皆さま、お待たせいたしました、歴史の分岐点です。
原作では、この事件を切欠にして世界が逆転したわけですが、この作品でも逆転させようと考えています。
キーワードは、タバネちゃんの普段の服装。研究室にこもっている時間が多い、白騎士はそこに放置されています。
つまり?
後の歴史家曰く、『まさに悪魔の所業』だという。多くの人を魅了し、多くの人の自信を失わせ、多くの人を熱狂させた機体。
『白騎士』は、七色の翼を広げながら、緑色の光を纏い、天空に座した。
「束、どういうことだ?」
リクは問いかける。空にあり、地上を見下ろしている天使のような機体に。
「答えろ、束。こんなことをしでかして、多くの人に迷惑をかけて」
彼女は答えない。ただ白騎士は天にあり、すべてを見下ろすように輝きを放っていた。
「束・・・・・答えないって言うなら」
グッとリクが拳を握ると、彼の背後に無数の金色の波紋が浮かんで行った。続いて十二の眷獣が揃って吠える。
「答えないならな」
怒りを浮かべ睨みつけるようなリクに、白騎士が動いた。
ゆっくりと首を動かし、両手を広げて。
そして。
『りっくん』
小さく束の声が聞こえて。
『ふぇぇぇぇぇぇぇ!! りっくぅぅぅぅぅん!!』
「ぶ?!」
勢いのままダイビングタックル。
重力制御装置プラスヴォワチュール・リュミエールプラスミノフスキードライブ、そんなトンでも推進機を総動員した加速は、光速を超えて白騎士を加速させ、問答無用でリクを倒したのでした。
『言うこと聞いてくれないの! 全然! 言うこと聞いてくれないのぉぉぉ!!』
ナノマテリアルに仮面ライダー系の制御装置をぶちこんだ、まっするぱわー全力の両腕がリクの腰を、今にも折らんばかりに締め付けるのですが、やっている本人はまったく気づいていなくて。
『白騎士の馬鹿かぁぁぁぁぁ!!』
大泣きの束と、気絶寸前なリク、それを遠くから見ながら千冬は思う。
「ム、ここは私が一刀両断するべきだな!」
白い光の刃を発生させたISを纏った千冬が大きく頷き。
「行くぞ白式! 今こそ『無様なり束』という時だ!」
高笑いの後に、亜光速ドライブ最大稼働。一瞬で閃光になった白式に対して、白騎士は咄嗟に回避行動。
「避けるな束ぇぇぇぇ!!」
『ふぇ?! ちーちゃん?! なんでどうして?!』
「今こそおまえを落としてやろう!」
『ふえぇぇぇぇぇぇ!!』
斬艦刀のように巨大になった光の刃を振るう白式の千冬は、とてもいい笑顔で笑っていた。
一方で、全身を覆った白騎士を纏った束は、必死に回避運動。途中途中で、白騎士の後ろの翼の一部が剥離、ファンネルとなって白式の行く手を阻む。
「ふははははは!! 遅い遅いぞ白騎士! いいや束ぇぇぇぇ!!」
『ちーちゃんの馬鹿ぁぁぁぁぁ!!』
「もっとだ! もっと私を燃えさせてみせろ!!」
『誰か止めてぇぇぇ!!』
半狂乱に笑う千冬と、反狂乱に泣く束。そんなパイロットを無視して戦争みたいに争う白式と白騎士の姉妹機。
「ねえ、あれって止められそう」
「ドーだろうな」
そんな二人を、リクを回収したリナとトオルは眺めていたのでした。
話の発端は、二週間ほど前に遡ります。
一夏の姉として千冬は考える。弟は見事な強さを手に入れた、のだろうか。いや機械に頼るのは悪いことではない、道具とは使いこなしてこその道具であるし、作ったのが束ならば変なことにはならないだろう。
「姉さん、見てくれないか」
嬉しそうに告げるマドカの声に、千冬は振り返って、苦笑い。我が妹は何処から見つけて来たのか、巨大な漆黒の竜を手に入れていた。
ミラボレアスというらしい、元ネタを知っている転生者が大慌てで何処かへ飛んで行ったのだが、今は関係ないか。
「素晴らしい、後はもう一匹を手に入れたら。いや私も十二体そろえるべきか」
うっとりとミラボレアスを見上げるマドカに、千冬はいいしれない感情が湧きあがるのを感じた。
「今日もがんばるぞ!」
一夏は一夏で、木の枝から木の棒になって、頑張って訓練して今では剣を射出している。あれは金属製ではないか、刃がついていないか、人に向けたら危ないのではないか。
千冬はそんなことを考えた後、小さく首を振った。
「ふ、さすが我が弟と妹だ。そうだな、姉である自分も目指す時が来たか」
二人に背を向けて、千冬は一歩一歩と歩き出す。
「フ・・・・・フフフフ・・・・・フハハハハハハ!!! 待っていろ束ぇぇぇぇ!!」
拳を握り、目を見開き、千冬は駆けだした。
今日こそ、束に自分にふさわしい鎧を用意してもらうと決めて。
それが間違いの始まりでした。
一方、我らがタバネちゃんはというと。
「ふえぇぇぇぇ出来ちゃったよ」
