ウサギの観察日記『完結』   作:サルスベリ

6 / 15

 



 自重を忘れるなと自分に言い聞かせ。

 でも暴走するのがサルスベリ、と結論が出ました。

 さて今回は、眷獣を出すより前に、中学生になったら大抵の人がかかる病の話です。

 





黒歴史を綴る六ページ目

 

 

 

 

 

 

 

 黒歴史って単語がある。

 

 誰もが思い出したくない、精神的苦痛を与える記憶のことを、黒歴史というらしい。

 

 間違っても、どっかのターン兄弟が出てくることはない。そうであって欲しいと願ってしまうのだが。

 

「・・・・・・・・りっくん! こ、こここここれ!!!」

 

「は?」

 

 季節は秋になった今日この頃、よく晴れた日のある朝のこと。

 

 なんでか、束が全身をラッピングされて玄関に置かれていました。

 

 これといわれても、全身をラッピンされているから、手が出ているわけでもなくて。

 

「お誕生日、おめでとう」

 

「え、俺は3月だけど?」

 

「・・・・・・・・バレンタインデー!」

 

「え、今は十月なんだけど」

 

「・・・・・・・・・・私の誕生日!」

 

「うわぁ~~苦しい言い訳だなぁ。で、何があったんだ?」

 

 もう涙目でよく解らないことを言い出した束に、リクは色々と諦めたくなってため息をつきながら問いかけて。

 

「そろそろ貰ってくれてもいいの」

 

 笑顔全開、疑うなんてことをしない瞳で真っ直ぐに言われて、リクは盛大に空を仰いだのでした。

 

 今日もうちのバカウサギは、バカウサギのままでした、とさ。

 

 後に、この時のことを思い出した束は、泣きながら悶絶するなんて、よく解らない行動に出ることになるとか、ならないとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ある中学校において、その五人は頂点とされていた。

 

 膨大な魔力と無限に近い魔法を使う、自称天才美少女魔導師、林原リナ。

 

 あらゆるベクトルを操作し、一切の攻撃が無効化される、鉄壁の木原トオル。

 

 空間さえも斬れる、絶対切断を地でいくような侍、織斑千冬。

 

 可愛いのに怯えた姿がたまらない、保護欲をそそられる天才ウサギ、篠ノ之束。

 

 そして、伝説の武器と暴力の塊の獣を従える残虐の魔王、高坂リク。

 

 多くの人はこの五人をこう呼ぶ。

 

 最強の五人衆、と。

 

「フ、私も有名になったものだな」

 

 腕を組み鼻を高くする千冬と、喜び半分となんでその名前と困惑するリク、その背中に隠れながら喜んでいいのか、悲しむべきなのか解らない束。

 

「うぉぉぉぉぉ」

 

 頭を抱えて机に突っ伏すリナ。

 

「・・・・・・」

 

 無言で必死に耐えるトオル。

 

 現在、中学生の五人は、絶賛。

 

 『ちゅうにびょう』っていう世間の病の渦の真っ只中にいました。

 

「どうした、トオル、リナ? 嬉しいだろう?」

 

「っっっざけんじゃないわよ! なによその天才美少女魔導師って?! 絶対に転生者の誰かが悪ふざけしたんじゃないの!? しかも『師』じゃないでしょうが! 『士』でしょうが! 魔導士よ魔導士!!」

 

 復活したリナの反論に、千冬は首をかしげた。え、突っ込むところはそこですか、なんて疑問はさらりと空の彼方へ旅立ちました。

 

「鉄壁、鉄壁かぁ、鉄壁、チィ」

 

 トオル、何とか自分のアイデンティティを確立させようと、何度も呟くものの、最後には舌打ちで無理だと悟る。

 

「いいではないか。人に噂されるほど、異名がつけられるほどに強い証明だ」

 

「千冬! お願いだから、冷静になって。そんな名前、後になってから苦しむだけだから」

 

 涙目で懇願するリナだったが、千冬としてはどうしてそんな話になるか分からずに首を傾げた。

 

「・・・・そうか!」

 

