶対のフルバック。

 

 長距離攻撃の魔法使い。

 

 ISも避けて通る先生。

 

 そんな言われ方をする彼女は、半眼でさらに千冬とは反対の方へと顔を向けた。

 

「寝てんな」

 

「おまえらがサボったせいで、俺は徹夜なんだよ」

 

 文句に対して半眼で返した男に、リナはにっこり笑顔でよくやったと言わんばかりに肩を叩いた。

 

「チ!」

 

 軽く舌打ちした男は、もう無駄かと文句を飲み込んだ。

 

 鉄壁の城塞。

 

 一撃必殺のカウンター装置。

 

 完全防御の最後の良心。

 

 そんな呼ばれ方をする教師は、小さく欠伸を噛み殺した。

 

 織斑千冬、林原リナ、木原トオル、IS学園の生徒達はこの三人を纏めてこう呼ぶ。

 

 IS学園の魔神達、と。

 

「束がいたら、なんていうかしら?」

 

 不意にポツリとリナが言葉した言葉に、二人は表情を変えることなく、返事をするでもなく黙ったまま空を見上げた。

 

「本当、あの子は」

 

 リナも同じように空を見上げ、もうここにはいない幼馴染を思い懐かしんだ。

 

 そして生徒達は知らないことが一つ。三人は世間を騒がせている三大勢力の一つ、『亡国企業』の幹部なのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 世界は、あの日からまったく変わってしまった。

 

 篠ノ之束が残したISのコアは、どういうわけか五万と少し。なんだか必死な形相で組み上げたISのコアは、各国に分配され、軍事利用されるような気配もないまま、『可愛いは正義』を推し進めた各国の上層部の願いのままに、ファッションのような扱いをされ始めた。

 

 そこに待ったをかけたのは亡国企業。ISは純然たる技術であるが、可愛いを求めてはいるが、それは兵器にもなり得る。ファッション感覚で扱えば、必ず被害が出ると警告を出し、それに対して各国は危機感を募らせた。

 

 もちろん、可愛いを妨害する亡国企業に。

 

 『あいつら、マジでうっさい』なんて誰かが会議で言ったことがそのまま通ってしまい、亡国企業は目出度く、あるいは束の願いが曲解して叶ったように国際テロリストに認定されて、今日もその構成員達は世界各国での『理論こそ正道、精神論の過信はダメ絶対』を掲げてIS関連組織に対話をするために突っ込んで行った。

 

 『話し合いする、よろしいならばガンダム作ろうぜ』、なんて転生者の一人が悪乗りした結果、どちらの主張が正しいかを競技にて決定することになった。

 

 お互いにISを使っての一対一、あるいは同数対決による解決。武力介入という意味では、ある意味では正しいような姿に落ち着いた頃。

 

 第三勢力の介入が行われた。

 

 彼らはISとも、亡国企業ともまったく違うパワードスーツをひっさげて、二つの勢力に真っ向からぶつかってきた。

 

『君たちの理論も理屈も論外だ! 我々こそが可愛いであり、理性であり、理論である! 我らはきぐるみ防衛隊だ!』

 

 またもやハッキングされた世界すべての映像機器を通して流された画像には、犬のきぐるみをきた男が盛大に花火を上げている姿が映っていた。

 

『え、会長! 火が火が!!』

 

『なんと!? きぐるみが燃える! 燃えてしまう!』

 

『これが本当の萌えですね?!』

 

『『『馬鹿いってないで鎮火だ!!』』』

 

 そんなどったんばったんな映像で終わった宣戦布告でいいのか、誰もが悩んでしまう宣言の後から、きぐるみ防衛隊は様々なきぐるみ型パワードスーツで世界中のIS競技に乱入。

 

 中でも最近はとあるきぐるみの量産が成功したようで、それの性能はISの第三世代機に匹敵すると言われている。

 

『ふもっふ!』

 

 ただし会話が成立しないので、他の勢力から色々と文句を言われているらしいが。

 

 こうして世界は、国家間が争いがなくなったと同時に、三つの勢力による論争という名のお話し合い(殴り合い)が行われることとなった。

 

 そして、その話題の中心でもあり、ISの生みの親でもあり、亡国企業の創立者でもある篠ノ之束の名前は、何処の勢力からも確認できないでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『月日が経つの早いというけれど、いやいやこんなことになるなんてね』

 

 画面の中で長船会長は、ガメラのようなきぐるみの表情を動かし、汗のようなシールを張り付けた。

 

「おい、貴様、なんで今日の入学式に乱入しなかった?」

 

 千冬、青筋を立てて空中に浮かんだモニターを掴む。

 

