ぐだ男君と立香ちゃん   作:雷神デス

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文章力が、文章力が欲しい……!


ぐだ男君は舞台に上がれない/立香ちゃんと所長は似た者同士

『これでいいのかな?』

 

 マシュの宝具は発動できたし、クーフーリンも仲間になった。このまま大聖杯の場所まで行き、セイバーを倒し、カルデアに戻り、物語は続く。

 それでいいはずだ、原作通りに進めばいい。主人公(藤丸立香)が原作通りに進めば、世界は救える。

 

『本当に?』

 

 オルガマリー所長についてはどうしようもない。彼女の肉体は爆発で死ぬし、爆発を阻止しようとすれば敵側がどんな行動をするかも分からない。そうだ、これで間違っていないはずだ。原作通り、進めばいい。

 

『立香は彼女と友達になりたいらしい』

 

 不可能だ。彼女は序章で死ぬ。道筋を変えればどうなるか誰にも分からない。攻略法が分からない道を進んで負けたら、誰の責任になる。

 

『また未来に惑わされてる』

 

 黙れ。

 

代わり(主人公)がいて良かったね』

 

 黙ってくれ。

 

『―――結局君は、舞台には上がらないんだね』

 

 ごめんなさい。

 

 

 

 

―――――

 

 

 

「よし、私の勝ちね!それじゃ、マシュの宝具名は私の案で決まりよ!」

 

「くっそ~……!私のナスビシールドが……!」

 

「す、すいません先輩……。今回は所長の方を応援してました」

 

 

 ハイタッチを決めた後、マシュの宝具名を考えることになった。どうやら宝具の発動はできたが、真名と宝具名が分からないので真の力は発揮できないらしいのだ。

 私とオルガマリー所長が案を出し合い、お互いの名前を懸けた決死のじゃんけんの結果宝具名は仮想宝具 擬似展開/人理の礎(ロード・カルデアス)に決定した。おのれ所長め、かっこいい名前を考えおって……!

 じゃんけんに負けた時の、所長のどや顔が忘れられない。

 あと心底ホッとしてる様子のランスロットとマシュが少しショックだった。私、そんなにネーミングセンス無いのだろうか……?

 

 

「うん、無いね!」

 

「シレっと心を読まないでくれる!?」

 

「立香は顔に出やすいからね~。ポーカーフェイスとか学んだ方がいいかもよ?」

 

「うぐ……考えとく」

 

 

 ぐだ男も自分にぐだ男とかいうネーミングセンス皆無というか、なぜそんな名前にしたのか分からないのを私に言わせてるくせに!お前も同類だ!

 

 

「さて、それじゃあ宝具名も決まったことだし、最期のサーヴァントを倒しに行くわよ!キャスター、案内してちょうだい」

 

「お、もう終わったか?そんじゃ、行くとするかね。しっかりついてこいよ、嬢ちゃん達」

 

 

 ということで移動を開始した。途中でスケルトンの進化形態みたいなのが出てきたが、マシュとクーフーリンで問題なく倒すことができた、のだが。

 

 

「……?何よ、そんなに見て」

 

「所長、戦えたんですか!?」

 

「私は魔術師よ!?カルデアの所長にして名門アニムスフィア家の当主よ!?戦えないわけないじゃない!」

 

「すいません、ずっと私と同じくらい弱いんじゃないかと思ってました」

 

「よし、そんなにガンドを喰らいたいのね?」

 

 

 なんと、所長が指から魔力の弾丸みたいなのを打ち出してスケルトンを撃破してしまったのだ。他の皆は驚かなかったのだが、戦う姿を見てなかった私はすごく驚いた。

 

 

「けど今の凄かったですね!ガンドって言うんですか?うわー……かっこいい」

 

「そ、そんなに褒めたってなにも出ないわよ。それに、ガンドなんて魔術師にとっては初級レベルの魔術だし……」

 

「でも、私みたいな一般人から見たら凄いですよ!私ならあんなのに勝てるわけありませんし」

 

「ふん、当然よ。魔術師でない人間があれを倒そうとするなんて無謀にも程があるわ。……けどまあ、あなたが死ねばサーヴァントと契約する人間がいなくなるものね。しょうがないから、護身程度の魔術なら教えてあげるわ。ただし、前みたいに私の顔見て笑ったら蹴り飛ばすからね?」