『いやいや僕も調子に乗ってしまったようだねぇ~~まさかこんなにあっさりと搭載できるなんて思わなかったよ』
モニター越しに初めまして、そんな挨拶をしたきぐるみ同好会の会長と一緒に、『星を目指せるぱわーどすーつ』、無限の成層圏を目指すための機体、ISの改良を行っていましたとさ。
「サイコ・フレームをメインフレームとして、ナノマテリアルで内部装甲と外部装甲を形成、後は量子格納庫に念のために武器を搭載して」
『うんうん、太陽炉のダウンサイジングは良好だね。これをツインドライブとして、重力子エンジンもダインサイジングできたし』
「やっぱり推進機は、ヴォワチュール?」
『ヴォワチュール・リュミエールと、ミノフスキードイラブの複合型にしてみたんだけど、上手くかみ合ったみたいだね。後は絶対防御のプログラムだけだけど』
「重力制御装置もできたので」
楽しそうに会話する二人。束も、最初はびっくりしていたが、モニター越しなら大丈夫になって、少しずつ慣れて行って今では普通に会話できるようになりました。
けれど、束は思う。この人の素顔を知らない、素性は知っているし、住んでいる場所も教えてもらった。実際にそこにいるのは確認済みなのに、きぐるみを脱いだところを見たことがない。
「えっと、長船会長?」
『ん~~なんだい?』
「どうして私にこの技術を教えてくれたの?」
純粋に、束は疑問に思っていた。世の中に出せば、特許とか企業への売り込みとかで億単位で稼げるはずなのに、彼は何も要求せずポンっと天才的革命のアイディアを与えてくれた。
問いかけに、モニターの中のきぐるみは腕を組んで首を傾げた。
『それは、僕では手が届かないからさ』
「え? でも、これって」
『僕の転生特典は、あくまで『データ上の天才』であって、現実世界に展開できるだけの技術力はないんだよ』
寂しそうな声だった。求めていたものが手に入ったのに、その先を目指せないと知って絶望したような、そんな少年の声だった。
『だから僕は託そうと思ったんだ。天才である君に』
「私なんて・・・・・・・」
『でも最初は渡していいか迷った。天災っていう君なら世界を壊しそうだったからね』
てんさいと呼ばれた、その響に束は二つの意味があるように思えたのだが、どうしてと聞こうとして止まってしまう。
『あなた~~御飯よ~~』
『パパー!』
モニターからの声に、束は固まった。
「え、え、え?」
『おっともうこんな時間だ。じゃあ束君、この素晴らしい世界で、素晴らしい星の海を目指してくれたまえ』
ビシッと敬礼したきぐるみ姿を最後に、モニターは消えたのでした。
少年のようだったのに、自分よりもちょっと年上っぽかったのに。
まさかの既婚者。世の中って広いなぁと束がちょっとおかしくて、ウサギ耳をぴょこぴょこ動かしながら、振り返った。
「もうすぐだからね、白騎士、白式」
一方は完全装甲の一番機、もう一方は半分装甲の二番機。二つの機体を見つめ、これで宇宙に行ったらどんな景色が見えるのかなって思って、目をキラキラとさせている束。
そして、その背後で同じように目をキラキラとさせている千冬がいたという。
「なあ、束。一機くれないか?」
「ふみゃぁぁぁぁぁぁぁぁ?! ち、ちちちちちちちーちゃん?!」
「フ、そんなに驚くなよ、束。そうだな、こっちの白式を私にくれないか?」
ちょっと汗をかいている千冬は、とてもいい笑顔で束に手を差し伸べたのでした。
凄みのある笑顔ともいえますが。
「・・・・・・未熟、申し訳ありません、姉様」
箒、折れたとうやこーと書かれた木刀と一緒に地面に転がって嘆いていました。さすがにまだ千冬を止めるには、技量が足りなかったようです。
こうして二機のISはそれぞれのパイロットを得て、活動を開始したのです。
千冬がノリノリで、束が泣きながら、ISの訓練を行って数日後、諸外国を恐ろしい話が駆け巡ったのでした。
「だ、大統領! ミラボレアスです! ミラボレアスが日本に!」
「なんだって?! 今すぐミサイルを放て! 構わん! 日本の危機だ! アニメが消えるぞ! ホットラインを繋げ! 関係各国へ連絡だ!」
「なんだってアキバの危機?! 全軍のミサイルを放て!」
「聖地が消えるなどあってはならない、今すぐにミサイルだ!」
「オタクの聖域を汚すような行為は許さん! トカゲめ! 人間の力を見せてやるぞ!」
こうして、日本に七百発ものミサイルが降り注ぐこととなりましたとさ。
それはよく晴れた冬のある日、もうすぐ春になりそうな暖かい日。
千冬が剣道部に捕まって遅れるというので、束は一人で白騎士を纏って空を飛んでいた。
「ふわぁ~お空が近いよぉ~~~」
モニター越しに見える空は、何処までも高いものではなく、手を伸ばせたすぐに掴めそうなくらいに近くて。
