ようやく召喚!
ぐだぐだ時空からの来訪者、ここに見参!
あと感想がちょっと多すぎるので目に入ったのしか返さなくなるけどごめんね!()
―――両親は正義感が強い人だった。
父親は消防士で、母親は警察官。二人とも誰かを守る職業だった。
どちらも、自分の命を顧みず誰かの命を助けるような、そんな人で。だから、どちらも私を残して死んでいった。皆が、立派な人だと言っていた。
けど―――そんな立派な人なら、なんで
『なんで、私を置いて行ったの?』
一人取り残された空間で、ポツリと出した私の言葉は消えていった。寒い、寒い、寒い。誰もいない部屋で食べる食事は、温かかったあの頃とは真逆のように冷たくて。
誰も来ない授業参観は、逃げ出したくなるほど惨めで、辛くて。
次第に私自身が暗くなって、鬱陶しく思われて、嫌われて。
全部、自分の自業自得でどんどんと状況が悪くなった。
『ほら、君が俺の話相手になれば俺の会話欲も満たせて、君の寂しさも減る!winwinって奴だろ?』
その時に差し伸べられた手は、今までのどんな物よりも暖かくて。
『うま!?うわ、一人暮らしの学生すげぇ……!こんなに料理美味くなるもんなのか』
誰かに料理を褒められたのも初めてで。
『ん?おぉ、新しい服?似合ってる似合ってる、ただ正直立香は何着ても同じだと思うよ?俺、今まで可愛いっていう感想しか出てないし』
誰かに服を褒められたりしたのも、お父さん達以来で。
『テストで90点取ったの!?すごいじゃん!アルバイトしてる中でよくそんな勉強できるなぁ……』
誰かにテストを見せるのも、誰かと一緒にショッピングに行くのも、誰かと一緒にテレビを見るのも。
ずっと誰かとしたかったことを一緒にして、ずっと支えられて。
あなたが握ってくれた私の手は、どんどんと温かさを取り戻して。
『じゃあね、立香』
その温もりを手放せるわけも、無く
「それがあなたの想いなのね。ふふっ、綺麗だけど、どこか歪。あの子とほんとに似た者同士」
声がして、振り向く。そこには、和服を着た、黒髪の青い瞳の女性が立っていた。
その人は、微笑んで私に話しかける。
「けど、ここに来てはダメよ。ここは全てが見えてしまう場所。あなたがそれを知ってしまえば、あなたはあなたで無くなるでしょう。ここは名前を持つ人がいてはいけないのだから」
どういうことかと声を出したかったけど、出なかった。
「これは夢だと思いなさい。ほんの一時の夢、眼が覚めれば忘れてしまうようなもの。あの子も無理をするわね、本来は使ってはダメな力だと知っているのに。そのせいで、あなたまでここに迷い込んでしまった。ちゃんと叱ってあげたいけれど、今はまだ無理みたい」
意識が閉じる、いや覚める。この場所にいた記憶が、景色が、薄れていく。
「あの子は本来存在してはいけない物。いつかは別れる時が来るでしょう。けど、あの子はきっとあなたを置いてはいけないから。あなたが、あの子にお別れを言わなきゃならないの」
その言葉の意味を理解して、嫌だと叫ぼうとして、声が出なかった。
「その時が来るまで、あなた達がどれだけ大人になれるか。楽しみにしているわね」
最後にそう言って微笑む彼女。
私は夢から覚めていった。
―――
「よーし、君は随分といい子でちゅねー。何か食べる?木の実?それとも魚?」
「フォウ……ンキュ、キュウぅ」
目が覚めると、フォウ君が謎の美女に甘やかされていた。隣を見ると、少し元気がないがぐだ男もいる。目が覚めた私に気付いたのか、いつものように笑みを浮かべて私の周囲を飛び回る。
「おはよう、立香。体の方は大丈夫?」
「うん、大丈夫。おはよ、ぐだ男」
私が起きたのに気づいてか、女性は私の方を向く。なんとなく、見たことがあるような、無いような?
