*二人は同居継続中
*絞首未遂に関しては一定の許しを得ている
気ままにお楽しみ頂ければ幸いです。
その夜は眠れずにいた。
誰しも経験があるはず。眠ろうとするほど、思考が活発になること。そうして眠りにつけなくなってしまうこと。
まさしくその状況に陥り、あたしは眠れずにいた。
横になり目を閉じていると、活発になった思考はいつのまにか過去の記憶を思い返していた。
バカシンジとの出会いだとか、惨敗だらけの日々だとか、ママとまた会えたこととか。
そのうち、不覚にもあの日の記憶へ行き着いた。
エヴァシリーズとの死闘。そしてその結末。
瞬間、蓋をしようと即座に思考を止めた。止めようとした。
けれども人間とは不思議なもの、一度蓋を開ければ否が応でも思い返してしまう。記憶に引き込まれていく。
そうしてあたしはあの時受けた痛みを鮮明に思い出した。その体へ再び刻み込むように。
眼球は槍に貫かれ、
外皮は蹂躙の挙句に食い破られ、
伴って内臓は引き摺り出され、
死力を込めて挙げた右腕は槍で縦断。
これら全ての苦痛の感触が甦るようだった。
思い出すうち心拍と呼吸の間隔が短くなっていく。胃がキリキリと痛みだす。負った傷も疼きだす。
呼吸を正しく行えている気がしない。徐々に息が詰まっていく。さらに、
体が、今ある苦痛を全て吐瀉物に変換させようとしている。それに応じた吐き気も感じた。
そして記憶をあらかた最後まで思い返したとき、あたしはピークを、限界を迎えていた。
結果として、耐えることも堪えることも出来なかった。
火蓋が切られたように飛び起き、トイレに駆け込もうとした。が、叶わなかった。
文字に起こせば陳腐な表現に感じてしまうような、そんなうめき声をあげ、床に吐いた。
あの時の記憶は頭にループさせたまま、うずくまり全身を震わせながら、まともな呼吸もせず胃液が底をつく勢いで吐いた。鼻に胃液が回っても構わず。
「アスカ!?」
頭へかすかに声が響く。
シンジだ。気づくと横にいた。あたしの背中をさするように。
たまらずしがみつく。ほぼ反射的に。恥も外聞もなく。考える余裕があるはずもなかった。
そこであたしの意識は途絶えた。自分の吐瀉物がシンジに付いてしまってないかなど心配しつつ。
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勢いよく足音が聞こえた僕は目を覚ました。
アスカの部屋からだ。その直後うめき声とともにビチャビチャと床になにか飛散する音が聞こえた。
状況の推察もせず、たまらず飛び起きアスカの元へ向かった。
ノックもせず部屋のドアを勢いよく開ける。
眼に飛び込んできたのは床一面に広がった吐瀉物。
そして、うずくまって震えているアスカ。
「アスカ!?」
駆け寄る。
「大丈夫!?」
応答はない。そのはず、過呼吸に陥っていた。尋常じゃない状態。明らかにただの体調不良なんかじゃない。
痛感する。自分のせいだと。
傷が原因で不調をきたしたのか、それとも精神的なものなのか分からないけれど。
あの時助けられなかったこととか、日々心に与えていたダメージだとか、ここまで追い込まれているのだ。どうしたって自分に責任があると直感できた。
そんなことを考えてるうち、アスカは僕にしがみつく形となり、次第に全身の力が抜けていくようだった。
「アスカ!?アスカ!!」
気を失っていた。
何も変わってない。
いつもそう、僕はアスカの名前を呼ぶだけで、結局なにも出来ないんだ。
無力感からアスカの肩を強く掴んでしまう。
思わず涙が滲む。
全部僕のせい。またアスカを傷つけてしまった。
僕はまた、なにも出来なかった…
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目を覚ます。
ベッドに収まっているらしい。
日光が差しているのを感じる。今は何時だろう?
