ウサギの観察日記『完結』   作:サルスベリ

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 長い間、放置しているような形となってしまい、申し訳ありませんでした。

 お待たせいたしました。

 キレはありませんが、暴走はあるお話ですが、よければどうぞ。








君の願いを見る十四ページ目

 

 

 

 

 

 

 

 IS学園は、その瞬間に彼の名前を改めて刻みつけられた。

 

 世界で初めての男性IS搭乗者。

 

 織斑千冬の弟。

 

 新一年生の代表。

 

 千冬と束以外に負けたことはない、一度も攻撃を受けたことがない。そんな話は嘘だと思っていた。

 

「本物ですわね」

 

 イギリス代表候補、セシリア・オルコットは流れる汗を拭うこともせず。

 

「あんた、本当に化け物じゃない」

 

 中国代表候補、凰・鈴音は呆れるように呟き。

 

「あれは僕よりも」

 

 フランス代表候補、シャルロット・デュノアは彼の技量に焦りを見せ。

 

「さすが、一夏さんだ」

 

 ドイツ代表候補、ラウラ・ボーデヴィッヒは誇らしげに語り。

 

「お姉ちゃん」

 

 日本代表候補、更識・簪は悲しそうに顔を背け。

 

「ふがいないな、まだまだ未熟だぞ、一夏」

 

 篠ノ之・箒はまったくと愚痴をこぼし。

 

「無様ですね」

 

 高坂・深雪は氷の微笑を浮かべて。

 

「あ、あのね、一夏君、新入生歓迎会のイベントなんだから、たまには勝たせてくれてもいいじゃない」

 

 そして、在校生代表を押しのけて、リベンジ・マッチをしかけた更識・楯無生徒会長は、力なく地面に座り込んでいて。

 

「すみません、俺は負けられないので」

 

 対戦相手、織斑・一夏は、彼女相手に二十回目の勝利を刻んだのでした。

 

 不動、不屈、決して退かぬ武器庫。目の前の相手を粉砕するまで、あらゆる武器を持って敵を塵へと変える軍事基地。

 

 彼が操るのは古今東西の武器。四方八方、全包囲が彼の射程圏内。何処から何が来るかなど、誰も予想できない絶対不可侵の一人軍隊。

 

 かつて、高坂・リリィに憧れて、束からISを貰った一夏は、努力に努力を重ねた結果、擬似的な『王の財宝』を再現するだけではなく、武器を放出した後に軌道変更まで行うような、そんな凶悪な存在になってしまいました。

 

 『ファンネルか?! ユニコーンじゃないだろうが!』なんて、一部の転生者が大騒ぎしたとか、しなかったとか。

 

 まさに織斑家は化け物ぞろいか、IS学園の誰もがそう思っている一方で、織斑家の突撃二女様はというと。

 

「ごめんなさい、あねうえ、わざとじゃないんです」

 

「フ、これが若さ故の過ちか。私も大人になったな」

 

 号泣するマドカと、崩れ落ちる第二アリーナの中で、片手にIS用の刀を持った千冬が、ミラボレアスの頭部に乗って語っていたとか。

 

「・・・・・・・・トオル、あれの始末書って」

 

「オレか? オレなのかァア?」

 

「ごめん、私も頑張るから」

 

 その光景を見ながら、IS学園の教員の二人は、何処までも広がる空を見上げたのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ISを世界に配って、それで終わりなんて束は思っていたが、どうにも周りはそれで許してくれない様子があって。

 

「へぇ~」

 

 具体的には、『おまえ、それでいいって思ってんのか?』なんて、凄い眼力で見てくる夫とか。

 

 薄く笑っていてとても魅力的なのに、見ていると寒気しかない魔王と呼ばれている人とか。

 

 背後に黄金の波紋を浮かべて、拳を鳴らしている亡国企業の幹部とか。

 

 うん、全部がリクなので束は泣きそうになりながら、ISをどうにかして男も使えるように頑張って直そうと努力した。

 

 原因は解っている、自分が原因なのは理解している。可愛い衣装を着た自分がISの第一号機、白騎士を作った結果、ISは『可愛いは正義』と認識してしまい、それがISのコア・ネットワークを通じてすべてのISに広がってしまった結果、可愛いものじゃなければ自分達を操る資格がないとか、そんな暴論を持ってしまったためだ。

 

 ではどうすればいい。

 

 ISのコアを初期化して、もう一度。対応策は簡単に出てきた。初期化してすべてを最初から構築すればいいのだが。

 

 『僕を消すの?』

 

 女の子座りした白い鎧が、そんな言葉を放つものだから、束は固まってしまった。

 