「おっと、本命の目が覚めたね。こんにちは、藤丸立香ちゃん。思考能力はちゃんと戻ってる?」
「えーと、あなたは……」
「私の名前はダ・ヴィンチちゃん。色々と聞きたいことはあるだろうけど、まずは管制室に行きなさい。君を待っている人がいるからね」
「待っている、人?ドクターロマンですか?」
「……いいや、それよりも大事な人がいるはずだよ。君のことをずっと守ってくれた少女が」
「フォウフォウ」
それを聞いて、ようやくマシュのことだと理解する。フォウ君にも急かされ、私は少し重い足に力を入れ、立ち上がる。ずっと夢を見ていたような感覚だ。でもきっと、あの特異点で起きたことは皆真実なのだろう。所長が死んだことも含めて。
「あ、立香。先に行っておいてくれるかな?」
「へ?なんで?」
「ちょっと用事があって。終わったら、すぐ合流するさ」
「……ん、分かった。それじゃ、行ってきます」
「行ってらっしゃい、立香」
ぐだ男に見送られ、私は管制室に向かう。手を振るぐだ男の姿に、嫌なことを思い出しながら、マシュやドクターロマンを待たせないために少し駆け足で歩いて行った。
―――
「さて、と。こちらの意図を理解してくれている、と仮定した上で君と話をしよう。まあ今のところこっちは何も聞こえないし、そちらも何も伝えられないのだろうけど」
美女の声に反応する反応は無い。だが、あの少女の反応や口の動き、目線などから彼女の隣にいた何かはこの部屋にいると確信していた。だから、対話を続ける。
「こちら、万能の天才ダ・ヴィンチちゃんが作成した憑依人形!君のために作った、寝ている間に拝借させてもらった髪の毛を編んで作ったぬいぐるみさ。少し作成に手間取ったが、これで君は彼女を介さずに私達に声を伝えることが可能なはずだ」
彼女は思う。人類最後のマスターの隣にいる『何か』の正体を。あの時、藤丸立香が使ったあの鎖。あれは魔術だ、それも超高度の、時計塔にいる魔術師だろうとあんなのを理解できるのはごく僅かだと断言できるほどの複雑な。
それほどの魔術を使う存在となれば、正体は限られてくる。例えば何らかの隠蔽能力を持ったサーヴァント、例えば何らかの目的で彼女を依代にしている魔術師、例えば―――。
「さて、まずは名乗ってもらおうか?私の方は既に知っているだろう。こちらは君のことを推測でしか知らない。もし私達とコミュニケーションをとるつもりであれば、どうぞ喋ってくれて構わない」
……暫くの無音。これはダメか?と諦めかけた時、人形に取り付けられたスピーカーから声が鳴る。その声は、彼女が想定していたよりも。
『初めまして、ダ・ヴィンチちゃん。名前はぐだ男って呼ばれてます、よろしく』
若く、そして穏やかな少年の声だった。
―――
「おはようございます、先輩。ご無事で何よりです」
「おはよう、マシュ。そっちも無事でよかった」
管制室にはドクターロマンとマシュがいた。カルデアスは依然真っ赤なままだけど、部屋はテロ直後よりも掃除され、しっかりと清潔に整えられている。まだ少ししか経っていないだろうに、よくここまで持ち直したな、と感心する。カルデアスタッフさん達に感謝だ。
「まずは、生還おめでとう、立香ちゃん。そして、ミッション達成お疲れ様。なし崩し的にすべてを押し付けてしまったけど、君は勇敢にも事態に挑み、乗り越えてくれた。君のおかげでマシュとカルデアは救われた、心からの感謝を送ろう」
そう言った後、少しの間だけ沈黙し。
「所長のことは残念だったけど、今は弔うだけの余裕はない」
「……」
所長の死の間際の記憶が蘇る。最後はカルデアスに落ちていった所長は、ずっと誰かに認められたかったらしい。それはきっと、彼女にとって何よりも求めたことだったのだろう。彼女は凄い人だったと思う。
もし助けられたのなら、助けたかった。あの方法以外で。
「……先輩、大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫。話を続けて、ドクターロマン」
マシュに少し心配されてしまった。気を持ち直せ、今はへこたれている暇は無い。
「うん。彼女に代わり、僕らが人類を守る。それが彼女への手向けになるだろう。……おそらくレフの言っていたことは真実だ。既に人類は滅んでいる。このカルデアだけが無事な空間だ。宇宙空間内のコロニーのような、外に出れば死んでしまうようなものだと思ってくれればいい」
「……解決策はあるんですか?」
「勿論、まずはこのシバを見てほしいんだけど」
ドクターロマンによると、人類が滅んだのは特異点が7つ、作成されたかららしい。
過去は多少変化しても人類が滅ぶほどの変化は起きないようになっているが、歴史の変換点が大きく乱され、最終的な着地点が変わってしまうとその後の歴史に大きな改変を生み出す。
そうして人類史の土台が崩された結果、2017年以降の人類は消滅してしまったのだとか。
そして、それをどうにかするためには。
「私達が7つの特異点を修復すればいい、と」