もっと先へ、その先の宇宙に行ったら、もっと言えば銀河系を飛び出して他の星に行けたら、どんなに素敵なことだろうか。
不意に思ったことに束は頬を染めて、出来ればリクと一緒がいいなと思って一瞬で赤面した頃。
警報が鳴った。
「ふぇぇぇ?!」
『警告 ミサイル多数接近中』
なんでどうしてと疑問を感じる前に、迫ってくるミサイルの数と、到達予想地点を見た束は、一瞬で理解して決断した。
「りっくんは私が護るから!!」
白騎士の全機能解放。ツインドライブ最大稼働、重力子エンジンもフルドライブ。
ビーム砲を両手に、小型ミサイルコンテナも解放、背中に七色の翼を広げ、機体全体を緑色の光で包み、白騎士は蒼穹をかけて。
そして、制御不能になった。
束の操作を一切、受け付けなくなった白騎士は、全世界のシステムのすべてをハッキングし制御化に置いて、画像を流し始める。
世界はもちろん大混乱、操作を受け付けなくなった機械を前に、呆然としている人々を笑うように。
お前達は無力だと突き付けるように。
そして何より、乗っている束があまりの出来事に声も出せなくなるくらいに。
画像の中には、可愛い衣装の束が踊っていましたとさ。
白騎士は毎日、見ていた。
束の姿を毎日、眺めていた。
ピンクのフリフリドレスで必死に演算している時も。
白いゴシックロリータの衣装で、配線を組み替えている時も。
ミニスカ風の浴衣を着ながら、装甲を研磨している時も。
花魁風の衣装を着せられ、泣きながらプログラムを組んでいる時も。
学校の制服なのに、フリルとかつけられて、ウサギ耳を足らせながらシミュレーションしている時も。
肌が白いのをちょっと気にして、上半身は半そでなのに、下が御姫様のようなフリルドレスで、鏡を見つめて困った顔をしている時も。
新技術を発見して、アリスの衣装で小躍りしている時も。
ずっと白騎士は見ていた。ナノマテリアルの装甲をつけられ、太陽炉を搭載されて、重力子エンジンをつけられ、サイコ・フレームを搭載された時も。
ずっと白騎士のカメラの中には、可愛い仕草と可愛い衣装を着た束がいた。
彼女はずっと見ていた。動かない体の中で、ずっとずっとそんな束を見続けていた。
サイコ・フレームとは人の想いを吸収する物質であり、その想いを力に変えることができるオーバーテクノロジー。
長船というきぐるみ会長がデータを送ったそれは、実は一つの細工がしてあった。サイコ・フレームが無尽蔵に人の想いを吸収するのではなく、製造時にもっとも近い場所にいた人の『優しい気持ち』に触れるように。
実現できずとも、データ上はチートを行える彼の試みは見事に成功した。
成功したのだが、ここで予想外の出来事が起きた。
普通なら、白騎士の開発は短期間で終わり、すぐにデビューとなるはずが、この世界の束がビルドに拘っていたため、開発期間が延び延びて。
白騎士に自由意思が生まれるほどになってしまった。
可愛い束を見続けて、自由意思を持った白騎士に搭載されたサイコ・フレームは見事にその意思を吸収して。
そして、向かってくるミサイルをすべて撃ち落とし、全世界の機械を制御化に置いて、束の映像を流しながら。
白騎士は後の世の方向性を決定した一言を配信したのでした。
即ち、『可愛いは正義』。
そして話は冒頭に戻るのでした。
白騎士、白式、その二機のISが見せた戦闘は世界中の軍事関係者を震え上がらせ、軍事企業に大きな傷跡を残した。
こうして世間でいうところの『白騎士』事件は終わったのでした。
「可愛いは正義! ロマンこそセオリー!」
そんな言葉が当たり前のように言われるようになる世界となる、歴史上の転換期としての事件は、終わってしまったのです。
「ふぇぇぇぇぇぇぇ!! りっくぅぅぅぅ!!! 私そんなつもりじゃないのぉぉぉ!!」
「待て落ち着け! 離せば解るんだリク!」
事件後、必死に土下座する束と千冬の前で。
「天の理って使ったことなかったなぁ」
乖離剣『エア』を抜いて、とてもいい笑顔のリクがいましたとさ。
白騎士事件でした。
感想で可愛いは正義とか言われて、内心でドッキリしたサルスベリです。
ISのアニメを見て、制服改造オーケーならば、可愛い制服をしている女の子が多いので。じゃ壁にぶつかった束が、ぶつけた壁の男の子を好きになって女の子っぽく可愛くなったなら。
IS学園の生徒が可愛い制服を着ているのは、可愛いは正義を束が広めたからであって。
なら白騎士事件は、それを世間に刻みこむ事件じゃないと駄目なんじゃって使命感にかられたサルスベリによって、こうなりました。
それで今日はこのあたりで。
このお話が、皆さまの日常の小さな楽しみの一つとなっていたなら、幸いでございます。