ぐだ男君と立香ちゃん   作:雷神デス

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ようやくぐだ男が色々出来るようになるかも


立香ちゃんはぬいぐるみがお好き

「織田、信長……!」

 

「おお、流石に知っておるか!別の国のマスターとかならどーしよとか思ってたんじゃよね、儂!いやー、良かった良かった!―――で」

 

 

 空気が重くなり、重圧が増していくのを感じる。有無を言わさぬその覇気に、ランスロットもそれに対抗するように魔力を迸らせる。しかし、織田信長はそれを見もせず私だけを見ている。

 

 

「二度も言わせるな。―――お主が儂のマスターか、と聞いておる」

 

 

 ―――ここで間違えてはいけないだろう、と生存本能が告げる。慎重に言葉を選ばなければならない。目を閉じ、深く空気を吸い、怯えを極力排除して彼女と目を合わせる。

 

 

「私が、あなたのマスターだよアーチャー。藤丸立香。一緒に人理を守るために、私達と一緒に戦ってほしい」

 

 

 ジッ、とこちらを見てくる。数秒程が経っただろうが、織田信長の顔が崩れる。そして、部屋に響くような大きな声で大笑いをした。

 

 

「ハッハッハッ!なんじゃなんじゃ、そう硬くなるでない!そうか、お主がマスターか。なるほどのぉ。ま、是非も無し、か」

 

 

 纏っていた重圧が消える。ドクターロマンが重圧から解放されたかのように呼吸をし、マシュも戦闘態勢を崩し安堵の息を出す。しかし、まだランスロットだけは警戒を緩めようとはしなかった。

 

 

「ひとまず、召喚に応じてくださりありがとうございます、織田信長公。カルデアの事情などについての説明は……」

 

「それには及ばぬ、もやし男よ。召喚される際にある程度の事情は把握しておる、人理の危機という奴なのだろう。そして、戦力補充のために儂を呼んだと。うむうむ、実によい運をしておる!儂ってば滅茶苦茶強いサーヴァントじゃからな!」

 

「なぜでしょう先輩、先ほどはすごく怖かったのに今はなんだかぐだぐだしてます」

 

「多分、オンオフの切り替えが早いんじゃないかな……?」

 

 

 何はともあれ、日本に限っての知名度であればヘラクレスやランスロットをも超えるサーヴァントを召喚できたのだ。素直に喜ぶべきだろう。

 

 

「ああ、それとマスター。分かり切っておるとは思うが……儂は戯れは許すが侮りは許さん。もしこの第六天魔王を軽んじるのであれば、即切り捨てるのでそのつもりでな!あ、儂の名前いちいち全部言うと長いじゃろうしノッブって呼んでよいぞ」

 

「あ、はい」

 

 

 うん、このサーヴァントも結構危ないな!

 

 

 

―――

 

 

 

「うん、これでカルデアが出せる最大戦力を揃えることができた!シールダーのマシュ、アーチャーの織田信長公、バーサーカーのランスロット。かなり強力な構成なんじゃないかな」

 

「と言っても、マシュ以外は強力な分扱いにくいサーヴァントだ。立香君、君が手綱を握らなきゃダメだぜ?くれぐれも、後ろから刺されないように気を付けること」

 

「あんまり脅かさないでやってくれ。それじゃ、立香ちゃん、マシュ。今は冬木から帰ってきたばかりだし、休息も必要だろう。三日後まで休息をとることにするから、今はゆっくりと休んでくれ」

 

「あ、はい。……あのー、ドクターロマン」

 

「ん?どうしたんだい、立香ちゃん」

 

 

 少し気恥ずかしいが、聞いておかなければいけないことだ。少しだけ勇気を出して口に出す。

 

 

「お風呂って、どこあります?」

 

「あっと……そういえば言ってなかったか。そうだよね、君もさっきまで炎上する都市の中にいたんだ。埃とか煙で服も汚れていて当然か。ごめん、配慮が足りなかったよ」

 

「アハハ……」

 

「でしたら、私が案内します先輩。ちょうど私も汚れを落としたかったので」

 

「そう?それじゃ、お願いねマシュ。ノッブも一緒に来る?」

 

「なんじゃ、湯浴みか?もやし男よ、酒ある?酒」

 

「なんで皆僕のこともやしとか言うんだろ……?えーと、お酒は……備蓄が無いのであんまり消費しないでもらえると嬉しいかなぁ?」

 

「なーんじゃ、酒飲みながら湯に浸かるのが気持ち良いのじゃけどなぁ。酒が無いなら風呂はやめじゃな、お主ら二人で楽しんでくるといい」

 