「そういうことだ。歴史を正しい方向に戻し、人類を救う。それが僕らカルデアの今の使命だ。しかし、今のカルデアにはあまりにも戦力が無い。マスター適正者は君を除いて凍結、所持するサーヴァントはマシュとランスロットだけだ。この状況で君にこれを言うのは、ほぼ強制に近いと理解している。それでも、僕はこういうしかない。最後のマスター適正者、藤丸立香」
言われ、姿勢を正す。選択肢は一つしかないだろうし、私もそれ以外を選ぶつもりはない。
「君に、7つの特異点を修復し、人類を救ってほしい」
「勿論。そうしないと、私の日常が戻ってきませんしね」
そういうと、ドクターロマンの顔がほころぶ。
「それを聞いて安心した。―――では、これより改めてカルデアにいる諸君に通達する」
ドクターロマンがマイクに手を当てる。スピーカーを通し、カルデア全区域の彼の声が届けられる。
「これよりカルデアは前所長オルガマリー・アニムスフィアが予定した通り、人理継続の尊命を全うする。目的は人類の保護、および奪還。例えどのような結末が待っていようと、僕らは戦い抜くしかない。これよりファーストオーダー、改め」
『―――人理守護指定・
こうして、私達の人理を修復するための旅が始まった。
―――
「というわけで、まずは戦力を増やさなければならない!さっきも言った通り、現在僕らのサーヴァントはマシュとランスロット、そして戦力としては数えないけどレオナルド・ダ・ヴィンチがいる。彼女、いや彼?のことはひとまず置いておいて」
「こらこら、しっかり紹介してくれたまえ。色々言わなきゃならないことがあるだろう?」
「いやー、モナ・リザが好きすぎるから姿をそれに変えたって言うのはちょっと僕には理解できないかな。紹介はそっちの方で勝手にやってもらえると……」
「しょうがない、不甲斐ないドクターに代わり自ら紹介するとしよう。私の名前はレオナルド・ダ・ヴィンチ!カルデアの技術顧問にしてカルデアに召喚されたサーヴァントさ!ダヴィンチちゃんって呼んでね」
召喚室に連れてこられた私は、ダヴィンチちゃんと名乗る女性の自己紹介を聞いていた。凄まじい性癖だとは思うけど、まあぐだ男がTSは良い文明とかなんとかほざいてたことがあるし、つまりそういう人なのだろう。あんま気にしてはいけない。
「私はカルデアで召喚され、カルデアから魔力供給を受けている状態だから君たちとは一緒に戦えないけど、裏から色々と支援はさせてもらおう。共に人理修復を成そうじゃないか。藤丸立香、マシュ。よろしく頼むよ」
「あ、はい!よろしくお願いします!」
「よろしくね、ダヴィンチちゃん」
凄まじい変態趣味にマシュが若干引いているが、それを気にせず握手をするダヴィンチちゃん。偉人ってのは皆こういう大物ばかりなのかもしれない。
「さて、改めて。カルデアは戦力不足だ、少なくともあと一騎、サーヴァントを召喚しておきたい。と言っても、現在のカルデアの魔力量ではどちらにせよあと一騎しか現界を維持することはできないのだけどね。大きな魔力の塊、要は聖杯を回収して魔力リソースに変えられれば、もう少しサーヴァントの数を増やせるのだろうけど」
「なるほど。そういえば、この左腕にあった令呪っての。なぜか回復してるんですけど、これって?」
「ああ。本来の令呪はサーヴァントに強制力のある強力な術式なのだけど、このカルデアで召喚した場合令呪はあまり強制力を持たない、言ってしまうとただの魔力リソースみたいなものだからね。カルデアから魔力供給を受ければ回復するから、危なくなったら遠慮せずバンバン使っちゃうといい。サーヴァントの強化や回復、瞬間移動など色々なことができる切り札のようなものだ。と言っても、回復には最低でも1日かかるから、無駄な場面では使わないよう気を付けてね?」
「ふむふむ」
ならあの時冬木でバンバン使っちゃってよかったかな?なんて思いつつ、ドクターロマンに指示された通りに地面に置かれたマシュの盾から溢れる光に手を掲げ、召喚するための口上を述べる。
ちなみに召喚室にはランスロットもいる、もし危ないサーヴァントが出た場合のための備えだそうだ。
そんなこんなで召喚サークルが回り、新たなサーヴァントが召喚される。
「これは……!立香ちゃん、今回も当たりみたいだ!トップサーヴァントレベルの霊基がある!」
「おー、凄いね君。ガチャ運ってのがある方なのかな?」
「ドクター、警戒は緩めないでください。危険なサーヴァントの可能性もあると先ほどドクター自身が言っていましたよね?」
「ああ、ごめんごめん!立香ちゃん、一応気を付けて!そのサーヴァントがどんな英霊なのか、しっかり見極めるんだよ!」
「はい!」
そうして、いよいよ召喚されたサーヴァントが姿を見せる。
輝く木瓜紋をあしらった軍帽と黒の軍服を纏い、長銃を杖代わりに地面に突き付ける黒髪の少女。彼女から放たれる覇気に、思わず平伏しそうになる。
そして少女は目を開け、ニカリと笑い。
「儂が魔人アーチャーこと、第六天魔王織田信長じゃ!さて―――お主が儂のマスターか?」
自身の名―――日本においてその名を知らぬ者はいない、戦国の魔王。その名を冠する少女は、私を試すように愉快そうに笑いながら私に問いかけてきたのだった。
次回はちょっと閑話休題、久しぶりのぼのぼの?回です。
たまには立香ちゃんとぐだ男にも休息をあげなくては。