 え、何時の間にそんな仕草を、誰が教え込んだのか、自分じゃない、そんな可愛い仕草をしたことなどない。そんなことができたなら、もっとリクに可愛がってもらっていたはずだ。もう抱きしめて、怒られて、貶されて、虐められて、全身全霊で可愛がってもらってご主人様って言って、首輪とか貰って所有物って張り紙をしてもらったに違いない。きっとそうだ、これはご褒美だ。とても嬉しくて全身が喜びに震えてしまう。どうしてこんなことが思いつかなかったのか、あの当時の自分に会ったら絶対に助言しよう。リクのペットになる、これは自分にとって至高の喜びだ。もう、魂が昇天してしまうほどの甘美なる響きに、タイムマシンとか作れそうな意欲が湧いてくる。

 

「おっと」

 

 危ない危ないと束は汗を拭う。危うく人妻にあるまじき醜態をさらすところだった。今の自分は人妻であり、一児の母。痴態なんかを見られたら、羞恥心で死んでしまうかもしれない。

 

「でも、りっくんになら」

 

 ちょっと想像して嬉しくなって、頬を染めてしまって、もっと甘えてもいいんじゃないかと考えが巡って。

 

「りっくぅぅぅぅぅ・・・・・・なんでもないです」

 

「よし」

 

 子供を抱きしめたまま、イスに座って『王の財宝』を最大展開したリクの笑顔で、慌てて顔を反らした。

 

 戻せ、戻れ、もう一度と見つめる白騎士は相変わらず可愛い仕草で、こっちを見ている。

 

 ウルウルと瞳があったら揺らいでいることだろう。

 

 これは無理だ。ならば、どうすればいい。どうしたら、男でも扱えるようになるのか。もっと言えば、可愛いじゃなくても動いてくれるようになるのか。

 

「ん~~~~」

 

 悩んで、必死に考えて、どうしたものかとデータを引き出して、過去のデータを見直して。

 

「ん~~~~~」

 

 両手を頭に当てて、ウサ耳をピコピコと動かしていた彼女の視界に、三つ目のデータが入ってきた。

 

「いっくんのISは普通に動いている? あれ、あれぇ~~?」

 

 同じISなのに、同じコア・ネットワークを持っているのに、一夏のISは順調に成長中。

 

 これはどうしたことだろう。何が違うのか、一夏のISと世間に配ったISの違いは何か。

 

「・・・・・・あ!」

 

 そして天才の束は気づいた。

 

 多くの人が使うのではなく、一人が使うことによる過程と結果。大勢が一人に相対するからこそ起こる弊害。

 

「そりゃ混乱するよね~」

 

 元々、白騎士は自分のために作ったものだ。たった一人、束のために作ったISが白騎士、そのコアをコピーしたものが、白式であり暮桜。

 

 なのに、世間に配ったISは大勢が使うようにしている。

 

 混乱して何か共通項を探して、どうにか見つけたそれに固執するのは当たり前ではないか。

 

「そっか、そっか、良し」

 

 答えが見つかった束は、嬉しそうにリクに報告して。

 

 彼女の泣きながらISコアを増産する地獄が始まったのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は変わって、IS学園の一年生の教室。

 

「はい、皆さんの前にあるのが、ISコアです」

 

 山田・真耶の説明が教室に流れる。

 

「ISが可愛いにしか反応しなかった理由の一つが、見知らぬ大勢に使われることによる恐怖と、何を目的に作動すればいいか解らない不安感にあるのは、皆さんは受験勉強で習ったと思いますけど」

 

 彼女はゆっくりと自分の左手にあるブレスレットに触れる。

 

「本来ならたった一人に対しての専用機として作られたコアのデータを、コピーしたコアを使用したとしても、大勢が使えるわけがない。というのが、開発者の高坂・束さんの見解です」

 

 新入生は受験の時に勉強していて知ってはいるが、本当に最初からISコアが与えられるとは思っていなかったようで、誰もが不思議そうに机の上に浮いている球体を見つめていた。

 

「そのため、一人一人に対してISコアを与えることで、誰もが扱えるISではなく、それぞれがISを育て上げることによる、専用ISの作成を持って、全人類がISを持つような世界を目指す、ことになりました」

 

 一つにISに対して大勢が交代することで混乱するなら、一人一人に与えたほうが混乱しないし、世界的にいいことではないか。

 

 高坂・束はそう考えて、世界中にISコアを配ることにした。

 

「彼女の結論は見事に成功したのは、皆さんなら知っていることですよね」

 

 微笑む真耶の後ろに、うっすらと鎧が浮かんでいた。あれが彼女のISかと、教室中が少しだけ騒がしくなる。

 

「これは、私達の願いの形であり、私達の心を映す鏡でもあります。皆さんが、これからIS学園の三年間で、どのようにISを育てて教えて、そしてどのような形になるかは、皆さんの気持ち次第です」

 

 悪鬼となるか、破壊神となるか、悪戯者になるか、それか凛々しい戦士となるか、あるいは先頭を走るリーダーになるか。

 

「どのような結果になるとしても、これから三年間、皆さんはISと共に育ち、学び、そして飛び立っていきましょう」

 

 真耶はゆっくりと手を外へと向ける。

 

「あの『無限の成層圏(願いの先へ)』の彼方へ」

 

 何処までも広がる青空の先、かつて少女だった天才が目指した、星の海の果てまでも。

 