『新入生にそんなことをしろだんなんて、君はそれでも教師かい?』

 

「若い頃の苦労は買ってでもしろというではないか?」

 

 ガシガシとモニターを叩く千冬を、慌ててリナが止める。

 

「ちょっと千冬、落ち着きなさいよ」

 

「リナもリナだ。亡国企業の実行部隊の突入はどうした?」

 

「ハ? てめぇ、俺の仕事をこれ以上、増やすンジャネェ」

 

 リナではなくトオルが反応して、彼は無意識に演算開始。プラズマをぶつけてやろうかと、周囲のベクトルを操作し始める。

 

『いやいや、なんでそっちも突入させようとしているのかな?』

 

「ああいう生徒は最初が肝心だ。試練を味あわせるのが一番だ」

 

 胸を張っていう千冬に、長船会長、リナ、トオルは項垂れるのでした。

 

「それにだ」

 

 三人を見回した後、千冬は先ほどから無言でいるモニターを睨みつける。

 

「貴様も貴様だ」

 

『ふぇ?! わ、私?!』

 

「いったい何処にいる? 今、どのあたりだ?」

 

 マジギレのような形相で睨みつけられ、彼女は慌てて左右を見回し、ついでにデータディスクのような水晶物体を放り投げ、慌てて動いたためにスカートが舞いあがって画面を塞いでいるのだが、気づいた様子もなく動き回り。

 

 バタンとか、ドカンとか、ついでに『痛いんだよ!』なんて男の声の文句が流れてきたのだが、誰もがスルーした。

 

「いいから答えろ!」

 

「落ち着いて! そんな形相で言っても答えられないでしょうが!」

 

「何年、幼馴染してンだよ、おまえは」

 

『あ~~落ち着いて話をしようじゃないか』

 

 千冬の怒声に、リナとトオル、長船会長が止めるのだが、彼女は止まる様子もなくそのモニターを殴った。

 

「いいから答えろ、篠ノ之束!」

 

 気合一閃。怒りのままに殴ったモニターは、室内の壁にぶつかって戻り。

 

 モニターは、怒った顔の彼女が映って。

 

『違うよちーちゃん!! 私は篠ノ之束じゃなくて!』

 

 彼女はモニターに左手を突き出し。

 

『私は高坂束だからね! 今の私はりっくんの奥さんなんだから! いくらちーちゃんでも間違えたら許さないから!!』

 

 えっへんと満足そうに言い切った束に、誰もが一瞬だけ呆けた後、誰もが沸々と怒りを湧きあがらせたのでした。

 

「結婚したから新婚旅行だと言いだして」

 

 千冬、手元にIS用の刀を呼び出す。

 

「せっかくだから遠くに行きたいなんて言って」

 

 リナ、右手の上に赤黒い光の球を浮かばせて。

 

「遠くついでだから火星の開発したいなンテふざけやがって」

 

 トオルの背中にプラズマが浮かび上がり。

 

『宇宙船まで作って宇宙に飛び出したのは』

 

 長船会長のきぐるもみの砲塔が動き狙いを定め。

 

『「「「何処の馬鹿うさぎだぁ?!」」」』

 

『ごめんなさいぃぃぃぃ!!!』

 

 全員の怒りを帯びた攻撃が室内を満たしたのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 高坂リクは思う。あの時に可愛いなんて言わなければ良かったと。

 

 彼は思い出す。気がついたら婚姻届の記入が終わっていたのは、母が何かしらの宝具を使ったのでは、と。

 

 リクはため息交じりに目の前の光景を見つめた。

 

 世界中探しても、二十歳を超えて一児の母になっても、ゴスロリアリスの衣裳にウサギ耳が似合うのは、束くらいだろうな、と。

 

「今日も世界は平和でした、と」

 

 リクは最近になってつけ始めた日記に、最後にそう記したのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 





 

 

 ぶっとんだ考えの末に、最終的に高坂家と篠ノ之家の利害が一致した結果、リクはあの戦闘の後に束と結婚したのでした。

 なのでこの世界には篠ノ之束は存在せず、彼女は高坂束になっているのです。

 それで、リクと星の海を旅していると。

 決して可愛いの伝道者とか、ISの生みの親だから可愛い衣装を着ているのが当たり前だから、という考えから逃げたわけではなく。

 星の海を目指そうと昔に宣言したから、それを護っているだけなのです。

 さて、このお話も後二話か、多くても三話で終わりになりそうな計算になっていますが、どうなる事やらです。

ではでは。

この作品が皆さまの日常の小さな楽しみの一つとなっていたなら、サルスベリにとっては幸いでございます。







  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。