 ポンっと手を打った千冬に、リナはようやく理解してくれたかと安堵して。

 

「異名が違うのか、ならば金色の魔王と」

 

「そっちじゃない! なんで元ネタを知らないあんたが、それを出してくるのよ?!」

 

「な、なんだ? いや前にリナが言ったではないか、金色の魔王と書いてロード・オブ・ナイ・・・・・」

 

「ストップぅ!!! 私が悪かったから! お願いだからそれを出さないで!」

 

 思わず千冬に掴みかかったリナは、そのまま教室の床に転がったのでした。

 

「フ、リナよ、私の隙をつこうなど笑止千万! 常在戦場の侍をなめるな!」

 

 友人を投げ飛ばした千冬は、腕を組んで高らかに笑うのでした。

 

「リク、てめェはどうなンだよ?」

 

 ダメだと諦めたトオルが、まともだと信じている友人に話を振ったところ、彼は首を傾げていた。

 

「なあ、トオル、俺って魔王なのか?」

 

「あ?」

 

「いや俺ってそんなに暴力的なのかなぁってさ。魔法だってリナに負けてるし」

 

 うんうんと考え込むリクに、トオルは深くため息をついた。

 

 ダメだ、こいつはまともじゃなかった。さすが、第四真祖と英雄王の力を受け継いだ化け物だ、注目する点がまったく違う。

 

「そうよ! リクが魔王でいいじゃない! 私はて、天才、び、び、び」

 

 思いついたように提案しながらも、肝心なところで言い切れないリナ出会った。

 

「なんだか、リナが壊れるんだけど、何があったんだ?」

 

「そっとしておいてやれ。誰だってあるだろうが、誰だってな」

 

 心配するリクを、トオルは諦めたような顔で止めたのでした。

 

 そして一方で。

 

「ウサギ、ウサギ、天才、ウサギ・・・・・そっか」

 

 リクの背中で、束がそう呟いて拳を握ったのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 決意を固めた、自分はこのままじゃ駄目だ。もっと頑張らないと、もっと力をつけないと。

 

 でもどうすればいいか解らない、きっとリクに認めてもらうには力が足りないのだから、どうにかしなければ。

 

 悩んでいた時にいい話を聞いた。

 

 天才、ウサギ、この二つの単語が生み出すものを束は知っている。というか最近になってみたことがある。男の子なら誰でも知っている話だ、実物は見ことがないが、最近になってネット動画で流れている。

 

 颯爽と駆け付けるヒーロー、自分の心の傷に立ち向かい、傷だらけになっても笑顔で助けにかけつける人たち。

 

 この世界にはない、でも誰かが言っていた。きっと彼も転生者だったのだろう、転生者がいるって話は聞いていたが、まさかネット動画の中でもその転生者が頑張っているとは思わなかった。

 

「使ってもいいですか~~」

 

『え? 再現できるなら見てみたいけど』

 

「ありがとう~」

 

 ネット越しならやり取りできるのに、どうして対面だとだめなのかは束本人も解っていないが、流している人から許可を貰ったから頑張らないと。

 

「がんばるぞ~~~」

 

 束は必死に頑張った。ナノマテリアルを使った白騎士強化計画が、煮詰まっていたから丁度いい息抜き。

 

 なんてことはない。全力だ、必死だ、決死の覚悟だ。彼らの姿を見たから解る、彼らの生き方はとても半端な覚悟で形にしていいものじゃない。

 

「お願い、私に力をください」

 

 祈るように願うように告げて、彼女はそれを形にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それはよく晴れた秋の日でした。

 

「え、え、え、あれ」

 

 リナ、あまりのことに言葉が上手く出てこなくて。

 

「・・・・・・」

 

 トオル絶句して、けれどキラキラした眼で見つめていた。

 

「フ、先を越されたな」

 

 千冬、友人の立派な姿に涙を拭う。当然、彼女はそれをネット動画で見ていたので。

 

「え、マジ?」

 

 リク、もうどう言っていいか分からない状況に陥る。

 

 そして、何時も通りのクラスの中で、何時も通りのクラスメートたちの前で。

 

「た、たたたたたたたた、違う! み、皆!」

 