状況を整理しつつ、横に目をやるとシンジがいた。
座って俯いている。寝ているらしい。
夜からの記憶を思い返そうとしたが、やめた。すんなりと止めることができた。
とにかく、気を失ってシンジに介抱されたのだろうと推測した。
精神より先に肉体の限界が来た結果、気を失ったのだろう。それでも不幸中の幸いといったところか。
胃に痛みを感じ、顔をしかめながら天井を見つめていると
「アスカ…?」
シンジの呼び声だ。
「あんた…起きてたの?」
充血した目、ほんのり黒ずんだ涙袋。明らかに寝ていない様子だった。
「うん…。」
「体…大丈夫?」
なんだかバツが悪そうに聞いてくる。
「別に…なんてことないわよ…」
自然と重い空気が流れる。
しばし沈黙
「…ごめん。僕のせいだよね…」
違うわよ、と言い切れないのだからあたしまでもどかしい。
あたしは応答しなかった。
「それに…また何もできなくて…」
「どうしようもないことだってあるわよ。」
「…いつも傷つけてばかりで、結局なんにも出来ないんだよ。そんなの駄目じゃないか…そんなの…」
バツが悪そうにしてたのはこういうことね。そんなところだろうと思ってたけど。
そこであたしは疑問を投げかける。
「男らしくないから?」
「それとも、自分の腹が収まらない?」
「ここにいる意味がなくなるから?」
その全てに返答はなかった。
やっぱりあんたは。
「なんにも成長してないのね。あんた。」
「何かしなきゃ、って思ってるでしょ。」
「自分の責任を清算しようと行動してるんでしょ。」
俯いたままのシンジを見つめて言う。図星だろう。応答も反論もないのだから。
「悪いけど、そんな風に思われたって、行動されたってちっとも嬉しくないのよ。あたしは。」
「そんなの罪滅ぼしなんて言葉すら大層よ。結局全部自分のためなくせに。」
再び沈黙。
「じゃあ、またなんにもしなくていいって言うの?」
「さあね。」
その末ようやく口を開いたと思えばこれ。そっけなく返す他ない。
「とにかくね。そういうことじゃないでしょ。真に相手のために行動するって。」
「幸い、この世界はもうあたし達二人しかいないのよ。まごころ込めて、相手のことだけを考えて接する対象が一人しかいないの。」
「バカで顔色伺ってばっかのあんたでも、一人くらいにならそうやって行動できるでしょ。」
「アスカは…僕がそうしていいの?」
「あたしに聞くな。」
「でも…」
「でも、どうしたって僕のやったことは消えないんだ。それを放ったままなんて……」
考える。
どうせあんたとあたしだけ。他に誰もいない。あんたを恨むのも、追求するのも、咎めるのも、誰もいない。あたしを除いて。
あたしが許せばそれでおしまい。なら、
「…じゃあもういいわ。全部許す。全部全部許してあげるわ。」
こうするべきだ。そのかわり、
「そのかわり、罪滅ぼしなんかじゃなく、真にあたしのためになると思うことをしなさい。」
三度の沈黙。
「…そんなの…」
「あ?」
「そんなの…分からないよ…」
…
…
「はあ…」
思わずため息が漏れた。つくづくウルトラバカというか。
以前のあたしなら蹴り上げて出て行ったはず。
でも、今は違うのだ。あたしの覚悟と、まごころを以て告げよう。
「…一緒にいれば、いいのよ。」
「…え?」
「次こんなこと言わせたら本当に殺すから。」
「…。」
「その代わり、あたしも一緒にいてあげる。」
そう言ったら泣き出した。やっぱり成長してないのね。コイツ。
10分くらい嗚咽を聞かされた。
早く泣きやまないかなーなんて思ってたら
「アスカ…」
「なによ。」
「ありがとう。」
「…。」
「お粥でも、作ろうか?」
「…さっさと作って来て。」
「うん!」
あたしも甘くなったなあ、なんて思いつつ、吐瀉物まみれだった床が元通りになっていることに気づく。
ずっと立ち込めていた吐き気もない。あいつといただけなのに。
あとでお礼言っとかなきゃね。
こんなことになっちゃった世界だけど、
こんな所だからこそ、互いを想い合うのは簡単なはずよね。きっと。
どうせ二人きりなんだから。
まごころを、あなたに。
処女作です(言い訳)
ご精読もしくはご清覧、誠にありがとうございました。
アフターEOEというやつです多分。
めっちゃ私論ですが惣流は旧劇を経てやっと式波くらいのツンデレ比率になるんじゃないかと思ってます。