評価バーが赤くなったのに驚いて、すぐにオレンジになったのでさらに驚いて。
前々から思っていたのですが、ここには仏のように広い心の人しかいないのか。
そんなわけで、調子にのったサルスベリがやらかしました。
君は篠ノ之束って女の子を知っているだろうか。
「ああ、あの子、可愛いんだけどね」
諸君は篠ノ之束をどう思うか。
「滅多に見たことないけど」
皆さん、篠ノ之束を知っているか。
「見たことないけど、見た人は皆が可愛いって言うよね」
つまり、篠ノ之束という少女は。
「ツチノコレベルで見つからない同級生だとぉ?!」
織斑千冬絶叫。
まさかまさかと考えていたが、本当にまさかの結果だった。毎日、きちんと学校には来ている、先生の話にも答える。
「いや待て」
答えていることがあっただろうか。千冬は首を傾げて、頭脳をフル回転させて思い出す。
先生に名を呼ばれて無視すれば、絶対にリクが黙っていない。鉄拳制裁が挨拶レベルで行われる高坂家の長男だ、年上から呼ばれて返事をしなければ教室から放り出すくらいはする。
最近、階下のクラスから人が落ちてきて迷惑って話は聞かないから、束が先生に呼ばれて返事をしなかったことはないはずなのに。
どう思い出しても、千冬は束が先生に呼ばれて返事をしている姿を見たことがない。
「これはどういうことだ?」
「どうしたんだ、千冬?」
悩んでいるところに、原因の片割れが来た。すぐに千冬は、リクの襟首を掴んで。
「リク、私は疑問があるんだが」
「俺はなんで襟首を絞められているか疑問なんだけど?」
「瑣末なことだ。フ、いい響きだな、瑣末なことだ」
何故か感動して笑っている千冬を見て、リクは思う。今度はどんなドラマに影響されたのか。
「それで、何の話なんだよ?」
「ああ、そうだった、すまないな。実は束の奴のことなんだが、先生に呼ばれて返事をしていることあるのか?」
「はぁ? あるだろうに、返事しないなんてことないだろ」
当たり前のことを、今になってどうして質問してきたのか、リクには千冬が何を考えているか解らなかった。
「そうか、そうなのか。しかし、私は知らないのだが、どうしてだろう?」
「そりゃ、千冬はその時は大抵が」
「大抵が?」
「『私はやってやった』って顔しているからだろ?」
「なるほど」
織斑千冬は理解した。自分が問題を見事に答え、教師に近づいていることを実感している間に、束は答えているということか。
「ならば安心だ」
疑問が解決し清々しい顔の千冬と、何だったんだろうと思うリク。その彼の背中にピッタリとひっついていながら、必死に気配を消している束。
今日も六年生の噂の三人組は、何時も通りだった。
「この問題を高坂君に振って、この問題を織斑さんに振って、その後に篠ノ之さんに声をかけて。頑張るのよ、私」
同じ頃、職員室にて先生が綿密な授業シミュレーションをしていた。
決して束を怖がらせないように、脅えさせないように、彼女に心の準備をさせるために、何時も通りの順番で声をかけられるように。
「がんばるのよ私」
自分の言い聞かせる先生の机の上には、いつの間にか撮ったのか、ウサギ耳のフリフリドレスの少女の写真が飾ってあったとか。
突然だが、篠ノ之束は引きこもりである。
リクの教育のために人見知りとなった彼女は、家族の前にも滅多に姿を見せないレベルでの引きこもりとなった。
「束!! 次はこの服を着なさい!」
「ふぇぇぇぇぇ?!」
原因の半分くらいは、彼女の母親の暴走の結果でなのかもしれないが、とにかく彼女は徹底的に他者を遠ざけるように引きこもりになって行った。
原作と同じように人と関わらない束だが、原作とはまったく違うのは絶対に外に出ないこと。常に自分の部屋の中、あるいはこっそりと作った地下の研究施設に引きこもり。ほとんど、学校に行く間以外では太陽の光を浴びない、不健康な生活を続ける束。
そんな生活を続けていけばどうなるか。太陽を浴びない肌は、次第に色を失っていくように白くなり、髪の色も次第に抜けていき。
ウィッグと同じような藤色の髪と、白い肌の美少女にレベルアップしていましたとさ。
