ぐだ男君と立香ちゃん   作:雷神デス

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なんか気づいたら先に書き上げてた……すごい久しぶりに投稿です、待ってた方はお待たせしました……!


ぐだ男くんは空を見た/立香ちゃんは星を見た

 結果だけなら、辿った通り。それほど驚くべきことでもない。

 藤丸立香とそのサーヴァント達は、狂化を付与された竜退治の聖女を打倒し、先に進む。

 事態がひと段落して、他の皆が森の中で焚火を囲んでいる中、一人で夜空を見上げていた。

 

 

「……勝った、か」

 

 

 そのはずなのに。勝った気はあまりしなかった。

 いや、違うかな。これは、ただの嫉妬なのだろう。

 

 輝かしく、美しく。勝つべくして勝ったのではない、実直で、難しいこと無しのガチンコ勝負。お互いズルなんて一つも無くて、お互いが死力を尽くし、勝ち負けが決定した。

 それがどれほど輝かしくて、どれほど素晴らしいものなのかなど。語るまでもないだろう。

 

 そんなことを思える身分じゃないのに。どうしようも無く彼女が羨ましい。

 英雄に認められ。聖女に善き人間だと言い渡され。沢山の助けを借りて、彼女は前に進むのだ。

 

 ああ、それは───なんて、かっこいいのだろう。

 

 

「なにを腑抜けておる」

 

「……織田信長」

 

「まったく、他の者は良い感じの雰囲気であちらで喋っておるというのに。マスターがお主のことを探しておったぞ」

 

「うん、ごめん。しばらくしたらすぐ戻るよ」

 

「……見るからに不貞腐れておるのぉ」

 

 

 多少の損傷を負いながらも見事デオンを退けた信長は、ぶっきらぼうに俺の近くで座り込む。

 マルタから竜殺しの大英雄ジークフリートの情報を託され、多少の損傷はあったがバーサーカーとセイバーを撃退し、見事藤丸立香はまた一歩先に進んだ。

 

 サーヴァントと絆を育み。マシュに慕われ。人間として成長を続けて。

 そうなるように、と願った僕ですらも驚く程に、多少の違いはあれど道筋通りに物語は進む。

 

 ただ一つ、奥底に眠る疑問を除いては。

 

 

「くだらん顔をしておる。どこぞのキンカンと同じ顔じゃ」

 

「……えーと、明智光秀のこと?」

 

「難しい顔をして、爆発しそうな何かを溜めこんでおる顔じゃ」

 

「流石は日本で一番有名な戦国武将。俺の心中なんてすぐ察せちゃうか」

 

「まあ人形の顔なんぞろくに分かるわけ無いがな!雰囲気でなんとなくじゃ!話くらいは聞いてやるから、口にしてみよ」

 

 

 それで分かるのもまた人外染みてるが、と考えながら馬鹿笑いする織田信長に呆れながら、俯きがちにまた空を見る。相も変わらず、空にはあの巨大な穴が広がっていた。

 ある意味で、この物語を象徴する空。人類の生存をかけた戦いを示す空。

 俺がどうにもできなかった、あの物語で見上げた空と何一つ変わらなかった。

 

 

「立香にとって」

 

 

 ポツリ、と言葉を吐き出す。

 言葉にしたところで、得られる物は何もない。けれど、溜まった心の膿を少しでも吐き出したかった。吐き出したところですぐ溜まるけれど、それでも吐き出してしまいたかった。

 

 

「俺は、必要な物じゃなかった」

 

「ほう」

 

「むしろ、害悪なのかもしれない。俺がいたせいで、立香は本来背負うはずの無い物を背負ってしまった。彼女に罪を、背負わせてしまった」

 

 

 あの時、オルガマリー所長を助けたとして。それがよい方向に転がるかなど、分かりはしない。レフ・ライノールに利用され状況を悪化させる可能性もあったし、第二部……異聞帯を巡る物語において、それは最悪の一手になったかもしれなかった。

 

 それでも、二度同じ光景を見た時に思ってしまった。

 彼女を助けたい、と。彼女が居る未来を見たかった、と。

 

 その結果が、あのザマだ。

 

 

「考えれば分かるはずだった。僅かな時間一緒にいただけの彼女と、無駄に長い時間を過ごしてしまった俺とじゃ。立香がどっちを優先するのかなんて、考えれば分かるはずだったんだ。本当ならどっちを助ければいいかなんてこと、あの短い期間で彼女に分かるはずは無かったんだ」