 必死に勇気を振り絞った束が、黒板の前に立っていた。

 

「わ、わわわ私の!」

 

 彼女は左手でとある機械を持ち上げ、それを腰に当てる。

 

「私の変身を!」

 

 機械からベルトが伸びて、彼女の腰に巻きつく。

 

「私の変身を見て!」

 

 彼女は両手に細長い棒を取り出し、棒の先のスイッチらしいものを回し、思いっきり振った。

 

『ピョン、ピョン』

 

 可愛い子どもの音声が流れ、誰かが『あれ、箒の声だ』なんて言ったが、誰もが聞いてない。

 

 クラスの皆は束に視線が釘付けだ。もっと言えば、その腰の機械に。

 

「実験を始めようか」

 

 みんなの視線が向いて怖い束だったが、必死に振り絞るように声を出して、棒を半分に割って。

 

『らびぃっと、姉様?』

 

『ららららびぃぃぃっと!!』

 

 微笑ましいような、篠ノ之姉妹の声が教室中に流れて、棒は束の腰の機械に刺さった。

 

『ラビット&』

 

『らびぃっと!』

 

 篠ノ之母の嬉しそうな声と、篠ノ之妹の不満そうな声と同時に、束は機械に備わったレバーを回す。

 

 やがて、ある程度のところで音声が。

 

『Are you Ready?』

 

 男の声で鋭く濃厚な声が響いた。まさかの篠ノ之父出演だった。

 

「変身!」

 

 そして彼女は真っ赤な戦士になりましたとさ。

 

『てっっっさい美少女!!』

 

『止めて止めて!!』

 

『愛らしいウサギ耳の!!』

 

『やややややめてぇぇぇぇ!!』

 

 篠ノ之妹、篠ノ之母のノリノリの音声と、涙声の束の必死に止める声が響いた後に、ポーズを決めた束は、赤い戦士の姿のまま蹲ったのでした。

 

「・・・・・・・ふぇぇぇぇぇ!! りっくぅぅぅぅぅぅん!!」

 

「ブ?!」

 

 お約束の通り、ウサギの仮面の戦士は、強化された身体能力全開でリクに飛び付き、二人はそのまま窓はもちろん、壁も突き破って地面に落ちて行ったのでした。

 

「どンなになっても、中身ガ大切ってことダナ」

 

 トオル、穴の空いた教室の壁を見ながら、頷いていた。

 

「・・・・ハザードトリガーはどうしたのよ、束ぇぇ!!!」

 

 ハッとして叫ぶリナ。

 

「むぅ、私もそろそろ鎧を仕立てるべきだろうか?」

 

 千冬はそんなことを真剣に考え、いつかの束が来ていた白騎士がかっこいいように思えてきたのでした。

 

 そんな中、クラスメートたちは思う。

 

 あのウサギ、性格はあれだけど、マジで天才だったんだ、と。ほっこり笑顔で誰もが頷いていました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、何を見てるんだ?」

 

「仮面●イダーが中学校で授業を受けているみたいだ」

 

「・・・・・・そっか、そうだな、日本だからな」

 

「ああ、日本だからな」

 

「・・・・・ってわけあるか?! なんで日本に実在してるんだよ?!」

 

「俺が知るかよ! いいから報告書でも挙げて来いよ!」

 

「あああ! 次の演習、自衛隊となんだぞ! 出てきたら俺はサインをもらいに行くからな!」

 

「俺の分も頼むぞ!」

 

 その日、某国の軍隊において、ヒーローにサインをもらうために演習に参加希望する軍人が、溢れたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





 


 ウサギ繋がりで、束が変身する。

 『ちゅうにびょう』の時って、変身ってよく妄想するものらしい。でも実際に現実化するのが天才ですので。

 さてさて、これで白騎士の他にも色々とラインナップが出来るって、前振りができました。

 そろそろ『白騎士事件』に突入した方がいいのかなぁっと考える今日この頃です。

 それでは、皆さまの日常の小さな楽しみの一つになっていればと、切実に願うサルスベリでした。

 失礼いたします。






  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。