キラーアントの大群とパープル・モスとの激戦を繰り広げ、命拾いをし、無事地上にまで戻ってくることができた。身体もガタガタであるが、精神的にもふらふらしながら換金も後回しにしホームに帰ってきた。人間、疲労が溜まりすぎると何もしたくないと思うことが一度くらいはあるだろう。私は今、まさしくその状態である。
「ただいま帰りました、ヘスティア様。」
「おかえりウミ君!今日の成果はどんなものだったんだい・・・?」
いつも通り、勢いのある笑顔で私を出迎えてくれたヘスティア様であったが、みるみるうちに顔が青ざめていく。まぁ、心当たりはある。十中八九、この左腕だろう。あとはローブや装備品の破損。
「ど・・どうしたんだい、その怪我。重症じゃないか!急いで手当てしないと!」
「少しダンジョン内でヘマをしてしまいまして。その時にモンスターからもらってしまったものです。流血していたから見た目は酷いですけど、最低限の止血はしてありますし、ポーションも使ったのでもう問題はないです。それよりも、今日はいつもより稼げたと思います。まだ換金に行っていませんが、恐らくいつもより・・・ヘスティア様?」
「・・・、ウミ君、少し話があるんだ。こっちに来てくれないかな?」
「は、はい。わかりましたヘスティア様。」
ハイライトの消えた瞳のヘスティア様について我が家である廃教会の中へと入る。あぁ無事に帰って来れたと安心したのも束の間のことだった。
「ウミ君!君はもう少し安全というものと自分のことについても考えた方がいい!!ボクやファミリアのことを考えて毎日ダンジョンに潜ってくれていることは分かっている。でもね、少しは自分のことも大事にしてくれよ!」
ヘファイストス様の言う駄女神モードなど想像もつかないような剣幕で私を叱るヘスティア様。
「・・・ウミ君。ボクはね、家族を失うことは耐えられそうにない。この先、ファミリアメンバーが増えることもあるだろう。だけどね、ボクは誰一人として欠けて欲しくないんだよ。ましてや、今の団員はウミ君、君だけなんだ。お願いだからボクを一人にするようなことはしないでおくれよ。多分この先この話は耳にタコができるほどすると思う。失敗したっていい。逃げ帰って来たっていい。ただ生きて、大怪我をしようが生きている姿をボクに見せに帰って来ておくれ。」
さっきまで叱っていた姿とは打って変わり、私を諭すかのように優しく語りかけるヘスティア様。エイナさんにも言われたが、たしかに私は自分のことについてはあまりにも無頓着だった。ヘスティア様も私に対してもっと自分がしたいと思うことをして欲しいのであろう。だが、私がしたいことは、ダンジョン探索と浴場巡り、あとは美味しいものが食べることが出来ればいい。
「わかりました。もう少し自分を大切にしてみようと思います。それと、帰還についてですが、足がなくなろうが、腕をちぎられようが100%帰ってくると誓います。最悪の事態に陥りそうならスキルを惜しみなく使うので。」
「あはは。ウミ君のスキルなら水を操ってどんな状況でも覆せそうだもんね。はい!ボクからのお説教はおしまいだ!それで、魔石やドロップアイテムの換金はまだなんだろう?今日はどうするんだい?少し早いけど休むのかい?」
「そうですね。今日は早めに休んで、明日から少しダンジョンに潜るのはやめようと思います。毒の影響とスキルの使用で疲れていますし、処置を施したと言ってもそこそこな怪我をしたので。明日から数日は回復に専念しようと思います。」
「そうかいそうかい!じゃあ早く休むんだよ!ボクはミアハと出かけてくるからね!体に違和感とかあったらくれぐれも早く処置するように!」
「わかりました。お気遣いありがとうございます。ところでヘスティア様。明日暇でしたらどこかにご飯でも食べに行きませんか?今回のダンジョンアタックで得たものでそこそこな稼ぎになるはずなので。」
「本当かい!?つまり、明日はウミ君と初のデートというわけだね!ウミ君もようやくボクを誘ってくれるくらいの大人にはなったわけだね!」
「あのですね、ヘスティア様。デートというのは仲のいい異性が出かけることを言うのであってですね・・・」
「何を言っているんだい!?男女じゃなくても、仲のいい者同士でお出かけするのはそれはデートだろう!?違うのかい!?」
食事に誘っただけでヘスティア様のテンションは爆上がりだ。確かに冒険者になってからはまともに食事にも一緒に行けてなかったような気がする。
「えぇ・・・確かにそういった表現で使われることもありますけれど・・・。」
「それじゃあデートじゃないか!全く、数ヶ月前まではあんなに小さかったウミ君が、このボクを食事に誘ってくれるなんてね。なんだか感慨深いよ!」
「わ。分かりました。じゃあデートということにしておきます。体については、そこまで変わっているように見えませんが・・・もしかして、私太りました?」
「いやいや!そんな意味で言ったんじゃないんだよ!ウミ君と初めて会った時に比べて随分と逞しくなったという意味で言ったんだよ。」