 

 ということで、マシュと一緒にカルデアにある浴槽に入ることになったのだが。

 ……マシュの肌、改めて見ると凄い綺麗だなぁ。白くて、もちもちで、女としては少し嫉妬してしまうくらいだ。その視線に気づいたのか、マシュは少し顔を赤くする。

 

 

「あ、あの、先輩。できればあまり見ないでもらえると……」

 

「うん、ごめんマシュ。ただあんまりにも綺麗だったから、つい」

 

「き、綺麗ですか!?そんなことは……それに、先輩もとっても綺麗ですよ!」

 

「アハハ、ありがとねマシュ」

 

 

 いい子だなぁ。……多分お肌を保つための秘訣とかは特に無いんだろうなぁ。ちょっと女として敗北を味わったので、後で女性職員の人に良いボディソープとかが無いか聞いてみよう。

 

 

「……あの、先輩。一つ、聞きたいのですけど」

 

「ん?どうしたの、マシュ」

 

「先輩は……あの時、所長を助けようとしたんですか?」

 

 

 ―――どう答えるか、少し考える。助けたいとは思ったし、助けようともした。けど、最終的には私が見殺しにしたのと同じようなものだ。ぐだ男の邪魔をしなければ、ぐだ男は所長を助けられただろう。

 けど、それをしたらぐだ男は消えていたらしい。レフ・ライノールという男のことはあんまり信用しないが、多分あの時言ってた消えるっていうのは本当だ。もしあのまま邪魔をしなければ、所長が生き残る代わりにぐだ男が死んでいた。

 

 どっちを取るか、という選択をして、ぐだ男を取った。助けようとしたとは、あまり言えない。

 

 

「……しなかった、かな?助けられるなら助けたかったけど、助けに行こうとしたら私達まで死んでたかもしれない。そうなったら、本末転倒だし」

 

「そう、ですか」

 

 

 マシュが少し俯く。失望してるのだろうか?そうだったら、少し悲しいがまあ慣れている。マシュとは仲良くなりたいし、友達になりたいと思うけど、合う合わないもあるだろうし。

 

 

「……先輩は、所長のことをどう思っていましたか?」

 

「とてもいい人だと思った。ちょっとだけ見栄っ張りだけど、寂しがり屋で、誰かと親しくなるのを望んでいるような人で。私に分からないことを色々教えてくれた、尊敬できる人だった」

 

「よく見てたんですね」

 

「ああいう人は好きなんだよね、私」

 

 

 所長はきっと、色々な努力をしていた。だからあれだけ魔術を使えるし、あれだけ人に教えるのも上手なんだ。才能もあるけど、それを磨くのにはたゆまぬ努力が必要だったのだろう。努力をしている人は、好きになれる。

 

 

「……その、こんなことを聞くのは恥ずかしいのですけど。私のことは、どう思いますか?」

 

「滅茶苦茶いい子。謙虚でかわいくて肌モチモチで髪サラサラで、しかも性格がとてもかわいい。今までで出会ったこと無いくらい、理想の女の子って感じがする。とても好き」

 

「そんな風に思ってたんですか!?」

 

「え、そうだよ?今だって、マシュのこと可愛いな~って思ってるし」

 

 

 マシュが顔をトマトのように赤くする。可愛いなぁ。

 

 

「所長と同じくらい、マシュも好きだよ」

 

「……そう、ですか。その、のぼせちゃったのでお先に上がります!そ、それじゃあ、またあとで!」

 

「うん、また後で」

 

 

 マシュが顔を赤くしながら慌ただしく出て行った。うん、やっぱり可愛くて良い子だ。このカルデアにいる人たちは、きっと皆いい人達なんだろう。レフ・ライノールは除外するとして。誰も彼もが、人理修復を諦めていない目をしていた。皆が、私とマシュのことを信じていた。

 

 

「……重いなぁ」

 

 

 それが少しだけ、重圧に感じるけれど。それでも、背負っていこうと決めた。

 相棒と一緒なら、それもきっと耐えられるから。

 

 

 

―――

 

 

 

「おや、立香ちゃん。温泉から上がったところ、かな?」

 

「あ、ダヴィンチちゃん。ダヴィンチちゃんも今入るとこ?」

 

「ああ、私の場合男か女か色々判断つきにくいからね~。ロマニの奴に言われて、特定の時間以外は入らないようにって厳命されてるのさ」

 

「アハハ……ま、まあしょうがないよね」

 

 

 一応この人は、ノッブやアーサー王などと違い最初から女だったわけではなく、本当に女体化している元男だ。女性とも男性とも一緒に入るのは難しいだろう。

 