 

「ほうほう」

 

「何もしないべきだった」

 

 

 漏れ出た言葉は、もう止められなかった。

 

 

「自分のことしか考えていなかった。思えばずっとそうだった。立香に付き纏ったのも、この旅についてきたのも、この世界に来たのも。結局は俺がそうしたいからだった」

 

 

 物語と同じように。そう進めば、最後は全て上手く行くと知っていたはずだった。

 俺は主人公じゃなかったから無理だったけど。彼女なら、藤丸立香ならそれを成し遂げられると分かっていたはずだった。だから、何もしないべきだった。

 

 

「俺は何も、分かっちゃいなかった。何もしないべきだった。全部立香に、真の人類最後のマスターに任せるべきだったんだ。俺は結局、あいつに無駄に負担をかけることしかしていない」

 

「ほんほんほん」

 

「……あの、もしかして聞く気あんま無い?」

 

「聞いとる聞いとる。あ、煎餅食うか?」

 

「なんだかぐだぐだしてきた気がしてきたなぁ」

 

「話終わったなら帰るかの!」

 

「あ、うん。聞くとは言ったけど悩み解決するとかは言ってないねそういえば」

 

 

 織田信長は当然ながら、俺の話に何の興味も抱かなかったのか煎餅の袋を空にした後、俺の身体を持ち上げ運ぶ。人形の身体になってしまってからは歩幅が小さくて困る。

 

 

「だっておぬし、ただ単に失敗してへこんでるだけじゃろ?」

 

「失敗というか、後悔というか……正直失敗しかしてないな、ってのを再確認したというか」

 

「そんなもの、是非もないよネ!とか言って笑い飛ばせばええじゃろう」

 

 

 平然と、彼女はそう言って笑う。

 

 

「わしですら失敗ばかりの道を歩んできたというのに、お主ごときが人類を救う戦いを失敗せずに歩めると思うたか。不遜すぎるわこのうつけ者め」

 

「けど、俺は学べる機会があったはずだった。それすら活かせず、また同じ過ちを繰り返した」

 

「それを何度も裏切られて死にかけたわしの前で言うとは、なかなか肝が据わっとるの?」

 

 

 苦笑を浮かべ、俺の言葉にまったく眉を動かさず、月の下で淡々と言葉を流す。

 普段の陽気な顔でも、戦闘の時の苛烈な顔でもない、何かに思い耽る人間らしい優しい目。

 

 

「失敗から学べ。おぬしがどんな秘密を持っとるかは知らんが、どうせおぬしはただの人じゃ。わしは胡坐を掻く阿呆は許さぬが、躓こうと前に進む人間は許す」

 

「……」

 

「くだらぬ感傷に浸るより、今はただ前を向け。戦場で後ろを振り向く馬鹿はおらぬじゃろう。前を向き、おぬしが戦うべき相手を、守るべき背中を見るがいい」

 

 

 段々と、皆の楽しそうな笑い声が聞こえてくる。

 きっと彼女達は、沢山の英雄に囲まれ、いろんなことを学びながら進むのだ。かつての俺なんかよりも余程沢山のことを学んで、そして憐憫の獣にその解答を突きつけるのだ。

 誰かの受け売りなんかじゃない。いろんなものを見て考えた、自分が出した結論を。

 

 

「ありがとう、織田信長」

 

「気にするで無い。おぬしから聞いたことは黙っておいてやろう。どうせ知られたら不味いことなんじゃろ、同じ過ちやらなんやらとか」

 

「……あ、あはは。まあ、はい」

 

「なら言わないでおいてやるわい。ほれ、帰るぞ」

 

 

 先ほどまでの、どこか母性を感じるような優しい目から一転し、いつものように型破りな笑みを浮かべて「なんじゃなんじゃ、面白いもの焼いとるのぉ!……いやマジで面白いもの焼いてるの。え、ワイバーン?」等と言いながらすぐに輪の中に入っていく織田信長を見て、なんとなく。

 

 本当になんとなくだが、拗らせた彼女達の部下の気持ちが分かった気がした。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

「先輩?まだ起きていたんですか?」

 

「あ、ごめん。起こしちゃったかな」

 

 

 少しの時間の歓談と、作戦会議を終えた後。

 バーサーク・ライダー。マルタに教えてもらった、この特異点で唯一、あの黒い竜ファブニールを倒せるであろうサーヴァント……最高峰の竜殺し、『ジークフリート』を捜索するため、今日は早めに寝ることになった。

