色眼鏡   作:はるしぐれ


原作:交友
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俺のそれも、色眼鏡なのだ。

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それは怪夢だった。





色眼鏡

 あいつは俺のことをどう見ているのだろうか...

 今まで考えてこなかったが、ふと考えだすと決壊したように溢れ止まらなかった。期待していけないことはわかっている。

 やがて、決心した。

 

 現代の人間社会の中で人間として生活しているが、俺はヤギだ。本当に比喩でもなんでもなく、人間とは種族的に異なるヤギなのだ。ちなみに人間社会では「八木田」と名乗っている。

 俺は昔から人間社会で生きてみたかった。ヤギではあったが、ヤギの群れだけが自分の社会と思えず、むこうに見える人間社会に興味を持ったのだ。

 

 幸い姿を人間にすることが俺には容易だった。そうして人間社会に溶け込み、人間と交流をしてきた。そんな折あいつに出会った。友ができたのだ。

 

 ある時俺は真の姿を告白しようと決心した。

 何も偽らない姿のまま会おうと思った。

 

 あいつとは時おり連れ立って中華そばを食べに行く仲である。いつものようにたばこ屋の角へ行き、しかしいつもと違う本来の姿であいつを待った。

 

 暫くしてあいつがやってきたが、俺に気付いていない。

「今まで黙っていたが、俺の本当の姿はヤギなのだ」

 俺が声をかけるとあいつは俺を認識した。それはやむを得ないことだった。今まで人間の姿をして交流していたのだから。

 驚いてはいるようだが、あいつは何も言わなかった。どう思っているのだろうか。

「行こうか」

 そう言って俺は先に歩き出した。

 

 いつもの店に着き中華そばを頼もうとすると、店の主人が私たちを見るなり調理場から飛び出してきた。俺をさして家畜を持ち込まれては困ると言う主人に、あいつは家畜ではなくいつも中華そばを共に食べにくる八木田であると説明してくれたが、たちまち追い出されてしまった。

 

 行くあてをなくした俺たちは、仕方なく来た道を引き返した。

 申し訳ないことをした。俺と一緒だからあいつまで追い出されてしまった。少し後悔を覚える。

 

 そうして歩く最中。あいつは俺を見て、そもそも中華そばなどヤギの体には毒だろう。牧草か何かの方が良いんじゃないのか。そのようなことを何気なく言った。

 

 瞬間爆発したような、しかし感情が追いつかない怒りが沸き、静かに言い放つ。

「畜生は畜生らしく振る舞えと、そう言いたいのか」

「そんなことは言っていない」

 あいつが慌ててなだめようと言ってくるので座り込み落ち着こうとする。しかし、俺の中は色々な感情が渦巻き俺自身でもどうしようもなかった。

 

 道行く人々が俺を見るのがわかる。通りがかった小さな子供が、ヤギがいるよ、と指差して言うのを、母親が制して連れていった。

 

 ああ、おまえもそうだったのか。

 あいつには結局、俺のことを俺だと見えていなかったと、見ていなかったと、そういうことなんだな。ああ、わかっているとも。俺が勝手に期待していたんだろうさ。だけど、だけども、あいつにはそう言って欲しくはなかったんだ。それがあいつの本心だったんだ。

 

 ああ、駄目だ。俺は考えてしまったものからもう逃れられない。

 決定的な決裂だった。

 俺はあいつに対して自分を偽りたくなかった。わざと騙しているわけではないが、真実を知っていて欲しかった。そう、それだけでよかったのだ。

 

 俺は立ち上がり、頭を下げて言った。

「今まで世話になったな」

 

 歩き出す俺を、あいつは何も言わずにただ立ち、見送った。日は落ちてしまっていた。


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