 

「いいんですか!?よろしくお願いします、オルガマリー先生!」

 

「先生って……はぁ。それじゃ、まず基礎中の基礎から説明するからよく聞きなさい?」

 

「おーおー、仲がいいこって。ほれ、嬢ちゃんも混ざらなくていいのか?」

 

「え、けど……」

 

「マシュも一緒に受けようよ!すごく楽しそうだし!」

 

「……で、ではご一緒させていただきます!」

 

 

 ということで、マシュと一緒に魔術の授業を歩きながら受けることになった。本来なら所長レベルの魔術師から手ほどきを受けるなど滅茶苦茶貴重なことらしい。難しい単語ばかりで頭が少し痛くなったりもしたが、所長は教え方が上手いらしく私に分かりやすいよう意訳したりしてくれた。

 

 

「まずは魔術回路の数を……あなた、一般人にしてはそこそこ多いのね。けどまあ私には遠く及ばないけど!とりあえず、まずは魔術回路を開くところから始めないといけないわね」

 

「魔術回路を、開く?」

 

「ええ。と言っても、これに関しては感覚的なものだから自分で頑張るしか無いのだけど。開く!っていう感覚が大事よ。一度魔力回路が開きさえすれば、あとは簡単に事が運ぶのだけど……まあ今は無理でしょうね。気長にやっていきなさい」

 

「ん~……あんまりイメージが湧かないかな」

 

「最初はだれでもそう、最初から上手くやれる奴なんて一部の化け物だけよ。まあ、そこら辺に関してはカルデアに帰った後に教えるわ」

 

「お、おお……。今の所長、すごく頼りになる!」

 

「ちょっとそれ前までは頼りにならなかったってこと?」

 

 

 そんなこんなで、ワイワイ騒ぎながらセイバーがいるという場所に進んで行く。ある洞窟にたどり着く。オルガマリー所長によれば、この場所は魔術師が長い年月をかけて作り出した地下工房らしい。

 

 

「魔術師ってこんなものまで作るんだ……」

 

「この規模のものは稀だけどね。それで、キャスター。セイバーのところまではあとどれくらい?」

 

「もうそろそろ着くんだが……その前に、突破しなきゃならん敵がいてなぁ」

 

「突破しなければならない敵、ですか?それは一体―――!?」

 

「arrrrrr!!」

 

 

 突然、どこからか大量の剣が私たち目掛けて降り注いでくる。咄嗟に後ろに控えていたランスロットがそれを掴み、自身の宝具に変換し剣嵐を打ち払い、大きな岩に向けて剣を投擲する。剣は岩を撃ち砕き、その陰に潜んでいた何者かを焙り出した。

 

 

「ほう―――なかなか厄介なサーヴァントがいるらしい。これはますます、この先に行かせるわけにはいかなくなったな」

 

 

 大弓と剣を携えた白髪の男性―――おそらくはアーチャーが、聞こえぬほど小さな声で何かを唱える。すると彼の周囲に何本もの剣が生み出され、それらが一斉に別方向から放たれた。

 

 

「ッチ……!てめぇかアーチャー!相変わらずあのセイバーを守ってやがるらしいな!」

 

「かくいう君も相変わらずしぶとい奴だ。雁首揃えて、ぞろぞろと引き連れてきたものだなクー・フーリン」

 

 

 マシュが前に出て、飛来する剣を防ぐ。しかしマシュの盾であろうと四方八方から迫る剣を全て防ぐのは難しい。それを見かねたのか、バーサーカーが咆哮を上げ地面に突き刺さった剣を引き抜き、宝具により自身の武器とし振るう。

 目にも止まらぬ英雄同士の激突、それに人間が加勢できることなど無いようだ。もし自分が少しでもこの場から動いてしまえば、格好の餌食とばかりにあのアーチャーに殺されるだろう……!