 あるいはその先

 

 それぞれが目指す未来という場所(インフィニット・ストラトス)へ向かって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いやいや、ISの原因がまさか専用機だったからなんてねぇ』

 

 長船は笑いながら、遠い目をしていた。実際に目が飛び出すギミックに、誰もが『え、そこまでするの』なんて思っていたが。

 

「もともと、白騎士は束のためのISだったからな。当然の答えだろう」

 

「千冬、あんたそれ、胸を張って言えるの?」

 

「おまえも、気づかなかっただろうが」

 

 リナとトオルの突っ込みに、千冬は小さく笑って。

 

「私は剣士だからな」

 

「責任転嫁してんじゃないわよ。始末書、あんたも書きなさい」

 

「またオレにマカセたら、どうなるか、解ってンダロウナ?」

 

「フ、トオルのプラズマと私の白式、どちらが強いか決めようというのか?」

 

 不敵に笑う千冬に、もういいかとトオルは拳を握った。

 

「待ったぁぁ! あんたら二人がここで戦ったら、また始末書が、始末書が増えるでしょうが!!!」

 

「トメンナ、こいつは一度、地獄を見たホウガイイ」

 

「ほう、私の零落白夜がISにのみ通じると思っているのか?」

 

「面白れェ」

 

 バチバチと火花が散る二人の間、リナは頭を抱えたのでした。

 

『まあまあ、落ち着きたまえ、二人とも。それは次の時の勝負までお預けじゃないかな?』

 

「ほう、きぐるみ防衛隊は次を勝つつもりなのか?」

 

「次は亡国企業の勝利でキマリだろうが」

 

「一夏がIS学園に入って来たから、次は出てくるわよ」

 

『彼が相手ならば、不足なし』

 

「では、亡国企業は私が出よう。久しぶりに楽しめそうだ」

 

 フフフフと笑う千冬に、トオルは呆れたように全身の力を抜いた。

 

「あいつ、まだ現役のつもりかよ」

 

「つもりなんでしょうねぇ。次は箒を出そうって考えていたんだけど」

 

 リナとしては、箒の実力をさらに伸ばすために、実戦経験をもっと積ませたいのだが、あいにくと亡国企業には戦場と見れば突撃する脳筋幹部がいるので、ほとんどの人員が戦闘経験を積むことができないでいた。

 

『あ! じゃあ、次はりっくんが出るよ』

 

 まさかの伏兵に誰もが緊張した面持ちで、無言でいる男を見つめた。

 

 暴虐の魔王とか、殲滅の破壊神とか、そんな呼ばれ方をする男は、自分の子を膝の上に抱いたまま、固まっていた。

 

『え? 待て束、なんで俺なんだよ?』

 

『たまには旦那様のカッコイイ姿を見てみたいからぁ』

 

 笑顔で胸の前で手を組んで、見上げるような束。

 

「ク、相変わらず同性でも見惚れるくらい可愛いわね」

 

 知らず知らずのうちに汗を拭うリナ。

 

「あれで人妻かぁ」

 

 溜息交じりに遠くを見つめるトオル。

 

『グヌヌヌ、我がきぐるみも負けてはいない』

 

 悔しそうにハンカチを噛みしめる長船。

 

 そして、言われた当人はというと。

 

『え、嫌だけど』

 

『・・・・・・りっくんの馬鹿ぁぁぁぁぁぁぁ!!!』

 

 まるで反応もせずに一蹴してしまい、高坂・束の絶叫が響き渡るのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、時間は進んでいく。

 

 かつて、地上を支配していた恐竜が消えて。

 

 かつて、怯えて隠れるだけだった哺乳類が地上を歩きだして。

 

 かつて、地上を歩くだけだった人々が火を手に入れて。

 

 かつて、空に憧れた人たちが飛行機を手にしたように。

 

 かつて、すべてがどうでもよかった少女は、自分に徹底的に向かい合ってくれる人に巡り合えて。

 

 色々な重圧から逃げようと、咄嗟の嘘で目指すといった場所を、目指せるだけの技術を手に入れて。

 

 かつて、世界が色あせていた彼女は、色とりどりな世界を見つめて、多くの仲間と色々な笑える理不尽の日々の中で、ようやく自分の幸せを手に入れました。

 

 これはそんな篠ノ之・束が、高坂・束となって。

 

「りっくん」

 

「なんだよ、束」

 

「えへへへへ」

 

 無限の成層圏みたいな、輝きに満ちた未来へ進んでいくお話です。

 

 

 

 

 

 

 

 












 ここまでお付き合いいただき、ありがとうございます。

 最後にもう一話、エピローグ的な話を挟みまして、これにて『うさぎの
観察日記』は終幕とさせていただきます。

 何処がうさぎの観察日記だったのか、それはエピローグで何とか納得していただけるかなぁと考えています。

 ではでは。

 この作品が皆さまの日常の小さな楽しみの一つとなっていたなら、サルスベリにとっては幸いでございます。










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