 

「立香ちゃんは今からマイルームに帰るところかな?」

 

「うん、疲れたし今日は休もうかな~って」

 

「ふふふ、そうかそうか。あ、それとマイルームにちょっとしたプレゼントを置いてきた。喜んでくれると嬉しいな」

 

「プレゼント?」

 

 

 なんだろう、と思いながらも聞く前に上機嫌に風呂場に向ってしまった。流石に危険なものではないんだろうけど、なんだかあの人面白そうだからっていう理由で変なことやりそうで怖い。

 少し不安になりながらもマイルームの扉を開ける。

 

 

「……?」

 

「フォウ?」

 

 

 特に何もない。強いて言えば、フォウ君が私のベッドの上にいるだけだ。いや、よく見ればフォウ君が乗っている布団が少し盛り上がっている。布団の下に、何か隠れている?

 

 

「フォウ君、ちょっとどいてね?」

 

 

 ヒョイ、とフォウ君をどけて布団をめくると、そこには。

 なんだか妙に目が大きい、ぐだ男に似たぬいぐるみがあった。

 

 

「……んんん!?」

 

 

 これが、ダヴィンチちゃんが言っていたプレゼントだろうか?だとしたら滅茶苦茶嬉しいのだが、なんでぐだ男の容姿を知っているんだろう。そもそもいつの間に人形なんかを……?

 

 

「……ま、いいや!可愛いからよし!」

 

 

 色々聞くのは後にして、とりあえずもらったプレゼントを喜ぼう。ぎゅっ、とぬいぐるみを抱きしめる。ちょうどいい柔らかさ、流石万能の天才。ぬいぐるみを作るのだって一流の仕事のようだ。

 ぐだ男は用事があると言ってどっかいったので少し寂しかったが、これがあれば今日は眠れそうだ。布団の中に潜り込み、ぬいぐるみを胸に抱き布団を被る。

 

 

「フォウ君も来る?」

 

「フォーウ」

 

 

 フォウ君が布団の中に潜り込んでくる。ふふふ、可愛い奴め。

 フォウ君のもふもふ具合とぬいぐるみの柔らかさが心地よい。ぐだ男に似ていることもあってか、少し照れてしまうのが玉に瑕だが。

 

 ……なんだか、このぬいぐるみの顔を見ていると。ほんの少し、ほんの少しだけなのだが魔が差してしまう。頭を撫でたり、手をきゅっとつかんだりしてみる。少しだけ暖かい。

 

 

「……」

 

 

 ぬいぐるみに何をしているんだろうと思いながらも、ごくりと唾を飲む。今まで触れられず、話すだけしかできなかった幽霊、ぐだ男。それを模して作ったぬいぐるみが、私の腕に収まっている。

 ……本当に、別にやろうと思ったわけではないのだが。ぐだ男ぬいぐるみの頭を引き寄せ、枕の隣に置く。目線が合う。少しだけもぞもぞと動き、ぬいぐるみに近づく。

 あとほんの2、3センチで触れ合うような距離になる。

 

 ―――ほんの出来心で、私は

 

 

「フォウ」

 

「あいた!?」

 

 

 フォウ君がぬいぐるみの頭を叩く。するとぬいぐるみから見知った声がする。

 ……?????

 最悪の可能性に気付いて冷や汗がバッと出る。ぬいぐるみを見る。動かない。フォウ君を見る。呆れたような目で人形を見ている。ぬいぐるみの頬を抓る。

 

 

「立香、痛い。とても痛い」

 

 

 ……ぬいぐるみから、声がする。

 もしかして、もしかしたらだが。

 

 

「……ぐだ男、これ(ぬいぐるみ)の中に入ってる?」

 

「……眼福でした」

 

 

 思わず、私はぬいぐるみを地面に投げ捨てた。

 

 

 

―――

 

 

 

「OK落ち着こうか立香!出来心だったんだ、せっかく動ける体を手に入れたからドッキリを仕掛けるつもりだったんだ!いやだってあんな怪しいサーヴァントの作ったぬいぐるみを抱きしめたりキスしようとするなんて思うわけないじゃん!?」

 

「あああああああああああああああ!!!」

 

「バーサーカーみたいになってる!?助けて、助けてフォウ君!!」

 

「……フォーウ」

 

 

 この後ずっとこいつの記憶を消そうと思って殴り続けたけど、ぬいぐるみなので効きませんでした。

 死にたい。




え?どうやってぬいぐるみ作ったのかって?
万能の天才だしなんとかなるやろ!()

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