 

 

「……しょうがねぇ、ここで全員バテちまうとあのセイバーの相手をできなくなる。ここは俺に任せて先に行きな。なに、すぐ追いつく」

 

「クー・フーリン……!ごめん、頼んだ!」

 

「おう、任せなマスター!こちらと何度も死線潜り抜けてんだ、令呪で自害を命令されでもしない限り死にはしねぇよ!」

 

 

 クー・フーリンを残し、先に進む。そうはさせまいとアーチャーが矢を射るが、こちらにはマシュとランスロットがいる。ランスロットが矢を弾き飛ばし、その矢が軌道を変えもう一度私を狙ったがそれをマシュが難なく受ける。防御に関しては、こちらの方が上だ。

 

 

「……行かれたか。あの騎士が行くのは少々厄介だな……貴様を殺し、さっさとあの騎士王の援護に行かなくてはならないか」

 

「そいつはこちらのセリフだぜ、アーチャー。いい加減てめぇとの腐れ縁にもうんざりしてんだよ。ここらでいっちょ、決着を付けるとするかぁ!!」

 

「抜かせ、魔術師!!」

 

 

 

 炎の巨人と、無限の剣がぶつかり合う。

 私たちはキャスターの勝利を祈り、先に進んだ。

 

 

 

―――――

 

 

 

「……」

 

「マシュ、大丈夫?」

 

 

 走っている途中、マシュの顔が少し不安気なのに気づく。最初はクー・フーリンが心配なのかな、と思ったがそれだけではないようだ。

 

 

「その……私が本当にアーサー王と戦えるのか、今更ながらに不安になってきて……。クー・フーリンさんとランスロットさんがいればきっと勝てると思います。けど、クー・フーリンさんが抜けて、私だけになると……勝てるか、どうか」

 

「せっかく宝具使えるようになったのに、何を言ってるのよ。それに、あのバーサーカーと戦っておいて今更そんなことが不安なの?」

 

「あ、あはは……あの時は無我夢中で、考える暇もありませんでしたから」

 

 

 まあ、たしかに相手が格上とか考える暇も無かった。さて、ここはマスターとして少しメンタルケアするべきなのだろうけど、強敵との戦いに気後れする人の慰め方かぁ。

 

 

「……ぐだ男、何か良い慰め方ある?」

 

「ん?……そうだね、こういうのはどうだい?」

 

 

 ぐだ男が慰め方を教えてくれるのだが……それ、いつもお前が私にやってるやつでは?……あれをやるのかぁ、いざ私がやると少し恥ずかしいなぁ。

 

 

「マシュ、ちょっとだけ屈んでもらっていい?」

 

「え?こう、ですか?」

 

「そうそう。じゃ、ちょっと失礼して」

 

 

 ポンポン、と頭を撫でる。落ち込んでた時はよくぐだ男にしてもらったものだ。感触は無かったが、人に頭を撫でられながら慰めの言葉を言われるとそれなりに人間は落ち着くものらしい。

 ただ、ぐだ男によれば当初は『怒らせて元気付けようとした』らしいのだけど、なんで頭を撫でられただけで怒ると思ったのだろうか……?

 

 

「大丈夫、大丈夫。私がついてる、絶対なんとかなるよ!」

 

「せ、先輩……!」

 

「うわ、マジでやってる……」

 

 

 いやお前がやれって言ったじゃん!?不安になってマシュの顔を見てみたが、少し顔を赤くしながらも嫌がっている様子は無かった。ほら、やっぱり頭撫でられるのって嬉しいものじゃん。

 

 

「あなた、よくそんな平然と恥ずかしいことできるわね……。まあいいわ。マシュ、あなたの盾に私たちの生死がかかってる。気合を入れていきなさい!」

 

「は、はい!頑張ります!」

 

 

 マシュの気合十分な様子を見てこれなら大丈夫だと確信し、洞窟を抜け大聖杯があるという場所に向かう。珍しくぐだ男も真剣な顔をして、この先が決死の覚悟を抱かなければいかない場所であると嫌が応にも自覚する。

 

 

「……あの、先輩。こんな質問を今するのもどうかと思ったのですが」

 

「ん?どうしたの、マシュ」

 

「……先輩は、時々どこかを見る時がありますが。()()()()()()()()()()()?」

 

 

 ―――ぐだ男が、ばれた?