なるほど。太っていなければそれでいい。私とて年頃の女なのだ。いくら服装に無頓着と言えども、自分の体型くらいは気にする者である。ダイダロス通りで生活した時に比べて、食べる量も増えたし、肉付きも良くなっている実感もある。太っていないのであればそれでいい。痩せすぎもあんまり良い印象を持たれない。丁度いいくらいが1番いいのだ。
そういえば、食事関連でここオラリアでも飲食店が多いということを思い出した。前世の日本にもない食文化がオラリオにもあり、私から見れば個性的な食べ物がいくつも存在する。だが、日本で見られた食べ物でもオラリオに存在しない食べ物も数多く存在する。
今後のファミリアの方針や新規入団者の数次第だが、飲食店を経営してみるのも良いかもしれない。
とはいえ、私自身まだまだダンジョン探索をしたいと思っている。飲食業云々に手を出すことはまだまだ先の未来になりそうだ。
ー○○○ー
翌日、ヘスティア様は朝早くからアルバイトに出かけていった。そして私も、換金とエイナさんへの報告をかねて冒険者ギルドへと出かける。
受付にエイナさんの姿があった。昨日ヘスティア様に報告したことと同じことをエイナさんにも報告すると、案の定怒られた。危ない冒険をするのはこれっきりにしろと言われると共に、
「本当にもう!ダンジョンに潜るのは咎めないけど、こんな危ないことするのはこれっきりにしてね? 」
出来る限りはそうするつもりであるが、また同じような状況になればなりふり構わないだろう。
そんな考えが顔に出ていたのか分からないが、私の考えていることがエイナさんに伝わってしまったらしい。
「いい!? 今回はまだ上層部、それも下級冒険者が潜るような階層だったからよかったけど、中層や下層にはもっと危険なモンスターもいるの。勿論、倒せば巨万の富を得ることもあるけど、そう言って帰ってこなかった冒険者は数多くいるのよ。」
まぁ、大きなリターンにリスクが付き物なのは経営でもダンジョンでも一緒なのだ。散って行った冒険者もそれは覚悟していたことであろう。エイナさんほどのスパルタアドバイザーは少ないのかもしれないが、それなりに指導していることは予想できる。
だとしたら、リスクを顧みずにリターンを得ようとした冒険者が死んでしまうのは自業自得だ。冒険者ギルドのスタッフが気に病む必要はないのだが、そういうわけにもいかないのだろう。
その後もエイナさんのお説教は止まらず、1時間たったあたりで解放された。よくもまぁ、この長時間お説教ができるものだ。エイナさんも本当にただの冒険者ギルド職員なのか怪しくなってきた。
ー○○○ー
オラリオにおける生活水準には、ばらつきがある。一般市民は勿論であるが、特に冒険者、ファミリア間の生活水準の差は顕著だ。
それは、衣食住は勿論のこと、ダンジョン探索においてもその差は現れる。衣食住がしっかりとした人間としっかりしていない人間、しっかり食べて寝てができている人間とできていない人間のどちらがより良いパフォーマンスをするのかなどわかりきったことだ。
では、ファミリアの規模の大きさは何で決まるか。それは、神のネームバリューであろう。ヘスティア様もおっしゃっていたが、自分に眷属が少ないのはおそらく自分の名が広く知られていないのではとのこと。
実際、ヘスティア神という名はギリシャ神話においては、ゼウスやヘラ、アポロンやヘルメスといった有名な神の名に比べれば知られていないと言える。
ここで、問題が生じる。人間という生き物のほとんどは、有名なものに執着する生き物である。例を挙げれば、有名なメーカーの製品と無名のメーカーの製品のどちらを買うかという問題である。効能や満足度が全く同じであるとするならば、ほとんどの人は前者を選ぶだろう。有名とはそう言ったメリットが存在する。
このシステムは、恩恵にも同じことが言える。神の与える恩恵の効力は同じものである。
では、どの神が与えても効力が同じである恩恵を人間はどんな神から貰いたいか。結論を言えば有名な神や大きなファミリアの主神である。有名、勢力というものは持つだけで有効な物である。何故なら、有名、勢力というものを持っている団体に入れば、無名な団体やそこまでの勢力を持っていない団体よりもはるかに早い成長が見込めるのである。
長々と考えていたが、結論として、ファミリア間の生活水準を含め、大手ファミリアと私たちヘスティアファミリアのような零細ファミリアの格差は、未来において必ず問題になるだろう。
とはいえ、私たちヘスティアファミリアは、零細ファミリアに当てはまるとはいえ、十分な生活を送っていると言ってもいい。
だが、水準に応じていないような成果をあげる者たちは時に目をつけられ、時に潰される。『出る杭は打たれる』ということわざが前世の日本において存在していたが、それは、ここ異世界でも通じることわざである。
「・・・」
「・・・」
冒険者ギルドにて対面しているのは、金色の髪色の妖精のような女性。剣姫、アイズ・ヴァレンシュタインその人である。何故このような状況になった。
忙しいので亀更新ですよ。そういえば、お気に入り登録者数が1000人を超えていました。読んでいただいている読者の皆様に感謝を。