 

 見張りはサーヴァントの皆が取ってくれるらしいから、別に私が起きている必要はない。けれど、眠ろうとする度に瞼の裏にある光景が映ってしまい、上手く眠れない。

 

 

「……その、私で良ければ何か悩みを聴けないでしょうか?」

 

「え、なんで?」

 

「先輩の顔が、少し悩んでいるように見えたので」

 

 

 少しだけ驚き、マシュを見る。マシュは真剣な目で私を見て、「助けになりたい」と訴えかけてくる。とても可愛らしいと思うと同時に、醜くも思う。あんまりにも、眩しすぎると。

 

 

「えっと。ぐだ男がノッブと一緒に帰って来たの見て、ちょっと妬いちゃったんだ」

 

 

 特に嘘を言う必要が無いと思ったので、パチパチと音を立てる焚き火を見ながら正直に話すことにした。自分でも最近自覚したのだが、私は案外嫉妬深いというか、面倒臭いというか。あいつが私だけに見える、という状況にきっと慣れ過ぎたのだろう。

 

 脳裏を過るのは、ノッブに抱えられ戻ってきたぐだ男の姿。まだ表情の変化機能は実装されてないので分かりづらいが、あいつ明らかにノッブに懐いていた。心を許していた。私に向ける目とは別の、私が知らない目を彼女にだけ向けていた。

 

 それが、どうしようも無く怖かった。

 ……そしてしばらくの間反応が無かったので、疑問を感じマシュの顔を見ると。彼女は顔を赤くして、何かを口に出そうとパクパクと口を動かしているところだった。

 私は己の失策に気づく。これではまるで、私がぐだ男に『そういう感情』を向けているように見えるのでは?はた目から見れば、これ恋愛相談とかその類なのでは?

 

 

「マシュ、ごめん言い方を間違えた。私は別にぐだ男にそういう感情向けてないからね?」

 

「し、しかし先輩。ドクターによると、嫉妬とは主に恋愛が絡んでいるもので、その嫉妬がトラブルの種になり段々と物語が膨らんでいくと……!」

 

「恋愛経験無さそうなドクターの言うことを真に受けちゃダメだよ!?」

 

 

 どこかから泣き言が聞こえた気がするがスルーである。

 なんか未来から猫の威嚇のようなものが届いた気がもするがスルーである。

 

 

「ぐだ男は相棒だから!ずっと一緒にいた相棒!」

 

「相棒、ですか。……その、先輩。やはり、ぐだ男さんは冬木でクー・フーリンさんが言っていた、『何か』の正体なのでしょうか?」

 

「そうだよ」

 

 

 あまりにもあっさり肯定したからか、少し困惑した様子のマシュに微笑みかける。 

 彼女が言いたくても言えないことは何となくわかっている。けれど、彼女がそれを口に出さない以上、私から言い出すのも変だろうと思い、先ほどの話を続けることにした。

 

 

「それで、その。あいつ、私に見せないような懐き方でノッブと話してたからさ」

 

「たしかに、ほんの僅かな時間でぐだ男さんと仲良くなった雰囲気がありましたね。流石は戦国時代で最も知名度の高い英雄。人と仲良くなるのもすぐでした」

 

「うん。私も、凄いな~って思ったんだけど。同時に、ぐだ男が前と違って私以外と話せて、触れ合うことができる。その状況をようやく理解した、というか。何というか」

 

 

 いうなれば、そう。

 

 

「私だけのぐだ男じゃ、無くなったんだなぁって」

 

 

 当たり前の事だ。ぐだ男は好きで私だけと話さなかったんじゃない。ただ、私だけが何故かぐだ男を認識できたからぐだ男は私のところに来てくれたんだ。

 私はぐだ男から相談なんて受けたことは無い。相談するのはいつも私からだ。当然だ、私はぐだ男よりずっと子供だ。見た目的にはあんまり離れているようにも見えないけど、あいつは妙に達観していて、いつも私の親か何かのようなことばかり言ってくる。

 

 けれど、実際はぐだ男だって私が思う程強くも無いんだろう。ノッブはあんな感じだけど、織田信長という日本人なら誰でも知ってるような凄い人だ。そんな英雄を前にすれば、私もぐだ男もおんなじような物なのだろう。

 