 

 いや、おそらくばれてはいない。幾らなんでもマシュ達と一緒にいるときにぐだ男の方を見過ぎていた、多分純粋な疑念だ。思わずぐだ男にどうすればいいのか、と視線を送るが本人は私の判断に任せるようだ。

 別に話しても問題ないとは思う。けど、マシュ自身にも見えないようだし自分が何かの病気だと疑われる可能性もあるし。

 

 何より、私だけの秘密の相棒が他の人間にばれるのが少しだけ嫌だった。

 

 

「マシュ。今はそんなことを気にしている場合かしら?」

 

「す、すいません所長。どうしても、気になって」

 

「気持ちは分かるけど。これみよがしにチラチラと、助けを求めるようにどこかに視線を送ってるんだもの。まるで、何かがそこにいるように」

 

「フォウフォウ」

 

 

 所長が結構鋭い……!それに、フォウ君も同意してるように見える。以前までは隠せていたが、異常事態の連続でちょっと気が緩み過ぎていたか?だが、所長はそれ以上何も聞かず先に進む。

 

 

「別にあなたが何を隠していようが、私達に害が無いのであればそれを暴く必要も無いわ。魔術師なんて嘘や隠し事だらけなんだから、私があなたに何か言う義理も無いし。それに―――あなたのその目、なんだか見覚えがあって叱りづらいのよ」

 

「……ありがとうございます、オルガマリー所長。いつか、所長やマシュにも私の秘密を話したいです」

 

「はい。その時を楽しみにしてますね、先輩」

 

 

 今はまだ、話す勇気は無いけど。いつか二人にもぐだ男のことを知ってほしいと思った。所長とはなんとなくこの話題で気が合いそうだし。

 ランスロットは私達の会話を無言で見つめている。兜で顔は見えないが、なんとなく微笑んでいるような気がした。

 五人そろってカルデアに帰るため、歩を進める。

 

 

「……そっか。いつか話す、か」

 

「うん、二人には話したいなと思って。ダメだった?」

 

「いんや、問題ないさ。立香が喋りたいと思ったなら喋っていいよ~。二人ともいい人みたいだし、ね」

 

「……?そっか、よかった」

 

 

 ぐだ男の少し悲しそうな笑みが少しだけ気になったが、いつものことだと思い先に進む。

 そして、ようやくそれが見えた。

 巨大なエネルギー、そうとしか表現できないような何かがそこにはあった。所長の眼が大きく見開かれる。

 

 

「これが、大聖杯。超抜級の魔力炉心じゃない。どうしてこんなものが極東の島国にあるのよ」

 

『資料によると、アインツベルンという錬金術の大家が制作したそうです』

 

「アインツベルン……聞いた事があるわね。確か……」

 

「所長。考察中のところ申し訳ありませんが、気づかれたようです」

 

 

 マシュに言われ、尋常じゃない気配に気づく。それは大聖杯の前で超然と立っていた。

 黒く赤いラインの入った、ランスロットと似た配色の鎧を纏い身体から魔力を放出する美しい少女。

 彼女が、アーサー王なのだろうか?

 

 

「Arrrrthurrrrrrr!!!」

 

 

 ランスロットが雄たけびを上げる。あまり聞き取れないが、彼が彼女に向けてアーサーと言ったことは分かる。

 つまり、彼女が……伝説の騎士王アーサー・ペンドラゴンということだろう。

 

 

「……ほう、まさか貴殿がいるとはな、ランスロット卿。そして、その盾。何か語っても見られる故、口を閉じていようと思ったが」

 

 

 ニヤリ、とアーサー王が口端を上げる。その視線はマシュの盾に向けられていた。

 

 

「面白い。その宝具は面白い。構えるがいい、小娘、ランスロット卿。その守りが真実かどうか、そしてその剣が私に届くかどうか。私の剣で、確かめてやろう」

 

 

 剣から魔力が放たれる。ランスロットが私に視線を向ける。その目は、本気を出していいかと問うていた。

 出し惜しみをして勝てる相手ではない。私も相手に負けじと不適に笑おうと震える口を開け、叫んだ。

 

 

「やっちゃって、ランスロット、マシュ!全力で、勝とう!!」

 

「はい!マシュ・キリエライト、出撃します!」

 

「Guuuuuuuuuuuuuu!!」

 

「防御魔術を張るからあんたは下がっておきなさい!戦闘の衝撃で死にかねないわよ!?」

 

「ありがとうございます所長!」

 

 

 こうして、冬木での最終決戦が始まったのだった。




おや、ぐだ男君の様子が……?

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