長らくお待たせいたしました。
これにて、完結とさせていただきます。
何時も、君を見ていた。
生まれた時からずっと、育っている間もずっと。悩んで悲しんで、怒って、怯えて、喜んで、楽しんで。
そういう君を見ていた。
生み出された理由が、芸能界のスカウトから逃れるためなんて、そんな理由だったことは驚いたけど、当時の君を見ていると納得してしまう。
誰にだって高圧的で相手を見下して、周り中がゴミ屑なんて言っていた、そんな話を聞いた時は、別人じゃないかと思ったものさ。
だってそうだろう。最初に君に会ったとき、君は家族の声にさえ怯えて悲鳴を上げていたんだから。
母親に怯えて、震えて泣いている君に対して、何もできないことが悔しかったさ。当時の自分はそんなこと考えられなかったけどね、今なら悔しいって気持ちが解るから言える。
可愛い服が多くなったのは、旦那様の影響かな。いや、あの旦那様を振り向かせるために可愛い服装をしたんだろうね。鈍感というか、理不尽というか、あの旦那様はとても君のことを大切にしているようには思えなかったけど、君が世界中から恨まれないように、きちんと教育したことは知っているよ。
うん、でもあれだね。そう、やり過ぎって言葉は大切だと思うよ。うん、あんな暴力的な行為は、君だからこそ耐えられたんじゃないかな。普通の人間だったら、きっと最初の一撃で死んでいたよ。
本当に、我がマスターはよく生きていたね。話を聞いたけど、映像もあったみたいだけど、あれを受けてよく生きていたよね。小学生だったんでしょう、当時の君は。
それから、色々なことがあったね。
え、世界中に配信したことをまだ恨んでいるの。あれはだって、戦争を止めるためには絶対的正義を示さないといけないって。
短絡的だったのは謝るよ。本当に当時の自分は、それが最善だって思ったんだよ。悪かったって。心からの謝罪さ、本心だから信じてほしい。
機械らしくない?
ひどいな、君が自分をこうしたのに。機械らしくないって、そんなことを言われても困るよ。
あれから君は理性を取り戻すために亡国企業を作ったんだよね。僕への対抗心だったのかな、きっとそうだね。
自分をきちんと矯正できなかったことを、悔やんでいるのかい。それは仕方ない、僕らは生みの親みたいに頑固だからね。一度でも手に入れたものは、絶対に手放さない。
怒らないでくれよ、これも僕らさ。
そうだね、楽しいことも苦しいこともあったけど、今ではすべてが懐かしいよ。本当に楽しい日々だった。
だから、さ。
『おやすみなさい、我がマスター。タバネ』
「うん、ありがとうね、白騎士」
ゆっくりと僕は手を伸ばして、彼女の手に触れる。昔みたいじゃなくても、確かにあの頃の温もりがある彼女の手に。
「向こうで、りっくんと待っているね」
『ああ、いつか僕も君たちの元へ逝こう。星達に負けない輝きの彼方で、待っていてくれ』
「うん、待っているよ」
最後にそう答えて、マスターは静かに息を引き取った。
楽しい日々だったよ、嘘じゃないさ。だからこそ、次に会う時を楽しみにしているよ。きっとまた会えるさ。
『何をしている、白騎士?』
『白式か、いや昔のことを記録しておこうと思ってね。しかし困ったな、これじゃ記録というよりは』
『・・・・・・観察日記じゃないか?』
『いいね、それで行こう。題名はそうだな。タバネの名前じゃ味気ないから』
そうだね、君の特徴を捕えて。
『うん、これでいいね。君らしい、君のことを書いたものだよ』
僕は笑って、その記録を収めた書籍の題名を撫でた。
長らくお付き合いいただき、ありがとうございます。ラスト二話を残して、いきなり無気力になったり、仕事が忙しくなったりとかなり間が空いてしまったこと、深くお詫びいたします。
このお話の出だしは、『怯える束、可愛い』から始まりました。題名をどうしようか考えていたところ、束を観察する日記で行こうと決めて。
最初は束が纏めたISに関しての記録が、『これって記録っていうより日記じゃないか』って突っ込まれて、『じゃウサギの観察日記だ!』と逆切れする束で終わる、なんて考えていたんですが。
人間と共に育ったIS、でも決して主役になれない。でも、アニメとか漫画見ているとまるで人間見たいだから。
最後には束を見送った白騎士が、彼女との思い出をまとめて、『日記』にしたって結末のほうがいいんじゃないかなぁ、なんてことでこういった最終話となりました。
色々と矛盾とか、説明不足なところがあったりしますが、どうかそのあたりはご容赦を。
ではでは、このあたりで。
この作品が皆さまの日常の小さな楽しみの一つとなっていたなら、サルスベリにとっては幸いでございます。