 それでも、どうしてもそれが喉に引っ掛かった。

 変わらなかった日常が、誰かの手で壊されたように思えてしまった。

 

 

「先輩……」

 

「うん、自分で言っててなんだけど割と最低だね私!完全に悪いの私だしね、これ!いやー、きったないなぁ私」

 

 

 ノッブもぐだ男も何も悪くなんてない。悪いのはこんなことを考える自分だけ。

 日常なんてとっくに壊れているはずなのに、何故か私にはそうは思えなかったのだ。ただ仲良くすべき人が増えて、救うべき人が増えて、頑張らなきゃいけないことが出てきただけ。

 

 

「マシュみたいに、綺麗にはなれないや」

 

 

 まるで、新しい学年になってクラスが変わるだけのような。ほんの少し、環境が変わってしまっただけ、なんて考えてた私の方が異常なわけで。

 

 マシュみたいに、誰にでも優しくできて。誰かを本気で心配できて。何の悪感情も持たないような、純粋無垢な人間になんてなれなくて。

 

 だって、私は結局───

 

 

「先輩!」

 

「うわっと!?」

 

 

 マシュはぐいっ、と顔を近づけてくる。

 至近距離で見るマシュの瞳は、相変わらず綺麗だった。なんの不純物も混じらない、宝石のような紫色の瞳。思わず目を背けてしまうような、どこまでも純粋な目。

 

 

「私は、ぐだ男さんに嫉妬しているのだと思います!」

 

「へ?」

 

 

 突然の宣言に、思わず目が点になる。

 マシュは少し頬を紅潮させながらも、私の目を見て言葉を放つ。

 

 

「私は、先輩にとってぐだ男さんほど大事な存在ではないと分かってます。例えどれだけ一緒にいても、超えられないであろうことも分かっています!」

 

「……」

 

「それでも。先輩は、あの時私の手を握ってくれました」

 

 

 マシュは、私の手を握る。あの時の光景が蘇る。

 

 

「あの時、どうしようもなく先輩がかっこよくて、輝いて見えたんです。冬木の時も、何も知らないはずなのに気丈に立って、笑顔でい続けたあなたが誰よりも頼もしく見えました!だから私は、先輩のことが大好きです。ずっと一緒にいたいって思ってます!」

 

「そ、その。マシュ」

 

 

 突然の告白に、思わず顔が赤くなる。いやまあ、恋愛的な意味ではないと知っているが。

 こうも直接的に大好きだとか言われると、とても困る。

 

 

「先輩が一番に思っているぐだ男さんが、少しだけ羨ましいんです。もしぐだ男さんより早く、私が先輩に出会えたらって考えることもあります!だから未だに、ぐだ男さんに話しかけたりできないでいます!」

 

「そうは見えないなぁ」

 

 

 そんな呟きを聞いていないのか、惑いは意図的に無視しているのか。

 彼女もまた、顔を赤くして言葉を続ける。その様子に思わず、ほんの少しだけ頬が緩む。

 

 本当に、彼女はどこまで行っても優しい子だ。

 

 

「だから、私が綺麗だと言うのなら先輩だって綺麗です!私も誰かに嫉妬するような悪い子です、先輩と同じです。だから──!」

 

「ありがと、マシュ」

 

 

 言葉を遮って、笑顔を浮かべる。

 マシュは少し涙目で、けれど目は逸らさず私を見ている。どこまでも出来た後輩で、私はどこまでも駄目な先輩だ。まさか先輩たる私が、後輩であるマシュに教えられることになるなんて。

 

 

「よし。少しだけ元気出た!なんか色々とスッキリした!マシュに相談して良かったよ、ありがとね!」

 

「お役に立てたなら良かったです」

 

 

 なんてことは無い。私の感情なんて、要は姉が妹に向けるようなそれなのだ。つまりは、親を取られたく無いと駄々をこねる子供のような、単純で馬鹿らしいものなのだ。

 

 ぐだ男はきっと、私を置いてどこかに行ったりはしない。

 だから、これからもきっと大丈夫。

 

 マシュと一緒に夜空を見上げる。

 星はずっと一つだけ。安らぎを与えてくれる小さな星がポツンと一つ。その星が私の視界を照らしてくれた。私の足元を照らしてくれて、そのおかげで私は歩くことができた。

 

 それ以外に星はいらないと思っていたけれど。

 今日は、珍しいことにほんの一瞬だけ。

 二つ目の、綺麗な紫色の星が見えた。

 

 

 

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