運動もしないから運動神経が発達しない。外出せずにお小遣いをためて買った機械を組み立てて、楽しそうに色々と設計して。
「束、ごはんよ」
「ふみゃ?! い、いいいま、今いくから」
家族の呼びかけでも、それがいきなりなら最初に悲鳴を上げる、そんな白い肌の美少女の束。
「姉様」
「ふぇ?! あ、あ、あの箒ちゃん」
廊下を歩いていた束に声をかけた篠ノ之箒は、まっすぐに見つめてくる。目を反らすことなく、まっすぐに力強い目線を向けた彼女は、大きく頷いた。
「今日も可愛らしい姉様のお姿に、この箒、今日も頑張ろうと思います」
「あ、ありがとう」
「ではエスコートしますので、こちらに」
一礼して姉の前を進む妹、篠ノ之箒四歳。
背中に竹刀を刺して、周囲の警戒を怠らない、立派な侍幼女出会った。
彼女がこうなった原因は、すべて束だった。怯えて、震えて、ビクビクしている姉の姿に、幼いながらも妹は情けないなんて思うことはなく。自分と姉は違う、自分よりも可愛い姉が怯えているならば、自分が強くなって姉を護らないと。
決意と情熱が、変なところに向かって走り出した箒は、四歳にして自らの道を定めていた。
すなわち、ボディガードになろうと。
彼女は思う、リクや千冬のように強くなろうと。もっと言えば、片手一本でタンクローリーを叩き潰す高坂古城のように、指先一つで銀行強盗を叩き伏せた高坂リリィのように。
人間は鍛えれば鍛えるほど、強くなれるのだと。ならば自分が目指すは地上最強、一騎当千、絶対無比。姉がこのまま可愛い姉でいられるように、強くならなければ。
「姉様、私は絶対に戦国無双になって見せます」
「は、はいぃぃぃ?! ほ、箒ちゃんならなれると思うよ」
思わず呼びかけられて、悲鳴交じりに適当に答えた束。
「はい! 一意専心! 岩をも砕く勢いです!」
そんな姉の真っ直ぐなエール、と思い込んでいるものによって、箒は決意を固め直したのでした。
その後、篠ノ之箒は高坂家の伝手を頼って、飛天の剣とか、陸奥の技とか、色々な技術を吸収していき、中学生になる頃には『無双無敗』とか呼ばれるようになるとか、ならないとか。
それはいつもと変わらない登校中のこと。
「束、今日はどうしたんだ? フリフリドレスのウサギ耳は何処にいった?」
千冬は隣を歩く、普通の格好をした束に疑問を投げた。
「母さんが、洗濯に持って行ったから」
ちょっとすっきりした束は、にっこりと微笑む。
「だから今日は半そでなんだ」
リクは珍しいもの見るように目を細めた。
「う、うん」
束は見られて少し恥ずかしくなって顔を赤らめて俯いた。
「半そでだとおまえの白さが目立つな。また白くなってないか?」
「そ、そうかな? 私は普通だと思うけど」
「いや白くなっている。たまには外に出て運動したらどうだ?」
千冬の忠告に、束は慌てて首を振った。
「私の運動神経はお空に飛んで行ったの」
どんな状況だろう、それは。リクと千冬はそう思ったのだが、最近の束のことを思い出すと嘘ともいえない。
何しろ、ドジっ子のように転ぶことが多くなってきたのだから。
「だから私は」
顔をあげて笑顔を浮かべて、ちょっと頬を染めた束に。
「あれが噂の束か?!」
「すげぇ! 本当に可愛い!」
「今日はレアだぞ!」
「・・・・・・ふぇぇぇぇぇぇ!!! りっくぅぅぅぅぅん!!」
「ああ、空が青いなぁ」
「リクは冷静だなぁ」
「ふぇぇぇぇぇぇ!!!」
何故か大勢に写真を撮られ、大勢に囲まれて。そして束は何時も通りに泣きだして、リクと千冬は青い空を見上げたのでした。
数日後のこと。
「お願いします!! どうか、篠ノ之束さんをわが社でプロデュースさせてください!!」
「はぁ?」
篠ノ之家に、妙な大男の来客があったとか、なかったとか。
おかしい、最初の予定だと十三歳の中学入学か、小学生卒業式の一悶着を書く予定だったのに。
出来上がったら、こんな感じになりました。
鍛えなければ、どんな才能があっても、無意味だよねってお話になりました。束が持っているはずの細胞レベルでのハイスペックは、そっくりそのまま箒が受け継いだってことで。
以上になります、読んでいただきありがとうございました。